12/2-12/9の香港市場は小幅高となりました。ただ12/6は、中国ADRの上場廃止リスクに対する懸念で大幅に下落しました。しかしその後、中国人民銀行が金融緩和へかじを切ったことを受け、上昇に転じました。「オミクロン株」への懸念が後退したことも、投資家センチメントを下支えしました。
今回は、中国ADRの上場廃止リスクをめぐる経緯と足元の動向を確認したうえ、今後の可能性について探ってみたいと思います。中国人民銀行の金融緩和については、「【中国が金融緩和へ】〜2022年、さらなる緩和なら中国株の見直しが期待される〜」をご参照願います。
図表1 ハンセン指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
注:12/9(木)までのチャートです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。
図表2 香港市場の業種別指数騰落率(12/9(木)までの騰落率によります)
ハンセン総合指数業種別騰落率 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
ハンセン総合 | 1.7% | -0.6% | -5.8% |
不動産 | 4.5% | 2.8% | -8.1% |
工業 | 3.9% | 7.3% | -7.9% |
生活必需品 | 3.5% | 2.1% | 0.7% |
ヘルスケア | 3.0% | 1.6% | -13.2% |
金融 | 2.8% | 0.7% | -2.2% |
エネルギー | 2.8% | 0.8% | -2.9% |
コングロマリット | 2.3% | -2.5% | -11.7% |
公益 | 1.5% | 2.2% | -4.3% |
素材 | 0.7% | -3.2% | -20.4% |
一般消費財 | 0.1% | 0.2% | -4.4% |
情報テクノロジー | -0.1% | -5.6% | -7.1% |
電気通信 | -0.5% | -3.3% | -4.3% |
注:業種別騰落率はハンセン総合指数が母集団です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(12/9(木)までの騰落率によります)
ハンセン指数
騰落率上位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
06098 | CG SERVICES | 16.4% | -2.0% | -9.1% | 不動産最大手のカントリガーデン(02007)傘下の不動産サービス会社。同社のCEOによる持ち株比率の引き上げを好感。(SBI証券取り扱いなし) |
01928 | 金沙中国 [サンズ・チャイナ] | 13.1% | 8.0% | -26.7% | カジノ大手。「オミクロン株」の感染拡大やVIP市場の収縮に対する懸念が後退し、買い戻された。 |
06862 | Haidilao International Holdings | 10.8% | -9.6% | -39.2% | 火鍋チェーン最大手。「オミクロン株」に対する懸念後退で買われた。 |
00388 | 香港取引所 | 9.1% | 1.3% | -4.3% | 香港証券取引所を運営。中国ADRの上場廃止リスクに対する懸念を受け、中国ADRの「香港回帰」が加速するとの期待で買われた。(詳細は本文をご参照願います) |
00241 | 阿里健康信息技術[アリババヘルス] | 7.7% | -16.8% | -39.3% | アリババ(09998)傘下のオンライン医療大手。中国人民銀行の金融緩和で投資家のリスクセンチメントが改善し、出遅れのオンライン医療関連銘柄が買い戻された。 |
騰落率下位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
00002 | 中電控股 [CLPホールディングス] | -1.8% | -1.7% | -2.0% | 電力会社。大手証券会社による投資判断と目標株価の引き下げが悪材料となった。 |
01211 | 比亜迪 [BYD] | -4.5% | -6.1% | 11.1% | 電気自動車(EV)大手。中国ADRの上場廃止リスク懸念で、米国上場の新興EV3社がそろって大幅安となるなか、EV関連は全般的に冴えなかった。 |
09999 | 網易 | -6.2% | 4.2% | 24.5% | オンラインゲーム大手。10-11月に5割近く上昇したが、中国ADRの上場廃止リスク懸念で、利益確定売りに押された。 |
02688 | 新奥能源控股[ENNエナジー] | -6.4% | 6.6% | -8.4% | 天然ガス供給会社。中国国内の液化天然ガス(LNG)価格が下落基調にあり、売り材料となった。 |
09618 | JDドットコム | -9.1% | 3.1% | 1.9% | EC大手。市場を上回る決算で11月は続伸したが、中国ADRの上場廃止リスク懸念で、利益確定売りに押された。米著名投資家のキャッシー・ウッド氏による売り(持ち株比率を引き下げ)も嫌気されたもよう。 |
ハンセンテック指数
騰落率上位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
06618 | JD Health International Inc | 13.9% | -3.8% | -3.5% | JDドットコム(09618)傘下のオンライン医療大手。中国人民銀行の金融緩和で投資家のリスクセンチメントが改善し、出遅れのオンライン医療関連銘柄が買い戻された。 |
01833 | Ping An Healthcare and Techn | 11.4% | -2.1% | -46.3% | 平安保険(02318)傘下のオンライン医療大手。中国人民銀行の金融緩和で投資家のリスクセンチメントが改善し、出遅れのオンライン医療関連銘柄が買い戻された。 |
03888 | 金山軟件 [キングソフト] | 10.6% | 10.6% | 17.1% | オンラインゲーム大手。クラウドサービスも手掛ける。中国人民銀行の金融緩和で投資家のリスクセンチメントが改善し、出遅れのソフトウェア関連銘柄に見直し買いが入った。 |
00285 | 比亜迪電子(国際) [BYDエレクトロニック] | 9.6% | 22.3% | -7.7% | BYD(01211)傘下のスマートフォン部品・受託製造メーカー。アップル(AAPL)関連銘柄として、アップルの株高に連れ高した。 |
06690 | 海爾智家[ハイアールスマートホーム] | 9.1% | 20.8% | 11.1% | 家電大手。中国当局が不動産市場に対する締め付けを緩める姿勢を示し、買い手掛かりとなった。不動産市場の改善で家電販売も回復するとの期待が膨らんだ。 |
騰落率下位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
00981 | 中芯国際集成電路製造 [SMIC] | -4.3% | -11.7% | -7.7% | 半導体受託生産(ファウンドリー)大手。同社を含むファウンドリー企業は、販売失速に見舞われる可能性があると、業界アナリストがレポートを出した。 |
09961 | 携程旅行網[トリップドットコム] | -4.6% | -13.5% | -14.9% | オンライン旅行サービス大手。中国ADRの上場廃止リスク懸念に加え、「オミクロン株」の影響による旅行需要の回復遅れに対する懸念も引き続き、重しになった。(SBI証券取り扱いなし。リンク先は米国上場株です。) |
09999 | 網易 | -6.2% | 4.2% | 24.5% | オンラインゲーム大手。10-11月に5割近く上昇したが、中国ADRの上場廃止リスク懸念で、利益確定売りに押された。 |
01347 | 華虹半導体[フアホン・セミコンダクター] | -8.3% | 1.8% | 7.7% | 半導体受託生産(ファウンドリー)大手。同社を含むファウンドリー企業は、販売失速に見舞われる可能性があると、業界アナリストがレポートを出した。 |
09618 | JDドットコム | -9.1% | 3.1% | 1.9% | EC大手。市場を上回る決算で11月は続伸したが、中国ADRの上場廃止リスク懸念で、利益確定売りに押された。米著名投資家のキャッシー・ウッド氏による売り(持ち株比率を引き下げ)も嫌気されたもよう。 |
注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。トリップドットコム(09961)はSBI証券では取り扱っておりません。株価騰落率は香港上場のトリップドットコム(09961)ですが、リンク先は米国上場のトリップドットコム グループ ADR(TCOM)となっております。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。
今週の中国株市況
香港のハンセン指数とハンセンテック指数は週間で(12/9まで)、それぞれ2.0%上昇、1.4%上昇しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数は、2.7%下落(同)しました。主要指数はいずれも12/6には、中国ADRの上場廃止リスク懸念で大幅に下落しましたが、その後は中国人民銀行の金融緩和を受け、持ち直しました。新型コロナの新たな変異株「オミクロン株」に対する懸念の後退も、投資家センチメントを下支えしました。
12/7に中国恒大が実質的にデフォルトになった可能性が生じ、12/9は「一部デフォルト」と正式に認定されましたが、相場への影響は限定的でした。中国当局が金融緩和へかじを切ったほか、不動産市場に対する締め付けを緩める姿勢を示したからです。詳細は、「【中国が金融緩和へ】〜2022年、さらなる緩和なら中国株の見直しが期待される〜」の第2部をご参照願います。
主要指数の戻り幅でみると、ハンセン指数>ハンセンテック指数>ナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数の順となっています。中国ADRの上場廃止リスクに対する懸念が背景にあります。12/2、米証券取引委員会(SEC)は、中国企業の排除を狙った「外国企業説明責任法」の施行規則最終案を採択しました。翌12/3、中国ライドシェア最大手の滴滴出行(DIDI)は米国上場廃止を発表しました。一連の動きを受け、中国ADRの上場廃止リスクが急激に意識されました。中国ADRの動向や今後の可能性については、「今回のトピックス」で取り上げたいと思います。
なお、12/2-12/9の香港市場は業種別では、不動産、工業、生活必需品が騰落率上位に並びました。不動産は、「一部デフォルト」と認定された中国恒大(03333)は21%下落しましたが、万科企業(02202)やチャイナRランド(01109)などは上昇しました。不動産市場の鈍化を受け、中国人民銀行が預金準備率(RRR)を引き下げたことが好材料となりました。中国当局が不動産市場に対する締め付けを緩める姿勢を示したことも、不動産市場の見通し改善につながりました。
工業は、主に中国海運大手のコスコシッピング(01919)の急上昇が寄与しました。上海輸出コンテナ運賃指数(SCFI)が12/3に4週連続で上昇したほか、「オミクロン株」の感染拡大懸念を受け、海運の需給ひっ迫が続く可能性が出てました(過去のレポート「中国株 ココがPOINT! 〜「オミクロン株」の影響 & カジノ株の下落・海運株の上昇〜」をご参照願います)。コスコシッピングが自社株買いを計画していることも好材料となりました。光学部品大手の舜宇光学(02382)も上昇し、指数を押し上げました。アップル(AAPL)のサプライヤーとして、アップルの株高に連れ高しました。
生活必需品は、ビール大手の青島ビール(00168)や華潤ビール(00291)が上昇をけん引しました。業界(特に高価格帯ビール市場)の堅調な需要を踏まえ、平均販売価格の上昇と利益率の改善ができると、大手証券会社が両社を買い推奨しました。
一方、電気通信は逆行安となりました。チャイナテレコム(00728)を筆頭に、通信キャリア3社がそろって下落し、指数の足を引っ張りました。チャイナテレコムは11月に米国事業免許取り消しの決定を差し止めるよう求めたが、米裁判所は同12/2にその申し立てを却下しました。ただ、申し立ての却下は想定内だったことに加え、携帯キャリア3社の事業収益に占める米国の比率は極めて低いこともあり、下げ幅は限定的でした。
情報テクノロジーはほぼ横ばいとなりました。12/6は中国ADRの上場廃止リスク懸念で、大幅に下落しましたが、その後は中国人民銀行の金融緩和を受け、上昇に転じました。中国ADRの上場廃止リスクを警戒した売りを、中国の金融緩和を好感した買いが相殺した格好です。ただ、個別銘柄ではパフォーマンスに差がみられました。総じて11月に好パフォーマンスだった銘柄が、12月入ってから利益確定売りに押されました。一方、これまで軟調が続いた銘柄は、金融緩和を受けた投資家のリスクセンチメントの改善で見直し買いがみられました。(図表3をご参照願います)
今回のトピックス
今回は、中国ADRの上場廃止リスクをめぐる経緯と足元の動向をQ&A形式で確認したうえ、今後の可能性を探ってみたいと思います。
Q:発端は?
A:発端は、米トランプ前大統領が2020年12月に署名した「外国企業説明責任法」にさかのぼります。この法律では、外国企業の会計監査に対し、米国当局の監督権を強化する内容が含まれています。“外国企業”とありますが、役員に中国共産党員が入っているかどうかの情報開示も同時に求めており、実質的に中国企業が標的と認識されています。企業に対し3年以内の遵守を求めており、企業が米当局の会計監査を拒む場合、上場廃止になる恐れがあります。
Q:なぜ足元で、中国ADRの上場廃止リスクが高まったのか?
A:米トランプ前大統領が署名した「外国企業説明責任法」をめぐり、足元で進展がみられたからです。12/2、米証券取引委員会(SEC)は、「外国企業説明責任法」の施行規則最終案を採択しました。それによると、米国上場の中国企業は今後、中国政府に所有・管理されているかどうかを開示し、また適正な監査を受けていることを証明しなければなりません。
こうしたなか、中国ライドシェア最大手の滴滴出行(DIDI)が12/3に上場廃止を発表しました。滴滴出行は、「慎重な検討の結果、ニューヨーク証券取引所(NYSE)からの上場廃止手続きの開始と、香港での上場に向けた準備に入った」と発表しました。SECが最終案を採択した翌日だったことから、中国ADRの上場廃止リスクに対する懸念が強まりました。
Q:なぜ、滴滴出行はみずから上場廃止に?
A:滴滴出行の上場廃止は、中国当局の圧力によるものです。既に11月に、中国当局は滴滴出行に対し、米国上場廃止を求めていると、報じられました。したがって、滴滴出行の上場廃止は市場である程度予想されていました。しかし、予想外だったのは、そのタイミングの早さです。中国当局からの圧力が強かったとみられます。
Q:なぜ、中国当局は滴滴出行に米国での上場廃止を迫っているのか?
A:滴敵出行の事業内容の特性から”機密データ”を持っているからです。ライドシェアサービスを提供している滴敵出行は、ライドシェアに関する取引状況を保有しています。それには、政府機関を含む位置情報や、政府関係者を含む人々の移動状況が(たとえば政府機関への出入り情報も)入っています。場合によっては、タクシー内では音声の記録も取っています。
中国当局が警戒しているのは、それらの情報が米国へ流出することです。それを可能にするかもしれないのが、米国の「外国企業説明責任法」だと、中国当局は懸念しています。というのは、「外国企業説明責任法」によって、米当局は中国企業の会計監査の検査(企業の取引状況などを含む基礎データの提出)を求める可能性があると、中国政府が警戒しています。滴滴出行の場合は、その取引状況に“機密データ”が入っている可能性があります。
実際、そのような懸念から中国当局は滴滴出行に対し、米国上場を見送るよう求めました。しかし滴滴出行は、中国政府が7/1に控えていた「共産党創立100周年」イベントの準備で忙しい“隙”を狙って、6/30に米国上場を強行しました。イベント終了直後の7/2に、中国当局がすぐ滴滴出行に対し、サイバーセキュリティーの調査を発表したのは、このような経緯があります。したがって、市場の一部では滴滴出行のケースは“特殊事例”とみる向きもあります。
Q:滴滴出行ADRは今後どうなるのか?
A:滴滴出行は、ADRは国際的に認められた他の証券取引所で自由に売買される株式に転換されることを確実にすると説明しています。米国の上場廃止手続きと同時に、香港上場の準備を進めていることからすると、「他の証券取引所」はおそらく香港証券取引所を指しています。また、「転換されることを確実にする」ためには、先に香港証券取引所に上場する必要がありそうです。ブルームバーグ報道によると、滴滴出行は来年3月頃の香港上場申請を目指しています。そうすると、米国での上場廃止は、その後となりそうです。現時点での会社発表に基づけば、滴滴出行のADRは今後、香港上場株に転換される見通しとなりそうです。
Q:他の中国ADRはどうなるのか?
A:“機密データ”を持っている滴滴出行のケースは“特殊事例”かもしれませんが、今後、中国ADRの中国企業が香港市場へ「回帰上場」する(「香港回帰」)動きは加速する可能性があります。既にアリババやJDドットコムをはじめ、一定の中国ADRは米国での上場廃止に備えて、香港市場にセカンダリー上場しています。香港証券取引所も、積極的に中国ADRの「香港回帰」を誘致する姿勢を示ました。香港証券取引所は12/6、早ければ来年始めに米ニューヨークで事務所を設置すると発表しました。
Q:海外投資家の動きは?
A:米トランプ前大統領が「外国企業説明責任法」に署名した2020年12月、ファンドマネジャーの間では中国ADRを売却し、香港上場株に乗り換える動きが進んでいる、とロイター通信は報じました。中国現地紙の報道によると、既に2020年8月の段階で、シンガポール政府系ファンドのテマセクなどはアリババを米国上場株(BABA)から香港上場株(09988)に乗り換えました。
直近では、滴滴出行が上場廃止を発表した直後、米著名投資家のキャシー・ウッド氏がJDドットコム(JD)を売却したことが明らかになりました(ブルームバーグ報道)。キャシーウッド氏が運用している「アーク・オートノマス・テクノロジー&ロボティクスETF」の保有状況を確認してみると、JDドットコム(JD)の保有比率は8月末時点で3.58%でしたが、12/8時点は3.33%となっています。今のところ、減少幅は大きくありませんが、ポジションが減ったのは事実のようです。
このように、中国ADRの上場廃止リスクをめぐる経緯と足元の動向を確認してみると、以下のことが言えそうです。
1)中国ADRの上場廃止リスクに対する警戒が急激に高まったのは、SECの「外国企業説明責任法」の施行規則最終案の採択と、滴滴出行の上場廃止発表が立て続けに起きたからです。滴滴出行の上場廃止は、米国よりも中国当局の圧力によるもので、また滴滴出行が機密データを持っているからです。したがって、中国当局がすべての中国企業に対し、米国での上場廃止を求めることはなさそうです。
2)「外国企業説明責任法」の施行規則最終案が採択されたからといって、中国ADRが今すぐに米国上場廃止をしなければいけないことはありません。「外国企業説明責任法」では3年以内の順守となっており、それまでに米中両国が何らかの“合意”に達する可能性もゼロではありません。中国証券監督管理委員会は12/5、SECなど米監督当局と率直かつ建設的な意見交換を行っており、複数の重要問題で協力するうえで前向きな進展があったと発表しました。SECと交渉を進めていることを示唆しました。
3)SECの動きを受け、中国ADRは上場廃止リスクに備える必要性が高まってきました。今後は、中国ADRの「香港回帰」が加速するとみられます(中国本土を上場先として選ぶ企業もあるかもしれません)。一方、滴滴出行の特殊性からすると、すべての企業が滴滴出行と同じように「香港回帰」を急ぐことはなさそうです。多くの企業は、米中両国の政策動向を確認しながら「香港回帰」を進めるとみられます。新興EVメーカーのシャオペン(米国上場:XPEV、香港上場:09868)のCEOは12/7に、「米国上場廃止の脅威は”数年先”」との見方を示しました。
4)一方、たとえ”数年先”といったとしても、一部の投資家は既にリスク回避で中国ADRを売却しています。ただし、”中国株全否定”というわけではなく、香港上場株へ乗り換えている投資家もいます。今後、企業の情報開示をめぐる米中対立が続く限り、この2つの行動パターンは混在することとなりそうです。どちらの投資家が多いか(多くなるか)は現段階では不明で、中国ADRの情報開示をめぐる米中両国の動向次第となりそうです。
5)なお、滴滴出行の上場廃止発表を受け、中国ADRは12/3に大幅に調整しましたが、その後は持ち直しました。中国人民銀行が預金準備率(RRR)を引き下げたこと受け、投資家のリスクセンチメントが改善しました。中国ADRの上場廃止リスクによる下げを、中国の金融緩和による買いによって一部相殺された格好です。したがって、今後の中国ADRの動向は、上場廃止リスク懸念に加え、中国の金融政策の動きにも影響されそうです。
図表4 ナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数の主要構成銘柄の香港上場状況
銘柄コード (米国上場株) |
名称 (Bloomberg) |
時価総額 (百万米ドル) |
主力事業 | 香港上場の状況 (銘柄コード) |
備考 | |
1 | BABA | アリババ・グループ | 345,723 | Eコマース、クラウド | 香港上場(09988) | |
2 | JD | JDドットコム | 131,126 | Eコマース、物流サービス | 香港上場(09618) | |
3 | PTR | 中国石油天然気 [ペトロチャイナ] | 128,995 | 石油・天然ガス | 香港上場(00857) | |
4 | LFC | 中国人寿保険 [チャイナ・ライフ] | 108,826 | 生命保険 | 香港上場(02628) | |
5 | PDD | ピン多多[ピンドゥオドゥオ] | 83,344 | Eコマース | - | 報道によると、香港上場を検討している。 |
6 | NTES | 網易[ネットイース] | 72,285 | オンラインゲーム | 香港上場(09999) | |
7 | SNP | 中国石油化工 [シノペック] | 71,819 | 石油・石油化学製品 | 香港上場(00386) | |
8 | NIO | 蔚来汽車[ニオ] | 67,503 | 電気自動車(EV) | - | 香港上場を進めている。 |
9 | BIDU | 百度[バイドゥ] | 52,153 | 検索エンジン・オンライン広告 | 香港上場(09888) | |
10 | XPEV | 小鵬汽車[シャオペン] | 47,066 | 電気自動車(EV) | 香港上場(09868) | |
11 | LI | 理想汽車[リーオート] | 36,604 | 電気自動車(EV) | 香港上場(02015) | * |
12 | ZTO | ZTOエクスプレス | 26,146 | 宅配サービス | 香港上場(02057) | * |
13 | BILI | ビリビリ | 25,585 | 動画配信サービス | 香港上場(09626) | * |
14 | BEKE | KE Holdings Inc | 23,830 | オンライン不動産取引サービス | - | 報道によると、香港上場を検討している。 |
15 | TCOM | 携程旅行網[トリップドットコム] | 17,530 | オンライン旅行サービス | 香港上場(09961) | * |
注)時価総額は11月30日時点、米ドル建てです。*印の銘柄は、現時点でSBI証券では取り扱っておりません。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成