10/25-10/28の香港市場は利益確定売りで軟調でした。米連邦通信委員会(FCC)がチャイナテレコム(00728)の米国内事業免許を取り消したことを受け、米中対立の激化懸念が改めて意識されました。
そこで、今回は米中対立懸念で売られた業種・買われた業種、および個別銘柄の騰落率を確認したうえで、今後の相場への影響を探ってみたいと思います。主な言及銘柄は、アリババヘルス(00241)やアリババ(09988)、快手(01024)、BYD(01211)、シャオペン(09868)などです。
図表1 ハンセン指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
注:10/28(木)までのチャートです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。
図表2 香港市場の業種別指数騰落率(10/28(木)までの騰落率によります)
ハンセン総合指数業種別騰落率 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
ハンセン総合 | -2.1% | 2.8% | 0.3% |
素材 | -6.8% | -2.6% | 1.1% |
エネルギー | -6.1% | -7.4% | 9.8% |
ヘルスケア | -4.2% | -8.8% | -12.9% |
情報テクノロジー | -3.8% | 5.5% | 4.5% |
不動産 | -3.4% | 2.3% | -6.3% |
コングロマリット | -1.6% | 1.2% | -6.3% |
金融 | -1.3% | 4.5% | 1.3% |
工業 | -0.8% | -2.3% | -1.2% |
電気通信 | -0.6% | 3.0% | 0.8% |
一般消費財 | 0.4% | 7.8% | 2.4% |
公益 | 1.8% | -2.6% | -0.1% |
生活必需品 | 2.3% | 2.3% | -0.3% |
注:業種別騰落率はハンセン総合指数が母集団です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(10/28(木)までの騰落率によります)
ハンセン指数
騰落率上位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
01211 | 比亜迪 [BYD] | 7.0% | 24.6% | 43.0% | 中国EV最大手、EV向け車載電池事業も展開。同社がEV向け車載電池の外部への販売価格を11月から約2割引き上げる予定と中国現地紙が報道。 |
01876 | Budweiser Brewing Co APAC Lt | 6.3% | 6.3% | -10.2% | 世界ビール大手バドワイザーのアジア子会社。3Qの純利益が前年同期比10%増と、市場予想を上回った。 |
02319 |
中国蒙牛乳業[チャイナ・モンニュウ・デイリ |
6.3% | -2.1% | 17.0% | 中国乳業2位。2022FIFAワールドカップの公式スポンサーになったと発表した。 |
00669 | 創科実業[テクトロニック・インダストリーズ] | 4.0% | 5.0% | 17.7% | 電動工具大手。堅調な9月の輸出統計(中国全体)が引き続き材料視されたもよう。同社の地域別売上高構成比は北米が8割、欧州が約15%となっている。 |
02018 | 瑞声科技[AACテクノロジーズ・ホールディ | 3.3% | -8.2% | -26.4% | スマートフォン部品大手。事業拡大に向けたM&Aを好感したもよう。 |
騰落率下位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
02318 | 中国平安保険(集団) [ピンアン・イン] | -7.0% | 5.9% | -11.5% | 中国保険大手。3Q決算を嫌気。3Qは投資収益の減少や保険の新契約縮小が響き、純利益が前年同期比31%減となった。 |
00857 | 中国石油天然気 [ペトロチャイナ] | -7.7% | -4.8% | 13.7% | 中国石油・天然ガス最大手。原油先物価格が下落に転じたことが響いた。 |
02007 | 碧桂園控股 [カントリー・ガーデン・ホール | -8.4% | -4.3% | -7.0% | 中国不動産最大手。中国当局が不動産税(固定資産税)を一部都市で導入すると発表。実際、既に2011年から上海や重慶でテスト導入しており、今回は導入都市の拡大に等しい。今回の導入も一部都市に限られるとみられる。 |
00241 | 阿里健康信息技術[アリババヘルスイン] | -19.4% | -5.6% | -3.2% | アリババ傘下のインターネットヘルス大手。4-9月期(上期)の決算について、純損益が3.2億元の赤字に転落する見通しだと発表した。 |
06862 | Haidilao International Holdi | -23.7% | -25.0% | -26.6% | 中国の火鍋チェーン最大手。飲食店チェーン運営会社の違法行為をめぐる取締り強化に加え、証券会社数社が業績悪化懸念を示したことも悪材料となったもよう。 |
ハンセンテック指数
騰落率上位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
01024 | Kuaishou Technology | 7.4% | 20.7% | -9.5% | 中国ショート動画大手。ショート動画アプリの1日当たりユーザー数が順調に伸びていることを背景に、証券会社数社が広告収入の増加を予想し、目標株価を引き上げた。 |
06690 | 海爾智家[ハイアールスマートホーム] | 7.0% | 8.8% | 11.1% | 中国家電大手。大株主による持ち株比率引き上げを好感。アリババの通販セール「双11(ダブルイレブン」を控え、販売拡大期待も膨らんだもよう。 |
00992 | 聯想集団 [レノボ・グループ] | 4.4% | -2.0% | 14.2% | 中国PC大手。世界の7-9月の個人向けPC出荷台数は6四半期連続で上昇し、同社は市場シェア世界首位を維持した。 |
02018 | 瑞声科技[AACテクノロジーズ・ホールディ | 3.3% | -8.2% | -26.4% | 中国スマートフォン部品大手。事業拡大に向けたM&Aを好感。 |
02382 | 舜宇光学科技(集団)[サニーオプチカル] | 2.2% | 0.1% | -3.5% | 中国の光学機器大手。大手証券会社が、投資判断「買い」でカバレッジを再開した。 |
騰落率下位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
06618 | JD Health International Inc | -7.9% | -6.0% | -3.3% | JDドットコム傘下のインターネットヘルス大手。同業のアリババヘルス(00241)の赤字転落見通しを嫌気し、連れ安したもよう。 |
00909 | Ming Yuan Cloud Group Holdin | -8.9% | 1.5% | 4.3% | 中国の不動産会社向けソフトウェア大手。中国当局が不動産税(固定資産税)を一部都市で導入すると発表したことが響いた。(SBI証券取り扱いなし) |
01833 | Ping An Healthcare and Techn | -17.0% | -13.4% | -36.2% | 平安保険傘下のインターネットヘルス大手。同業のアリババヘルス(00241)の赤字転落見通しを嫌気し、連れ安したもよう。 |
02518 | 汽車之家 | -17.8% | -4.0% | -11.1% | 平安保険傘下の自動車インターネットプラットフォーム。大手証券会社が業績悪化懸念で同社の投資判断と目標株価を引き下げた。(SBI取り扱いなし、米国ADR(ATHM)は取り扱い銘柄です) |
00241 | 阿里健康信息技術[アリババヘルスイン] | -19.4% | -5.6% | -3.2% | アリババ傘下のインターネットヘルス大手。4-9月期(上期)の決算について、純損益が3.2億元の赤字に転落する見通しだと発表した。 |
注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。
今週の中国株市況
香港のハンセン指数とハンセンテック指数は週間で(10/28まで)、それぞれ1.8%下落、2.9%下落しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数も、4.3%(同)下落しました。米連邦通信委員会(FCC)がチャイナテレコム(00728)の米国内事業免許を取り消したことを受け、米中対立の激化懸念が改めて意識されました。もっとも、上記の3指数はそれぞれ前週までに4週、3週、3週続伸したこともあり、利益確定売りに傾きやすい地合いでした。
業種別騰落率では、素材とエネルギー、ヘルスケア、情報テクノロジーの下落が目立ちました。素材とエネルギーの調整は中国国内の商品先物の急落が引き金です。中国の電力不足や世界のエネルギー危機を背景に、中国国内の商品先物は足元で急騰しましたが、中国当局が石炭の販売価格を制限する計画だと報じられ、石炭をはじめに商品先物はそろって急落しました。
ヘルスケアと情報テクノロジーは、主にインターネット関連株の調整によるものです。インターネット関連株は中国当局の規制強化に対する懸念の後退で前週まで急回復しましたが、今週は利益確定売りに押されました。FCCによるチャイナテレコムの米国内事業免許取り消しを受けた米中対立の激化懸念で、投資家のリスクセンチメントが悪化したほか、インターネットヘルス大手のアリババヘルス(00241)が赤字転落の業績見通しを発表したことも響きました。
なお、インターネット関連の個別銘柄の動向を確認してみると、ショート動画大手の快手(01024)は続伸しました。ショート動画アプリの1日当たりユーザー数が順調に伸びていることを背景に、証券会社数社が広告収入の増加を予想し、目標株価を引き上げたことが材料視されました。また、アリババ(09988)やテンセント(00700)、美団(03690)などネット大手の下げ幅も比較的限定的で、出来高も前週の5-6割程度にとどまっており、“ろうばい売り”の様子はみられませんでした。
業種別で逆行高となったのは生活必需品、公益、一般消費財でした。リスク回避の動きでデフェンシブ業種が買われました。生活必需品はビール大手の青島ビール(00168)や乳業2位の蒙牛乳業(02319)などが上昇をけん引しました。公益は華潤電力(00836)や華能電力(00902)など電力大手が大きく反発しました。電力大手株は9月末以降、石炭価格の急騰による利益圧迫懸念で調整しましたが、中国当局による石炭価格抑制の観測を受け、買い戻されました。
一般消費財は、EV(電気自動車)大手のシャオペン(09868)やBYD(01211)の上昇が、火鍋チェーン大手の海底撈(06862)の急落を相殺しました。EV大手は10月に入ってから上昇が続いていますが、主に以下3つの要因が背景にあります。
1)7-9月のEV販売をめぐり、半導体不足による影響が懸念されましたが、EV各社の販売実績は予想を上回って好調でした。
2)世界でのEV化加速を好感。米レンタカー大手ハーツがテスラ(TSLA)に過去最多となる10万台を発注した。
3)中国当局が脱炭素に向けたガイドラインで、EV化をさらに押し進むと再表明しました。
こうしたなか、中国EV最大手のBYD(01211)は10月28日に1-9月期の決算を発表しました。EVやプラグインハイブリッド車(PHEV)の販売拡大を背景に、売上高は前年同期比38%増加しました。一方、純利益は原材料価格の上昇などが響き、同28%減となりました。なお、現地報道によると、BYDはEV向け車載電池の外部への販売価格を2割引き上げる予定です。原材料価格の上昇を受けた動きとみられます。価格転嫁の動きは今のところ車載電池にとどまっており、原材料価格の上昇による収益への影響は10-12月期も続きそうです。一方、中国EV市場でのBYDの好ポジション(EV・PHEVおよび車載電池での競争力)は同社の強みといえます。中長期にみて、EV化はメガトレンドとして変わらず、BYD(01211)をはじめ販売拡大が続いている中国新興EV3強(ニオ(NIO)、シャオペン(米国上場:XPEV、香港上場:09868)、リーオート(LI))は引き続き、注目に値すると考えます。
今回のトピックス
今週は米中対立が再びリスク要因として意識されました。米連邦通信委員会(FCC)によるチャイナテレコムの米国内免許取り消しは、米国が安全保障を理由に中国通信会社への締め付けを強化していることが背景にあります。FCCは2020年4月にチャイナテレコムUSA、チャイナユニコムUSA、太平洋ネットワーク、コムネットの4社に対し、米国国家安全保障に危害を与えていない証拠を提出するよう命じました。当時、FCCは上記の4社に対し、米国内事業免許の取り消しも視野に入れていると報じられていました。したがって、今回のことは全くの想定外だったわけではないといえます。
投資家が意識したのは、免許の取り消しそのものよりも“タイミング”だと思います。直近の動向を確認してみると、米中両国は10月8日に閣僚級の貿易協議を再開しました。10月26日には中国の劉鶴・副総理と米国のイエレン財務長官がビデオ会談を行いました。一連の動きは米中対立懸念の緩和とは程遠いですが、両国の対話維持でやや安心感が広がっていました。そのようなタイミングで起きたチャイナテレコムの米国内免許取り消しは、米中対立懸念を改めて意識させました。それを受け、投資家のリスクセンチメントが悪化しました。一方、香港市場の調整幅や出来高からすると、“ろうばい売り”はみられませんでした。
振り返ってみると、米中対立問題が勃発してから3年近くなりますが、“報復関税合戦”や“対話拒絶”などに比べれば、今の米中関係は“幾分穏やか”といえます。背景として、両国とも長期戦を覚悟のうえ、対話を継続しながら自国にとっての利益を獲得しようしていることが挙げられます。というのは、“報復関税合戦”や“対話拒絶”の経験からすると、結果的にはゼロサムゲームとなり、それぞれは必ずしも「最大利益」を獲得できないからです。
そのような背景もあり、ここ3年間の米中対立が相場に与える影響を振り返ってみると、その程度は次第に和らいできており、期間も短くなっています。したがって、今回のチャイナテレコムの米国免許取り消しに起因した米中対立懸念による影響も、限定的になる可能性が高いと思います。中国株主要指数と世界株式指数のバリュエーションを比較してみると、足元で中国株の割安さが目立ちます。ここ1年で中国株の重しとなっていた中国当局の規制強化に対する懸念もピークを過ぎた可能性があることと合わせて考えると、調整時は押し目買いのチャンスとなるでしょう。
今回のレポートで触れた銘柄や中国株主要指数に連動するETFについては、図表5をご参照願います。
図表4 中国株主要指数と世界株式指数のバリュエーション:中国株の割安感が目立つ
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
図表5 言及銘柄に関するデータ
銘柄 | 株価 10/28 (香港ドル) |
52週高値 (香港ドル) |
52週安値 (香港ドル) |
PBR (倍) |
予想 PER (倍) |
過去5年 平均PER (倍) |
来期 予想 増収率 (%) |
来期 予想 増益率 (%) |
BYD(01211) | 301.80 | 324.60 | 132.20 | 8.73 | 151.88 | 72.90 | 28.80% | 57.48% |
アリババ(09988) | 165.20 | 309.40 | 132.00 | 3.00 | 18.01 | - | 19.87% | 14.92% |
テンセント(00700) | 488.20 | 775.50 | 412.20 | 4.55 | 27.76 | 35.72 | 18.70% | 21.24% |
美団(03690) | 272.20 | 460.00 | 183.20 | 10.14 | - | - | 37.98% | -93.95% |
快手(01024) | 103.80 | 417.80 | 64.50 | 5.29 | - | - | 36.69% | -53.68% |
Tracker Fund香港ETF(02800) | 25.64 | 31.34 | 24.14 | 香港のハンセン指数に連動しするETFです。 | ||||
ハンセンH株指数ETF(02828) | 91.80 | 124.30 | 84.94 | 香港のハンセンH株指数に連動するETFです。 | ||||
iS CSI300ETF(02846) | 39.08 | 46.56 | 35.26 | 中国本土のCSI300指数に連動するETFです。 | ||||
iS MSCIチャイナETF(02801) | 29.80 | 41.56 | 27.36 | MSCI中国指数に連動するETFです。 | ||||
銘柄 | 株価 10/28 (米ドル) |
52週高値 (米ドル) |
52週安値 (米ドル) |
PBR (倍) |
予想 PER (倍) |
過去5年 平均PER (倍) |
来期 予想 増収率 (%) |
来期 予想 増益率 (%) |
ニオ ADR(NIO) | 40.79 | 66.99 | 26.51 | 13.47 | - | - | 69.07% | 赤字縮小 |
リーオート ADR(LI) | 33.41 | 47.70 | 15.98 | 5.29 | - | - | 58.84% | 黒字転換 |
シャオペン ADR(XPEV) | 46.24 | 74.49 | 18.50 | 13.42 | - | - | 78.14% | 赤字縮小 |
注:予想PER、予想増収率、予想増益率はBloomberg集計のコンセンサスによります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。