先週は5/4(水)にFOMC後のパウエルFRB議長の発言を受けて、FRBの利上げスタンス緩和への期待が生まれて反発したものの、翌日にはFRBはより積極的な利上げに追い込まれるとの見方が台頭して反落しました。今週の株価材料として、米国の4月インフレ指標、金融当局者の発言、原油価格の動向、などが注目されます。
今回は先週に好決算を発表した銘柄から、アドバンストマイクロデバイシズ(AMD)、コノコフィリップス(COP)、ブッキングホールディングス(BKNG)、CVSヘルス(CVS)、ファイザー(PFE)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
先週のFOMC(米連邦公開市場委員会)を通過することで相場は落ち着くかと思われましたが、マクロ面の不透明感は解消せず、年初来安値近辺に低迷しています。ここ2週間はS&P500指数の予想EPSが下方修正となっていることも不安要因で、本格反発にはやや時間を要しそうです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
エネルギー | 10.2% | 4.1% | 20.4% |
公益事業 | 1.2% | -6.3% | 4.9% |
コミュニケーションサービス | 1.1% | -13.3% | -18.0% |
金融 | 0.6% | -8.4% | -15.4% |
資本財・サービス | 0.3% | -4.1% | -6.9% |
S&P500 | -0.2% | -8.1% | -10.1% |
ヘルスケア | -0.4% | -9.2% | -3.3% |
素材 | -0.6% | -4.4% | -1.5% |
情報技術 | -0.7% | -8.1% | -14.6% |
生活必需品 | -1.3% | -2.9% | 0.5% |
一般消費財・サービス | -3.4% | -13.3% | -17.6% |
不動産 | -3.8% | -9.8% | -5.6% |
騰落率上位(5日) | 騰落率 |
コノコフィリップス | 12.7% |
シュルンベルジェ | 10.3% |
シェブロン | 8.9% |
エクソンモービル | 7.6% |
チャーター・コミュニケーションズ | 7.3% |
騰落率下位(5日) | 騰落率 |
ナイキ | -8.2% |
アマゾン・ドット・コム | -7.7% |
ペイパル・ホールディングス | -7.1% |
バイオジェン | -6.7% |
コストコホールセール | -5.3% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
5/2(月)、5/3(火)は米10年国債利回りが2018年12月以来初めて3%台を付ける中、FOMCを控えて神経質な取引が続きましたが、テクノロジー株に対する押し目買いが勝って小幅なプラスとなりました。
5/4(水)のFOMC結果発表では、市場予想通り0.5%の利上げと6月からの保有資産の圧縮が決まりました。一方、FOMC後の会見でパウエルFRB議長が「今後2回のFOMCでは0.5%の利上げを選択肢に入れる」とする一方、「0.75%の利上げについては活発に議論しているわけではない」としたことから、0.75%の利上げの可能性を織り込みつつあった市場にはポジティブサプライズとなりました。S&P500指数は3.0%の大幅高となりました。
一方、5/5(木)にはインフレの高進によってFRBはより積極的な利上げに追い込まれるとの見方が台頭して、前日の上げをすべて打ち消す大幅な反落となりました。5/6(金)も前日の流れを引き継いで弱く、S&P500指数はザラ場ベース、終値ベースとも年初来の安値を更新しました。米10年国債利回りは3.1%台に上昇して引けています。
S&P500指数は週間で0.2%、NYダウは0.2%、ナスダック指数は1.5%の下落でした。
業種指数では、原油価格の上昇を受けて「エネルギー」が突出して高いほか、事業がディフェンシブで配当利回りが高い「公益事業」、大幅な下落から反発した「コミュニケーションサービス」などが上昇となっています。個別銘柄では、上位4銘柄をエネルギー企業が占めました。
経済指標では、4月のISM製造業景気指数が前月の57.1から55.4へ悪化、非製造業景気指数が前月の58.3から57.1へ悪化しました。両指数とも前月からの改善を見込んでいた市場予想を大きく下回ってネガティブサプライズとなりました。ただし、景気判断の分かれ目とされる50を大きく上回っているため、過度に悲観する内容ではないとみられます。
一方、4月の雇用統計で非農業部門雇用者数は前月比42.8万人増となり、堅調な雇用市場が確認されました。平均時給の上昇率は前月の前年比5.6%増から同5.5%増に低下して、賃金のインフレ圧力には緩和の兆しもみられます。
今週の米国株式市場
今週の株価材料として、米国の4月インフレ指標、金融当局者の発言、原油価格の動向、などが注目されます。S&P500指数の予想PERは今期予想ベースで18.0倍、来期予想ベースで16.4倍まで低下、バリュエーションの調整は十分進んだと考えられます。一方、過去2週は通期EPSの予想が下方修正となって相場の不安定要因になっています。相場の本格反発には、EPSの上方修正軌道への回帰を確認することが必要とみられます。
米国の4月インフレ指標として、5/11(水)に消費者物価指数、5/12(木)に生産者物価指数が発表されます。消費者物価指数は、前年比8.1%増と前月の同8.5%増から低下、同コア指数も前年比6.0%増へ前月の同6.5%増から低下の予想です。また、生産者物価指数も、前年比10.7%増へ前月の同11.2%増から低下、同コア指数も前年比8.9%増へ同9.2%増から低下の予想です。
市場予想通りにインフレの鈍化が示されれば、株式市場の安心材料となるでしょう。一方、万が一にもインフレが市場予想より上振れて前月からの加速を示すようであれば、相場の一段安も覚悟しておく必要がありそうです。
今週は5月のFOMCが終わったことで金融当局者の発言機会が増え、アトランタ、ニューヨーク、ミネアポリス、サンフランシスコの各連銀総裁、FRBのウォラー理事などの講演が予定されています。先週のパウエルFRB議長の会見では、「0.75%の利上げを活発に議論しているわけではない」と発言して、一旦市場では安心感が広がりましたが、このような見方を確認できる内容になるか注目されます。
欧州連合(EU)はロシア産石油の輸入を年内に停止する方針を示しています。また、OPECプラスが小幅な増産ペースを維持する姿勢を堅持したことなどから、原油先物相場は再び上昇基調を強めています。一方、サウジアラビアは5/8(日)にアジア向け公式販売価格の引き下げを発表しています。中国でのロックダウンによる需要減を勘案したものとされ、市場でどのように織り込まれるか注目されます。
経済指標では、上述した米国の4月インフレ指標のほか、5/11(水)に中国の4月生産者物価指数(前年比7.8%増の予想、前月は同8.3%増)、消費者物価指数(前年比7.4%増の予想、前月は同7.4%増)、5/13(金)に5月のミシガン大学消費者マインド(前月の65.2から64.0に悪化の予想)、などの発表が予定されています。
企業イベントでは、パランティアテクノロジーズ、アップスタートホールディングス、ユニティソフトウェア、コインベース、ウォルトディズニー、マルケタ、リビアンオートモーティブ、ビヨンドミート、フレックス、アファームホールディングスなどの決算発表が予定されています。
S&P500指数の通年の予想EPSが2週連続で下方修正
1-3月期決算自体は予想を上回って好調だったものの、主要企業の決算コメントから4-6月期以降の業績への懸念が高まって、相場の不安定要因になっています。この状況をS&P500指数採用銘柄の予想EPSに関する、決算発表前の4/8(金)から5/6(金)にかけての予想の変化で確認してみましょう。
図表3の通り、1-3月期は前年同期比4.5%増から同9.1%増へ4.6%ポイントの上方修正となったものの、4-6月期の予想EPSは前年同期比6.2%増から同4.8%増へ1.4%ポイントの下方修正となっています。GDP成長率見通しの下方修正、インフレによる利益率への圧迫などのマクロ懸念が反映された結果と考えられます。
一方、7-9月期、10-12月期の下方修正幅は小幅にとどまっており、マクロ面の不透明感による企業業績に対する下方圧力は4-6月期にピークを迎え、下半期には後退することが想定されています。
通年の予想EPSについては、1-3月期の上方修正が効いて前年比10.1%増に若干の上方修正となっています。ただし、4/22(金)には同10.9%増、4/29(金)には同10.3%増が予想されていたため、ここ2週間は連続で下方修正となっています。通年の予想EPSは年初来上方修正基調が続いていましたので、新たな不安定要因です。
パンデミックからの経済回復の基調は変わっていないとみられるため、近いうちに上方修正基調に回帰すると考えられますが、相場の本格反発はこれを確認する必要がありそうです。
今週の5銘柄
今回は先週に好決算を発表した銘柄から、アドバンストマイクロデバイシズ(AMD)、コノコフィリップス(COP)、ブッキングホールディングス(BKNG)、CVSヘルス(CVS)、ファイザー(PFE)を選んでご紹介いたします。
図表3 S&P500指数の予想EPSの変化
4月8日時点の 予想EPS増加率 (%) |
5月6日時点の 予想EPS増加率 (%) |
修正幅 (%ポイント) |
|
1-3月期実績・予想 | 4.5 | 9.1 | 4.6 |
4-6月期予想 | 6.2 | 4.8 | -1.4 |
7-9月期予想 | 10.7 | 10.6 | -0.1 |
10-12月期予想 | 10.3 | 10.1 | -0.2 |
2022年通年予想 | 9.8 | 10.1 | 0.3 |
※FactSet社の公表資料をもとにSBI証券が作成
図表4 1-3月期決算の概要(先週の好決算銘柄)
銘柄(コード) | 前年同期比成長率 | 事前予想比サプライズ | ||
売上増加率 (%) |
EPS増加率 (%) |
売上増加率 (%) |
EPS増加率 (%) |
|
アドバンスト マイクロ デバイシズ(AMD) | 70.9 | 117.3 | 11.0 | 23.5 |
コノコフィリップス(COP) | 80.8 | 373.9 | -0.7 | 3.0 |
ブッキング ホールディングス(BKNG) | 136.2 | 黒字転換 | 5.2 | 404.0 |
CVSヘルス(CVS) | 11.2 | 8.8 | 2.0 | 3.1 |
ファイザー(PFE) | 76.0 | 74.2 | 5.4 | 4.6 |
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (5/6) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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アドバンスト マイクロ デバイシズ(AMD) | 95.34ドル | 21.9 | 【CPUのシェア拡大が続く】 ・1-3月期決算は、売上が前年同期比71%増、調整後EPSが同117%増で、いずれも市場予想を上回る好決算でした。2月半ばに買収を完了したザイリンクスを除いても、売上は同55%増、営業利益は同110%増と好調です。部門別の売上は、コンピューティング&グラフィックス部門は、パソコン用CPUの「Ryzen」がけん引して同33%増、エンタープライズ、組み込み、セミカスタム部門は、サーバー用CPUの「EPYC」がけん引して同88%増でした。また、買収したザイリンクス分についても主要分野がいずれも好調で、試算ベースの売上は前年同期比22%増としています。 ・2022年12月期のガイダンスは、ザイリンクスの買収完了とサーバー向けCPUおよびセミカスタムの売上見通しを上方修正したことを背景に、売上は前年比約31%増から同約60%増以上に引き上げ、調整後の粗利率も約51%から約54%に引き上げています。 | ||
コノコフィリップス(COP) | 107.69ドル | 8.0 | 【原油価格上昇を受けて大幅増益】 ・1-3月期の調整後EPSは原油価格の上昇を受けて前年同期比4.7倍増、3.27ドルに増加しました。平均販売価格は1バレル当たり76.99ドルで、前年同期に比べて70%増加しています。業績好調を受けて2022年の株主還元見通しを100億ドルへ、20億ドル増やしています。四半期の普通配当として0.46ドル、変動キャッシュリターン(VROC)配当として7月に0.70ドルの支払いを発表しました。 ・1-3月期の1日当たり石油換算生産量は前年同期比14%増の1.75百万バレルで、原油資産の買収・売却を調整したベースでは、定期点検などによる稼働停止によって同2%減でした。4-6月期の1日当たり石油換算生産量は1.67〜1.73百万バレル、2022年通年では同1.76百万バレルのガイダンスです。 | ||
ブッキング ホールディングス(BKNG) | 2194.23ドル | 22.9 | 【旅行需要の回復が続く】 ・1-3月期の売上は270億ドルで前年同期比2.4倍となり、調整後EPSは前年同期の5.26ドルの赤字から3.90ドルの黒字に回復しました。売上はパンデミック前の2019年1-3月期の95%まで回復しています。 ・旅行の予約金額は前年同期比129%増の273億ドルで、四半期として過去最高を記録しており、今後のさらなる回復が予想されています。同社CEOは決算リリースで、「不透明なマクロ環境にも関わらず、第2四半期の現時点までグローバルに旅行トレンドが強まりつつあることが観察されており、我々は活発な夏の旅行シーズンに備えている。」とコメントしています。 | ||
CVSヘルス(CVS) | 100.69ドル | 12.0 | 【米国最大のドラッグストア】 ・米国最大のドラッグストアで、医薬品販売、薬剤給付管理(PBM)、医療保険のサービスを提供します。1-3月期決算は、売上が前年同期比11%増、調整後EPSが同9%増で、いずれも市場予想を上回って堅調でした。部門別の売上は、医療保険部門が前年同期比13%増、医薬品小売部門が同9%増、薬局サービス部門が同9%増でした。なお、調整前のEPSは、オピオイド乱用訴訟に係る費用で同4%増にとどまっています。 ・業績の堅調を受けて2月に四半期配当金を10%引き上げ、また、1-3月期には2017年以来となる19百万株の自社株買いを実施しています。2022年12月期の調整後EPSガイダンスを8.1〜8.3ドルから8.2〜8.4ドルに引き上げています。 | ||
ファイザー(PFE) | 49.04ドル | 7.2 | 【ワクチンの寄与で大幅増収増益】 ・1-3月期は売上が前年同期比77%増、調整後EPSが同72%増で、いずれも市場予想を上回って好調でした。新型コロナワクチンの売上が前年同期の48.9億ドルから149.4億ドルに増加、大幅増収の主因です。新型コロナワクチンおよび同治療薬を除く売上成長は前年同期比2%増にとどまりましたが、特定医薬品の特許喪失による2%ポイントおよび営業日数減による1%ポイントの減少がなければ、5%に達していたと会社はコメントしています。 ・2022年12月期のガイダンスについては、980〜1,020億ドルの合計売上、約320億ドルのワクチン売上、約220億ドルの新型コロナ治療薬「パクスロビド」売上を維持しました。一方、調整後EPSについては、6.25〜6.45ドルに下方修正しています。ただし、これは取得した開発薬のR&D費用に係る会計基準の変更によるものです。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、いずれも2022年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
9(月) | ・中国貿易統計(4月) ・ロシア対独戦勝記念日 ・アトランタ連銀ボスティック総裁講演 |
パランティアテクノロジーズ、アップスタートホールディングス デュークエナジー |
10(火) | ・ドイツZEW景気指数(5月) ・ニューヨーク連銀ウィリアムズ総裁講演 ・アトランタ連銀ボスティック総裁講演 ・ミネアポリス連銀カシュカリ総裁講演 ・FRBウォラー理事講演 ・NFIB中小企業楽観指数(4月) |
ユニティソフトウェア、コインベース |
11(水) | ・中国生産者・消費者物価指数(4月) ・アトランタ連銀ボスティック総裁講演 ・米消費者物価指数(4月) |
ウォルトディズニー、マルケタ、リビアンオートモーティブ ビヨンドミート、フレックス |
12(木) | ・米生産者物価指数(4月) ・米新規失業保険申請件数(5月7日に終わる週) ・サンフランシスコ連銀デイリー総裁講演 |
アファームホールディングス |
13(金) | ・ユーロ圏鉱工業生産(3月) ・米輸入物価指数(4月) ・ミシガン大学消費者マインド(5月、速報値) ・ミネアポリス連銀カシュカリ総裁講演 |
アリババグループ |
16(月) | ・中国鉱工業生産・小売売上高・固定資産投資(4月) ・米ニューヨーク連銀製造業景気指数(5月) |
|
17(火) | ・ユーロ圏実質GDP(1-3月期、改定値) ・米小売売上高(4月) ・米鉱工業生産(4月) ・米NAHB住宅市場指数(5月) |
ドクシミティ、ウォルマート、ホームデポ |
18(水) | ・日本実質GDP(1-3月期、改定値) ・EU27ヵ国新車登録台数(4月) ・米住宅着工・建設許可件数(4月) |
シスコシステムズ、ロウズ、ターゲット |
19(木) | ・米新規失業保険申請件数(5月14日終わる週) ・米フィラデルフィア連銀製造業景気指数(5月) ・米中古住宅販売件数(4月) |
アプライドマテリアルズ、ジムインテグレーテッドシッピング |
20(金) | ・ユーロ圏消費者信頼感(5月) | ディア |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成
※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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