先週はパウエルFRB議長の発言が市場が懸念するほど金融引き締めを急いでいないとの印象となり、一旦反発する局面がありました。しかし、長期金利上昇に対する市場の警戒は根強く、テクノロジー株への売りが再燃しました。今週の材料として、本格化する10-12月期決算の発表、新型コロナ新規感染者数の動向、米10年国債利回りの動向、などが注目されます。
今回はジム・クレーマーが2022年にビッグイヤーを迎える可能性があるとする“オールドテック”の5銘柄、アップル(AAPL)、シスコ システムズ(CSCO)、インターナショナル ビジネス マシーンズ(IBM)、マイクロソフト(MSFT)、オラクル(ORCL)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
エネルギー | 5.2% | 20.4% | 13.2% |
コミュニケーションサービス | 0.5% | -0.5% | -3.6% |
情報技術 | -0.1% | -1.2% | 6.3% |
ヘルスケア | -0.3% | -2.5% | 4.8% |
S&P500 | -0.3% | 0.9% | 4.3% |
生活必需品 | -0.4% | 3.1% | 9.4% |
素材 | -0.6% | 1.7% | 5.6% |
資本財・サービス | -0.6% | 3.6% | 2.9% |
金融 | -0.8% | 6.2% | 3.4% |
公益事業 | -1.4% | -0.2% | 5.7% |
一般消費財・サービス | -1.5% | 0.1% | 2.9% |
不動産 | -2.0% | -2.9% | 4.8% |
騰落率上位(5日) | 騰落率 |
シュルンベルジェ | 7.9% |
コノコフィリップス | 7.6% |
ウェルズ・ファーゴ | 6.0% |
ボーイング | 4.9% |
クアルコム | 4.6% |
騰落率下位(5日) | 騰落率 |
スターバックス | -6.9% |
コストコホールセール | -6.2% |
アメリカン・タワー | -6.0% |
イーライリリー | -5.9% |
ナイキ | -5.6% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
1/10(月)は米大手証券から「利上げは3月にも」「利上げは今年4回となる可能性も」などの見方が出て、FRBによる金融引き締めへの懸念が強くなり、株式は一時大幅な下落となりました。一方、1/11日(火)はパウエルFRB議長の公聴会での発言が、市場が懸念するほど金融引き締めを急いでいない印象となり、米10年国債利回りが低下して株式は大幅反発しました。
1/12(水)は12月消費者物価指数の上昇率が前月から拡大しましたが、市場予想並みだったことからもみ合い、1/13(木)の12月生産者物価も市場予想を下回り、米10年国債利回りは一時1.7%割れまで低下しました。しかし、長期金利上昇に対する警戒は根強いとみえ、テクノロジー株への売りが再開して全体も大幅安となりました。1/14(金)は米国の12月小売売上高が予想を大きく下回ったにも関わらず、長期金利が再び1.8%近くまで上昇しました。
S&P500指数は週間で0.3%、NYダウは0.9%、ナスダック指数は0.3%の下落となりました。
業種指数では、原油価格の続伸を受けて「エネルギー」が大幅な上昇となっています。個別銘柄では、シュルンベルジェ(SLB)、コノコフィリップス(COP)など、「エネルギー」業種の中でも事業が原油生産の川上事業に特化している企業の株価上昇が大きくなっています。株価が下落したスターバックス(SBUX)は、今年度マージン改善が難しいとして複数のアナリストが投資判断を「Outperform」から「Neutral」に引き下げています。
経済指標では、米国の12月消費者物価指数が前年比7.0%増(前月は同6.8%増)、生産者物価指数が同9.7%増(前月は同9.6%増)へ、いずれも前月から上昇率が拡大しましたが、消費者物価指数は市場予想並み、生産者物価指数は市場予想を下回りました。また、12月の小売売上高は前月比1.9%減と、市場予想の同0.0%を大きく下回りました。前年比では16.9%増(11月は同18.2%増)でした。
今週の米国株式市場
先週はFRBの金融引き締めのスピードや米10年国債利回りを巡ってボラティリティの高い不安定な相場となりましたが、今週、来週と10-12月期決算の発表が進むとともに徐々に落ち着きを取り戻すと期待できるでしょう。
今週の株価材料として、本格化する10-12月期決算の発表、新型コロナ新規感染者数の動向、米10年国債利回りの動向、などが注目されます。
10-12月期決算について、S&P500指数採用銘柄のEPSは前年同期比21.8%増が予想されています。決算は通例通り市場予想を上回って出てくると考えられますが、7-9月期までのように大幅に(事前予想の前年同期比27%増から同39%増に着地しました)上回ることはないとみられます。
FactSet社の集計によると、2022年予想EPSは223.66ポイント、2023年予想EPSは245.82ポイント、両年の平均は234.74ポイントになります。S&P500指数の1/14(金)終値4,662.85ポイントは、同平均値に対してPER19.9倍まで買っていることになります。
なお、1/14(金)に決算を発表したJPモルガン チェース(JPM)は費用増のガイダンスが嫌気されて株価は6.2%下落、一方、ウェルズ ファーゴ(WFC)は費用削減の上乗せが好感されて株価は3.7%の上昇と、明暗が分かれました。
米国の新型コロナの新規感染者数(7日平均)は1/15(土)に80万人にまで達しています(データ元はニューヨークタイムズ紙)。これまで米国市場では、米10年国債利回りが上昇を続け、航空会社など経済再開銘柄が買われるなど、新型コロナの感染者数の動向はほぼ捨象してきたとみられます。
捨象してきた理由は、オミクロン株による感染拡大で先行した、南アフリカやドイツでの感染者数が1ヵ月半でピークアウトして終息に向かったことにあるとみられます。この想定によると米国の新規感染者数は今週ピークアウトの動きが出るはずですので、確認する必要があるでしょう。想定通りとなれば、米10年国債利回りを上向きに刺激するほか、再び経済再開銘柄への物色が強まるでしょう。
米10年国債利回りは昨年3月の高値1.774%が意識されているとみられ、1.7%〜1.8%のレンジでもみ合いとなっており、引き続き動向が注目されます。なお、今週にはFRB要人の発言やインフレ指標などの発表は予定されておらず、来週1/26(水)のFOMC結果発表まで相場を動かす大きな材料はない見通しです。ただ、上述のように新型コロナ感染者数のピークアウトが鮮明になると一段と上昇する可能性があるでしょう。
経済指標では、1/19(水)に米国の12月住宅着工件数(前月比1.7%減の予想)、12月建設許可件数(前月比1.0%減の予想)、1/20(木)に米国の12月中古住宅販売件数(前月比0.8%減の予想)、などの発表が予定されています。
企業イベントでは、ゴールドマンサックス、P&G、ユナイテッドエアラインズ、ASMLホールディングス、バンクオブアメリカ、モルガンスタンレー、ユナイテッドヘルスグループ、ネットフリックス、ユニオンパシフィック、ベーカーヒューズ、インチュイティブサージカル、シュルンベルジェ、などの決算発表が予定されています。
今週の5銘柄
今回は米国の株式投資啓蒙家ジム・クレーマーが1/7(金)のCNBC(米国の経済専門チャンネル)で取り上げた“オールドテック”5銘柄をご紹介いたします。
同氏によれば、長期金利の上昇を受けて「損失を出し続けているクラウドベースのソフトウェア銘柄のほとんどは、現在“立ち入り禁止”(オフリミット)になっているが、一方でリアルのモノを作って、リアルな利益を出しているテクノロジー企業も多く存在する。」
「これら銘柄はFRBによる金融引き締め下にあっても良いパフォーマンスをあげる可能性があるだろう。」「今回取り上げる銘柄は、退屈で成熟した企業 − しばしばバカにして“オールドテック” − と呼ばれる企業だ。しかし、私に言わせれば、ニューがアウトで、オールドがインだ。」とコメントしています。
ジム・クレーマーが2022年にビッグイヤーを迎える可能性があるとする“オールドテック”の5銘柄、アップル(AAPL)、シスコ システムズ(CSCO)、インターナショナル ビジネス マシーンズ(IBM)、マイクロソフト(MSFT)、オラクル(ORCL)をご紹介いたします。
図表3 ジム・クレイ―マーが注目する“オールドテック”5銘柄
銘柄(コード) | 株価 (1/14) (ドル) |
予想PER (倍) |
予想売上高 増加率 (今年度) (%) |
予想EPS 増加率 (今年度) (%) |
アップル(AAPL) | 173.07 | 30.2 | 4.5 | 2.1 |
シスコ システムズ(CSCO) | 61.36 | 16.6 | 5.2 | 7.8 |
インターナショナル ビジネス マシーンズ(IBM) | 134.21 | 12.6 | -6.9 | 8.8 |
マイクロソフト(MSFT) | 310.2 | 33.2 | 16.8 | 17.1 |
オラクル(ORCL) | 87.69 | 16.7 | 4.6 | 8.7 |
注:今年度の業績は、アップルが2022年9月期、マイクロソフトが2022年6月期、その他は2022年12月期によります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (1/14) |
予想PER (倍) |
ポイント |
---|---|---|---|---|---|
アップル(AAPL) | 173.07ドル | 30.2 | 【ペントアップ需要と自社株買いに注目】 ・足もとのiPhone出荷はサプライチェーン問題の影響を受けて低めとなる見通しですが、今後サプライチェーンの問題が解消に向かう場合には、ペントアップ需要から恩恵を受けると期待されます。また、同社の巨大な自社株買いは、金融引き締めの投資環境の中で相対的に優位になると期待されます。 ・10-12月期決算は売上が前年同期比5.9%増、EPSが同11.8%増と7-9月期に比べて低めの伸びになると予想されています。ただ、iPhoneの需要は1-3月期に繰り越しとなって同期の売上を押し上げると期待されます。また、Bloombergアナリストの独自調査によると、アップルのiCloud(データのストレージサービス)やミュージックなどのバンドルによってユーザーがアンドロイドからiOSにシフトする動きが出る可能性があるようです。 | ||
シスコ システムズ(CSCO) | 61.36ドル | 16.6 | 【サプライチェーン問題が水を差した】 ・長らく低調な業績の伸びが続いてきましたが、事業内容の一部をソフトウェア分野にシフトし、継続収益を得るビジネスモデルの比率を高めてきたことから、従来よりも持続的な業績拡大が期待できます。2022年7月期は前年比5〜7%の増収のガイダンスを出していますが、十分達成可能とみられます。 ・2-4月期〜8-10月期まで前年同期比7〜8%の増収が続いていましたが、11-1月期の売上ガイダンスが同4.5〜6.5%増として失望されました。サプライチェーンの問題が水を差したとみられますが、これが解消にむかえば、再び業績の改善を示すと期待されます。同社のCEOは、同問題は同社会計年度の下半期(2月から始まる)から改善に向かう見通しと発言しています。 | ||
IBM NYSE インターナショナル ビジネス マシーンズ(IBM) | 134.21ドル | 12.6 | 【予想配当利回りが3.9%】 ・同社は企業のレガシーシステム(時代遅れとなったITシステム)のトップ企業であったことから、企業のIT投資が増えても既存の売上が減る部分があり、なかなか売上を伸ばせない状況が続いています。しかし、この状況を反映して株価のバリュエーションは安くなっています。予想PERは12.6倍、予想配当利回りは3.9%となっています。 ・昨年11月4日に低成長のITインフラ事業(メインフレームと同サポートサービス)をキンドリル(KD)として分離し、IBMは「ハイブリッドクラウドとAIを中心とする企業に進化する」計画です。キンドリル分社化後の売上は1桁台前半の売上の成長(キンドリルの減少分を除いたベースで)が期待できますが、マイクロソフトのような10%を超える売上成長には、さらなる変革が必要とみられています。10-12月期の売上は前年同期比14%減、EPSは同1%減の予想です。 | ||
マイクロソフト(MSFT) | 310.20ドル | 33.2 | 【安定的な利益成長に注目】 ・クラウドサービスが業績拡大の柱となっているため、クレイマー氏が言うように「オールドテック」ではないと考えられますが、新興IT企業のような爆発的な成長はないため、確かにあまり面白味のない銘柄とのイメージはあるかもしれません。同社の株価は昨年51%上昇して非常に好調でしたが、このような手堅い業績を背景に金融引き締め局面でも活躍が期待される銘柄となりそうです。 ・企業のDX投資が拡大する中、クラウドサービスとビジネスソフトを擁する同社はその恩恵を受けると期待されます。また、多くの企業が出社と在宅のハイブリッド体制をとるなか、同社のチャット・コラボレーションアプリ「Teams」の採用が広がり、これはさらに「マイクロソフト365」(Officeのサブスクリプションサービス)の売上拡大につながると期待されます。 | ||
オラクル(ORCL) | 87.69ドル | 16.7 | 【大型買収案件が嫌気されたが・・・】 ・昨年12/9(火)発表の9-11月期決算が市場予想を上回って一旦は株式市場でも評価されました。クラウド売上(IaaSとSaaS売上の合計、年率換算110億ドル近く)が前年同期比22%増とけん引して、売上が前年同期比6%増、調整後EPSが同14%増と伸びました。決算を受けてアナリストによる目標株価引き上げが相次ぎました。 ・一方、12/20(月)にメディカルソフトウェアのサーナー社を283億ドルで買収と発表してから株価が冴えません。サーナー社は医療記録管理のソフトウェアで2位のソフトウェアメーカーです。買収価格は市場価格に対して35%のプレミアムとなったことや、買収額が約283億ドルとオラクルの買収歴の中でも突出して規模が大きいことから、ひとまず売りでの反応となった模様です。しかし、業績は拡大基調にあるとみられることから、買収に関するネガティブ材料を織り込んだ後には、上昇基調を取り戻す可能性が高そうです。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、アップルが2022年9月期、マイクロソフトが2022年6月期、その他は2022年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
17(月) | ・米国市場休場(キング牧師生誕祭) ・日本機械受注(11月) ・中国実質GDP(10-12月期) ・中国鉱工業生産・小売売上高・固定資産投資(12月) |
|
18(火) | ・日銀金融政策 ・EU27ヵ国新車登録台数(12月) ・ドイツZEW景気指数(1月) ・米ニューヨーク連銀製造業景気指数(1月) ・米NAHB住宅市場指数(1月) |
ゴールドマンサックス |
19(水) | ・米住宅着工件数・建設許可件数(12月) | P&G、ユナイテッドエアラインズ、ASMLホールディングス バンクオブアメリカ、モルガンスタンレー ユナイテッドヘルスグループ |
20(木) | ・米新規失業保険申請件数(1月15日に終わる週) ・米フィラデルフィア連銀製造業景気指数(1月) ・米中古住宅販売件数(12月) |
ネットフリックス、ユニオンパシフィック、ベーカーヒューズ インチュイティブサージカル |
21(金) | ・ユーロ圏消費者信頼感(12月) | シュルンベルジェ |
24(月) | ・じぶん銀行日本製造業PMI(1月) ・マークイットユーロ圏製造業PMI(1月) ・マークイット米国製造業PMI(1月) ・米シカゴ連銀全米活動指数(12月) |
IBM |
25(火) | ・ドイツIFO企業景況感(1月) ・米S&Pコアロジック住宅価格指数(11月) ・米コンファレンスボード消費者信頼感(1月) |
ジョンソン&ジョンソン、3M、マイクロソフト ベライゾンコミュニケーションズ、モデルナ(E) アメリカンエキスプレス、ゼネラルエレクトリック テキサスインスツルメンツ |
26(水) | ・米新築住宅販売件数(12月) ・FOMC政策金利 |
テスラ、AMD、AT&T、ボーイング、インテル アボットラボラトリーズ、フリーポートマクモラン ラムリサーチ、サービスナウ |
27(木) | ・中国工業部門利益(12月) ・米耐久財受注(12月) ・米実質GDP(10-12が月、速報値) ・米新規失業保険新生件数(1月22日に終わる週) ・米中古住宅販売成約(12月) |
アップル、ビザ、マクドナルド、ダウ、マスターカード サウスウエスト航空、ラスベガスサンズ、ニューコア ユナイテッドレンタルズ(E) |
28(金) | ・ユーロ圏景況感(1月) ・米個人所得・個人支出(12月) ・米個人消費支出物価指数(12月) ・米ミシガン大学消費者マインド(1月) |
アルトリアグループ、シェブロン、キャタピラー ハネウェルインターナショナル |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成