先週は先々週末の雇用統計が軟調となったことに加え、S&P500指数の構成銘柄3社が業績見通しを下方修正したことから、株価調整ムードが強まりました。今週はS&P500指数は50日移動平均線を維持できるか、米国の個人消費動向、3.5兆ドルの歳出法案の行方、などが注目されます。
今回は最近のパフォーマンスが好調で注目を集める水関連のETFの組み入れ銘柄から、ウォーターズ(WAT)、ローパー テクノロジーズ(ROP)、アメリカン ウォーター ワークス(AWK)、エコラブ(ECL)、ザイレム(XYL)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
一般消費財・サービス | -0.3% | 1.2% | 5.3% |
コミュニケーションサービス | -1.1% | 2.1% | 8.6% |
生活必需品 | -1.3% | -0.7% | 2.4% |
情報技術 | -1.4% | 0.9% | 10.3% |
S&P500 | -1.7% | -0.2% | 5.0% |
金融 | -1.9% | -2.7% | 0.1% |
エネルギー | -2.3% | -3.7% | -13.6% |
素材 | -2.3% | -3.1% | -2.6% |
公益事業 | -2.4% | -0.6% | 3.6% |
ヘルスケア | -2.6% | -0.5% | 7.0% |
資本財・サービス | -3.1% | -3.1% | -1.5% |
不動産 | -3.9% | 0.2% | 3.1% |
騰落率上位(5日) | 騰落率 |
マスターカード | 1.8% |
ネットフリックス | 1.7% |
スターバックス | 1.7% |
ホーム・デポ | 1.3% |
ザ・ウォルト・ディズニー・カンパニー | 1.2% |
騰落率下位(5日) | 騰落率 |
バイオジェン | -10.7% |
イーライリリー | -7.7% |
シュルンベルジェ | -6.4% |
サイモン・プロパティー・グループ | -6.2% |
アムジェン | -5.4% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
9/2(木)にピークをつけてから5営業日続落となり、調整モードに入っています。
9/7(火)は前週末の軟調な雇用統計を受けて経済回復ペースの鈍化を巡る懸念がくすぶり、景気敏感な銘柄を中心に下落しました。一方、ナスダック指数は大型IT銘柄の上昇を受けて最高値を更新しました。9/8(水)も景気の先行き懸念から続落、地区連銀経済報告(ベージュブック)は、米経済成長が7月初旬から8月にかけて緩やかなペースにやや減速したとの認識を示しました。
9/9(木)は新規失業保険申請件数が1年半ぶりの低水準となって上昇して始まるも、先行きの不透明感から下げに転じ、相場の変調を感じさせました。9/10(金)も米中首脳の電話会談が伝わって上昇して始まりましたが、8月の生産者物価指数が予想を上回る上昇となってサプライチェーンの問題によって高インフレが当分続くのではとの懸念が台頭して下げに転じました。また、アップルが米地裁からアプリ課金ルールの緩和命令を出されて3.3%の下落となったことも足をひっぱりました。
S&P500指数は週間で1.7%、NYダウは2.2%、ナスダック指数は1.6%の下落でした。
業種指数では、米10年国債利回りが上昇基調となって「不動産」「公益事業」が大きく下落、景気減速懸念から景気敏感業種も売られました。個別銘柄では、バイオジェン(BIIB)が10%を超える下落となりました。新しいアルツハイマー治療薬「アデュヘルム」の初期の売上動向が想定を下回っていると認めたことによります。同様の候補薬をもつイーライ リリィ(LLY)も連れ安となっています。
経済指標では、米国の8月生産者物価指数が前年比8.3%増と7月の同7.8%増から加速、市場予想の同8.2%増も上回り、インフレ高進に対する懸念が高まりました。一方、中国の8月貿易統計では輸出が前年比25.6%増、輸入が同33.1%増といずれも市場予想を上回って、景気減速が懸念されている中国経済も貿易に関しては堅調となっています。
今週の米国株式市場
S&P500指数は50日移動平均線を維持できるか、米国の個人消費動向、3.5兆ドルの歳出法案の行方、などが注目されます。
9/17(金)に先物・オプションの取引期限集中日「クアドラプル・ウィッチング」を迎えますが、S&P500指数が50日移動平均線(9/10(金)時点で4,424ポイント)を維持できるか注目されます。S&P500指数は、5月以降に5月19日、6月18日、7月19日、8月19日と50日移動平均線にタッチまたは接近する押し目を入れており、先物・オプションの取引期限日が影響している可能性がありそうなためです。
先週には塗料メーカー2社、住宅メーカー1社が原材料高やサプライチェーンを理由に業績見通しの下方修正を発表、また、ここ数週間の経済指標が成長減速を示唆していることから、今回は50日移動平均線を維持できるかについて市場の警戒感が高まっているとみられます。
9/8(水)のCNBC「Mad Money」では、ジム・クレーマー氏も9月相場のボラティリティ上昇に寄与しそうな懸念点を6つあげ、9月の調整はこれまでよりも大きくなる可能性が示唆されています。詳しくは、9/10(金)掲載の「SBIグローバルウォッチ」(YouTubeに遷移します)をご覧ください。
仮に50日移動平均線を割り込んだ場合の下値目途として、75日移動平均線の4,360ポイント、100日移動平均線の4,312ポイント、一目均衡表の「雲」上限の4,366ポイントなどがあげられます。
米国の個人消費については、8月小売売上高、9月ミシガン大学消費者マインドなど動向を見極めるうえで重要な指標の発表があります。8月小売売上高は前月比0.8%減が予想されていますが、このような数字が出ると相場にはネガティブに作用しそうです。ただ、シカゴ連銀が公表している週次の小売統計からは、前月比1.1%増が示唆されており、今月はもちこたえる可能性もあるようです。
9/15(水)に民主党が目指す3.5兆ドルの歳出法案について、各政策の予算案の提出期限を迎えます。どのような具体策が盛り込まれるかが注目されます。また、同法案については規模が大き過ぎてインフレを高進させる怖れがあるとの反対論があり、規模縮小に向けた議論が活発となる可能性があります。
経済指標では、9/14(火)に米国の8月消費者物価指数(前月比0.4%増、前年比5.3%増の予想)、9/15(水)に中国の8月鉱工業生産(前年比5.8%増の予想、前月は同6.4%増)、小売売上高(前年比7.0%増の予想、前月は同8.5%増)、9/16(木)に米国の8月小売売上高(前月比0.8%減の予想)、9/17(金)に米国の9月ミシガン大学消費者マインド(前月の70.3から72.0に改善の予想)、などの発表が予定されています。
企業イベントでは、オラクルの決算発表のほか、9/14(火)にアップルが新製品の発表を行います。バッテリーやカメラの性能を向上させた4つのiPhone新モデルが披露されると観測されています。また、S&P500指数の銘柄入れ替えで、セリディアン HCM ホールディング(CDAY)、ブラウン アンド ブラウン(BRO)、マッチ(MTCH)の3銘柄が追加となります。
今週の5銘柄
今回は水関連銘柄をとりあげます。
9/8(水)の日経新聞に「水ETF価格沸騰 SDGsで需要増、半導体生産に影響も」というタイトルで、「インベスコグローバルウォーターETF」の価格上昇が目立っているという記事が掲載されました。
記事に取り上げられている「インベスコグローバルウォーターETF(PIO)」に加え、同じくインベスコが提供している「インベスコウォーターリソーシズETF(PHO)」(こちらは日本での登録がなく、当社での取り扱いはありません)は7月半ばからS&P500指数のパフォーマンスを上回って推移しています(図表3)。
水関連のETFへの注目が高まる背景として、(1)ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の観点から水資源に関連する企業への注目が高まっていること、(2)天候不順によって干ばつや洪水などが頻発して水管理の重要性が増していること、(3)上位に組み入れられている分析機器メーカーは産業景気の回復に加えて新型コロナのパンデミックへの対応で追い風を受けて業績が堅調なこと、などが考えられます。
「インベスコグローバルウォーターETF(PIO)」はグローバルファンドで米国株の組み入れが限定されているため、米国銘柄に限定して組成している「インベスコウォーターリソーシズETF(PHO)」の組入上位銘柄から、ウォーターズ(WAT)、ローパー テクノロジーズ(ROP)、アメリカン ウォーター ワークス(AWK)、エコラブ(ECL)、ザイレム(XYL)をご紹介いたします。
図表3 水関連ETFの値動き
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表4 「インベスコウォーターリソーシズETF」の上位組入銘柄
銘柄(コード) | 事業内容 | 組入比率(%) |
ウォーターズ(WAT) | 分析機器メーカー | 9.4 |
ダナハー(DHR) | 分析機器メーカー | 9.3 |
アメリカン ウォーター ワークス(AWK) | 上下水道の公益事業 | 8.6 |
ローパー テクノロジーズ(ROP) | 分析機器メーカー | 7.6 |
エコラブ(ECL) | 衛生管理サービス | 7.6 |
ザイレム(XYL) | 浄水システムメーカー | 4.1 |
テトラ テック(TTEK) | 環境サービス・機器 | 4.1 |
ペンテア(PNR) | 水処理システム | 4.0 |
アドバンスト ドレナージ システムズ(WMS) | 排水管など | 3.7 |
エッセンシャル ユーティリティーズ(WTRG) | 上下水道の公益事業 | 3.7 |
注:9/10(金)時点のデータによります。インベスコウォーターリソーシズETFは日本での登録がなく、当社での取り扱いはありません。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (9/10) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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ウォーターズ(WAT) | 420.18ドル | 39.4 | 【分析機器の大手】 ・研究室向けの分析機器メーカー大手。主に液体クロマトグラフィーや質量分析計を扱うウォーター部門(2020年12月期の売上構成比は89%)と熱分析部門(同11%)からなります。顧客別の売上構成比は、医薬品が59%、工業が30%、政府・学術が11%を占めます。 ・4-6月期決算は、前年同期がパンデミックの影響を受けたこともあり、売上(為替の影響を除くベース)が前年同期比27%増、調整後EPSは同24%増と大きく伸びました。医薬品向けが同31%増、工業向けが同28%増です。売上ガイダンスは、7-9月期が前年同期比7〜9%増、通期は年初の前年比5〜8%増から同13〜15%増へ、今年2回目の引き上げとなっています。 | ||
ローパー テクノロジーズ(ROP) | 473.96ドル | 31.2 | 【工業用機器メーカー】 ・各種CCD検出器、電子顕微鏡などの工業用機器メーカーです。顧客産業は、ヘルスケア、運輸、食品、エネルギー、水道などです。工業機器の幅広い分野でのニッチ市場を狙ってリーダーのポジションを取る戦略により成長を遂げ、28年連続増配を達成しています。2020年9月には保険業界で使われるソフトウェアのVertafoe社を買収しています。 ・4-6月期の売上は前年同期比22%増、調整後EPSは同28%増でした。売上の伸びのうち、オーガニック成長率は7%ポイントと既存事業が堅調で、このほか買収効果の12%ポイント、為替他の3%ポイントを含みます。通期の調整後EPSを14.75〜15.00ドルから15.00〜15.20ドルに引き上げています。 | ||
アメリカン ウォーター ワークス(AWK) | 184.79ドル | 43.5 | 【北米最大の上下水道サービス企業】 ・北米最大の上下水道サービス企業。飲料水、排水、その他水関連サービスを米国46州およびカナダで展開、1,500万人の顧客を擁します。規制事業の売上が86%を占めるほか、米国軍や家庭向けの市場ベース事業の売上が14%あります。規制事業の投資拡大や買収などを中心に、2021年から2025年にかけてEPSの年平均成長率は7-10%を計画しています。 ・4-6月期決算は、売上が前年同期比7%増、EPSが同18%増と堅調です。売上の伸びはオーガニック成長と買収に加え、例年よりも暖かく湿度が低い天候がポジティブに働きました。4.18〜4.28ドルの通年のEPSガイダンスを確認しています。 | ||
エコラブ(ECL) | 225.84ドル | 44.9 | 【衛生管理サービスで世界最大】 ・ホテルや飲食店、工場等向けに清掃・洗浄などの技術サービスを提供します。2020年12月期の売上構成比は、工場の水処理、衛生管理などのインダストリアル分野が50%、ホテル、飲食店など向けのインスティテューショナル分野が30%、ヘルスケアおよびライフサイエンス分野が10%などとなっています。 ・4-6月期決算は、売上が前年同期比18%増、買収効果を除いても同12%増と伸び、調整後EPSは同2.4倍となりました。前年同期にパンデミックの影響を受けたインスティテューショナル分野が前年同期比34%増と回復したほか、価格の引き上げが効いています。足もとでは新型コロナの感染再拡大の影響が出ているものの、2021年を通じて業績回復の動きは継続すると見込んでいます。 | ||
ザイレム(XYL) | 134.34ドル | 49.9 | 【浄水システムメーカー】 ・浄水システムメーカーで、上下水道向けの浄水機器、排水ポンプなどを農業、一般メーカー、公共事業向けに提供します。近年買収によって解析分野を強化しています。2020年12月期の売上構成比は、水インフラ分野が43%、ビルや工場向けのアプライド・ウォーター分野が29%、計測&コントロールソリューション分野が28%となっています。 ・4-6月期の売上は前年同期比16%増(うち11%ポイントがオーガニック成長による)、調整後EPSは利益率の上昇に加えて、リストラ費用の反動もあり、前年同期比3.6倍となりました。受注のオーガニック成長は同29%増と売上の加速が見込まれます。通年の売上がガイダンスを従来の前年比8〜10%増から同9〜11%増に引き上げています。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、2021年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
13(月) | オラクル | |
14(火) | ・米NFIB中小企業楽観指数(8月) ・米消費者物価指数(8月) |
・アップルが新製品の発表イベント |
15(水) | ・日本機械受注(7月) ・中国鉱工業生産・小売売上高・固定資産投資(8月) ・中国調査失業率(8月) ・ユーロ圏鉱工業生産(7月) ・米ニューヨーク連銀製造業景気指数(9月) ・米鉱工業生産(8月) ・3.5兆ドルの歳出法案、各政策の予算案の提出期限 |
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16(木) | ・日本貿易統計(8月) ・EU27ヵ国新車登録台数(8月) ・米小売売上高(8月) ・米新規失業保険申請件数(9月11日に終わる週) ・フィラデルフィア連銀製造業景気指数(9月) |
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17(金) | ・株価指数・個別株の先物・オプション取引期限集中日 ・ミシガン大学消費者マインド(9月、速報値) |
・S&P500指数の入れ替え |
20(月) | ・米NAHB住宅市場指数(9月) | レナー |
21(火) | ・OECD経済見通し発表 ・米住宅着工件数・建設許可件数(8月) |
アドビ、フェデックス |
22(水) | ・日銀金融政策 ・米中古住宅販売件数(8月) ・ユーロ圏消費者信頼感(9月) ・FOMC政策金利 |
ゼネラルミルズ |
23(木) | ・マークイットユーロ圏製造業PMI(9月) ・米シカゴ連銀全米活動指数(8月) ・米新規失業保険申請件数(9月18日に終わる週) ・マークイット米国製造業PMI(9月) ・米家計純資産変化(6月末) |
アクセンチュア、コストコホールセール、ナイキ |
24(金) | ・じぶん銀行日本製造業PMI(9月) ・ドイツIFO期待指数(9月) ・米新築住宅販売件数(8月) |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成