先週はワクチン接種率上昇への期待、インフラ投資法案の前進、ハト派的と捉えられたパウエルFRB議長の講演を受けて上昇となりました。今週は米中の企業景況感、米国の雇用統計、アフガニスタン情勢、などが注目されます。
今回はホワイトハウスが大手IT企業のCEOを招いてサイバーセキュリティの強化を要請したことから、サイバーセキュリティを投資テーマとする米国上場ETFのグローバルX サイバーセキュリティETF(BUG)と、その上位組み入れ銘柄からクラウド ストライク ホールディングス A(CRWD)、Zスケーラー(ZS)、フォーティネット(FTNT)、パロ アルト ネットワークス(PANW)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
エネルギー | 7.3% | -1.0% | -5.3% |
金融 | 3.5% | 6.7% | 2.7% |
コミュニケーションサービス | 2.8% | 3.9% | 10.4% |
一般消費財・サービス | 2.6% | 0.7% | 5.0% |
素材 | 2.6% | 2.2% | -1.5% |
資本財・サービス | 2.2% | 1.4% | -0.1% |
S&P500 | 1.5% | 2.6% | 7.3% |
情報技術 | 1.4% | 2.9% | 14.2% |
不動産 | -0.3% | 0.9% | 8.4% |
ヘルスケア | -1.2% | 1.8% | 8.9% |
生活必需品 | -1.4% | 0.6% | 2.4% |
公益事業 | -2.1% | 3.4% | 5.2% |
騰落率上位(5日) | 騰落率 |
ブッキング・ホールディングス | 11.1% |
シュルンベルジェ | 9.9% |
エヌビディア | 8.7% |
コノコフィリップス | 7.5% |
ダウ | 7.4% |
騰落率下位(5日) | 騰落率 |
ファイザー | -4.4% |
イーライリリー | -4.1% |
ブリストル マイヤーズ スクイブ | -3.8% |
ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J) | -3.6% |
ネクステラ・エナジー | -3.3% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
景気指標には陰りがみられるものの、ワクチン接種率上昇への期待、インフラ投資法案の前進、ハト派的と捉えられたパウエルFRB議長の講演を受けて週間で上昇となりました。
8/23(月)はファイザーとバイオエヌテックが開発した新型コロナワクチンが正式承認され、接種率の上昇が見込めるとの期待から大幅に上昇、8/24(火)も続伸となりました。8/25(水)は3.5兆ドルの財政支出の枠組みとなる予算決議が米下院で可決、「連結」して扱うとされているインフラ投資法案も前進と捉えられて上昇しました。
8/26(木)は翌日にジャクソンホール会合を控えて利食いが優勢となり、さらにアフガニスタンで自爆テロが発生、米軍関係者に少なくとも13名の死者が出たことで下げ幅を拡大しました。ジャクソンホール会合でのパウエルFRB議長の講演は、テーパリングの開始時期は年内が妥当とする一方、テーパリングの完了は自動的に利上げにつながらないとしてハト派的と捉えられ、8/27(金)は米10年国債利回りが低下、株価を押し上げました。
S&P500指数は週間で1.5%、NYダウは0.9%、ナスダック指数は2.8%の上昇でした。
業種指数では、新型コロナワクチンの正式承認が効いて、先々週とは逆に景気敏感業種が買われ、ディフェンシブ業種や配当利回りが高い業種が上昇しました。個別銘柄では、旅行予約サイトを運営するブッキング ホールディングス(BKNG)が上昇率トップで、同社以外にも旅行関連銘柄の株価上昇が目立ちました。今次の新型コロナの感染者数急増が終わりに近づいているのではとの楽観が背景にあるとみられます。
経済指標では、マークイットの8月米国製造業・非製造業PMI、リッチモンド連銀製造業景気指数、ミシガン大学消費者マインドの確報値など「マインド系」の指標の悪化が目立ちました。年前半の経済再開による高揚感からの反動に加え、足もとの新型コロナの感染再拡大の影響も出てきているとみられます。一方、米国の7月耐久財受注、同個人支出など実際の経済活動を示す「ハード系」の指標は依然堅調を維持しました。
今週の米国株式市場
米中の企業景況感、米国の雇用統計、アフガニスタン情勢、などが注目されます。
米中の企業景況感は、製造業、非製造業とも前月から悪化が予想されています。米国の指標は水準が高いのでさほど相場に影響を与えてきませんでした。一方、中国の指標は好不況の分かれ目となる50に近づいているので要注意でしょう。
非農業部門雇用者数は6月が前月比93.8万人増、7月が同94.3万人増から、8月も同75万人増と順調な回復を示すか注目されます。9月のFOMCで「テーパリング」の開始が発表されるかどうかにも影響がありそうです。
アフガニスタン情勢は、自爆テロの発生と米軍関係者に多数の犠牲者が出たことを受けて相場への影響が出る可能性もでてきました。犯行声明を発表したイスラム国への報復が宣言され、8/27(金)には無人機による攻撃で自爆テロに関わった人物を殺害したとの声明が発表されています。
市場では米軍のアフガニスタン撤退が円滑に進まないことで、バイデン大統領の支持率低下につながり、政策実行能力に影響する可能性が気にされています(図表3)。
経済指標では、8/31(火)に中国の8月製造業PMI(前月の53.3から52.0に悪化の予想)・非製造業PMI(前月の50.4から50.2に悪化の予想)、米国の8月コンファレンスボード消費者信頼感(前月の129.1から123に悪化の予想)。
9/1(水)に米国の8月ADP雇用統計(前月比63.8万人増の予想)、米国の8月ISM製造業景気指数(前月の59.5から58.5に悪化の予想)、9/3(金)に8月の雇用統計(非農業部門雇用者数は前月比75万人増の予想)、米国の8月ISM非製造業景気指数(前月の64.1から62に悪化の予想)などの発表が予定されています。
企業イベントでは、ズームビデオコミュニケーションズ、クラウドストライクホールディングス、オクタ、シースリーエーアイ、ドキュサイン、ブロードコムなどの決算発表が予定されています。
今週の5銘柄
先週8/25(水)にホワイトハウスはグーグル、アップル、アマゾン、マイクロソフト、IBMの各CEOを招いて、サイバーセキュリティ強化のための会議を開きました。
バイデン大統領は、「米国のサイバーセキュリティに従事する労働力は十分な速度で成長していない」と語り、この1年で増加したような基幹インフラへの大規模なサイバー攻撃やランサムウェア攻撃に対し、業界と連邦政府が協力していく方法について話し合いました。
このような動きはサイバーセキュリティの社会における重要性が増していることを示すもので、サイバーセキュリティ専業各社の事業環境に好影響を及ぼすことが期待されます。
そこで、今回はサイバーセキュリティを投資テーマとした米国上場ETFであるグローバルX サイバーセキュリティETF(BUG)と、その上位組み入れ銘柄からクラウド ストライク ホールディングス A(CRWD)、Zスケーラー(ZS)、フォーティネット(FTNT)、パロ アルト ネットワークス(PANW)を選んでご紹介いたします。
図表3 バイデン大統領の支持率、不支持率推移
注:米政治サイト「リアルクリアポリティクス」による世論調査の集計値です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表4 サイバーセキュリティ関連銘柄の投資指標
コード | 銘柄名 | 時価総額 (億ドル) |
株価騰落 (1ヵ月) (%) |
株価 (8/26) (ドル) |
予想 PER (倍) |
今期予想 増収率 (%) |
CRWD | クラウドストライク・ホールディングス | 629 | 8.1 | 278.77 | 716.6 | 55.7 |
ZS | ゼットスケーラー | 366 | 14.6 | 266.97 | 565.6 | 53.8 |
FTNT | フォーティネット | 507 | 14.4 | 310.13 | 80.3 | 24.8 |
PANW | パロアルトネットワークス | 446 | 15.1 | 457.44 | 63.2 | 24.7 |
OKTA | オクタ | 396 | 5.6 | 262.17 | - | 46.2 |
注:グローバルX サイバーセキュリティETF(BUG)の組み入れ上位銘柄です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (8/27) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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グローバルX サイバーセキュリティETF(BUG) | 32.50ドル | - | 【サイバーセキュリティのETF】 ・サイバーセキュリティを投資テーマとしたナスダック市場に上場するETFです。2019年10月の設定で純資産額は6.6億ドル、年間の経費率は0.5%です。8/27(金)時点のパフォーマンスは、1ヵ月+5.6%、3ヵ月+15.3%、1年+38.9%となっています。 ・上位の組み入れ比率は、クラウドストライクホールディングス7.1%、Zスケーラー6.8%、フォーティネット6.1%、パロアルトネットワークス5.8%、オクタ5.5%となっています。 | ||
クラウド ストライク ホールディングス A(CRWD) | 282.31ドル | 723.9 | 【エンドポイント(情報端末)検知の会社】 ・サイバー攻撃に対する防御として、ネットワークへの侵入を防ぐやり方と、エンドポイント(情報端末)で不正な動きを検知するやり方がありますが、同社は後者を主力業務としています。同社の「Falcon」プラットフォームは、エンドポイントにインストールして不正を検知する軽量なエージェント、これと連携してサイバー攻撃への対応策を提示する脅威インテリジェンス、また、脅威ハンティングのサービスなどからなります。 ・2-4月期決算は、売上高が前年同期比70%増と高成長が持続しました。年間経常収益(ARR)が同74%増の11.9億ドルとなったほか、そのうち新規ARRが1.44億ドルとなりました。5-7月期の決算を8/31(火)に発表の予定です。 | ||
Zスケーラー(ZS) | 273.73ドル | 506.9 | 【外出先からのアクセスの安全を確保するサービス】 ・米国のITサービス・ソフトウェア企業です。企業のITシステムがクラウド化するにつれ、オフィスだけでなく出先からノートPCやスマホで業務を行うことが増えていますが、そのような場合に有利となるウェブセキュリティのサービスを提供しています。同社のセキュリティゲートウェイは、グローバルに100ヵ所以上ある同社のデータセンターで提供されており、5大陸をカバーしているためユーザーはもっとも近いデータセンターを経由してアプリケーションを利用可能です。フォーブズGlobal2000の500社以上を含む5,000社を顧客としています(2021年1月末)。 ・2-4月期決算は、売上が前年同期比60%増、株式報酬を除いた調整後営業利益は9%から13%に改善、純利益は10百万ドルから21百万ドルに増加しています。5-7月期決算を9/9(木)に発表の予定です。 | ||
フォーティネット(FTNT) | 316.06ドル | 81.9 | 【総合的なサイバーセキュリティサービスの会社】 ・米国のネットワーク用セキュリティー・ソリューションのプロバイダーで、ファイアウォール、次世代ファイアウォール、UTM(統合脅威管理)などネットワーク用のセキュリティー機器、関連ソフトウェア、保守サービスを提供します。サイバーセキュリティの専業企業では特許取得数が圧倒的に多く、この分野で重要な地位を占めていることがわかります。 ・4-6月期決算は、売上が前年同期比30%増、調整後EPSが同19%増となり、いずれも市場予想を上回りました。通期の売上ガイダンスを30.8〜31.3億ドルから32.1〜32.5億ドルに引き上げました。 | ||
パロ アルト ネットワークス(PANW) | 461.28ドル | 63.7 | 【総合的なサイバーセキュリティサービスの会社】 ・ファイアウォール、エンドポイント型ソフトウェア、セキュリティインテリジェンスなどの総合的なサイバーセキュリティサービスを提供する会社です。ネットワークセキュリティの「Strata」、クラウドセキュリティの「Prisma」、セキュリティオペレーションセンター(SOC)の「Cortex」などの製品を擁します。2021年7月末時点で顧客企業は8万社を超えます。 ・8/23(月)に発表した5-7月期決算は売上が前年同期比27%増、調整後EPSが同8%増で、いずれも市場予想を上回って好調でした。2022年7月期の売上は前年比24〜25%増相当の52.75〜53.25億ドルで、市場予想の50.2億ドルを大きく上回りました。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、クラウドストライクホールディングスが2022年1月期、Zスケーラー、パロアルトネットワークスが2022年7月期、フォーティネットが2021年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
30(月) | ・米中古住宅販売成約(7月) | ズームビデオコミュニケーションズ |
31(火) | ・日本鉱工業生産(7月) ・中国製造業・非製造業PMI(8月) ・アフガニスタン駐留米軍の撤退期限 ・S&Pコアロジック住宅価格(6月) ・コンファレンスボード消費者信頼感(8月) |
クラウドストライクホールディングス |
9月 1(水) |
・財新中国製造業PMI(8月) ・ユーロ圏失業率(7月) ・米ADP雇用統計(8月) ・米ISM製造業景気指数(8月) |
オクタ、シースリーエーアイ |
2(木) | ・米新規失業保険申請件数(8月28日に終わる週) ・米製造業受注(7月) |
ドキュサイン、ブロードコム |
3(金) | ・ユーロ圏小売売上高(7月) ・米雇用統計(8月) ・米ISM非製造業景気指数(8月) |
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6(月) | ||
7(火) | ・中国貿易統計(9月) ・ドイツZEW景気期待指数(9月) ・ユーロ圏実質GDP(4-6月期、確報値) |
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8(水) | ・日本実質GDP(4-6月期、確報値) ・米求人労働異動調査(7月) ・米地区連銀経済報告(ベージュブック) |
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9(木) | ・日本工作機械受注(8月) ・中国生産者・消費者物価指数(8月) ・中国資金調達総額(15日までに発表) ・ECB主要政策金利 ・米新規失業保険申請件数(9月4日に終わる週) |
Zスケーラー |
10(金) | ・米生産者物価指数(8月) | オラクル(E) |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成