先週は長期金利の上昇に対する警戒が残りましたが、景気敏感株の上昇が続く一方、ハイテク株にも株価底入れの兆しをみせる銘柄もあり、全体としては反発となりました。今週は、米10年国債利回りの行方、追加経済対策の成立、ナスダック指数の動きなどが注目されます。
今回は株価上昇が続く「エネルギー」、「金融」の代表企業としてエクソンモービル(XOM)とJPモルガン チェース(JPM)を、また決算発表シーズン終盤の好決算銘柄から、ディアー(DE)、ガーミン(GRMN)、モンスター ビバレッジ(MNST)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
エネルギー | 10.1% | 18.5% | 32.1% |
金融 | 4.3% | 7.6% | 17.3% |
資本財・サービス | 3.1% | 3.9% | 4.9% |
通信サービス | 2.4% | 1.0% | 7.0% |
素材 | 2.3% | 1.3% | 5.0% |
公益事業 | 2.1% | -5.9% | -4.6% |
生活必需品 | 1.9% | -2.6% | -4.7% |
S&P500 | 0.8% | -1.9% | 3.8% |
ヘルスケア | 0.3% | -2.6% | 0.4% |
不動産 | -1.4% | -3.2% | 0.7% |
情報技術 | -1.4% | -5.9% | 1.6% |
一般消費財・サービス | -2.8% | -9.6% | -1.1% |
騰落率上位(5日) | 騰落率 |
コノコフィリップス | 12.2% |
エクソンモービル | 12.1% |
シェブロン | 9.0% |
アメリカン・エキスプレス | 8.9% |
オラクル | 8.5% |
騰落率下位(5日) | 騰落率 |
テスラ | -11.5% |
エヌビディア | -9.1% |
ペイパル・ホールディングス | -8.0% |
アメリカン・タワー | -7.5% |
ターゲット | -5.9% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
先週は米10年国債利回りの上昇に対する警戒感が強い状況が続きました。3/1(月)は2/27(土)に追加経済対策が下院を通過し、米10年国債利回りは1.4%台前半で落ち着いていたため大幅に反発しました。3/2(火)は前日の反動で反落、3/3(水)は金利上昇が嫌気され続落となりました。
3/4(木)は注目されたパウエルFRB議長のコメントに長期金利の上昇に対するけん制が含まれず、米10年国債利回りは1.57%まで上昇して株式相場は続落でした。一方、3/5(金)は雇用統計の非農業部門雇用者数が予想を上回る増加となったものの、米10年国債利回りの上昇は限定的であったことから、大幅な反発となりました。S&P500指数は週間で0.8%、NYダウは1.8%の上昇、ナスダック指数は2.1%の下落でした。
業種指数では、3/4(木)に開かれたOPECプラス会合で予想されていた減産幅縮小の話が出ず原油価格が急反発して、「エネルギー」が大幅続伸となりました。長期金利上昇が収益にプラスとなる「金融」も上昇しました。
個別銘柄では、テスラ(TSLA)が2週連続で下落率トップとなっています。環境関連の代表銘柄として買い上げられ、株式時価総額は一時トヨタ自動車の3倍を超えるなど説明が難しいほど高くなっていたため、長期金利上昇の影響を受けやすかったとみられます。
経済指標では、米国の2月雇用統計の非農業部門雇用者数が前月比37.9万人増と市場予想の同20万人増を大きく上回り、失業率も6.2%に低下して雇用の改善が目立ちました。また、米国の2月ISM非製造業景気指数が前月の58.7から55.3に低下する一方、2月ISM製造業景気指数が前月の58.7から60.8に改善して製造業の活況が目立ちました。1月製造業受注も前月比2.6%増と堅調でした。
今週の米国株式市場
米10年国債利回りの行方、追加経済対策の成立、ナスダック指数の動きなどが注目されます。
米10年国債利回りは、先週号では「かなりいいところまできている」、「1.5%を大きく上回らないのではないか」というのが一般的な見方としました。しかし、FRBからは長期金利上昇をけん制する動きがなく、再び1.5%台に乗せたことで、2%に向けて上昇していくとの見方が台頭しているようです。株価を抑える要因として引き続き注視が必要です。
追加経済対策の「米国救済計画法」は、3/6(土)に米議会上院を通過しました。同法案は米議会下院で可決したものを一部修正したため再び下院に戻され、3/9(火)から再審議のうえ、3/14(日)までに成立する見通しです。これに含まれる国民一人当たり1,400ドルの現金給付は3月中に配布が始まる見通しです。
ナスダック指数は2月半ばから相場下落を主導しているハイテク株を多く含むため、相場の調整目途を探るうえで注目されるでしょう。3/4(木)の終値である12,723ポイントは、2/16(火)の最高値14,175ポイントからの下落率が10%に相当し、3/5(金)の安値12,397ポイントは13%の下落にあたるなど、かなり調整が進んだ印象です。現在、ナスダック指数の100日移動平均線は12,629ポイントにありますが、これが維持されるか注目されます。
経済指標では、3/12(金)に米国の3月ミシガン大学消費者マインド(前月の76.8から78.0に改善の予想)、などの発表が予定されています。企業決算では、GOODRXホールディングス、ドキュサイン、ダラーゼネラル、アルタビューティーなどの発表が予定されています。
名目金利と実質金利について
最近の相場コメントで「実質金利の上昇が株価調整の要因」というフレーズをよく目にしますので、これについて解説いたします。
「実質金利」は、物価上昇率を考慮した金利ということで、「名目金利 − 予想物価上昇率」で計算されます。「名目金利」は、債券市場で決まる利回りで、通常使っている10年国債利回りなどです。
「予想物価上昇率」は、市場が予想する将来の物価上昇率で、これはアンケート調査などから推定するのが本来の方法とされますが、便法として利付国債と物価連動債の利回りの差であるブレークイーブンインフレ率が使われます。
米国の実質金利の3/5(金)の水準は、名目金利(米10年国債利回り)1.57%から、予想物価上昇率(10年物)2.24%を差し引いて、-0.67%と計算できます。
図表3は19年初からの推移を示したものになります。2月半ばまで10年国債利回りが上昇する中でも株価が高値を更新し続けたのは、予想物価上昇率も同時に上昇していたため、実質金利はマイナス1%以下で推移して、資産価格を押し上げる力が強かったからと説明できます。
一方、2/16(火)に10年国債利回りが1.3%台に上昇してからは、実質金利の上昇(マイナス幅の縮小)が続いたため、株価の押し下げ要因になったと説明されます。
実質GDPが3%程度で成長できる実力がある米国経済で実質金利がマイナスとなっているのは「異常事態」であり、経済活動が正常化するにつれ、実質金利のマイナスが縮小していくことは望ましいことです。これと株価の上昇は矛盾することではないと考えられます。
ただ、ここ2週間は上昇が急激で、「今後もこのペースで上昇が続いたら」という警戒感が株式の調整につながったと考えられます。特に低金利環境でPERが押し上げられていたとみられる成長株の調整が大きくなっています。
実質金利のマイナスが維持される10年国債利回りで2%程度までは、資産価格を押し上げる力が残るとみられていますが、急激な縮小は株式市場を不安定化させる要因として注意が必要でしょう。
今週の5銘柄
今回は株価上昇が続く「エネルギー」と「金融」セクターからそれぞれ代表的な銘柄をご紹介するほか、決算発表時期の終盤(2/15(月)〜3/4(木))に好決算を発表した銘柄をご紹介いたします。
「エネルギー」からは同業種で時価総額トップのエクソンモービル(XOM)、「金融」からは長期金利の上昇が恩恵となる商業銀行の時価総額トップであるJPモルガン チェース(JPM)を選びました。
好決算銘柄はこれまでと同様に、(1)売上が市場予想を5%ポイント以上上回った、(2)EPSが市場予想を10%ポイント以上上回った、(3)時価総額が200億ドル以上、の条件を満たす銘柄を図表4に抽出しています。
経済回復が市場のテーマとなっているため、COVID-19のパンデミックによる恩恵が大きかったとみられるエッツィ(ETSY)やロウズ カンパニーズ(LOW)は避け、ディアー(DE)、ガーミン(GRMN)、モンスター ビバレッジ(MNST)を選びました。
図表3 米国の名目金利、実質金利、予想物価上昇率(10年物)
注:予想物価上昇率は、利付国債と物価連動債の利回りの差であるブレークイーブンインフレ率によります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表4 好決算銘柄のスクリーニング(S&P500指数採用銘柄で2/15(月)〜3/4(木)に決算を発表したものが対象)
銘柄名 | コード | 売上 予想乖離 (%) |
EPS 予想乖離 (%) |
売上 増加率 (%) |
EPS 増加率 (%) |
時価総額 (3/4) (億ドル) |
エッツィ | ETSY | 22.5 | 93.9 | 128.7 | 232.8 | 250 |
ガーミン | GRMN | 14.4 | 24.5 | 22.6 | 34.1 | 230 |
ディア | DE | 13.3 | 80.4 | 23.3 | 137.6 | 1,059 |
アンシス | ANSS | 11.3 | 16.4 | 27.5 | 32.1 | 266 |
CBREグループ | CBRE | 8.4 | 51.4 | -2.9 | 9.9 | 257 |
アジレント・テクノロジー | A | 8.2 | 19.0 | 14.1 | 30.9 | 350 |
ロウズ | LOW | 7.3 | 12.8 | 26.7 | 41.5 | 1,124 |
モンスター・ビバレッジ | MNST | 7.1 | 14.3 | 17.6 | 31.5 | 447 |
ウエスト・ファーマーシューティカル・サービシズ | WST | 6.7 | 19.1 | 23.3 | 63.4 | 191 |
EOGリソーシズ | EOG | 5.5 | 100.1 | -31.4 | -47.4 | 417 |
注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (3/5) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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エクソン モービル(XOM) | 60.93ドル | 25.3 | 【原油価格上昇で大幅な増益へ】 ・世界有数の石油企業です。会社の信用格付けが「AA」と財務体質が強いことなどから原油価格の下落により利益が落ち込んだ局面でも配当を維持することが可能となってきました。21年も年間150億ドルの配当を維持する方針を表明していますが、足もとの原油価格の上昇によってその確度が高まっていると考えられます。 ・1-3月期は原油価格の上昇によって川上部門の利益が大幅に改善する見込みで、コンセンサス予想の純利益は21.4億ドルと、前年同期のマイナス6.1億ドル、前四半期の1.1億ドルから大きく改善の見込みです。10-12月期は売上高が前年同期比31%減、193億ドルの減損計上でGAAPベースの純損失は201億ドルに達しました。足もとは改善したとは言え厳しい事業環境に対応するため、2023年まで年60億ドルのコスト削減を目指す一方、CO2排出低減技術の新事業を立ち上げます。 | ||
JPモルガン チェース(JPM) | 150.91ドル | 14.3 | 【長期金利の上昇から恩恵を受ける】 ・長期金利の上昇から恩恵を受ける商業銀行のトップ企業です。2020年12月期の収益のうち、純金利収入が45%、非金利収入が55%を占めます。2021年12月期の純金利収入は10-12月期の決算リリースで前年比4%減のガイダンスとなっていましたが、長期金利の上昇が続くようなら上方修正となる可能性が高まってきそうです。 ・10-12月期決算は、消費者向け事業の収入は低調であったものの、投資銀行業務や市場関連収入が伸びてEPSは3.79ドル、前年同期比47%増と好調でした。純金利収入は前年同期比6%減の一方、非金利収入が同13%増として、全体では同3%増を確保しています。非金利費用はテクノロジーへの投資などの増加で5%以上増加する計画です。 | ||
ディアー(DE) | 349.83ドル | 22.8 | 【事業環境改善で農機の買い替え需要増加へ】 ・世界最大級の農機メーカーで、コンバインやトラクターなどの農機と芝刈り機が売上の約6割、建機と林業向けフォークリフトが約3割を占めています。農産物価格の上昇や農家の財務状態の改善を受けて農機市場が回復、また、建機市場も改善しつつあることから、21年10月期の売上は20%近い増収が可能とみられています。トラクターの売上はピーク時の50%以下に落ち込んでいることから、更新需要による売上増加は複数年にわたると見込まれています。 ・20年11月-21年1月期決算は、製品販売の主要3部門がいずれも20%を超える増収で、売上が前年同期比19%増、EPSが同2.4倍と、業況が著しく回復しました。北米の農機市場が回復していることに加え、農機の販売価格引き上げが効いています。21年10月期の機器販売は前年比17〜25%増に相当する36.5〜39.0億ドル、純利益は20年10月期実績27.5億ドルに対して46.0〜50億ドルに増加するガイダンスです。 | ||
ガーミン(GRMN) | 122.42ドル | 23.3 | 【スイスのGPS受信機メーカー】 ・スイス国籍のGPS(全地球測位システム)受信機メーカーで、カーナビなど車載用、航空機・船舶用からフィットネス・アウトドア用に展開しています。20年12月期の分野別売上構成比は、フィットネス31%、アウトドア27%、航空15%、船舶16%、自動車11%です。 ・20年10-12月期は、フィットネス、アウトドア、船舶向けの需要拡大により、売上が前年同期比23%増、EPSが同34%増と好調でした。フィットネスはウェアラブル機器向けが伸びて需要で前年同期比26%増、アウトドアはアドベンチャーウォッチの需要増で同40%増、船舶は製品シリーズの更新が効いて同48%増でした。21年12月期は売上が前年比10%増の約46億ドル、EPSは約5.15ドルのガイダンスです。 | ||
モンスター ビバレッジ(MNST) | 86.42ドル | 32.1 | 【コカ・コーラとの提携が効いて拡大続く】 ・栄養飲料メーカーで、「モンスターエナジー」が売上の過半を占めます。2015年にコカ・コーラの出資を受けて業務提携したことから、販路を世界に広げることができ業績拡大が続いています。COVID-19のパンデミックによる影響は、当初コンビニなどでの店舗販売に出ましたが、家庭内での消費やネット通販向けの販売を強化したことで回避されています。 ・20年10-12月期は、売上が前年同期比18%増、調整後EPSが同32%増と好調で、市場予想を大きく上回りました。20年10月に米国で投入したスイカ味の「モンスターエナジー」や「ジュースモンスター」など新製品群の販売は好調に推移しているとしています。同社は当局による規制状況によっては大麻から採れるカンナビジオール(CBD)入りドリンクの投入を模索していると伝えられています。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、ディア―が21年10月期、その他は21年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
8(月) | ||
9(火) | ・日本実質GDP(10-12月期、確報値) ・日本工作機械受注(2月) ・OECD(経済協力開発機構)の最新経済見通し ・ユーロ圏実質GDP(10-12月期、確報値) ・米NFIB中小企業楽観指数(2月) |
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10(水) | ・中国生産者・消費者物価指数(2月) ・米消費者物価指数(2月) ・米月次財政収支(2月) |
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11(木) | ・ECB主要政策金利 ・米新規失業保険申請件数(3月6日に終わる週) ・米求人労働異動調査(1月) |
ドキュサイン、GOODRXホールディングス、アルタビューティ― |
12(金) | ・ユーロ圏鉱工業生産(2月) ・米生産者物価指数(2月) ・米ミシガン大学消費者マインド(3月) |
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15(月) | ・日本機械受注(1月) ・中国鉱工業生産・小売売上高・固定資産投資(2月) ・中国調査失業率(2月) ・中国新築住宅価格(2月) ・ニューヨーク連銀製造業景気指数(3月) |
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16(火) | ・ドイツZEW景気指数(3月) ・米小売売上高(2月) ・米鉱工業生産(2月) ・米NAHB住宅市場指数(3月) |
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17(水) | ・EU27ヵ国新車登録台数(2月) ・米住宅着工・建設許可件数(2月) ・FOMC政策金利 |
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18(木) | ・米新規失業保険申請件数(3月17日に終わる週) ・フィラデルフィア連銀製造業景気指数(3月) |
ダラーゼネラル |
19(金) | ・日銀政策金利 |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成