先週はCOVID-19ワクチンの開発が進展したことやバイデン大統領の誕生が確実視されたことを受けて続伸となりました。今週はワクチン開発に関する続報(ファイザー、モデルナなど)、COVID-19感染者数の増加、追加経済対策の交渉、米中の経済指標、などが注目されます。
今回は先週景気敏感株が物色された局面で上昇した銘柄群から、ゼネラル モーターズ(GM)、ボーイング(BA)、キャタピラー(CAT)、ダウ(DOW)、ハネウェル インターナショナル(HON)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 1週 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
エネルギー | 16.5% | 11.3% | -11.3% |
金融 | 8.3% | 8.0% | 7.4% |
資本財・サービス | 5.3% | 4.9% | 10.5% |
不動産 | 5.2% | 3.8% | 4.5% |
生活必需品 | 3.6% | 1.7% | 5.5% |
公益事業 | 2.8% | 2.9% | 9.6% |
S&P500 | 2.2% | 2.9% | 6.3% |
ヘルスケア | 1.8% | 3.8% | 5.0% |
素材 | 1.4% | 4.0% | 10.0% |
通信サービス | 0.8% | 6.4% | 8.3% |
情報技術 | -0.4% | -0.1% | 6.4% |
一般消費財・サービス | -1.1% | -1.0% | 5.0% |
騰落率上位(1週) | 騰落率 |
コノコフィリップス | 21.1% |
サイモン・プロパティー・グループ | 20.8% |
アメリカン・エキスプレス | 18.9% |
ボーイング | 18.6% |
シュルンベルジェ | 18.3% |
騰落率下位(1週) | 騰落率 |
バイオジェン | -24.4% |
エヌビディア | -8.7% |
サーモフィッシャーサイエンティフィック | -7.4% |
ペイパル・ホールディングス | -7.0% |
ネットフリックス | -6.2% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
9日(月)にバイデン大統領の誕生が確実となったこと、ファイザーとバイオエヌテックが開発しているCOVID-19ワクチンの有効率が90%を超えると発表されたことを受けて、S&P500指数の高値は3,645ポイントに達して史上最高値を更新しました。その後はCOVID-19感染者数の増加とロックダウン(都市封鎖)への警戒、追加経済対策の縮小懸念から、12日(木)にかけて軟調となりました。
しかし、13日(金)にはバイデン次期大統領が指名したCOVID-19対策本部の責任者が、感染対策について全土での経済活動停止は行わず、特定の地域に絞った対策を重視するとしたことから、S&P500指数は終値ベースでも史上最高値を更新する3,585ポイントで引けました。S&P500指数は週間で2.2%の上昇でした。
業種指数では、ワクチン開発の前進を受けて「エネルギー」「金融」「資本財・サービス」などが物色されました。一方、巣ごもり関連銘柄やネット株を含む「一般消費財・サービス」「情報技術」「通信サービス」などが市場平均に対して劣後しました。
個別銘柄では、バイオジェン(BIIB)が下落しています。アルツハイマー病治療薬「アデュカヌマブ」について、米食品医薬品局(FDA)スタッフによるレポートで高く評価されたために先々週は大幅上昇となりましたが、FDAの諮問委員会が「効果が証明されていない」との勧告を出したために先週は大幅反落となっています。
経済指標では、ユーロ圏の7-9月期実質GDPは前年比4.4%減で、市場予想の同4.3%減をやや下回りました。米国の11月ミシガン大学消費者マインドは前月の81.8から77.0へ、予想を下回る大幅な悪化となりました。COVID-19の感染拡大が影響している可能性がありそうです。
今週の米国株式市場
今週はワクチン開発に関する続報(ファイザー、モデルナなど)、COVID-19感染者数の動向、追加経済対策の交渉、米中の経済指標、などが注目されます。
ファイザーはバイオエヌテックと開発中のCOVID-19ワクチンについて、11/9(月)に第3相臨床試験の途中経過を報告しました。臨床試験に登録した4万3,000名余のうち、COVID-19の症状を示した94例を分析した結果、ワクチンの有効率は90%以上と判明したとしています。
有効率が90%以上というのは非常に高い数値(例えば、インフルエンザワクチンの有効率は40%前後とされます)で有望ですが、保管にはマイナス70度といった超低温での保管が必要で、一般に広く配布するには課題があります。
一方、モデルナが開発中のワクチンはファイザーと同じタイプの「mRNA」(メッセンジャーRNA)によるものですが、通常の冷蔵庫で保管可能とされます。同社は11/11(水)にCOVID-19に罹患した臨床試験結果の分析に入ると発表しているため、市場の期待が高まっています。
安全で有効なワクチンの開発が確実となれば、市場は経済の正常化をより高い確度で織り込むと考えられます。S&P500指数の21年予想EPSが現在の予想値である170ポイントからCOVID-19のパンデミック発生前の190ポイントに上方修正が進むとして、PER20倍の3,800ポイントまで買い上げる可能性がでてきたと言えるでしょう。
米国のCOVID-19新規感染者数は14〜19万人に急増しています。ニューヨークやシカゴなど大都市でより厳格な行動制限の導入が検討されており、警戒感が高まっています。しかし、有効なワクチン開発が確実となれば、足もとの感染者数の増加が相場に与える影響は低下すると想定できるでしょう。
経済指標では、11/16(月)に日本の7-9月期実質GDP(前期比年率18.9%増の予想)、中国の10月鉱工業生産(前年比6.7%増の予想)・小売売上高(前年比5.0%増の予想)・固定資産投資(前年比1.6%増の予想)、11/17(火)に米国の10月小売売上高(前月比0.5%増の予想)、11/18(水)に米国の10月住宅着工・建設許可件数(着工件数は前月比2.8%増、建設許可件数は同1.4%増の予想)、11/19(木)に米国の10月中古住宅販売件数(前月比1.4%減の予想)、などの発表が予定されています。
企業決算では、ウォルマート、ホームデポ、エヌビディア、ターゲット、キーサイトテクノロジーズ、ロウズなどの発表が予定されています。
今週の5銘柄
先週はCOVID-19のワクチン開発進展のニュースで、これまでCOVID-19の打撃が大きかったセクターや景気敏感株が物色される反面、ウィズコロナ銘柄やIT大手が利食いに押されるといった物色の動きがありました。
ファイザーとバイオエヌテックが開発したワクチンは、マイナス70度で保管する必要があるなど、一般への幅広い配布にはハードルがあり、まだ、時間もかかりそうです。しかし、安全で効果の高いワクチンが開発できそうだということが重要で、後に続くワクチンへの期待も高まっています。
そこで今回は、S&P100指数採用企業を対象に、(1)11/6(金)〜11/10(火)までの株価騰落率がプラス5%以上(S&P500指数は同期間に1.8%上昇)、(2)過去3ヵ月のEPS修正率がプラス、(3)来年度の予想増収率がプラスを条件にスクリーニングを行いました(図表3)。
ここからゼネラル モーターズ(GM)、ボーイング(BA)、キャタピラー(CAT)、ダウ(DOW)、ハネウェル インターナショナル(HON)を選んでご紹介いたします。
図表3 景気敏感株が物色された局面で上昇した銘柄
コード | 銘柄 | 株価騰落 (11/6〜 11/11) (%) |
EPS 修正率 (3ヵ月) (%) |
来期予想 増収率 (%) |
BA | ボーイング | 15.5 | 8.3 | 32.4 |
CVX | シェブロン | 15.9 | 32.6 | 20.7 |
F | フォード・モーター | 6.9 | 80.8 | 20.4 |
GM | ゼネラル・モーターズ(GM) | 8.2 | 70.4 | 11.2 |
KO | コカ・コーラ | 8.4 | 3.9 | 10.5 |
CAT | キャタピラー | 5.1 | 5.3 | 10.3 |
MET | メットライフ | 12.4 | 3.1 | 9.3 |
DOW | Dow Inc | 8.3 | 32.2 | 8.4 |
CMCSA | コムキャスト | 7.1 | 2.4 | 7.9 |
HON | ハネウェルインターナショナル | 8.2 | 2.1 | 5.6 |
SPG | サイモン・プロパティー・グループ | 18.7 | 3.4 | 2.2 |
注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (11/13) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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ゼネラル モーターズ(GM) | 41.19ドル | 7.4 | 【独自開発のEVバッテリー「アルティウム」を擁する】 ・米国最大、世界4位の自動車メーカーで、キャデラック、シボレー、ビュイック、GMCブランドの中・大型車、SUV、トラックを展開します。自動運転では、16年に買収したクルーズ社を核に開発を行っています。20年10月に公開したピックアップトラック「GMC ハマー EV」は21年後半から生産見通しです。 ・注目点は、独自開発のパウチ型セルによるEVバッテリー「アルティウム」を擁することです。パウチ型セルは車両のデザインに応じてレイアウトできる柔軟さがあることから、EV車のプラットフォームとなり得るため、2020年以降上記のすべてのブランドでEV車を発売していく計画です。ホンダとの提携では「アルティウム」を採用する次世代EVの共同開発を行っています。7-9月期の売上は、米中での自動車販売の回復を受けて前年同期比トントンまで改善しています。 | ||
ボーイング(BA) | 187.11ドル | 108.8 | 【737MAXの飛行禁止解除が間近】 ・2回の墜落事故を受けて19年3月から飛行停止措置が続いている同社の主力機種「737MAX」について、今週にもFAA(米連邦航空局)による措置の解除が見込まれています。COVID-19のパンデミックによる航空需要の回復にはまだ遠いものの、「737MAX」の飛行停止解除は経営の正常化に向けて重要な前進と考えられます。中長期での航空機需要の拡大、世界市場をエアバスと2分する市場構造による利益成長のポテンシャルに対する信頼は維持されているとみられます。 ・7-9月期は民間航空機部門の売上が前年同期比56%減となって全体も同29%減となり、調整後の営業赤字は7.5億ドル、調整後EPSは1.39ドルの赤字でした。COVID-19のパンデミックによる航空需要の低迷は長期化する見通しとして、4月に発表した1.6万人に加えて新たに1.4万人の人員削減を発表しました。営業キャッシュフローは48億ドルの赤字であるのに対して、期末のキャッシュは271億ドルと、当面の経営には問題のない水準が確保されています。 | ||
キャタピラー(CAT) | 171.71ドル | 23.2 | 【7-9月期に売上の底入れが予想されている】 ・資源開発、建設業者向けの油圧ショベル、ブルドーザーなどが柱の重機メーカーです。資源開発向けの出荷は、2012年のピークから65%の減少となっており、更新需要を考慮すると複数年にわたる売上回復が期待されます。今回の成長局面では、機械のネット接続や監視に関連したサービスによって利益率を改善することが期待されています。 ・7-9月期の売上は前年同期比22%減、ディーラーの在庫圧縮の影響もあった4-6月期の同31%減からは改善しました。資源開発、建設向けとも同20%台前半の落ち込みで、調整後EPSは同50%減でした。四半期売上は7-9月期に底入れして、今後は前四半期との比較で緩やかな増加になると予想されています。株価は11/12(木)に上場来高値を更新しています。 | ||
ダウ(DOW) | 51.97ドル | 19.2 | 【景気敏感の代表的企業として物色】 ・19年4月にダウ・デュポンからスピンオフした化学素材メーカーです。スピンオフ以来、事業の透明性が増し、コスト削減への踏み込みが強まって、株式市場からの信頼性が増しているとみられます。また、天然ガスを主な原料としていることで原油を原料とする同業他社に対してコスト競争力が高く、景気回復時には業績の伸びが相対的に高くなると期待されます。 ・7-9月期決算は、売上が前年同期比10%減と4-6月期の同24%減から改善、調整後EPSも4-6月期の0.26ドルの赤字から0.50ドルの黒字に転換しています。製品価格の下落が前年同期比9%となる一方、販売数量は前年同期比1%減にとどめ、4-6月期との比較では9%増加、家具、機器、パッケージ、建設、自動車など向けの需要回復がけん引したとしています。 | ||
ハネウェル インターナショナル(HON) | 201.54ドル | 25.5 | 【9月からNYダウに採用された資本財の会社】 ・航空機エンジン、交通システム、ビルシステム、機能材料・テクノロジーなどの資本財企業です。売上の24%を占める民間航空機向けの事業では厳しい状況が続いています。しかし、需要先が幅広い産業に分散していること、業務執行の対応力が高いこと、150億ドル近い現金を擁する強固なバランスシートにより、他の資本財企業に比べてグローバルリセッションをうまく乗り切れるポジションにあると考えられます。 ・デジタル分野にフォーカスした投資とボルトオン型買収(補完的な買収)によって、ソフトウェアで価値を生み出す資本財企業を目指しています。7-9月期の売上は航空機部門が前年同期比25%減と足をひっぱって全体では同14%減ですが、10-12月期は同14〜11%減と緩やかに改善の見通しです。9月からユナイテッドテクノロジーと合併したレイセオンに替えてNYダウに採用されています。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。コンセンサス予想EPSの決算期は、いずれも21年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
16(月) | ・日本実質GDP(7-9月期、速報値) ・中国鉱工業生産・小売売上高・固定資産投資(10月) ・中国調査失業率(10月) ・米ニューヨーク連銀製造業景気指数(11月) |
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17(火) | ・米小売売上高(10月) ・米鉱工業生産(10月) ・米NAHB住宅市場指数(11月) |
ウォルマート、ホームデポ |
18(水) | ・日本貿易統計(10月) ・EU27ヵ国新車登録台数(10月) ・米住宅着工・建設許可件数(10月) |
エヌビディア、ターゲット、キーサイトテクノロジーズ、ロウズ |
19(木) | ・新規失業保険申請件数(11月14日に終わる週) ・フィラデルフィア連銀製造業景気指数(11月) ・米中古住宅販売件数(10月) |
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20(金) | ・じぶん銀行日本製造業PMI(11月) ・ユーロ圏消費者信頼感(11月) |
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21(土) | ・G20サミット(22日まで、バーチャル形式) | |
23(月) | ・マークイットユーロ圏製造業PMI(11月) ・マークイット米国製造業PMI(11月) ・シカゴ連銀全米活動指数(10月) |
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24(火) | ・ドイツIFO企業景況感(11月) ・S&Pコアロジック住宅価格(9月) ・コンファレンスボード消費者信頼感(11月) |
ベストバイ、ダラーツリー、HP |
25(水) | ・米実質GDP(7-9月期、改定値) ・新規失業保険申請件数(11月21日に終わる週) ・米耐久財受注(10月) ・米個人所得・個人支出(10月) ・米PCEコアデフレータ(10月) ・ミシガン大学消費者マインド(11月、確報値) ・米新築住宅販売件数(10月) ・FOMC議事要旨 |
ディア |
26(木) | ・米国市場休場(感謝祭) | |
27(金) | ・中国工業部門利益(10月) ・ユーロ圏景況感(11月) |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成