先週は追加経済対策の協議が進まず、相場上昇の勢いは鈍ったものの、いずれ追加経済対策に合意できるだろうとの期待は継続し、景気敏感株が物色されてS&P500指数は高値圏が維持されました。今週は追加経済対策に関する協議の行方、米民主党の全国大会、FOMC議事要旨、景気敏感株への物色が続くかなどが注目されます。
COVID-19のパンデミックが克服されたときの業績変化率に着目したジム・クレイマー氏の「GOリスト」から、ウォルト ディズニー(DIS)、マスターカード A(MA)、PPGインダストリーズ(PPG)、スリーエム(MMM)、ユニオン パシフィック(UNP)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 1週 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
資本財・サービス | 3.1% | 7.6% | 30.4% |
エネルギー | 2.3% | 3.1% | 5.4% |
一般消費財・サービス | 1.6% | 7.0% | 25.8% |
素材 | 1.5% | 2.4% | 23.0% |
金融 | 1.3% | 4.9% | 19.7% |
生活必需品 | 0.9% | 4.0% | 12.0% |
S&P500 | 0.6% | 4.6% | 17.8% |
ヘルスケア | 0.3% | 0.8% | 6.5% |
情報技術 | 0.1% | 6.5% | 22.0% |
通信サービス | -0.3% | 3.3% | 14.4% |
不動産 | -1.8% | 2.2% | 15.9% |
公益事業 | -2.1% | -0.1% | 10.2% |
騰落率上位(1週) | 騰落率 |
フェデックス | 13.7% |
サイモン・プロパティー・グループ | 9.6% |
コノコフィリップス | 6.6% |
キャピタル・ワン・ファイナンシャル | 5.7% |
Dow Inc | 5.3% |
騰落率下位(1週) | 騰落率 |
シスコシステムズ | -10.4% |
バイオジェン | -5.3% |
オキシデンタル・ペトロリアム | -5.2% |
デューク・エナジー | -5.1% |
セールスフォース・ドットコム | -3.8% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
先週はトランプ政権と米民主党指導部による追加経済対策の協議が進まず、相場上昇の勢いは鈍って、2月高値への到達はかないませんでした。しかし、追加経済対策はいずれ合意できるだろうとの期待は継続したとみられ、景気敏感株に対する物色によってS&P500指数は高値圏が維持されました。
図表1で陽線の連続が途切れた8/11(火)はアップルが3.0%安、マイクロソフトが2.3%安など大手IT株への利食いがかさんでナスダック総合指数は1.7%下落、同日のS&P500指数は0.8%の下落でした。懸念材料となっている米中対立は、中国側の反応が抑制的で、決定的な悪化はありませんでした。S&P500指数は週間で0.6%の上昇でした。
業種指数では、「資本財・サービス」「エネルギー」「一般消費財・サービス」などの景気敏感業種が先週に続いて平均以上の上昇となりました。一方、米10年国債利回りが0.7%台まで上昇したことから、金利敏感の「公益事業」「不動産」が下落しました。「情報技術」は引き続き平均以下となっています。
個別銘柄では、小包輸送のフェデックス(FDX)が2週連続で上昇率トップとなりました。ネット通販の拡大で家庭向け小包需要が拡大していることに加え、COVID-19の影響が低下する場合には企業向け物流が回復する期待があります。
経済指標では、米国の7月小売売上高が前月比1.2%増と同1.9%増の市場予想を下回りました。ただ、変動が大きい自動車を除くベースでは同1.9%増と市場予想を上回りました。消費の基調は悪くないとの判断ができ、株式相場に対してはニュートラルだったようです。
一方、中国の7月鉱工業生産は前年比4.8%増で前月と同じ、小売売上高は同1.1%減で前月の同1.8%減から改善でした。いずれも若干市場予想を下回っています。中国の景況感は、3月に急回復した後、4月からは大勢横ばい圏の動きになっているようです。
今週の米国株式市場
今週は追加経済対策に関する協議の行方のほか、米民主党の全国大会、FOMC議事要旨、景気敏感株への物色が続くかなどが注目されます。
8/17(月)からの米民主党全国大会によって、大統領選挙に対する市場の関心が高まるか注目されます。大統領選挙での民主党候補の優位は、一般的に株式市場にネガティブとされます。これまでは市場の関心が盛り上がらなかったことが良かったのかもしれないため、要注意でしょう。
8/19(水)のFOMC議事要旨(7/28(火)、7/29(水)開催分)も注目されるでしょう。米国市場の騰勢は、経済回復に向けて「あらゆる手段を講ずる」としたパウエルFRB議長の会見があった7/29(水)から強まったためです。
また、景気敏感株に対する物色が続くかも注目です。6月の初めにも景気敏感株が買われた局面がありましたが、短命に終わりました。今回はワクチン開発と追加経済対策への期待が背景にあり、四半期決算を経た後でもあり、状況は違うかもしれません。
米中関係については、8/15(土)に予定されていた米中の閣僚級による貿易協議が延期されました。米国側は議題を中国の対米輸入の進捗確認に絞りたかったのに対し、中国側は動画配信アプリ「TikTok(ティックトック)」問題など貿易以外に広げたかった点で折り合えなかったとされます。まだ紆余曲折がありそうです。
米国のCOVID-19新規感染者数は、8/15(土)までの7日平均が5万2千人台と、8/8(土)までの同5万4千人台から減少しています。新規感染者数には、ピークアウトの兆しがみられます。
経済指標では、8/18(火)に米国の7月住宅着工・建設許可件数(着工件数は前月比4.6%増、建設許可件数は同4.9%増の予想)、8/21(金)に7月中古住宅販売件数(前月比14.4%増の予想)などの発表が予定されています。住宅関連指標は景況の不透明感がある中でも、長期金利の大幅な低下を受けて堅調推移が見込まれています。
企業決算では、ウォルマート、ホームデポ、エヌビディア、アナログデバイセズ、キーサイトテクノロジーズ、エスティローダーなどの発表が予定されています。
今週の5銘柄
今回は米国の経済専門チャンネルで株式番組のホストを務めるジム・クレイマー氏の「GOリスト」をご紹介いたします。
「GOリスト」は、COVID-19のパンデミック下でも経営不安はなく、パンデミックを克服した後には業績の前年比の伸びが大きくなると期待される銘柄をジム・クレイマー氏が選んだものです。同氏はこれら銘柄の値動きをチェックすることで、経済活動の回復に対する市場の期待を計っているようです。
図表3にリストアップされた銘柄群から、消費関連のウォルト ディズニー(DIS)とマスターカード A(MA)、産業関連のPPGインダストリーズ(PPG)、スリーエム(MMM)、ユニオン パシフィック(UNP)を選んでご紹介いたします。
これら銘柄への投資が成功するには、今後数ヵ月中に有効なワクチンが開発され、COVID-19の感染が広がりやすくなると考えられる今年の冬にも再びのロックダウンがないことが前提になるとみられます。
図表3 ジム・クレイマーの「GOリスト」
銘柄(コード) | 株価 (8/13) (ドル) |
今期 予想 PER (倍) |
来期 予想 PER (倍) |
今期 予想 増収率 (%) |
今期 予想 増益率 (%) |
来期 予想 増収率 (%) |
来期 予想 増益率 (%) |
ウォルト ディズニー(DIS) | 130.96 | 91.9 | 48.6 | -5.9 | -75.3 | 10.4 | 89.2 |
PVH コープ(PVH) | 53.61 | - | 9.1 | -27.2 | 赤字転換 | 23.1 | 黒字転換 |
エマソン エレクトリック(EMR) | 70.20 | 21.6 | 20.8 | -9.4 | -12.6 | 1.3 | 3.7 |
マスターカード A(MA) | 326.19 | 48.8 | 37.4 | -7.1 | -14.0 | 19.8 | 30.6 |
ナイキ B(NKE) | 106.52 | 45.9 | 32.7 | 4.8 | 27.7 | 12.7 | 40.5 |
PPGインダストリーズ(PPG) | 118.81 | 24.8 | 19.1 | -11.7 | -23.0 | 9.0 | 30.0 |
デュポン ド ヌムール(DD) | 58.02 | 19.4 | 17.5 | -6.8 | -21.3 | -0.6 | 10.7 |
ラルフ ローレン A(RL) | 70.13 | 46.1 | 12.3 | -25.2 | -76.8 | 22.7 | 276.5 |
スリーエム(MMM) | 165.86 | 20.1 | 18.2 | -1.7 | -9.5 | 4.8 | 10.5 |
ユニオン パシフィック(UNP) | 189.72 | 24.4 | 20.8 | -11.4 | -7.2 | 8.0 | 17.4 |
ニューコア(NUE) | 45.50 | 22.8 | 16.8 | -15.1 | -56.7 | 3.3 | 36.2 |
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (8/14) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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ウォルト ディズニー(DIS) | 130.53ドル | 20.7 | 【COVID-19の打撃が最も大きい企業の一つ】 ・ディズニーランドなどが閉園となり、映画部門は映画館の閉鎖、メディア部門は主力のスポーツ専門チャンネルでスポーツイベントが延期されるなど、COVID-19による影響が最も大きく出た企業の一つです。しかし、財務状況は安定しており、豊富な知的財産や映画ライブラリーを擁するため、時間はかかっても収益の回復は可能と考えられます。 ・4-6月期決算は、売上が前年同期比42%減、EPSが同97%減でした。パーク事業および映画事業がそれぞれ前年同期比85%、55%の減収となって、COVID-19の影響が大きく出ました。部門営業利益はスポーツイベントの延期でメディア事業の制作費が減少したことを主因に11億ドルの黒字を確保しました。明るい面として、インターネット動画「Disney+」の加入者が20年3月末の3,350万人から6月末に5,750万人へ順調に増えていることがあげられます。 | ||
マスターカード A(MA) | 326.80ドル | 71.0 | 【外出規制がカード利用に打撃】 ・クレジットカードの決済プラットフォームを提供している同社は、外出規制による店舗でのカード利用減、カード利用が多い旅行需要の蒸発が打撃となりました。一方、世界のカードによる電子決済市場は同社とビザのシェアが9割以上を占めているため、事業の継続に不安はないと言えるでしょう。 ・4-6月期決算は、売上が前年同期比19%減、EPSが同28%減でした。取引総額が前年同期比10%減、決済処理件数が同10%減のほか、クロスボーダー取引額が同45%減と大きく落ち込みました。下半期に関しては、手数料率が高いeコマース利用が加速していることや決済件数の63%を米国外が占めることから、改善が期待されます。さらに、経済が正常化すれば21年以降は10%台の前半から半ばの売上成長に戻ると期待されます。 | ||
PPGインダストリーズ(PPG) | 118.98ドル | 23.2 | 【世界第2位のコーティングの会社】 ・創業のガラス事業を売却し、自動車、航空機、船舶、建築向けの表面保護および保護装飾用コーティングを世界的に展開する企業です。コーティングの分野で世界第2位で、多くの市場で1位または2位の位置を占めています。製品価格の引き上げと原油安による原料価格のメリットは、需要数量が回復する局面で表面化すると期待されます。 ・4-6月期決算は、売上が前年同期比25%減、EPSが同46%減でした。航空機向けが30%減、自動車向けが50%減などCOVID-19による影響を強く受けました。一方、建築向けでは巣ごもり消費の影響でDIY需要が高まり、家庭向けの塗料は幅広い地域で増加したとしています。7-9月期の売上数量は欧州や中国での改善がけん引して前年同期比8〜15%減に改善する見通しです。 | ||
スリーエム(MMM) | 166.10ドル | 70.7 | 【「N95」マスクではカバーできない幅広い分野に打撃】 ・幅広い産業向けに製品を供給している会社です。18年、19年と産業景気の低迷を受けて業績は低調となっていましたが、産業景気の回復が見込めそうな矢先にCOVID-19の打撃を受けています。ただ、製品開発力が強く、経済が正常化すれば同社が長期目標とする3〜5%のオーガニック売上成長と2〜3%の利益率向上が期待されます。 ・4-6月期決算は、売上が前年同期比12%減、EPSが同19%減でした。部門別のオーガニック売上成長は、セイフティ&インダストリアルが前年同期比6%減、トランスポーテーション&エレクトロニクスが同19%減、ヘルスケアが同12%減、コンシューマーが同5%減と全部門が比較的大きなマイナスとなっています。オフィスの閉鎖による文具の売上減、病院での手術件数の落ち込み、自動車生産の低迷などの影響を強く受けました。 | ||
ユニオン パシフィック(UNP) | 191.92ドル | 27.6 | 【4-6月期の貨物輸送量は20%減】 ・米国の西部から中部・南部にかけて23州に展開する米国最大の鉄道会社です。事業効率化のアクションプラン「Unified Plan 2020」に沿って効率化を進めており、業界をリードする収益性を獲得すると期待されています。効率化の1つとして列車編成を長くしていますが、18年末比で23%増を達成、さらに長くできる見込みです。 ・4-6月期決算は、COVID-19パンデミックによる経済活動低下を受けて貨物輸送量が前年同期比20%減、売上が同24%減、EPSが同25%減でした。分野別にはバルクが前年同期比17%減、インダストリアルが同23%減、プレミアムが同33%減でした。7-9月期は7/23(木)の決算発表時点でプレミアムのプラス転換が寄与して前年比7%減まで落ち込みは縮小しています。通期の貨物輸送量は約10%減の見通しです。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。ウォルトディズニーは21年9月期、その他は20年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成
主要イベントの予定
17(月) | ・日本実質GDP(4-6月期、改定値) ・米民主党全国大会(ウィスコンシン州ミルウォーキー) ・ニューヨーク連銀製造業景気指数(8月) ・米NAHB住宅市場指数(8月) |
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18(火) | ・米住宅着工・建設許可件数(7月) | ウォルマート、ホームデポ |
19(水) | ・日本貿易統計(7月) ・日本機械受注(6月) ・米FOMC議事要旨(7月28日、29日分) |
エヌビディア、アナログデバイセズ |
20(木) | ・米新規失業保険申請件数(8月15日に終わる週) | アリババグループ、キーサイトテクノロジーズ、エスティローダー |
21(金) | ・じぶん銀行日本製造業PMI(8月) ・マークイットユーロ圏製造業PMI(8月) ・マークイット米製造業PMI(8月) ・ユーロ圏消費者信頼感(8月) ・米中古住宅販売件数(7月) |
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24(月) | ・共和党全国大会(27日まで、ノースカロライナ州シャーロット) ・シカゴ連銀全米活動指数(7月) |
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25(火) | ・ドイツIFO企業景況感(8月) ・S&Pコアロジック住宅価格(6月) ・コンファレンスボード消費者信頼感(8月) ・米新築住宅販売件数(7月) |
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26(水) | ・米耐久財受注(7月) | |
27(木) | ・中国工業部門利益(7月) ・米実質GDP(4-6月期、改定値) ・米新規失業保険申請件数(8月22日に終わる週) ・米中古住宅販売成約(7月) |
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28(金) | ・ユーロ圏景況感(8月) ・米個人所得・個人支出(7月) ・米PCEコアデフレータ(7月) ・米ミシガン大学消費者マインド(8月、確報値) |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成