先週は経済活動再開やCOVID-19のワクチン開発のニュースを受けて金融、資本財など景気敏感業種の反発が主導して続伸となり、S&P500指数は200日移動平均線を超えてきました。今週は緊張が高まる米中関係、米国各地に広がる大規模な抗議活動、米国の経済指標などが主な注目材料となりそうです。
先週に続いて今週も直近の四半期決算が市場予想を上回って好調であった、シトリックスシステムズ(CTXS)、クロロックス(CLX)、アクティビジョン ブリザード(ATVI)、バーテックス ファーマシューティカルズ(VRTX)、フォーティネット(FTNT)を今週の5銘柄として維持します。
図表1 S&P500指数のローソク足(日足、6ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 1週 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
不動産 | 8.2% | 5.1% | -5.9% |
公益事業 | 6.9% | 6.5% | -3.8% |
金融 | 6.3% | 5.9% | -12.1% |
資本財・サービス | 5.9% | 8.4% | -7.8% |
素材 | 4.5% | 9.0% | 5.4% |
ヘルスケア | 3.6% | 5.3% | 11.4% |
生活必需品 | 3.4% | 2.6% | 1.8% |
S&P500 | 3.2% | 7.5% | 3.0% |
一般消費財・サービス | 1.9% | 9.9% | 9.4% |
情報技術 | 1.8% | 10.0% | 10.9% |
通信サービス | 1.0% | 7.7% | 5.6% |
エネルギー | 0.2% | 7.1% | -15.1% |
騰落率上位(1週) | 騰落率 |
アメリカン・タワー | 13.2% |
フェデックス | 12.8% |
キャピタル・ワン・ファイナンシャル | 11.7% |
ネクステラ・エナジー | 11.6% |
モルガン・スタンレー | 9.7% |
騰落率下位(1週) | 騰落率 |
オキシデンタル・ペトロリアム | -9.1% |
ネットフリックス | -3.8% |
コノコフィリップス | -3.5% |
フェイスブック | -2.7% |
ブリストル・マイヤーズ スクイブ | -2.3% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
26日(火)は経済活動再開の動きとCOVID-19のワクチン開発のニュースが好感されて景気敏感株や財務体質に懸念のある銘柄が主導して上昇しました。27日(水)も前日の流れをひきついで景気敏感株が上昇して続伸、欧州委員会が7,500億ユーロの復興基金を提案したことも相場の押し上げ要因になりました。
28日(木)はトランプ米大統領が29日(金)に中国に関する会見を行うとしたことや投稿内容についてツイッター社ともめたことが嫌気されて反落となりました。しかし、29日(金)の会見では、中国による「国家安全法」制定計画に対抗して香港への優遇措置を撤廃するよう政権に指示したとし、米中の通商合意を損なうものでなかったことから安心感が広がって小幅高で引けました。S&P500指数は週間で3.0%の上昇でした。
業種指数騰落率は、米国の経済活動再開とCOVID-19のワクチン開発のニュースを受けて、これまで売り込まれていた景気敏感の「金融」「資本財・サービス」が上位となる一方、これまで物色の中心となっていた「通信サービス」「情報技術」は市場平均を下回りました。
個別銘柄では、ネットフリックス(NFLX)が2週連続で騰落率下位にあがったのが目立っています。AT&T傘下の動画配信サービス「HBO Max」が5/27(水)に始まったことが要因とみられますが、昨年11月に「Disney+」がサービスを開始したときは、その後に株価の上昇ピッチがあがりました。
経済指標では、米国の4月新築住宅販売件数が前月比0.6%増と市場予想の同23.4%減を大幅に上回り、4月の耐久財受注(輸送機器を除く)も前月比7.4%減と市場予想の同15.0%減を上回りました。また、5月コンファレンスボード消費者信頼感が86.6と4月の86.9に近い水準で安定化しつつあります。
今週の米国株式市場
今週は緊張が高まっている米中関係、米国各地に広がる大規模な抗議活動、米国の経済指標などが注目材料となりそうです。S&P500指数の21年予想EPS(161.19ポイント)に対する予想PERは18.9倍に達しており、リスク要因の浮上に弱い状況と考えられます。
米中関係については、トランプ米大統領がG7サミットを6月から9月に延期するに際して、ロシア、オーストラリア、インド、韓国の指導者も招く意向を表明しました。「中国問題」を話し合いたいとしており、主要国を巻き込んで中国包囲網を築こうとしていることが明白で、中国を追い込み過ぎないか懸念されます。
米国各地に広がる大規模な抗議活動は、米白人警官の暴行による黒人の死亡事件がきっかけとなりましたが、失業が増えていることによる政府への不満が背景にあるとみられ、COVID-19の副作用とも言えるでしょう。
米国のCOVID-19の新規感染者数は、5/30(土)までの7日平均で2万人台と、5/23(土)の同2万3千人台から減少しています。経済活動の再開により再び感染拡大の可能性がありますが、いまのところ小康状態です。ただ、大規模な抗議活動が感染拡大の要因とならないか警戒されています。
経済指標では、6/1(月)に米国の5月ISM製造業景気指数(前月の41.5から43.7に改善の予想)、6/3(水)に5月ISM非製造業景気指数(前月の41.8から44.5に改善の予想)、6/5(金)に米雇用統計(非農業部門雇用者数は前月比800万人減、失業率は19.7%の予想)、などの発表が予定されています。
企業決算では、ズームビデオコミュニケーションズ、クラウドストライクホールディングス、キャンベルスープ、ブロードコム、ティファニー、JMスマッカーなどの四半期決算が予定されています。
今週の5銘柄
先週は26日(火)、27日(水)とこれまで売り込まれていた景気敏感セクターや財務状況に懸念のある銘柄群の株価が大幅に上昇しました。先々週、先週とCOVID-19のワクチン開発に関するニュースが続いたことが背景にあると考えられます。
しかし、これらのニュースはフェーズI臨床試験や非臨床試験のアップデートで、完全な経済活動再開につながるようなワクチン開発に成功したということではありませんでした(図表3)。このため相場の持続性には懐疑が残りそうです。
そこで今週も直近の四半期決算が市場予想を上回って好調であった、シトリックスシステムズ(CTXS)、クロロックス(CLX)、アクティビジョン ブリザード(ATVI)、バーテックス ファーマシューティカルズ(VRTX)、フォーティネット(FTNT)を今週の5銘柄として維持します。
図表3 COVID-19のワクチン開発に関するニュース
企業名(コード) | 日付 | 内容 |
モデルナ(MRNA) | 5/18(月) | フェーズI臨床試験の初期結果について、安全性が確認され、有効性がみられたとコメント。 |
イノビオ ファーマシューティカルズ(INO) | 5/20(水) | 非臨床試験の結果を発表し、中和抗体の生成を確認したとコメント。 |
ノババックス(NVAX) | 5/25(月) | フェーズI臨床試験の開始を発表、結果は7月に出る見込みとコメント。 |
※各種報道をもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (5/29) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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シトリックス システムズ(CTXS) | 148.12ドル | 26.3 | 【テレワークに使われるバーチャルデスクトップのサービスを提供】 ・業務効率化のためのプラットフォームを提供している企業で、アプリやデータに安全、簡単にアクセスできるバーチャルデスクトップの「Citrix Workspace」が主力製品です。同社はテレワークで人気となっている「Zoom」、「Slack」、「Microsoft Teams」などのクラウドアプリに対して可能な選択肢となれることを十分アピールできていませんが、伝統的な大企業は同社のVPN(バーチャルプライベートネットワーク)ソリューションをリモートアクセスの手段として利用しているため、今後この分野が拡大する可能性があると考えられます。 ・テレワークの増加が追い風になって、1-3月期の売上は前年同期比20%増、EPSは同36%増で、市場予想をそれぞれ17%、47%上回りました。テレワークの増加による売上への貢献は111百万ドルで、売上の伸びの15%ポイントを占めたと分析されています。なお、事業モデルを「購入」から「サブスクリプション」に変更しつつあるため、売上の伸びは見かけ上小さくなっています。20年1-3月期にサブスクリプションの売上構成比は31%と転換の途上ですが、同期の年率換算売上は837百万ドルで前年比50%増と大きく伸びています。 | ||
クロロックス(CLX) | 206.25ドル | 29.1 | 【COVID-19で除菌関連製品の売上が増加】 ・家庭用品の老舗で、洗濯用洗剤・漂白剤などを製造します。除菌シートやトイレ用漂白剤など8割以上の製品が米国内で1〜2位のシェアを誇り、日用品メーカーの中でも新型コロナウイルスで需要が拡大している製品の比率が高くなっています。ただし、アナリストの目標株価平均は184ドルで時価を下回っている点はご注意ください。 ・1-3月期はCOVID-19の影響で除菌ジェル、除菌シート、除菌スプレーなどへの需要が拡大して売上が前年同期比15%増、EPSが同31%増となり、市場予想をそれぞれ14%、32%上回りました。COVID-19との関連が最も深く、売上の38%を占める「クリーニング」部門が前年同期比32%増となったほか、「ハウスホールド」「ライフスタイル」「インターナショナル」など他の部門も増収を記録しました。通期については、売上が前年比4〜6%増、EPSが6.70〜6.90ドルとしますが、経済活動が再開されても除菌需要が高い現状から考えると保守的な可能性がありそうです。 | ||
アクティビジョン ブリザード(ATVI) | 71.98ドル | 26.4 | 【巣ごもり消費でゲーム需要が拡大】 ・ゲームソフト制作大手で、「コール・オブ・デューティー」「ワールド・オブ・ウォークラフト」「オーバーウォッチ」「キャンディクラッシュ」などを擁します。バトルロイヤルの「フォートナイト」が業界を席捲した影響や大型の新作欠如から売上が伸び悩んでいましたが、業績回復の兆しが見られます。 ・1-3月期決算は、売上が前年同期比21%増、EPSが同87%増で、それぞれ市場予想を14%、54%上回って好調でした。「コール・オブ・デューティー」への投資が奏功して予想以上に伸びたほか、巣ごもり消費の恩恵を受けて他のゲームの売上も好調となりました。ネット・ブッキング(ダウンロード売上のうち、次期以降にサービス提供する部分を除いた値)のガイダンスを4-6月期は市場予想の13.1億ドルをおおきく上回る16.75億ドルとし、通期も69億ドルに引き上げています。 | ||
バーテックス ファーマシューティカルズ(VRTX) | 287.96ドル | 32.9 | 【嚢胞性線維症治療薬が伸びる】 ・バイオ医薬品企業で、現在の売上はすべて嚢胞性線維症の治療薬からなります。嚢胞性線維症(CF)は白人に多い遺伝性疾患で、体内の水分の流れに異常をきたし粘液の粘度が高くなることで様々な不具合を起こす病気です。既存の治療薬「ORKAMBI」「SYMDEKO」「KALYDECO」に加え、19年10月に「TRIKAFTA」がFDAの承認を受けています。 ・1-3月期決算は、売上が前年同期比76%増、EPSが同125%増で、市場予想をそれぞれ18%、41%上回りました。新たに承認を受けた「TRIKAFTA」の売上が895百万ドルに達し、既存3薬の売上減少をカバーしたうえで、大幅な増収となっています。会社によると既存3薬の適用患者数は約3万9,000人でしたが、「TRIKAFTA」の適用患者数は約6万8,000人に増えるとされ、当面高い売上の伸びが続く見通しです。 | ||
フォーティネット(FTNT) | 139.20ドル | 49.5 | 【サイバーセキュリティ大手の一角】 ・米国のネットワーク用セキュリティー・ソリューションのプロバイダーで、ファイアウォール、次世代ファイアウォール、UTM(統合脅威管理)などネットワーク用のセキュリティー機器、関連ソフトウェア、保守サービスを提供します。顧客は通信サービス企業が中心でしたが、企業との直接取引を拡大しようとしています。製品面では、主力の統合ソリューション「フォーティネット・セキュリティ・ファブリック」の動向に加え、クラウド、SD-WAN(ソフトウェアで定義された広域ネットワーク)、5Gなどに係る新機能が成長モメンタム維持の鍵になると見込まれます。 ・1-3月期決算は、売上が前年同期比22%増、EPSが同30%増、それぞれ市場予想を4%、18%上回って好調でした。サイバーセキュリティに対する企業支出が良好なこと、同社の製品サイクルが良好なこと、価格の低いことなどが背景になっていると見られます。テレワーク関連では、VPNの通信容量が大きい「FortiASIC」を擁します。4-6月期の売上ガイダンスは前年同期比13〜16%増の590〜605百万ドルとしています。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。クロロックスは21年6月期、その他は20年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
6月 1(月) |
・財新中国製造業PMI(5月) ・ISM製造業景気指数(5月) |
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2(火) | ・米自動車販売台数(5月) | ズームビデオコミュニケーションズ クラウドストライクホールディングス |
3(水) | ・ユーロ圏生産者物価指数(4月) ・ADP雇用統計(5月) ・ISM非製造業景気指数(5月) |
キャンベルスープ |
4(木) | ・ECB主要政策金利 ・ユーロ圏小売売上高(4月) ・米貿易統計(4月) ・米新規失業保険申請件数(5月30日に終わる週) |
ブロードコムJMスマッカー |
5(金) | ・米雇用統計(5月) ・米消費者信用残高(4月) |
ティファニー(E) |
8(月) | ?・日本実質GDP(1-3月期、確報値) | |
9(火) | ・日本工作機械受注(5月) ・ユーロ圏実質GDP(1-3月期、確報値) ・米NFIB中小企業楽観指数(5月) ・米求人労働異動調査(4月) |
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10(水) | ・日本機械受注(4月) ・中国生産者・消費者物価指数(5月) ・中国資金調達総額(5月、15日までに発表) ・中国海外直接投資(5月) ・米FOMC政策金利 ・米消費者物価指数(5月) |
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11(木) | ・米生産者物価指数(5月) ・米新規失業保険申請件数(6月6日に終わる週) |
アドビ |
12(金) | ・ユーロ圏鉱工業生産(4月) ・ミシガン大学消費者マインド(6月、速報値) ・米輸入物価指数(5月) ・米家計純資産変化(1-3月期) |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成