先週は米中通商合意の署名式を無難に通過した後、台湾セミコンダクターの売上改善見通しを受けて、テクノロジー主導で再び最高値更新に進みました。今週はグローバル企業の決算発表が本格化し、今期の業績回復期待の妥当性を占うことになりそうです。
10-12月期決算の好調が期待できるものとして、7-9月期決算が市場予想を上回り、通期のEPS予想が上方修正された銘柄群から、プロクター & ギャンブル(PG)、インテル(INTC)、ロッキード マーチン(LMT)、マイクロソフト(MSFT)、ペイパル ホールディングス(PYPL)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 1週 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
公益事業 | 3.8% | 3.3% | 4.7% |
情報技術 | 3.0% | 6.8% | 20.1% |
素材 | 2.7% | 0.5% | 6.5% |
不動産 | 2.5% | 3.3% | -0.5% |
通信サービス | 2.4% | 4.5% | 12.1% |
資本財・サービス | 2.0% | 3.5% | 9.8% |
S&P500 | 2.0% | 3.4% | 11.5% |
生活必需品 | 1.9% | 1.2% | 5.3% |
ヘルスケア | 1.6% | 2.3% | 14.7% |
金融 | 1.1% | 1.0% | 10.5% |
一般消費財・サービス | 1.1% | 2.9% | 4.9% |
エネルギー | -1.1% | -0.8% | 6.7% |
騰落率上位(1週) | 騰落率 |
モルガン・スタンレー | 10.2% |
クアルコム | 6.3% |
サザン | 5.7% |
ビザ | 5.6% |
コムキャスト | 5.6% |
騰落率下位(1週) | 騰落率 |
バンク・オブ・ニューヨーク・メロン | -8.6% |
ウェルズ・ファーゴ | -6.3% |
ターゲット | -6.3% |
バイオジェン | -3.7% |
シュルンベルジェ | -3.7% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
1/13(月)は米国が中国の「為替操作国」認定の解除を検討と報じられて上昇しました。1/15(水)に米中は通商交渉を巡る「第1段階」の合意に署名し、一部関税措置を取り下げるほか、中国は米国からモノとサービスの輸入を拡大します。材料出尽くしの警戒感もありましたが、「為替操作国」認定の解除が追加的な融和ムードを醸成したとみられます。
さらに、1/16(木)は台湾セミコンダクターが強気の売上見通しを発表してテクノロジー株を中心に大幅上昇、1/17(金)には好調な米住宅着工件数に加え中国の経済指標も底堅かったことで、世界的な経済成長が上向くとの期待が台頭、主要3指数がそろって最高値を更新しました。S&P500指数は週間で2.0%の上昇でした。
業種指数騰落率では、米10年国債利回りが低下したことを受けて配当利回りが高い「公益事業」「不動産」が上位の一方、「金融」は下位となっています。また、「情報技術」への物色が継続しています。
個別では、債券取引の貢献で10-12月期決算が市場予想を大幅に上回ったモルガン スタンレー(MS)、台湾セミコンダクターが1-3月期の売上は5Gスマホがけん引するとしたことから、中心的な関連銘柄と考えられるクアルコム(QCOM)が上昇しています。
経済指標では、米国の12月小売売上高は前月比0.3%増、前年比でも5.8%増と引き続き堅調でした。また、米国の12月住宅着工件数が前月比16.9%増と市場予想の同3.8%減を大幅に上回る160.8万戸となって米国経済回復への期待が高まりました。
中国の10-12月期実質GDPは前年比6.0%増と鈍化基調が確認されましたが、12月の月次指標は鉱工業生産が前月の前年比6.2%増から6.9%増へ、固定資産投資が前月の同5.2%増から同5.4%へ改善、小売売上高も前月と同じ同8.0%増と堅調でした。
今週の米国株式市場
今週は10-12月期の決算発表で、IBM、テキサスインスツルメンツ、ジョンソン&ジョンソン、プロクター&ギャンブルなどグローバル企業の発表が始まります。
先週発表の大手銀行やユナイテッドヘルスグループは基本的に内需企業であり、20年の業績回復(前年比9.5%増が予想されている)をけん引すると期待されるグローバル企業の業績動向を占う上で、ここからが正念場となりそうです。
また、台湾セミコンダクター(TSMC)の売上見通しが先週の相場を動かしたことから、1/22(水)に半導体の露光装置で9割の世界シェアをもつオランダのASMLが半導体産業の見通しについて何を言うかも注目されそうです。
そのほか、トランプ米大統領も参加見通しのダボス会議での要人発言や日欧の金融政策、米国の中古住宅販売件数、マークイットの米製造業PMIなどが注目されます。
決算発表については、S&P500指数採用企業の9%が発表した段階でEPSは前年同期比2.1%減(発表済と今後の予想を混合)の予想です。発表企業の72%が市場予想以上のEPSを発表しており、これは過去5年の平均並みの推移となっています。
相場の動き方として(1)マクロ的要因によって相場が全般的に上昇するケースと、(2)個別企業や業種のミクロ的要因で物色されて、結果として相場が上昇するケースの2つがありますが、テクノロジーへの物色が強まって今回の上昇は(2)の色が強いと考えらえます。そういう意味では、相場全体のPERの上昇にはさほど神経質になる必要はないとみられます。
経済指標では、1/22(水)に米国の12月中古住宅販売件数(前月比1.5%増の予想)、1/24(金)に米国の1月マークイット製造業PMI(前月の52.4から52.5に改善の予想)、などの発表が予定されています。
台湾セミコンダクター(TSMC)の決算リリース
先週の相場に大きな影響を与えた台湾セミコンダクターの決算についてご紹介します。
10-12月期決算は売上が前年同期比10%増、EPSが同16%増でいずれも市場予想を上回りました。さらに市場が好感したのは、1-3月期の売上が102〜103億ドルになるとの見通しからです。
10-12月期の104億ドルと比較すると横ばいですが、1-3月期はエレクトロニクス関連の売上が季節的に弱い時期のため、前年比では30%以上の伸びに相当し、回復のモメンタムが加速する形です(図表3)。
会社は10-12月期が好調となった要因として、「ハイエンドのスマホ、5Gネットワークの展開、7ナノメートル技術を使うハイパフォーマンスコンピューティングなどの需要が強い」とし、1-3月期については、「5Gスマホの生産増加に支えられる見通し」とコメントしています。
昨年7月に半導体株が動意づいたのもTSMCの4-6月期決算リリースからでした。特集レポートの「TSMCの底入れ発言で注目の半導体株、買っていいのはコレ!?」もご参照ください。
今週の5銘柄
今回は1-3月期決算が良好と期待される銘柄をS&P100指数採用の主要企業についてスクリーニングを行いました。以下の条件で、10-12月期決算が市場予想を上回る好調となって、通期のEPSが上方修正された銘柄をピックアップしています。
【スクリーニング条件】
(1)前回の四半期決算で、実績の売上、EPSが市場予想を上回った。
(2)通期EPSの市場予想が過去4週、3ヵ月とも下方修正されていない。
(3)前回の四半期決算が増収増益で、来期増益予想である。
抽出された図表4の銘柄から、プロクター & ギャンブル(PG)、インテル(INTC)、ロッキード マーチン(LMT)、マイクロソフト(MSFT)、ペイパル ホールディングス(PYPL)を選んでご紹介いたします。
図表3 台湾セミコンダクター(TSMC)の四半期売上(前年同期比)
注:予想はBloomberg集計のコンセンサス予想によります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表4 7-9月期決算が予想を上回り通期見通しが上方修正された企業(S&P100指数採用企業対象)
コード | 銘柄 | 前回決算 売上予想乖離 |
前回決算 EPS予想乖離 |
EPS修正 (過去4週) |
EPS修正 (過去3ヵ月) |
決算発表 予定日 |
PG | プロクター・アンド・ギャンブル | 2.1% | 10.4% | 0.5% | 0.4% | 1/23 |
INTC | インテル | 6.4% | 14.6% | 0.0% | 3.9% | 1/23 |
NEE | ネクステラ・エナジー | 11.1% | 4.4% | 0.0% | 0.1% | 1/24 |
LMT | ロッキード・マーチン | 2.0% | 12.7% | 0.0% | 0.3% | 1/28 |
MSFT | マイクロソフト | 2.6% | 11.3% | 0.1% | 0.6% | 1/29 |
PYPL | ペイパル・ホールディングス | 0.6% | 16.9% | 0.1% | 0.1% | 1/29 |
MA | マスターカード | 1.0% | 6.7% | 0.0% | 1.0% | 1/29 |
GD | ゼネラル・ダイナミクス | 0.0% | 2.4% | 0.0% | 0.1% | 1/29 |
RTN | レイセオン | 2.4% | 7.7% | 0.0% | 0.8% | 1/30 |
注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (1/17) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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プロクター & ギャンブル(PG) | 126.41ドル | 25.4 | 【幅広いカテゴリー、国で売上のモメンタムが上昇】 ・注目点は、オーガニック成長(為替や事業買収・売却の影響を除いた成長)が緩やかながらも改善基調にあり、また、これが幅広い部門にわたる数量面の改善に支えられている点です。20年はこのような事業基調の改善が、ドル高による売上目減りの緩和、新興国経済の改善などによって業績回復が顕著になると期待されます。 ・7-9月期は、オーガニック売上成長率が前年同期比7%増と好調でした。数量効果がヘルスケア、ファブリック&ホームなどの分野で伸びて前年同期比3%増、価格効果が同3%増、ヘルスケア、ビューティがけん引して製品ミックスが同2%増となっています。1/23(木)に10-12月期決算の発表予定です。 | ||
インテル(INTC) | 59.60ドル | 12.7 | 【データセンター投資の復調から恩恵】 ・クラウドサービスの提供企業や通信キャリアがデータセンターへの投資を再び活発化したことを受けて業績が回復しており、このトレンドは20年に向けても継続すると期待されます。CPU分野で競合するアドバンストマイクロデバイセズが7ナノメートル技術によるCPUで攻勢をかけていることへの対応が課題となっていますが、一方で予想PERが低水準にとどまっています。 ・7-9月期はPCセントリックグループの売上が前年同期比5%減となったものの、データセントリックグループが同4%増と急回復して市場予想を上回り、通年の売上見通しも上方修正されました。また、200億ドルの自社株買いを決めたことも好感されました。1/23(木)に10-12月期決算の発表予定です。 | ||
ロッキード マーチン(LMT) | 425.66ドル | 17.5 | 【米国とイランの軍事的緊張から恩恵】 ・軍事用航空機・宇宙関連機器の大手メーカーです。18年の売上構成比は、航空機部門(F-35、F-16などの戦闘機)が40%、ロータリー・ミッションシステム部門(ヘリコプターなど)が27%、宇宙システム部門が18%、ミサイル・火器制御部門が16%です。米国政府を中心に約30ヵ国と取引があり、海外売上は28%を占めます。 ・軍需関連の売上が世界最大であり、また、同売上構成比も88%に達することから、米国および世界の軍事費が増加する場合にその恩恵を受ける確度が高く、代表的な軍需銘柄です。特に同社売上の25〜30%を占めるF-35ステルス戦闘機は、米軍(空軍、海兵隊、海軍)が2,500機近くを調達する計画で、20年度の予算でも重点調達品としてあげられてます。7-9月期決算は、F-35プログラム、ミサイルなどの増加により業績は堅調で、20年に向けても増収増益が想定されています。1/28(火)に10-12月期決算の発表予定です。 | ||
マイクロソフト(MSFT) | 167.10ドル | 30.9 | 【クラウドのインフラサービスでアマゾンを急追】 ・クラウドのインフラを提供する企業としてはアマゾンに次ぐ2位の位置にあり、急速に追い上げています。メールソフトの「Outlook」、ビジネスソフトの「Office」などで企業のIT部門に接点があるため、クラウドの新規開拓営業に有利と考えられます。また、19年10月に米国防総省の100億ドル規模の案件をアマゾンと競ってマイクロソフトが獲得したことも、同社のクラウドが加速するきっかけとなる可能性が注目されています。 ・7-9月期決算は、前年同期比14%増収、同22%増益と引き続き好調でした。インテリジェント・クラウド部門が27%増収と成長をけん引したほか、ビジネス・ソフトウェアの「Office」関連売上、ビジネスSNSの「リンクトイン」、パソコンOSの「Windows10」などが好調を維持しています。20年6月期について売上・営業利益とも前年比10%台の増加と営業利益率の上昇を見込んでいます。1/29(水)に10-12月期決算の発表予定です。 | ||
ペイパル ホールディングス(PYPL) | 116.04ドル | 33.3 | 【4-6月期決算での売上下方修正から復調】 ・売上成長の基調は20%近くになっているとみられます。eコマースの拡大の波に乗るほか、売上が低迷するeBayの構成比が10%以下に低下しています。一方、個人間送金で伸びるVenmoの構成比が15%に達し、また、中国のGoPayとの提携による効果も期待されます。19年12月期の売上ガイダンスは15%増ですが、売上債権の一部売却が3.5%ポイントの押し下げ要因になってます。さらに、価格比較サービスを提供するハニー・サイエンスの買収は、小売事業者に売上を差し向ける機能があるため、同社事業とのシナジーが期待されています。 ・4-6月期の決算発表時に19年12月期の売上ガイダンスを引き下げて株価が急落しました。下方修正の要因はサービス統合の遅れ、サービス価格の調整および為替の影響ですが、7-9月期決算では売上が前年同期比19%増、一時的要因を除く調整後EPSが同31%増と復調が確認されています。1/29(水)に10-12月期決算の発表予定です。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。プロクター&ギャンブル、マイクロソフトは20年6月期、その他は20年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
20(月) | ・米国市場休場(マーチン・ルーサー・キング・デー) | |
21(火) | ・世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議、24日まで) ・日銀金融政策 ・ドイツZEW調査(1月) ・米弾劾裁判の審理開始 |
IBM、ネットフリックス |
22(水) | ・米中古住宅販売件数(12月) ・シカゴ連銀全米活動指数(12月) |
ジョンソン&ジョンソン、ASMLホールディングス テキサスインスツルメンツ、アボットラボラトリーズ |
23(木) | ・ECB主要政策金利 ・ユーロ圏消費者信頼感(1月) |
プロクター&ギャンブル、インテル(E)、ユニオンパシフィック コムキャスト、トラベラーズ、フリーポートマクモラン ユニオンパシフィック、インチュイティブサージカル |
24(金) | ・じぶん銀行日本製造業PMI(1月) ・マークイットユーロ圏製造業PMI(1月) ・マークイット米製造業PMI(1月) |
アメリカンエキスプレス |
25(土) | ・中国の春節(旧正月) | |
27(月) | ・ドイツIFO企業景況感指数(1月) ・米新築住宅販売件数(12月) |
|
28(火) | ・米耐久財受注(12月) ・S&Pコアロジック住宅価格指数(11月) ・米コンファレンスボード消費者信頼感(1月) |
アップル、3M、ファイザー、スターバックス アドバンストマイクロデバイシズ、ザイリンクス ユナイテッドテクノロジーズ |
29(水) | ・米中古住宅販売成約(12月) ・米FOMC政策金利 |
マイクロソフト、フェイスブック、マクドナルド、テスラ AT&T、ゼネラルエレクトリック、ボーイング、マスターカード ペイパルホールディングス、ダウ、イルミナ ラムリサーチ、アラインテクノロジー |
30(木) | ・ユーロ圏景況感(1月) ・ユーロ圏失業率(12月) ・米実質GDP(10-12月期、速報値) |
アマゾンドットコム、ビザ、コカ・コーラ ベライゾンコミュニケーションズ、アルトリアグループ ユニリーバ、バイオジェン、エレクトロニックアーツ レイセオン、ノースロップグラマン |
31(金) | ・日本鉱工業生産(12月) ・中国製造業・非製造業PMI(1月) ・ユーロ圏実質GDP(10-12月期、速報値) ・英国のEU離脱期限 ・米個人所得・個人支出(12月) ・米PCEコアデフレータ(12月) |
アリババグループ(E)、エクソンモービル キャタピラー、シェブロン、ハネウェルインターナショナル |
注:日付は現地時間によります。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成