先週は良好な企業決算が続いたことに加え、ブレグジット(英国のEU離脱)に関する不透明感後退が好感されて上昇しました。今週はピーク週となる企業決算に加え、米中通商協議の部分合意に関する交渉、再び不透明となったブレグジットの行方などが注目されます。
今回は先週好決算を発表した銘柄から、インテューイティブ サージカル(ISRG)、JPモルガン チェース(JPM)、コカ-コーラ(KO)、ブラックロック A(BLK)、ネットフリックス(NFLX)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 1週 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
ヘルスケア | 2.0% | -0.4% | 0.1% |
不動産 | 1.8% | 1.7% | 8.5% |
金融 | 1.6% | -0.1% | 0.6% |
通信サービス | 1.3% | -0.1% | 3.0% |
一般消費財・サービス | 1.3% | 1.1% | -1.1% |
S&P500 | 0.5% | -0.2% | 0.3% |
素材 | 0.3% | -1.5% | -1.6% |
資本財・サービス | 0.1% | -1.2% | -0.6% |
公益事業 | -0.1% | 0.0% | 5.8% |
生活必需品 | -0.2% | 0.7% | 1.0% |
情報技術 | -0.9% | 0.7% | 0.3% |
エネルギー | -1.7% | -7.0% | -9.3% |
騰落率上位(1週) | 騰落率 |
ユナイテッドヘルス・グループ | 10.5% |
フォード・モーター | 5.8% |
CVSヘルス | 5.1% |
バンク・オブ・アメリカ | 5.0% |
アルトリア・グループ | 4.1% |
騰落率下位(1週) | 騰落率 |
ボーイング | -8.2% |
IBM | -6.1% |
エクセロン | -5.9% |
アドビ | -4.6% |
コノコフィリップス | -4.4% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイトの表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
10/14(月)は米中通商協議の部分合意が疑問視される報道が相次いで軟調となったものの、10/15(火)には良好な企業決算に加え、英国のEU離脱新協定の合意が近いとの報道が好感されて一段高となりました。10/16(水)には米国の9月小売売上高が前月比減となったのはネガティブでしたが、好調な企業決算が支えたとみられます。
一方、10/18(金)は中国の7-9月期実質GDPが前年比6.0%増と市場予想を下回ってネガティブ材料となったほか、過去2週にわたる相場上昇に対する利食いも出たとみられ反落となりました。S&P500指数は週間で0.5%の上昇です。
業種指数騰落率では、10年国債利回りが1.7%半ばでしっかりとなったことから、景気敏感業種が優位の傾向となりました。騰落率トップの「ヘルスケア」は、民主党のテレビ討論会でウォーレン氏の「国民皆保険」政策が集中砲火を浴びたことから、業界の先行きに対するリスクが後退したと捉えられたようです。また、騰落率上位の「金融」は大手銀行の多くが好決算を発表したことを反映したとみられます。
経済指標では、9月の米小売売上高は前月比0.3%減と市場予想の同0.3%増を大きく下回りました。ただ、消費者心理が7月にピークを付けていたのと整合性があり、前年比では4.1%増と堅調で、さほど深刻視する必要はなさそうです。中国の7-9月期実質GDPは前年比6.0%増と4-6月期の同6.2%増から低下、市場予想の同6.1%増も下回って低調でした。一方、9月の鉱工業生産は前年比5.8%増、小売売上高は同7.8%増と、それぞれ前月の同4.4%増、同7.5%増から改善となっています。
今週の米国株式市場
今週、来週と発表のピークを迎える7-9月期決算、米中通商協議の部分合意に関する交渉、再び不透明となったブレグジットの行方などが注目されます。経済指標については、市場を動かすようなものは見当たりません。週末にかけては、来週のFOMC(米連邦公開市場委員会)が意識されることも想定されます。
企業決算は市場予想を上回って出てきているものの、いまのところ今期や来期の通期予想EPSの上方修正につながるほどではなく、経済指標も悪化傾向が続いていることから、なかなか上値を買うのは難しいところでしょうか。やはり、米中通商協議の部分合意の内容が確実になるまでは、高値の更新は難しいとみられます。
7-9月期決算については、S&P500指数採用企業のEPSは前年同期比4.7%減(FactSet社の10/18(金)時点の集計)が予想されています。これは発表済の決算と今後発表予定の決算をブレンドしたものです。先週発表された決算の8割以上でEPSが市場予想を上回って順調な決算と言えますが、19年および20年の通期予想EPSは下方修正の傾向が続いています。
ブレグジットについては、10/19(土)の英下院で英国のEU離脱手続きを延期する議員案が野党労働党などの賛成多数で可決され、ジョンソン首相とEUが合意した離脱協定案の採決は10/21(月)または10/22(火)に延期されています。
EU離脱の延期申請はEUに提出される一方、首相は延期を望んでいないとして、事態は再び不透明となってきました。仮にハードブレグジットとなったとしても世界経済への影響は限定的と考えられますが、金融市場には一時的とはいえインパクトがある可能性があるため、目を配っておく必要がありそうです。
経済指標では、10/22(火)に米国の9月中古住宅販売件数(前月比0.7%減の予想)、10/24(木)に米国の9月耐久財受注(前月比0.6%減の予想)、米国の9月新築住宅販売件数(前月比1.5%減の予想)などの発表が予定されています。
企業決算では、半導体のインテル、テキサスインスツルメンツ、ザイリンクス、アドバンストマイクロデバイセズ、資本財でボーイング、キャタピラー、ユナイテッドテクノロジーズ、クラウド関連でマイクロソフト、消費関連でアマゾンドットコム、ビザ、マクドナルド、P&Gなどが発表の予定です。NYダウ構成銘柄の40%、S&P100指数構成銘柄の30%が発表するピーク週になります。
今週の5銘柄
米国市場の物色については、10/18(金)のNYダウ構成銘柄の騰落率をみると、貿易摩擦から遠いグロース銘柄として買われてきたマイクロソフト、ビザ、ウォルトディズニーが1%以上の下落となっているのに対して、アップル、ダウ、銀行株などがプラスを維持しており、やはり、「グロース/ディフェンシブからバリュー/シクリカル」の動きは継続しているとみられます。
9/18(水)掲載の外国株式特集レポート『「バリュー株の逆襲」は続くのか?』で取り上げた「グロース/バリュー」の比較グラフでみても、グロースがバリューに対して弱まるトレンドが継続していることが確認できます(図表3)。
決算シーズンのため決算内容を受けた個別の動きも重要ですが、引き続き「グロース/ディフェンシブからバリュー/シクリカル」を意識した銘柄選択が有効とみられます。
今回は先週決算を発表した主要企業から注目できるものとして、インテューイティブ サージカル(ISRG)、JPモルガン チェース(JPM)、コカ-コーラ(KO)、ブラックロック A(BLK)、ネットフリックス(NFLX)を選んでご紹介いたします。
図表3 「グロース/バリュー」と米10年国債利回り
注:S&P500指数の24業種について、9/5(木)終値〜9/12(木)終値の騰落率により、上位業種の「通信サービス」「銀行」「資本財」「テクノロジー・ハード・機器」「半導体・同製造装置」を平均して「バリュー、」下位業種の「商業・専門サービス」「 ソフトウェア・サービス」「 不動産」「 消費者サービス」「 メディア」を平均して「グロース」としています。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (10/18) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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インテューイティブ サージカル(ISRG) | 566.25ドル | 40.3 | 【2四半期連続で市場予想を大きく上回る好決算】 ・10/17(木)発表の7-9月期決算は、前年同期比23%増収、同21%増益、市場予想比では売上が6%、EPSが15%上回る好調なものでした。「ダ・ヴィンチ」を使用した手術件数は前年同期比20%近く増え、通年の同ガイダンスを前年比15〜17%増から、同16〜17%増へ引き上げています。 ・同社は「ダ・ヴィンチ」によって高成長が見込まれる手術支援ロボットの世界市場をほぼ独占しています。一方、医療機器大手のメドトロニックが同市場に21年から参入する見通しであることから、市場では気にされているようです。しかし、足もと業績は2四半期連続で市場予想を大きく上回り注目できるでしょう。 | ||
JPモルガン チェース(JPM) | 120.56ドル | 11.5 | 【消費者向けローン、債券業務、投資銀行業務が増益を牽引】 ・10/15(火)発表の7-9月期決算は、前年同期比8%増収、同14%増益で、EPSは市場予想を9%上回って好調でした。主力のコンシューマー&コミュニティバンキング部門が同5%増益、コーポレート&インベストメントバンク部門が同7%増益で、コマーシャルバンキング部門およびアセット&ウェルスマネジメントの減益をカバーしました。 ・低金利の環境で住宅ローン、自動車ローン、クレジットカードなど消費者向け貸し出しが伸びたほか、債券業務および投資銀行業務の手数料が好調でした。純金利収入は19年4-6月期からは低下したものの、貸出利ざやの縮小を数量増とミックスの改善により前年同期比では増加としました。 | ||
コカ-コーラ(KO) | 54.78ドル | 24.1 | 【オーガニック売上成長が5%と好調】 ・10/18(金)発表の7-9月期決算は、オーガニック売上成長率が前年同期比5%増と市場予想の同4.1%増を上回って好調を持続しました。価格・ミックスが6%ポイントのプラスとなって、原液の販売数量の2%減、為替による3%減をカバーしました。売上は買収効果が6%ポイントあり、前年同期比8%増でした。営業利益はドル高の影響を受けて同4%減です。地域別のオーガニック売上成長率は北米、アジア・太平洋が3%増、欧州・中東・アフリカが4%増、南米が12%増といずれも好調です。 ・売上好調の要因として、売上拡大アルゴリズムの実行(売れ筋商品の品揃えと配送強化)、炭酸飲料の成長余地開拓(コカ・コーラゼロシュガー、コカ・コーラプラスコーヒーの国際展開、160ミリリットル缶の導入など)、コカ・コーラエナジーの導入などがあげられています。18年の4-6月期以降5%以上のオーガニック売上成長率が続いており、売上拡大トレンドが定着したと考えられます。 | ||
ブラックロック A(BLK) | 445.04ドル | 14.7 | 【運用資産の拡大が順調】 ・10/15(火)発表の7-9月期決算は、前年同期比3%増収、同7%営業増益と堅調でした。EPSは同5%減となっていますが、営業外損益の減少と税率が前年同期に比べて高かったことが要因です。資金の純流入は債券、現金、オルタナティブを中心に過去3ヵ月で840億ドル、過去12ヵ月では3,500億ドルに達し、運用資産額は前年同期比8%増と事業基盤の拡大が順調です。 ・決算リリースでCEOは「ブラックロックのキャッシュ、インデックス、ファクター、アクティブおよびオルタナティブを網羅し、「アラジン」によるポートフォリオ管理、リスク管理のテクノロジーを擁する、グローバルに統合されたプラットフォームが顧客に評価されている」としています。「アラジン」を中心としたテクノロジーサービス収入が前年同期比30%増と伸びていることも注目できます。 | ||
ネットフリックス(NFLX) | 275.30ドル | 44.4 | 【新規参入の影響を見極める時期に】 ・10/16(水)発表の7-9月期決算は、前年同期比31%増収、同65%増益で好調が持続しました。EPSは市場予想を41%上回ったものの、マーケティング、コンテンツ費用の計上タイミングによる一時的な上ブレです。新規加入件数は6.77百万人でガイダンスの7.00百万人をやや下回ったものの、4-6月期にガイダンスを大幅ショートしていたため、安心感が広がったとみられます。10-12月期の新規加入件数ガイダンスは「Disney+」、「Apple TV+」の参入の影響を考慮して、前年同期比14%減の7.6百万人としました。 ・新たな競合についてCEOは、「10年来Amazonプライム、Huluや従来型TVと競争してきた。短期的にはノイズになるが、長期的な見通しを大きく変えるものではない」としました。10-12月期の新規加入件数によって新規参入の影響が確認される来年1月まで、株価は不安定となる可能性がありそうです。ただ、中長期の投資スタンスでは投資しやすい水準まで下がってきたと考えられるのではないでしょうか。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。いずれも20年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
21(月) | ・日本貿易統計(9月) ・中国新築住宅価格(9月) |
ハリバートン |
22(火) | ・日本の祝日(即位礼正殿の儀) ・米中古住宅販売件数(9月) |
マクドナルド、P&G、バイオジェン、ロッキードマーチン UPS |
23(水) | ・ユーロ圏消費者信頼感(10月) | ・フェイスブックCEOが米下院金融委員会で証言 ボーイング、キャタピラー、テキサスインスツルメンツ ユナイテッドテクノロジーズ、チポトレメキシカングリル フリーポートマクモラン |
24(木) | ・ユーロ圏主要政策金利 ・米耐久財受注(9月) ・米新築住宅販売件数(9月) |
マイクロソフト、3M、テスラ、ペイパルホールディングス ツイッター(E)、ザイリンクス、コムキャスト ラムリサーチ(E)、アラインテクノロジー、ダウ |
25(金) | ・日本工作機械受注(9月、確報値) ・ドイツIFO企業景況感指数(10月) ・ミシガン大学消費者マインド(10月、確報値) |
アマゾンドットコム、ビザ、ベライゾンコミュニケーションズ インテル、イルミナ、ギリアドサイエンス |
27(日) | ・中国工業部門利益(9月) | |
28(月) | ・シカゴ連銀全米活動指数(9月) | AT&T |
29(火) | ・米S&Pコアロジック住宅価格(8月) ・米コンファレンスボード消費者信頼感(10月) ・米中古住宅販売成約(9月) |
アルファベット、ファイザー、マスターカード、メルク ゼネラルモーターズ |
30(水) | ・ユーロ圏業況判断指数(10月) ・米ADP雇用統計(10月) ・米実質GDP(7-9月期、速報値) |
アリババグループ(E)、ゼネラルエレクトリック グラクソスミスクライン、アドバンストマイクロデバイセズ サザン、アムジェン、エレクトロニックアーツ、ヤムブランズ |
31(木) | ・米FOMC政策金利 ・日銀政策金利 ・日本鉱工業生産(9月、速報値) ・中国製造業・非製造業PMI(10月) ・英国のEU離脱期限 ・ユーロ圏実質GDP(7-9月期) ・米個人所得・個人支出(9月) |
アップル(E)、フェイスブック、アルトリアグループ クラフトハインツ、リフト、ワブテック、スターバックス エスティローダー |
11月 1(金) |
・中国財新製造業PMI(10月) ・米雇用統計(10月) ・米ISM製造業景気指数(10月) ・米自動車販売台数(10月、2日までに発表) |
エクソンモービル、アッヴィ、シェブロン シーゲートテクノロジー、フォーティネット(E) |
注:日付は日本時間によります。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成