先週の米国株式市場は、米中通商協議の進展に対する期待が高まって大幅に上昇、中期チャートの重要ポイントを上回りました。今週は、米国で継続となる米中通商協議の行方、FOMC議事要旨の発表などが注目されます。
今回は注目が高まっている5G(第5世代移動通信システム)が業績の変動要因として表面化している企業から、ザイリンクス(XLNX)、キーサイト テクノロジー(KEYS)、ノキア ADR(NOK)、スカイワークス ソリューションズ(SWKS)、クォルボ(QRVO)を選んで今週の5銘柄といたします。
主要企業の決算概要:先週発表のコカ-コーラ(KO)、エヌビディア(NVDA)をご報告しています。
図表1:S&P500指数のローソク足(週足、2年)
※当社WEBサイトを通じて、SBI証券が作成
図表2:業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 1週 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
---|---|---|---|
エネルギー | 4.8% | 3.0% | -1.8% |
資本財・サービス | 3.5% | 7.7% | 5.3% |
素材 | 3.4% | 1.9% | -1.1% |
ヘルスケア | 3.2% | 3.0% | 0.9% |
金融 | 2.9% | 1.4% | -1.3% |
一般消費財・サービス | 2.6% | 2.1% | 3.2% |
S&P500 | 2.5% | 3.9% | 1.4% |
情報技術 | 2.4% | 6.4% | 2.2% |
生活必需品 | 1.1% | 3.7% | -2.7% |
不動産 | 1.1% | 7.0% | 5.1% |
通信サービス | 1.0% | 2.4% | 3.6% |
公益事業 | -0.2% | 4.4% | 1.7% |
騰落率上位(1週) | 騰落率 |
---|---|
ロウズ | 7.3% |
ハリバートン | 7.2% |
CVSヘルス | 7.0% |
エヌビディア | 6.2% |
コノコフィリップス | 5.9% |
騰落率下位(1週) | 騰落率 |
コカ・コーラ | -8.6% |
デューク・エナジー | -3.1% |
フェイスブック | -2.9% |
サザン | -1.1% |
サイモン・プロパティー・グループ | -0.4% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
先週の米国株式市場は、2/12(火)にトランプ大統領が米中通商協議に合意できそうなら、3/1(金)の関税引き上げの期限を先延ばしする可能性があるとして大幅な上昇となりました。一方、2/14(木)には12月の米小売売上高が市場予想を大幅に下回り、トランプ大統領が国境の壁建設を強行するために非常事態を宣言するとして一時反落する場面がありました。しかし、2/15(金)には、米中通商協議が今週も米国で継続することがポジティブサプライズとなって一段高となりました。S&P500指数は週間で2.5%の上昇でした。
業種指数騰落率では、米中通商協議進展への期待から景気敏感業種が優位で、ディフェンシブが劣後する傾向です。騰落率トップの「エネルギー」は、OPEC(石油輸出国機構)による減産が進む可能性で原油価格が反発しました。
経済指標では、米国の12月小売売上高が前月比で1.2%減、前年比では同2.3%増まで急低下して懸念が高まりました(図表3)。ただし、民間の週間小売統計Redbookの12月は前年比6〜9%の高い伸びとなっているため、商務省の12月小売統計は季節調整がうまくいかず、実体よりも下振れている可能性があると見られます。
しかし、そのRedbookも1月中旬から2月上旬にかけて前年比4〜5%まで低下しており、米国の小売売上の鈍化は間違いないと見られます。そして、米国の消費が鈍化するのは、減税効果の剥落、株式市場が下落したこと、消費者信頼感指数が低下していたことなどから予想できたことで驚くにはあたりません。問題はどの程度で下げ止まるかになると見られ、今後数ヵ月で前年比3%以上で落ち着くなら大きな問題にはならないでしょう。
一方、中国の1月貿易統計では輸出が前年比9.1%増(予想は同3.3%減)、輸入は同1.5%減(予想は同10.2%減)と前月および予想の伸び率を大きく上回って、中国景気の下げ止まりへの期待が高まりました。
今週の米国株式市場
今週の米国株式市場は、米国で継続となる米中通商協議、2/21(木)(日本時間)早朝のFOMC(米連邦公開市場委員会)議事要旨、2/18(月)の中国自動車販売台数、2/19(火)のウォルマートの決算発表などが市場を動かしうるイベントとして注目されます。テクニカル的には200日移動平均線、50週移動平均線を上抜けたため、今後は2,730ポイント辺りが下値抵抗になると期待されます。
米中通商協議は、対中関税引き上げの期限を来週末の3/1(金)に控え、引き続き最大の注目点となるでしょう。2/15(金)に終わった中国での閣僚級協議では具体的な成果は明らかになっていないものの、双方とも進展があったと主張しています。今週は場所を米国に変えて協議は継続され、トランプ大統領は合意の見込みがあるなら交渉期限を延期する可能性もあるとしています。
FOMC議事要旨は、年初来の株価反発にはFRB(米連邦準備制度理事会)の利上げスタンス変更が大きな影響を与えたと見られるため、どのような議論がされたか引き続き注目されます。利上げの可能性を含んだ様子見なのか、利上げ打ち止めなのか、利下げに転じる可能性もあるのか、探ることになるでしょう。
中国の自動車販売台数は前年比では減少が続くものの、実数ベースでは18年7月に189万台で底入れして18年12月の266万台まで回復基調となっています。1月にもこの動きが継続すれば、中国経済に対する懸念後退につながる可能性があるでしょう。
ウォルマートの決算は、来週にかけて増える小売の11-1月期決算発表の皮切りとなります。12月の米小売売上高が急低下して、市場は今後の米消費動向を見極めようとしているため、注目を集めるでしょう。
決算発表については、先週末までにS&P500指数構成企業の79%が発表を終え、EPSは前年同期比13.1%増の予想です(FactSet社の集計、発表済の実績と今後の予想の混合)。19年12月期の予想EPSは169.53ポイントで、先々週末の169.76ポイントからの修正幅は0.23ポイントにとどまり、通期予想の下方修正も落ち着きつつあります。
経済指標では、2/21(木)に米国の12月米耐久財受注(前月比1.8%増の予想)、1月中古住宅販売件数(前月比0.2%増の予想)などの発表が予定されています。
企業決算では、ウォルマートインク、サザン、アナログデバイセズ、CXSヘルス、クラフトハインツ、バイドゥ、キーサイトテクノロジーズ、SBAコミュニケーションズなどが発表を予定しています。
今週の5銘柄
今回は株式市場で注目が高まっている5G(第5世代移動通信システム)が業績の変動要因として表面化している企業をご紹介いたします。
5Gについては18年11/28(水)付の外国株式特集レポート「テクノロジー株の調整、「5G」関連銘柄を仕込むには良いタイミング!?」でご報告しています。5Gがどのような技術で関連銘柄としてはどのようなものがあるかについては、こちらをご参照ください。
図表4は、7-9月期、10-12月期の決算で5Gが業績の変動要因になっていると確認できる5社の四半期売上の推移を示しています。
5G関連投資による業績への貢献が既に顕著となっているザイリンクス(XLNX)、キーサイト テクノロジー(KEYS)、5Gで先行するファーウェイの欧米市場からの排除によって恩恵が期待されるノキア ADR(NOK)、5G関連は伸びつつあるものの、スマホ市場の低迷で全体の業績は低調となっているスカイワークス ソリューションズ(SWKS)、 クォルボ(QRVO)の5銘柄をご紹介いたします。
尚、これら以外に、クアルコム(QCOM)、テキサスインスツルメンツ(TXN)などの決算にも5G関連の影響が認められます。
図表3:米国の小売売上高(前年比)
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表4:5G関連銘柄の四半期売上推移
注:キーサイトテクノロジーは、18年8-10月期を18年4Qとして割り当てて作図しています。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (2/15) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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ザイリンクス(XLNX) | 119.31ドル | 35.2 | 【新技術の普及がFPGAの需要を押し上げる】 ・FPGAと呼ばれる種類の半導体の世界最大手です。FPGAはfield-programmable gate arrayの略で、計算ロジックが固まっている部分は回路に作り込み、変化する可能性のある部分を「プログラマブル」(後から変更できる)にしたもので、仕様が完全に固まっていない新技術が普及するときに需要が高まる傾向があります。現在、5G、IoT、AI、自動運転などの開発が活発化していることから、今後2〜3年は業績の好調が期待されます。 ・10-12月期決算は大幅な増収増益となり、多くの半導体メーカーが産業景気の悪化を受けて業績が悪化する中、異例の動きとなっています。分野別にもデータ センター/TME(テスト、測定、エミュレーション)が前年同期比14%増、車載/放送/民生機器が同20%増、通信が同41%増、産業機器/航空宇宙防衛が同17%増といずれも増加しています。 ・1-3月期の売上ガイダンスは8.15〜8.35億ドル、前年同期比21〜24%増相当と高い伸びとなる見通しです。電子機器業界では、既存製品の売上は低調なものの、新製品の開発投資は活況が続いているようです。 | ||
キーサイト テクノロジー(KEYS) | 80.38ドル | 39.3 | 【5Gの展開で恩恵を受けている電子計測器メーカー】 ・電子計測器メーカーです。無線通信、航空、宇宙、防衛、半導体の幅広い市場に、電子計測機やシステム及び、関連ソフトウエア、ソフトウェア設計ツール、電子機器を提供しています。分野別の売上は、コミュニケーション・ソリューションが52%、エレクトロニック・インダストリアル・ソリューションが25%、サービス・ソリューションが12%、イクシア・ソリューション(買収したネットワークの可視化、セキュリティ技術をもつ会社の事業)が11%と、通信向けが主力です。 ・8-10月期の売上で34%を占めるコマーシャルコミュニケーションズ分野が5Gの研究開発向けが牽引して、売上前年同期比28%増加しています。会社は「5G関連事業が11四半期連続で2〜3倍のペースで成長している」とコメント、「5G」の研究開発は最盛期を迎えているようです。 ・2/22(金)に11-1月期決算を発表する予定です。 | ||
ノキア ADR(NOK) | 6.32ドル | 30.6 | 【無線通信インフラ大手の一角】 ・フィンランドの通信機器メーカーです。かつては携帯端末で世界トップでしたが、端末事業は2014年にマイクロソフトに売却し(その後2016年にHMD Globalとして独立)、現在は無線技術を中心とする通信インフラ設備が主力となっています。18年12月期の売上は226億ユーロ、純利益が12.7億ユーロです。 ・米国政府が無線通信基地局市場で最大で、5Gでも最も先行しているとされる中国ファーウェイとの取引を制限しようとしていることから、同社が漁夫の利を得る可能性が注目されています。同社は2011年にモトローラ社の無線基地局事業を買収して北米の売上構成比は28%(17年12月期)と十分な基盤を保有しています。 ・業績は18年10-12月期は売上が前年同期比3%増、営業利益が同12%増と増収増益に転換しましたが、18年12月期は売上が前年比3%減、営業利益が同12%減と低調でした。19年についても年前半は低調となる見込みで、年後半から5Gの展開によって伸びが高まる見通しとしています。EPSは18年12月期実績の0.23ユーロから、19年12月が0.25〜0.29ユーロ、20年12月期が0.37〜0.42ユーロと20年12月期に大きく伸びる見通しとしています。 | ||
スカイワークス ソリューションズ(SWKS) | 83.38ドル | 14.1 | 【基地局向けは拡大するも端末向けが減少して減収減益】 ・ワイヤレス半導体メーカーです。世界の携帯電話機メーカーとインフラ基盤メーカーに向けて、フロントエンドモジュール、無線周波サブシステム、システムソリューションなどを販売しています。5G向けの技術プラットフォーム「Sky5」を発表、10-12月期決算リリースでは「欧州のインフラプロバイダーに5Gの基地局向けソリューションを提供した。」とコメントしています。 ・アップルが主要顧客の1社であるため、10-12月期決算は売上が前年同期比8%減、営業利益が同17%減、調整後EPSが同9%減と低調です。1-3月期のガイダンスは売上が8.0〜8.2億ドル(中央値は前年同期比13%減)、調整後EPSが1.43ドル(前年同期比13%減)と減収減益が続く見通しです。 ・同社は端末向けの売上とインフラ向け売上の比率を開示していませんが、端末向け事業が主力と見られます。このためスマホの販売低調を受けて当面は業績が冴えないでしょう。端末事業が底入れして、拡大しているインフラ向け売上が表面化するタイミングで業績は回復していくと期待されます。 | ||
クォルボ(QRVO) | 65.16ドル | 11.2 | 【ワイヤレス半導体メーカー】 ・米国のワイヤレス半導体メーカーです。主にモバイル、インフラ、防衛・航空宇宙アプリケーション向けにコア技術および無線周波数(RF)のソリューションを提供します。部門別の売上は、モバイル部門が73%、インフラおよび防衛部門が27%を占めます(18年3月期)。 ・主力のスマホ市場が厳しいため、業績は伸び悩みが続く見込みです。10-12月期決算は売上が前年同期比6%減、EPSが営業費用の削減により同6%増を確保しました。1-3月期のガイダンスは売上が6.6〜6.8億ドル(前年同期比2%〜6%増)、EPSが1.05ドル(前年同期比2%減)と市場予想のそれぞれ7.2億ドル、1.33ドルを大きく下回りました。 ・5Gについては、「マッシブMIMO」(無線基地局に同時に接続できる端末数を増やすために、アンテナ数を増やす技術)向けの出荷が複数のOEM先に大きく伸びたほか、複数の顧客企業で採用(デザインウィン)を獲得できたとしています。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。ザイリンクスとクォルボは20年3月期、キーサイトテクノロジーは19年10月期、ノキアは19年12月期、スカイワークスソリューションズは19年9月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週発表された主要企業の決算概要
銘柄名(コード) 決算発表日、株価反応日 株価、前日比、今期予想EPS、アナリスト目標株価 | 直近実績 | 前年同期比 | 予想乖離 | 前四半期の 前年同期比 | |
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コカ コーラ(KO) 2/14、2/14 | 売上(億ドル) | 70.6 | -6% | 0% | -9% |
45.59ドル、-8.4%、2.13ドル、51.05ドル | EPS(ドル) | 0.43 | 10% | 0% | 16% |
【19年12月期のEPSガイダンスが失望された】
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エヌビディア(NVDA) 2/14、2/15 | 売上(億ドル) | 22.1 | -24% | 0% | 21% |
157.34ドル、+1.8%、5.34ドル、174.19ドル | EPS(ドル) | 0.80 | -53% | 2% | 38% |
【大幅減収減益に転じる、2-4月期の売上ガイダンスは予想を6%ショート】
|
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成
主要イベントの予定
日付 | 経済指標・イベント | 企業決算・イベント |
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18(月) | ・米国休場(ワシントン誕生日) ・日本機械受注(12月) ・中国自動車販売台数(1月) | |
19(火) | ・ドイツZEW調査(2月) | ウォルマートインク |
20(水) | ・NAHB住宅市場指数(2月) ・ユーロ圏消費者信頼感(2月) | サザン、アナログデバイセズ、CXSヘルス |
21(木) | ・FOMC議事要旨(1月30日分) ・日本工作機械受注(1月) ・フィラデルフィア連銀景況感 ・米耐久財受注(12月) ・米中古住宅販売件数(1月) | ニューモントマイニング |
22(金) | ・中国新築住宅価格(1月) ・ドイツIFO企業景況感指数(2月) | クラフトハインツ、バイドゥ、キーサイトテクノロジーズ アルベマール、SBAコミュニケーションズ |
25(月) | ・シカゴ連銀全米活動指数(1月) ・米小売売上高(1月、3/1(金)までに発表) | バークシャーハサウェイ(E) |
26(火) | ・住宅着工・建設許可件数(12月) ・S&Pコアロジック住宅価格指数(12月) ・コンファレンスボード消費者信頼感(2月) | メーシーズ、ホームデポ |
27(水) | ・ユーロ圏業況判断指数(2月) ・米中古住宅販売仮契約(1月) ・米製造業受注(12月) | ロウズ、ベストバイ、TJX |
28(木) | ・日本鉱工業生産(1月) ・中国製造業・非製造業PMI(2月) ・米実質GDP(10-12月期) ・シカゴ購買部協会景気指数(2月) | スクエア、ブリティッシュアメリカンタバコ ブッキングホールディングス |
1(金) | スプランク |
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成