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トランプ・バイデン両候補の政策比較と市場への影響を考える

2020/10/9

2020年最大のイベントとして注目されているのが11月3日に行われる米国大統領選挙・議会選挙です。選挙戦序盤からバイデン氏優勢と見られていましたが、10月前半にトランプ大統領の新型コロナ感染が発覚したことで、さらに支持率差は拡大していると見られています。とはいえ、前回2016年の選挙ではクリントン氏圧倒的優位と見られていた中で、トランプ氏が大逆転勝利を演じたケースもあり、結果判明まで予断を許しません。

そこで今回は米国大統領選前の最終確認としてトランプ氏とバイデン氏の政策を比較するとともに、同時に行われる議会選挙を踏まえて想定されるシナリオと投資戦略についてまとめました。

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両者の政策を比較

クリントン氏とトランプ氏の主張は多岐に亘っていますので、相場への影響が大きそうな経済政策や外交政策に注目すべきでしょう。主要テーマについてそれぞれのHPに掲げられているものや過去の発言などを比較表にまとめたのが表1です。

トランプ大統領とバイデン氏がすべての面で対立しているかというと、そうではありません。例えば、インターネット上に投稿された内容に関してGoogleやFacebookなどインターネット大手の免責を認めた通信品位法230条については廃止と見直しの差はあれど、批判的な立場を取っています。また、中国との関係においても、両候補とも強硬な姿勢を示しています。どちらが大統領に就任するにしても米中関係の早期改善は見込みづらく、日本経済に影響が及ぶ可能性は否定できません。

注目される税制面については、トランプ大統領は1期目に行った法人減税や高額所得者への税率引き下げの継続に加え、中間所得者層への給与減税を主張し、労働者層の票を狙っているように見えます。逆に、バイデン氏は大企業や富裕層への課税を強化するとし、そこで得た財源を大規模なインフラ投資に充当するとしています。

株式市場に影響がありそうという意味でいうと、キャピタルゲイン課税についても見逃せません。バイデン氏は株式等の売買益に対する課税を最大で2倍近くまで拡大するとしています。株式市場で収益をあげても、その多くが税金として引かれてしまうということになれば、株式取引の魅力を損ね、取引が停滞してしまう可能性もありそうです。

個人的に注目しているのは、金融規制に対する変更があるかどうかです。バイデン氏が勝利した場合の財務長官の有力候補として連邦準備制度理事会のブレイナード理事が取りざたされています。トランプ政権下でFRBは金融危機後に導入された銀行規制を一部緩和してきましたが、FRB内でその緩和に異論を唱え続けていたのがブレイナード氏でした。ブレイナード氏が財務長官に就任するとすれば、再び厳しい金融規制が課され、金融機関の業績に下押し圧力がかかる可能性もありそうです。

議会選挙にも要注目!

大統領選と同時に米国議会選挙も行われます。現在は上院で共和党が多数派を占めるのに対し、下院は民主党が多数派で、いわゆるねじれ状態にあります。ねじれ状態になると議案の進捗が滞るなど政治の停滞を招くことになりますので、議会選挙の結果にも注目です。

上院の議席数は100、下院の議席数は435です。上院の任期は6年で2年ごとに1/3が改選されます。今回の改選議席は33で、民主党の12議席、共和党の21議席が対象です。米国の政治情報サイトRealClearPoliticsでは、本稿執筆(10/8)時点で、民主党が非改選議席を併せて51議席(民主党に近い無所属議員2名を含む)と民主党の勝利を予想しています。ただし、接戦となっている州も複数あり、今後の選挙戦次第では状況が大きく変わる可能性もありそうです。

一方で下院の任期は2年で435議席のすべてが改選となります。大統領選と下院の選挙が同じ年の場合、大統領の属する党が下院でも多数派となる傾向が高いと言われています。ただし、現在の共和党の議席数は民主党に比べ大幅に少なく、トランプ大統領が圧倒的な勝利で再選を果たすようなことが無い限りは、下院での民主党優勢の状況は変わらないものと考えられます。前述のRealClearPoliticsでも民主党が多数派を取ると予想されています。

11月3日のシナリオと投資戦略

ここまでの状況を踏まえながら、選挙のシナリオをいくつか考えてみました。まず、下院で優勢と見られる民主党が多数派を占めることを前提としたうえで、シナリオ1はバイデン氏が大統領選で勝利し、上院も民主党が多数派を占める場合、シナリオ2はバイデン氏が勝利するものの、上院は共和党が多数派のままとなる場合、シナリオ3はトランプ大統領が再選を果たす場合です(議会は上下院で民主党が多数派または上下院でねじれが継続)。現状はバイデン氏が優勢と見られており、上院も民主党が優勢と見られているので、シナリオ1がメインシナリオになります。

シナリオ1 大統領選:バイデン氏勝利、上院:民主党、下院:民主党

バイデン氏の政策の実現性が高まるシナリオ。

  • WTI原油:シェール開発規制で米国の原油生産が減少・輸入が増加。上昇期待でWTI原油コールの買い。
  • 米国建設・通信関連株:インフラ・ブロードバンド投資の拡大が期待。米国における建設工事受注の実績がある三菱重工、重機需要の増加期待でコマツ(コール型eワラントでも代替可能)、政府の支援期待で米国の通信事業者(ベライゾン、Tモバイルなど)。
  • 環境・再生可能エネルギー:環境規制強化で需要拡大に期待。
  • 石油関連株:シェール関連は規制強化で下落懸念。原油需要減でメジャーも下落か。
  • 米国製薬株:薬価引き下げで下落懸念。
  • 米国金融株:金融機関への規制強化の可能性。低金利で金融機関の収益が悪化しているなか追い討ちとなる可能性がある。三菱UFJFGのプット買いなど。
  • 医療保険関連株:医療保険制度改革で加入者数増加期待。
  • 米国IT大手:通信品位法230条の改正でコスト増。独占禁止法違反で事業分離の懸念。
  • 米国株全体としては法人増税と富裕層への増税が意識され短期的には下落か。中長期的には議会と連動した経済対策の実効性の高さから上昇を想定。米国の財政収支悪化懸念で長期金利が上昇し、米ドル対円相場は上昇か。選挙結果判明までは日経平均のプット買い、下げ一巡後は日経平均プラス5倍トラッカーの買い。
シナリオ2 大統領選:バイデン氏勝利、上院:共和党、下院:民主党

いわゆるねじれが発生。政府高官の任命権を持つ上院が共和党となることで政権の安定性確保に時間を要する可能性。短期的に米ドルの下落が発生か。

  • WTI原油:ニュートラル。シナリオ1と同様も規制強化のハードルは高くなる。
  • 米国建設・通信関連株:共和党もインフラ改善は重要視しているので上昇期待。通品関連株は期待剥落で下落か。
  • 米国製薬株:下落懸念。共和党も高額医薬品を批判。シナリオ1と同様。
  • 米国金融株:ニュートラル。ブレイナード理事の財務長官就任が否認され、規制強化懸念が後退。
  • 医療保険関連株:共和党から離反者があれば改革に成功か。
  • 米国IT大手:下落懸念。共和党も通信品位法230条の改正を支持。
  • 米国株全体としては選挙後に先送りされている第4弾経済対策の成立遅延への懸念で下落か。高官の任命権・弾劾の権限がある上院を共和党が占めることで政権の安定性を損なう可能性もあり、中長期的に株価に下押し圧力がかかる可能性。米ドル対円相場は下落か。短期的には日経平均プットの買い、中長期的には日経平均マイナス3倍トラッカーの買い。
シナリオ3 大統領選:トランプ氏勝利、上院:均衡、下院:共和党

トランプ大統領の突発的な発言やツイートによる市場急変に今後もさらされる可能性が高く、市場のボラティリティは高止まりか。経済早期再開により新型コロナの感染抑止に時間を要する可能性も。

  • 金:安全資産である金に資金再流入の可能性。金コールの買い。
  • WTI原油:シェールオイルの増産により、需給悪化が続く。WTI原油プットの買い
  • 米国建設・土木関連株:トランプ氏もインフラ改善は重要視しているものの、民主党に規模で劣り、短期的には下落か。
  • 米国軍事関連株:中東などで米国製装備品の需要が増加する可能性。上昇期待。
  • 米国製薬株:下落懸念。共和党も高額医薬品を批判。シナリオ1、2と同様。
  • 米国金融株:金融規制緩和の動きが出てくると金融株にはプラス。米国債の利回り上昇も業績にプラスか。三菱UFJFGコール買い。
  • 米国株全体としては減税方針の継続が想起され短期的には上昇と想定。ただし、議会がねじれ又は民主党多数となるため、政策実現のハードルが高まり中長期的に株価は下落か。短期的には日経平均コールの買い、中長期的には日経平均マイナス3倍トラッカーの買い。

ただし、いずれのシナリオも選挙から時間をかけずに次期大統領が決まることが前提となります。大統領選挙が接戦に終わった場合、選挙の有効性を巡って議論を巻き起こし、法廷闘争にまで進む可能性があります。トランプ大統領は以前から郵便投票に対して懐疑的な見方をしていますので、自身が敗れても敗北宣言を行わない可能性もあるでしょう。再調査の状況等によってボラティリティが高まる可能性もありますので、日経平均や米ドル、金などを対象とするeワラントを使って短期的の市場変動を収益機会と変えるのも一手かもしれません。

(念のため付言しますと、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。)

eワラント証券 投資情報室長 多田 幸大

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