多くの上場企業では、外国為替相場や原油価格、国内外の景気循環などによって当期利益が大きく変動します。また、一株当たりの利益の何年分まで買い進めるかというPER(株価収益率=株価÷1株当たり純利益)も、不景気のときは5倍や8倍しかないことはザラですが、好景気になると水準が大きく切り上がって15倍や30倍、あるいはそれ以上になるものも増えてきます(投資家のリスク許容度の上昇)。このため、景気拡大局面では、利益の伸び(1株あたりの利益の増加)とPERの上昇(1年分の利益の何倍まで買い上げられるか)という二つの要素が影響して、どこまでも株価上昇が続くように思えてしまいます。
ところが、大相場が終わって株価全体が急落すると逆回転が始まります。株価は一般に景気の先行指標なので、まだ業績悪化が顕在化する前に下げ始めます。すると、株価をその決算期の予想一株当たり純利益で割ったPERが低下して、どれも割安に見えてしまいます。これが、「インテリトラップ」で、PERを使って投資判断をする際に陥りやすい失敗ともいえます。
一方、一株当たり純資産(企業の総資産―負債である純資産を発行済株式数で除した数値)は、その時点の企業の解散価値ともされ、一株当たり純利益よりも一般的に安定しています。このため市場関係者の中には、「PBR(株価資産倍率=株価÷一株当たり純資産)を使えば、株価が割安なのか割高なのか判断できる」と考える方もいます。
そこで、日経平均の構成比で9-10%程度も占めるファーストリテイリング(9983)、同じく4-5%程度と高いファナック(6954)、メガバンクの代表として三菱UFJフィナンシャルグループ(8306)の3社について、PBRが株価の天井や大底を判断するツールとして有効であったかどうかを調べてみました。
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ファーストリテイリング:急成長株には高値警戒シグナルとなる?
いわずと知れたユニクロブランドを展開するファーストリテイリング社は、円高局面では高品質・低価格商品で売上を伸ばし、国内市場が飽和気味になると矢継ぎ早に海外展開を進めて急成長してきました。図1は同社の株価とPBRの推移を見たものです。2003年半ばには1381円/株だった一株当たり純資産は、毎年ドンドン利益を積み上げた結果、2015年11月にはその5.5倍の7645円/株にまで急増しました。さらに、日経平均株価に占める割合が9-10%程度と最も高い銘柄であるため、株価指数先物取引との裁定取引や日経平均連動ファンドなどに積極的に買い上げられた結果、株価は10年強で10倍になりました(図中えんじ色線)。株価の上昇の方が一株当たり純資産の増加よりも大きかったため、PBRも2003年8月の3.5倍から2015年11月には6.5倍と急上昇しています(図中みずいろ線)。
図ではPBRが株価の割高、割安を示すことができていたかどうかを見るために、観測点から過去5年遡った期間の最高・最低PBRとその観測点における1株当たり純資産から株価上限(図中黄緑色点線)と株価下限(図中紫色点線)を加えました。
なお、移動平均としたのは、たとえば観測全期間である2003年〜2015年のPBR高値・安値・平均などを使うと、過去の一時点から将来のPBRが分かっていたことになってしまうからです。また移動平均の期間が短すぎると長期間のレンジが分からず、長すぎるとその企業の事業内容やグローバルな資金の影響の程度などが変わってしまう恐れがあります。そこで5年間の移動平均を使うことにしました。
まず、リーマンショック前後の株価と5年PBRを用いた推計値上下限と比べると、リーマンショック時においても下限値まで株価が下落しなかったため、底値判定にPBRが使えるかどうかは分からないといえます。
一方、上限に接した2010年2月、2013年5月、2013年11月、2015年5月、2015年11月ではすべての場合において、その後一旦は株価が下落しています。実際には、今までは好業績によって推計値上限が切り上がると、再びそれを目指して株価が上昇を始めるという展開が続きました。このため、絶対的な天井を知ることはできなくとも、目先の高値を知る目安としてはPBRは使える可能性があるといえそうです。なお、2016年1月15日時点のファーストリテイリング株のPBR5年移動平均推計株価上限は、52,129円で2015年5月の高値と同水準でした。推計株価下限は27,526円で、1月15日時点の株価37,000円から約26%低い水準でした。
図1:ファーストリテイリングの株価とPBR
※ロイターデータよりeワラント証券が作成
ファナック:景気変動の影響を受けやすい業種では天底判定に使える?
図2はファナックの株価とPBRの推移です。これにも図1と同様に5年移動平均のPBRを使った推計株価上限・下限を加えてみました。ファナックのPBRは、株価が上昇する際には3倍を上回って4倍に近づき、株価が大きく下落した2008年のリーマンショックでは1.5倍を下回る水準にまで下がりました。興味深いのは、ファーストリテイリングの場合と異なり、10数年という長期間に亘って概ね1.5倍〜3.7倍の大きなレンジに収まっているように見えることです。
さらに、株価(図中オレンジ色線)と5年移動平均PBR上限・下限を比べると、2008年12月末に推計株価下限を割り込んだところが大底で、2012年12月、2013年12月と2015年3月の上限に接するか上回った時点が目先の天井となっていました。そう考えると、ファナックのような景気敏感株に関しては、PBRの上下限を意識することは有効な投資戦略と言えそうです。
なお、2016年1月15日時点のファナック株のPBR5年移動平均推計株価上限は、25,961円で現在の株価水準の40%も上方にあります。また、推計株価下限は15,968円で、1月15日時点の株価18,515円から13.8%低い水準でした。仮に今まで同様の値動きとなるなら、この下限が目先の底値となるかもしれません。
図2:ファナックの株価とPBR
※ロイターデータよりeワラント証券が作成
三菱UFJ FG:増資と経営環境悪化があったものの、現状は役に立ちそうな水準に収束
図3は三菱UFJフィナンシャルグループの株価とPBRの推移です。これも5年移動平均のPBRを使った推計株価上限・下限を加えてあります。まず、ファーストリテイリングやファナックに比較して、PBRの水準がかなり低いことが分かります。この理由としては業種の違いがあります。また、2008年のリーマンショック以降一段とPBRが低くなったのは、メガバンクが繰り返した大型増資と金融機関への規制強化による収益性の低下の影響がありそうです。その意味では、リーマンショック前後の銀行株は、全く別の業種になってしまったのかもしれません。
とはいえ、低位のPBRが長期間続くことで5年移動平均推計値が低下してきた2013年ごろからは、5年PBR移動平均による推計値上限も“使える”ようになったようです。実際、2015年6月に推計値上限に接した後は、他銘柄と同様に低下しています。下限値については、リーマンショック直後から株価(図中赤線)とともに底這いなので、株価の底値の目安にはなりそうです。
ちなみに、2016年1月15日時点の三菱UFJ FG株のPBR5年移動平均推計株価上限は、880円、推計株価下限は528円でした。
図3:三菱UFJ FGの株価とPBR
※ロイターデータよりeワラント証券が作成
投資に活かすには
PBRによってすべての株式の天底を知ることは難しそうですが、成長株であれば目先の天井、景気敏感株であれば天底の目安として使える局面がありそうです。銀行株に関しては、今後更なる増資や規制強化がないという前提であれば、ようやく5年移動平均PBRが役に立ちそうな状況となってきました。
また、今後相場全体がいっそうの調整局面に入る可能性が高いと考えるなら、過去5年間のPBRの高値・安値を用いて、上限に接したらプットの買い、下限に接したら現物株を数年間保有するつもりで買いに回るという戦略も一案と考えられます。
(念のため付言しますと、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。)
eワラント証券 チーフ・オペレーティング・オフィサー 土居雅紹(どい まさつぐ)
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