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量的緩和政策成功後の大暴落に警戒?

2015/10/13

中国経済の変調、資源価格の下落と世界的な株価急落を背景に、10月末にも日銀の追加金融緩和があるのではないかという期待が高まっているようです。たしかに2014年4月の消費税引き上げによる消費減退と原油価格下落によるデフレ圧力によって、日銀の2%のインフレ目標は未だに達成されてはいません。

しかしながら、2012年には一時1ドル70円台であった過度の円高は修正され、日経平均は3年弱で約2倍となり、大企業の多くは大幅な増収増益、求人倍率は上昇して久々の売り手市場になっています。2012年の今頃と比較すれば経済状況は大きく改善しています。一方、インフレ目標を達成するということは物価が上がることなので、そうなったらそうなったで大衆の不満は出てきます。また、過去のバブルの歴史から考えると資産価格への影響、つまり「量的緩和政策が成功することによる株価大暴落と良貨への逃避」というシナリオも考えておいた方がよさそうです。

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グレシャムの法則:「分銅と天秤騒動」と「元禄バブル」

「Bad money drives out good.(悪貨は良貨を駆逐する)」とは16世紀のイギリス王室の財政顧問を務めたトーマス・グレシャムによる「グレシャムの法則」です。これは、銀の含有量を減らした悪貨ばかりが流通し、信用が低下していたイギリスの通貨を改鋳して価値を戻すようにエリザベス1世に進言した際に用いられた表現とされています。

その論理は、自分のこととして想像してみると理解しやすいものです。例えば、金や銀の含有量が多い貨幣(悪貨)と、含有量が少ない貨幣(良貨)の通貨を保有しているとします。この時、法律などによって両方の貨幣が同じ価値を持つものと決められていたとしたら、自分の手元に良貨を残し、悪貨から使いたくなるはずです。こうして市中には悪貨だけが流通していきます。金貨や銀貨が使われていた時代に悪貨を作る誘因は通貨発行益でした。1枚の金貨を半分にして、それぞれを銅や鉛で増量して2枚にして、同じ額面の“金貨”として通用させれば金貨1枚分儲かると言うわけです。

日本の教科書にはあまり出てこないのですが、17世紀初頭の神聖ローマ帝国で起こった「分銅と天秤騒動」(独: Kipper- und Wipperzeit、英訳するとTipper and See-saw)は、興味深い事例といえます。当時、神聖ローマ帝国では30年戦争が勃発していたものの、諸侯は財源に乏しく、流通していた金貨を改鋳することが横行しました。この騒動の名前は、未だ改鋳されていない良貨を見つけ出すために使われた天秤に由来しています。なお、諸侯は自らの領地からなるべく遠い地方で改鋳した悪貨を使ったようなのですが、皆が同じ事を繰り返したため貨幣の質と価値はどんどん下がり、最後には子供のおはじきにしか使われなくなりました。経済はハイパーインフレで大混乱となり、各国間で貨幣の品質を維持する協定が結ばれ、増税によって財政が立て直されてようやく騒動が治まりました。

日本でよく知られる同様の事例は、17世紀末の荻原重秀による改鋳、いわゆる「元禄バブル」です。金銀の国内産出量の減少と海外流出によって通貨が不足して経済が停滞していたところに、通貨供給量を増やすリフレ政策が採られたため、当初は好景気となりました。また、幕府が手にした通貨発行差益は膨大で、各種試算によれば毎年の財政赤字額の20倍から50倍にも上ったようです(現在の日本の一般会計で毎年30兆円の赤字とすると、仮に30倍も臨時収入があれば公的債務問題はすぐになくなります)。しかし、その後、元禄から宝永になっても改鋳が繰り返されたことで通貨制度が混乱し、物価が高騰しました。それに続く新井白石のデフレ政策で「元禄バブル」は完全に崩壊し、深刻な不況となりました。

この二つのほぼ同時期にドイツと日本で起こった通貨供給増とその後の顛末は、金や銀を貨幣としていた時代であるために、グレシャムの法則がそのまま当てはまっています。このため、どの国も金や銀などの裏づけが無い不換紙幣を発行している現在とはやや状況が異なります。とはいえ、実際に景気浮揚効果が出始めているのに、「まだ足りない、まだ足りない」と要求し続け、政府は財政赤字の補填に通貨発行権を使い続けていると、17世紀の二つのリフレ政策の二の舞ともなりかねないという懸念が生じます。

3大バブルでは「ミシシッピ計画」が秀逸?

歴史上の3大バブルといわれるのが、17世紀前半オランダの「チューリップバブル」、18世紀初頭のイギリスの「南海バブル事件」、ほとんど同時期にフランスで起こった「ミシシッピ計画」です。このうち、最も知られているのがチューリップバブルです。とはいえ、世界各国に発生してきた大小様々なバブルと比べてみると、投機対象はチューリップに限定され、バブル崩壊が経済全体に甚大な影響を与えたというわけでもないので、よくあるタイプの限定的な投機バブルだったといえるでしょう。これに似たタイプのバブルとしては、1920年代にアメリカで発生したフロリダの不動産バブルや、つい数年前のビットコインバブルが挙げられます。

「南海バブル事件」は、実体がない泡沫会社の株式投機バブルです。これだけだとITバブルと極めて似ています。一方、財政危機にあったイギリスが債務削減のために国債と泡沫会社の株式の交換を行ったという点に注目すれば、財政ファイナンスと投機バブルの組み合わせといえ、「分銅と天秤騒動」や「元禄バブル」より一歩進んだ近代バブルのハシリといえそうです。

そしてバブルを作り出す過程が秀逸で、現代の巨大バブルとの共通点が多いのがフランスの「ミシシッピ計画」です。仕掛け人のジョン・ローはスコットランドの実業家で、経済学者でもあり、稀代のペテン師だったともいえます。彼はフランスの財政難を救うために、まず貨幣の改鋳を行って、金銀の含有量が少ない貨幣(悪貨)と従来の貨幣(良貨)を強制的に交換させました。これで莫大な通貨発行益を得ると同時に景気浮揚に成功し、実績を作りました。グレシャムの法則だと良貨が退蔵されてしまうので、強制的に旧貨幣を通用できなくさせた点は巧妙に仕組まれています。
 次にローは発券銀行(後の王立銀行)を設立して、保有する金銀の量をはるかに上回る量の兌換銀行券(つまり兌換紙幣)を発行し、巨額の通貨発行益で財政赤字の補填に成功しました。原価がほぼゼロの紙切れを政府の信用だけで金貨と同価値で通用させるので、全額が発行差益となりました(裏づけとなる金銀が十分に無いので実質的には不換紙幣でした)。
 仕上げに、その紙幣や国民が保有していたフランス国債を、高配当だが経営の実体は寒々しいミシシッピ会社の株式と交換させました。この会社の株価が上がっているうちは皆ハッピーだったのですが、買い手が居なくなって株価下落が始まると、下げが下げを呼び、架空の富は消失し、紙幣をより安全な金に換えたい保有者が銀行に殺到する取り付け騒ぎとなり、スキームは破綻、フランスの財政と経済は大混乱となりました(これがフランス革命の遠因とされています)。

もうお気付きだと思いますが、ミシシッピ計画で登場する、「財政ファイナンス」、「不換紙幣の大量発行」、「株価の急騰」は、日米欧中の量的緩和バブルの現状ときわめてよく似ています(ドイツは財政黒字なのですが、ユーロ圏全体では赤字です)。

そこで、仮に歴史が繰り返される可能性があるとすれば、現代版の「悪貨」は何で「良貨」は何になるのか、またそれに備えて何ができるのかということが重要となります。

投資に活かすなら:良貨は何か?

ミシシッピ計画ではミシシッピ会社の株価は天井を付けたところで次に買う人がいなくなり、急落を始めます。現代の資産バブルでも、中央銀行の利上げのように原因がはっきりしている場合もありますが、今夏の中国株のように理由がはっきりしない突然の下げがその後の相場崩壊を招くこともあります。また、現時点で既に低格付け債(ハイイールド債)を含めた債券価格が金余りと運用難によって高騰しています。このため、量的緩和政策が大成功して物価が上昇し始めると、まず債券バブルが崩壊し、それが金利上昇を通して世界的な株価暴落につながる可能性もあります。

この場合、現在はすべての国の通貨が不換紙幣なので、何が「悪貨」で何が「良貨」となるかは、人々の思い込み、あるいは相場が最初に動き始めたトレンドで決まってしまうように思われます。そこで3つのありそうなシナリオを考えてみました。

◎シナリオ1:良貨は米ドル、悪貨はそれ以外の通貨全部
すべての通貨の価値は基軸通貨である米ドルを基準に決まっています。また、経済力では中国が台頭し、EUやロシアが政治力を付けているとはいえ、経済・軍事・外交・金融の全ての面において依然として米国は唯一の覇権国といえます。また、日本は少子高齢化・巨額な公的債務・低成長に苦しむ一方、EUは周辺諸国の債務問題や中東情勢による政治的な不安定さを抱えています。そうなると、世界中の人々が株や債券を売り払い、保有する通貨(外貨)を換金する安全な対象はやはり米ドルだけとなりそうです。この場合、各国の株式、REITと債券の価格はおしなべて急落し、米ドル全面高になると予想されます。このシナリオに備えるならFXでの米ドルロング、米ドルeワラントコールの買い、米ドルMMF等が有望な投資先になると予想されます。

◎シナリオ2:良貨は、米ドル・ユーロ・円、悪貨は新興国・資源国通貨
ユーロ圏を一つの国とみるならGDPでは世界第2位で、実は中国よりも大きな国といえます。また、公的債務残高を見ると米国は19兆ドル(約2300兆円!)で、金額だけを見るなら日本の公的債務残高の2.3倍もあります。米国のGDPが日本の3.8倍もあるので、対GDP比では約100%で日本の250%ほど問題視はされていませんが、日本だけに懸念があるとはいえないかもしれません。このため、先進国通貨で、通貨の信用力の裏づけとなる政府が安定的で、経済規模が大きく、金融取引に十分な流動性があり、かつ自由に取引できる通貨というと、やはり米ドル、ユーロ、日本円に限定されるといえるでしょう。
これに対して、ポンドやスイスフランはユーロとの連動性が高い通貨といえます。また、豪ドル、NYドル、カナダドルは市場規模が小さく、資源国通貨として値動きが荒くなります。さらに言えば、人民元、韓国ウォン、ロシアルーブルなどは政治的な安定性に欠け、そもそも自由な取引ができません。

このシナリオの場合、各国の債券、株式の価格が暴落することに加えて、資源国通貨と新興国通貨が米ドル・ユーロ・日本円に対して暴落することになります。また、相場変動が収まっても、米欧日は通貨高のためしばらく株価が軟調になることも予想されます。これに備えるなら、円・米ドル・ユーロ預金にしてジッと耐える、豪ドルプットやNYドルプットを購入する、日経平均マイナス3倍トラッカーやベアETFに投資する、FXで新興国通貨ショート/米ドル・ユーロ・日本円ロングとなるポジションを採る、といった対策が考えられます。

◎シナリオ3:良貨は金地金のみ
現在の各国通貨は所詮裏付けのない紙切れであることに世界中の人々が気がついてしまうというある意味最悪のシナリオです。こうなると、ミシシッピ計画と同じ展開でハイパーインフレが予想されますが、そもそもいずれも兌換紙幣ではないので世界中で、「良貨」といえるのは金地金ぐらいしかなくなります。もしこのシナリオを想定するのであれば、金プラス5倍トラッカー、金ETFや金地金に、今のうちからコツコツ投資を行い、資産をできるだけ金地金や金に連動する資産に換えておくことが一案と思われます。

(念のため付言しますと、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。)

eワラント証券 チーフ・オペレーティング・オフィサー 土居雅紹(どい まさつぐ)

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