「日本企業の業績は好調なのにこの下げはおかしい」、「株価が下がってきたから優良株を割安に買えるチャンス」という声が今回の世界的な株価急落局面でも多く聞かれました。しかし、この考え方こそが、下がりはじめに買ってしまう「インテリトラップ」に嵌って大きな損失を蒙る典型的な投資の失敗のパターンといえます。そこで、日本を代表する企業の一つであるトヨタの業績と株価の過去の値動きから、インテリトラップを避けるためのポイントを探りましょう。
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売上のピークは株価天井の1年後!3つのタイムラグとは?
図1はサブプライムバブル崩壊前の2004年7月から2015年8月までのトヨタの株価((図中赤ライン)と直近四半期の連結売上高(図中茶ライン、季節調整無し)の推移を見たものです。これを見ると、2007年初めから株価は大きく下げ始めているのに、トヨタの連結売上高は2007年12月期の6.7兆円がピークとなっていました。売上高はその後も徐々に下がってはいるものの実際に大きく落ち込むのは2008年終わりになってからです。株価と売上の天井を比較すると、株価は業績に約1年先行していたことになります。
図中の黄緑ラインは直近四半期売上をそのまま1ヶ月半ずらしたものです。これは、決算期間が終了してから発表されるまでの時間を考慮したものです。例えば7月〜9月までの四半期決算が発表されるのはたいてい10月上旬です。ということは、投資家は1ヵ月半程度は、企業業績を知ることができないことになります。つまり、この黄緑ラインがその時入手可能であった直近の企業業績に関する情報と言えます。
また、図1に示されているのは、投資家が知っておくべき3つのタイムラグと言い換えることもできます。まず最初は、株価と実体経済のタイムラグです。一般に「株価は半年程度実体経済に先行する」と言われていますが、図1の売上のピークを見ると1年です。であるなら、株価と実体経済のタイムラグは半年から1年程度はありそうだと考えてよいでしょう。
次に、投資時点と決算期が終わるまでの期間です。たとえば1月に投資していたとしても、その日が含まれる決算期はまだ2ヶ月も残っています。そう考えると、四半期決算の企業で常に1〜3ヶ月は株価はその前の期の延長上の想定で投資することになります。こういうと、「株価は常に先を見ているから実績なんて関係ない」という方がいますが、必ずしもそうではありません。証券アナリストの多くは過去の実績の延長で当期や翌期の予想を(しばしば楽観的に)立てます。実際、先の為替レートや原油価格の見通しはほとんど当たることがありません。このため、当該企業でさえ、業績予想を出す際には、意識・無意識にかかわらず、直近の実績と経営環境(為替レート、金利、原油価格など)に基づく結果になります。
最後が、決算期が終わってから発表されるまでの約1ヵ月半です。
なお、この3つの株価と企業業績のラグは、アベノミクス開始時のように企業業績が向上するときも同じで、株価は業績が向上する前に上がり、その事実を投資家が確認するのはかなり後になります。
図1:売上げピークは株価天井の後
※ロイターデータよりeワラント証券が作成
株価とEPSの逆行に要注意
売上のピークが株価のピークよりも後ズレし、それを投資家が企業業績で確認できるのが1年以上も後のことだとすると、もっとも注意が必要なのは株価が下がり始めた時に勘違いしないことといえます。
図2はトヨタ株の1株当たりの利益(EPS)の推移を株価と比較したものです。売上のピークが株価の後に来るために、2007年初めから株価は下落する一方、投資家が知ることができる直近の実績EPSは2008年まで上昇していくことになります。つまり、株価が下がるのに実績EPSは上昇するという逆行現象が起こっているのです。
さらに注意すべきなのは、企業業績が著しく悪化し、赤字になる(EPSがマイナス)になるような状況は、株価がどん底に落ちた後に来ることです。このため、企業の業績だけを見ていると、天井から下がり始めたところでも、「この企業の業績は良いので株価は間違っている」と考えてしまい、実際に業績が大幅に悪化した時点では既に手遅れになりかねません。
図2:株価急落時の株価とEPSの逆行に注目
※ロイターデータよりeワラント証券が作成
株価急落時のPER低下=インテリトラップ!
図3は、同様に投資判断に多用される株価収益率(株価/EPS、以下「PER」)と株価の動きを比べたものです。実際の投資には、予想利益に基づく予想PERが用いられます。しかし、その根拠が実績PERとなっていることが多いので、図中の「1ヵ月半後に知る実績PER」(水色ライン)がその時点で入手できる最新の情報に基づいた予想PERと概ね近いと考えられます。これを見ると図2で見られた株価急落時の「株価とEPSの逆行」では、PERが急低下し、その株式がとても割安に見えてしまうことが分かります。これが拙著「最強の『先読み』投資メソッド」や「勝ち抜け!サバイバル投資術」でも繰り返し説明しているインテリトラップです。ここで現物株を大きく買い込んでしまうと、長期間損失を抱える結果になります。また、塩漬け期間中に疾病やリストラなどで資金が必要になれば、大底と知りながら泣く泣く買いポジションを手仕舞わなければならないでしょう。さらに残念なのは、その後の大バーゲン価格で超優良株を購入できる機会(トヨタでも3千円以下の時もありました!)も指をくわえて見ているだけになってしまうことです。
なお、PERだけで投資判断を行うとすると、業績低迷期にはPERは全く意味を成さなくなります(赤字だと算出不能)。一方、業績回復期であれば、株価が上昇してもそれ以上にPERが低下(業績が回復)することもあります(この場合は、有効な投資指標として機能)。つまり、好況時の株価急落局面、業績低迷期はPERは使えないけれども、業績回復期なら有用といえるでしょう。
図3: 株価急落時のPER低下=インテリトラップ!
※ロイターデータよりeワラント証券が作成
投資に活かすには
現在の世界の株価が全体的にかなり買い進まれた水準にあることを考えれば、これからが最もインテリトラップに気をつけるべき時期といえます。具体的には、株価が急落し始めているのに一株当たりの利益(EPS)が上がる“株価とEPSの逆行”を見つけたら、インテリトラップを疑ってかかったほうが良さそうです。この場合、(1)株式の買いポジションを手仕舞ってキャッシュの割合を増やす、という方法に加えて、積極的に攻めるのであれば(2)ベアETF、TOPIXプットeワラント、日経平均マイナス3倍トラッカー、株価指数ミニ先物などで相場全体へのショートポジションを採る、(3)当該個別銘柄のプットeワラントを購入するか信用取引でショートする、といった手法が考えられます。
(念のため付言しますと、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。)
eワラント証券 チーフ・オペレーティング・オフィサー 土居雅紹(どい まさつぐ)
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