前回コラムで採り上げた原油相場の長期サイクルに続き、金と銅に“スーパーサイクル”のような長期的な値動きのパターンがあるか調べてみました。金は宝飾品や工業原料であるとともに準通貨としての一面もあります。一方、銅は日本国内では投資対象として未だになじみが少ないのですが、産業用金属(ベースメタル)の代表ともいえ、世界経済の動向に敏感な値動きをすると考えられています。
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“コモディティ・スーパーサイクル”は中国特需?
図1は直近20年の米国株(S&P500)、金価格(米ドル建)、WTI原油、銅価格(米ドル建)の値動きを比較したものです。これを見ると2000年頃から2011年頃まで、原油と銅の価格が長期上昇トレンドにあったことが見てとれます(途中リーマンショックの大幅調整を挟んでもすぐに戻しています)。米国株や金も同時期に同様に上昇してはいるものの、原油や銅ほどではありません。
この時期は中国がWTOに加盟し、驚異的な経済成長を続けていた時期です。2000年時点では中国の自動車保有台数は1570万台だったのですが、2005年にはほぼ倍の3088万台、2010年にはなんと約5倍の7721万台に急増しています(出所:国土交通省)。銅は自動車部品に多量に使われているほか、各種電化製品から電線まで多用され、経済発展とともに需要が増えます。また、自動車が増えれば燃料の消費が増えるのも自明です。そう考えると、2010年から2011年ごろまでの原油や銅をはじめとするコモディティ価格の強気相場は、中国特需によるものと考えることができそうです。
仮に、この10年強の強気相場の経験から、「コモディティ相場は数十年に一度、全てのコモディティ価格が上昇するスーパーサイクルがある」という長期サイクルの存在を考えるのであれば、次の“スーパーサイクル”はインド特需やアフリカ特需が顕著になる数年から10数年先まで待つことになるでしょう。
図1: コモディティ・スーパーサイクルは“中国特需”だった?
※ロイターデータよりeワラント証券が作成
銅相場は特徴的な短期サイクルに戻るのか?
一般にコモディティは、価格高騰・設備投資増大・供給過剰・価格下落・設備劣化・供給減少という数年から数十年のサイクルを繰り返すと考えられています。そういった状況で、2011年以降は中国特需が消えたと考えるなら、次の全面高局面が来るまではそれぞれに特徴的な値動きに戻る可能性があります。
図2は1977年からの銅価格と米国株の推移をみたものです。これを見ると銅相場の長期的な値動きパターンから言えば、“中国特需”の10年間はかなり珍しい値動きをした時期であったことが分かります。
銅相場の特徴を挙げるなら、以下のようなことが言えそうです。
・(株式と違って)上昇期1-3年と短く、下落期が5-8年と長い(中国特需の期間を除く)
・中国特需では長期間かけて上昇し、短期間の暴落(リーマンショック)があった
・長期間投資してもあまりリターンが高くない可能性がある
・株式の上昇期と銅の下落期が重なる期間が長い(逆相関といえる時期がある)
・2011年からの長期間ズルズル下げる値動きは銅には珍しいものではない
これに加えて、中国特需の際には中国市場独特の市場慣行による銅投機があったことや、中国政府が中国国内で産出しない銅の輸入を減らすため、通常は銅が利用されることが多い低圧電線までアルミの利用を奨励しているといった構造的な要因も存在しています。こういった特徴・市場背景を踏まえ、今後の銅相場の値動きが2000年以前に戻ると考えるのであれば、下げ相場が5年から8年あっても不思議ではないといえます。そうなると、銅相場が下げ始めてから既に4年経過しているとはいえ、早くてあと1年、遅ければあと4年も下げ相場が続くこともありそうです。
図2: 銅のサイクルは短い
※ロイターデータよりeワラント証券が作成
金の「10年・20年サイクル」は疑問。値動きから見ればやはり通貨!
「燃えない」、「溶けない」、「腐らない」と言われる金は、古代から通貨であったという歴史的な経緯もあって他のコモディティとは値動きが違うようです。実際、1971年8月に米国が金とドルの固定レート(1トロイオンス=35ドル)による交換を停止するまでは、金は通貨でした。その後、米国をはじめ各国政府は裏付けのない非兌換通貨を好きなだけ発行するようになり、当然ながら長期的な金の価値は通貨に対して上昇する結果となりました。
図3は1970年1月以降の米ドル建金価格と米国株の値動きの推移です(対数目盛)。1971年に価格が動き出してから中国特需が終わったと考えられる2011年までの間、金価格は「10年上昇して、20年下落、その後再び10年上昇」という興味深い値動きでした。
株式の相場格言に「上げ100日に下げ3日」とあるように、株式相場はゆっくり時間をかけて上がり、下げるときは短期間という典型的なパターンがあります。ところが金相場では、上昇していた時期よりも下落していた時期の方が長くなっていました。これだけをみれば、「金相場は10年上げて20年下げる」という巷の金投資格言とおりのようです。そう考えると、既に4年下げている現時点でも「金はあと16年下げる」と考えても不思議ではありません。
しかしながら、現象が1回半しかないので信頼できるデータとはいえません。また1971年以前は固定相場だったので、それ以降の金相場とは連続性がありません。このため、「金相場に10年上昇・20年下落サイクル」があると論じるには、少なくともあと数回(50年程度!)は同様の現象が観察される必要があります。なお、米国株と比較して1971年以降の金投資のパフォーマンスが総じて上回っている結果となっている点は特筆すべきものと思われます(配当、税金、各種手数料は考慮せず)。
図3: 金価格の10年上昇・20年下落サイクル?
※ロイターデータよりeワラント証券が作成
一方、金を株式などの投資対象資産と見るのではなく、米ドルと比較可能な通貨として見ると別の発見がありました。図4は米ドルの各国通貨に対する相対的な強さを示す米ドルインデックスと金価格の推移をみたものです。これを見ると、米ドルが強くなると金が下がり、米ドルが下がると(それが何倍にも増幅されて)金価格が上昇してきたことが分かります。
そうであれば、2011年後半から軟調な展開が続いている金相場は、これから米ドルが他通貨に対して上昇するならまだ下落する可能性が高いことになります。なお、金価格との値動きを見るときは米ドルと日本円だけの関係を見る米ドル/円相場ではなく、他通貨全般に対する米ドルの強弱を見る米ドルインデックスで考える必要があること、長期的には各国通貨はドンドン供給されて相対的に金価格が切り上がっていく流れは変わりそうもないことには注意が必要です。
図4: 米ドルインデックスで見ると金はやはり通貨!
※ロイターデータよりeワラント証券が作成
投資を考えるなら
中国特需が終わったことで銅相場の軟調が続くと考えるのであれば、銅eワラントプット131回(権利行使価格5600ドル、2015年10月14日満期)や銅eワラントプット133回(権利行使価格6600ドル、2015年10月14日満期)などが、日本国内から容易に銅相場に投資できる手法として効果的と思われます。
金相場に関しては、今後米国利上げによって米ドルが各国通貨に対してさらに上昇すると考えるなら、目先は軟調となる可能性が高いものの、長期的には金投資は良好な投資対象となりうるといえます。このため、長期的な上昇を見込むのであれば(金への投資コストが総合的に安い)金リンク債プラス5倍トラッカー5回(2016年5月11日満期)や国内上場の金ETFを利用することが一案といえます。一方、短期的な下落局面で収益を得ることを考えるのであれば、金リンク債マイナス3倍トラッカー3回(2016年5月11日満期)や金ミニ先物を利用することが効果的と考えられます。
(念のため付言しますと、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。)
eワラント証券 チーフ・オペレーティング・オフィサー 土居雅紹(どい まさつぐ)
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