昨年8月に米国最大の年金基金であるカリフォルニア州公務員退職年金基金(カルパース)が、3000億ドル(約37兆円)の運用資金の1%程度を投じていたコモディティへの投資を取りやめると発表しました。その後のコモディティ価格、特に原油価格の低迷を考えれば“先見の明”ともいえますし、同種の投資資金が引き上げたために価格下落が加速したと言う見方もあります。
一方、「コモディティが数十年に一度、10年程度に亘って上昇を続ける“コモディティ・スーパーサイクル”が終わっただけ」、あるいは「コモディティと株式は10年単位で逆方向に動く長期トレンドがある」というコモディティ価格の長期サイクルに沿った動きに過ぎないという意見もあります。
そこで、コモディティ市場の大部分を占める原油について調べてみました。
eワラントとは?
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コモディティに分散投資する金融商品=原油相場に投資?
2000年頃から、日本でもコモディティ相場に投資する金融商品が一般的になってきました。今ではコモディティ指数に投資する投資信託やETF、WTI原油やブレント原油に間接的に投資できるeワラントや原油や金などを対象としたETFなどが広く利用されるようになりました。
市場で一般の投資家が取引可能なコモディティの中で、市場規模・流動性ともに別格といえるのが原油です。図1は代表的なコモディティ指数である「S&P GSCI」の2015年7月末時点の構成比です。WTI原油が24.5%、ブレント原油(北海原油)はそれよりもわずかに比率が高い24.7%で、併せると原油だけで同指数の49%も占めています。さらに、原油価格との連動性が高い軽油、灯油、ガソリン、天然ガスを加えたエネルギー関連のコモディティの比率はなんと71.2%もあります。他のコモディティ指数も似たような構成比なので、一般的なコモディティ投信やコモディティETFに投資することは、原油相場に投資しているのとほぼ同じといえます。
図1: S&P GSCIの構成比率(2015.7)
※S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスLLC HP掲載データよりeワラント証券が作成
「原油相場と株価は逆に動く」とはいえない
図2は1983年からのWTI原油と米国の代表的な株価指数であるS&P500との値動きを比較したものです。なお、S&P500に比べてWTI原油が余り上昇していないことから、変化の方向を比較しやすくするために対数目盛を用いています。
図2: 原油相場はスパイク(急騰・急落)が目立つ
※ロイターデータよりeワラント証券が作成
これを見ると、原油相場の長期的な値動きについては下記のことが言えそうです。
- (1)原油への長期投資のパフォーマンスはそれほどでもない
S&P500が過去32年間に13.7倍にも上昇しているのに対し、原油価格は2015年7月末時点で1.6倍の上昇にとどまっています。これには、技術革新によってオイルサンドやタイトオイル(シェールガスと同様の方法で採取される原油)などが資源化され、枯渇するといわれた原油埋蔵量が結果として増え続けてきたことや、米国やブラジルのエタノール利用、世界的な省資源・再生エネルギー利用の流れなど、が大きく影響を与えているように思われます。 - (2)原油相場は値動きが荒く、スパイク(急騰・急落)が目立って多い
株式相場に比べ原油相場の値動きは極めて荒くなっています。サブプライムバブル崩壊前後の原油価格のスパイクだけでなく、2014年から現在まで続く原油価格の急落も、過去に何回も繰り返されてきたスパイクや急落とよく似ています。また、急落後には意外なほど短い時間である程度の戻しが多いことも興味深い特徴です。 - (3)「株と原油の10年サイクルは上がって10年下がる」パターンはなさそう
原油価格の上昇・下落トレンドは凸凹が目立つ上に、その間隔もまちまちです。また、株価と原油価格の長期トレンドが逆に動くサイクルにあるとも言い難いようです。
図2のA区間(1990年〜1998年)においては、米国株が上昇した一方、原油価格は下落トレンドにありました。この区間の値動きを分析した方が、「株価と原油価格は10年サイクルで逆方向に動く」と考えたのかもしれません。ところが、それに続く図中のBの区間(1999年〜2014年)では、長期間に亘って、若干のタイムラグはあるものの概ね株価と原油価格が同じ方向に動いていました。このため、しばしばコモディティ投資家によって言及される「原油相場は10年上がって10年下がる」とか、「原油価格と株価の10年サイクルが逆向き」という明確な長期サイクルは存在しないように思えます。
■投資を考えるなら
原油相場は世界情勢などによって急騰・急落しやすく、平時でも値動きが荒く、クラッシュ時には株と同様に暴落する(分散投資のメリットが少ない)という点もあるものの、当面の間、主要なエネルギー源であり続け、また「コモディティ市場への投資と言えば圧倒的に原油」という状況が続くものと思われます。また、現在の原油をはじめとしたコモディティ価格全般の低迷の主たる原因が中国経済の失速に起因するものだとすれば、いずれインドやアフリカなどの人口増大・生活水準の向上によって再びコモディティへの投資が脚光を浴びる時期が来るものと考えられます。ただ、現時点の原油価格の急落が長期的な上昇トレンドの間の凸凹に過ぎないのか、上昇下落サイクルが短くなったのかは断定できません。となると、原油相場の上昇に過大な期待を持つのは、過去の長期的なリターンの低さから考えてもリスク・リターンが見合わないと考えられます。
とはいえ、米国株が割高な水準にある現時点において原油価格は既に大きく下落していること、ベネズエラや中東産油国の一部に財政破綻の可能性が増していてそれによって原油価格が反発する可能性もないとはいえません。そこで、原油価格がいくらかリバウンドすると思うのであれば、5千円程度の刻みで投資できるWTI原油eワラント2016年3月限コール1回(権利行使価格45ドル、2016年2月17日満期)、ブレント原油eワラント2016年3月限コール1回(権利行使価格50ドル、2016年1月13日満期)や原油ブルETFへの投資が効果的と考えられます。
一方、原油相場に関してはイランの原油輸出再開の効果が織り込まれていない可能性が高いことに加えて、世界各国の株式市場が大幅調整となれば、リーマンショック時のように原油価格もさらに下げることもありえます。この場合は、WTIやブレント原油eワラントのプットや原油ベアETFの出番となるでしょう。いずれのポジションを持つにしても、投資資産全体の数%の金額の投資ポジションに止めておく事が、原油相場の凸凹とスパイクを上手にやり過ごすツボといえそうです。
なお、今回は原油相場についてみましたが、通貨としての側面も持つ金地金や、景気に敏感なベースメタルである銅は原油とは異なる値動きの特徴があるようなので、次の機会に詳しく採り上げたいと思います。
(念のため付言しますと、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。)
eワラント証券 チーフ・オペレーティング・オフィサー 土居雅紹(どい まさつぐ)
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