ギリシャのユーロ離脱懸念や中国本土株の急落、米国の利上げ観測といった海外情勢に振り回され、日本でも景気回復から安保法制に与野党とマスコミの関心が移っているようです。こうした中、「内閣支持率が40%を割れると日本株は下がる」という見方が一部にあるようなので、過去の状況を調べてみました。
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内閣支持率とTOPIXの関係は不明瞭?
図1は2000年1月以降のNHK政治意識月例調査による歴代内閣に対する支持率とその調査が行われる時期に相当する各月第一、二週のTOPIXの平均値の推移です。なお、「内閣支持率」は様々なメディアが出していて、総じて革新系メディアは内閣支持率が低め、保守系メディアは高めに出る傾向があるようです。このため、利用する場合には同じソースの数値の推移を比較する必要があると思われます。
図1: 内閣支持率とTOPIX(第1、2週平均)
※ロイターデータNHK政治意識月例調査よりeワラント証券が作成
今回の分析に用いたNHKの内閣支持率の推移を見ると、押しなべて新首相就任直後は高く、時間とともに低下していることが分かります。また、株価が長期下落トレンドにあった小渕・森政権や福田・麻生政権は総じて内閣支持率の水準が低かった一方、小泉・安倍(2期)政権時の株価上昇局面であっても内閣支持率は下落が緩やかになるだけで上昇トレンドにはならないことも見てとれます。また、小泉、安倍(2期)の内閣支持率は近年の他内閣に比べて極めて高水準で、「安倍政権の内閣支持率低下は問題である」と一部メディアが言うほどのことはないともいえます。
ここで内閣支持率40%(図中赤横線)に注目してみると、小渕・森政権と小泉政権では40%を割った後に株価が急落しています(赤矢印の時期)。しかし、安倍、福田、麻生政権で内閣支持率が40%割れとなった時点(黄色矢印の時点)は、株価がその後やや上昇した後に下落する分かり難い動きをしたり、既に株価が下がりきった大底圏にあったりしています。さらに言えば、世界的なサブプライムバブル崩壊の時期なので、日本の内閣支持率低下が株価下落の原因であったとは考え難い時期でもありました。
その後に続いた鳩山・菅・野田の民主3政権の時期は、米国株・ドイツ株・中国株・韓国株などが揃って急回復していたので、政治停滞と当時の日銀の円高容認政策が日本株低迷の要因ともいえるでしょう。ところが、この3政権の内閣支持率が40%を下回った時点(緑矢印)からは、なんと株価が上昇していました。ある意味、内閣支持率が株式相場に影響を与えていたともいえますが、「内閣支持率が40%を切ったら日本株は売り」とは一概に言い難い事例になっています。
この関係を視覚的に分かりやすくするために、内閣支持率と月初から月末までのTOPIXの変動率をプロットしたのが図2です。NHKの政治意識月例調査は毎月上旬に行われているので、関連性があるなら当月末までの株価変動に影響を与えていたはずです。
しかしながら、分布はかなりランダムで、内閣支持率の水準とTOPIXの月中変動率には明確な規則性は見出せませんでした。
図2: 内閣支持率とTOPIX月中変動率
※ロイターデータNHK政治意識月例調査よりeワラント証券が作成
ちなみに内閣不支持率も見てみたら
NHKの調査には「内閣を支持しない」という回答もあります。この内閣不支持率とTOPIXの推移が図3です。こちらは、積極的に内閣に反対するという性格のものだけあって、内閣支持率とはやや異なる特徴的な動きを見せています。
まず、どの政権でも不支持率は右肩上がりというのは共通ですが、株価が上がっても下がっても、内閣不支持率は時間経過とともに上がっていく傾向があるようです。また、株価が下落トレンドにある、あるいは低水準の政権(森、福田、麻生、鳩山、菅、野田)では、その末期に60%を超える極めて高い不支持率になっています。なお、内閣不支持率から見ると現政権は小泉政権の頃とあまり変わらない低水準にあり、これも危険水準とは程遠いといえそうです。
図3: 内閣不支持率とTOPIX(第1、2週平均)
※ロイターデータNHK政治意識月例調査よりeワラント証券が作成
統計的には内閣支持率30%割れと株価は関係あり?
内閣支持率、不支持率とTOPIXの変動率について、グラフだけでは分かり難いので統計的に有意な関係があるかも調べてみました。その結果、「内閣支持率が30%を下回っている状況ではTOPIXが前月に比べて1.78%程度(日経平均2万円換算で356円)下落している傾向がある」ことが分かりました(信頼度90%)。しかしながら、内閣支持率40%、50%といった区切りでは明確な関係は見出せませんでした。また、内閣支持率30%、40%、50%の水準を下回ることによって、その後の株価に影響を与えていたかどうかを見るために、翌月のTOPIX変動率との関係も調べてみましたが、統計的に有意な関係は分かりませんでした。内閣不支持率とTOPIXの変動率も同様で、有意な関係は発見できませんでした。
次に、内閣支持率、内閣不支持率の水準ではなく、その変化幅に着目すると、「TOPIXが1%変動すると、内閣支持率が0.3ポイント同方向に変化する傾向がある」(信頼度95%)ことが分かりました。これは調査区間では株価が下落していた期間が長いことによる擬似相関の可能性もありますが、株価が下がると内閣支持率が下がるという関係を示唆しているとも考えられます。一方、内閣不支持率の変化に関しては、TOPIXの変動率との関係性はありませんでした。
以上から、一般に言われているように「内閣支持率が下がると株価が下がる」とは言い切れないものの、内閣支持率がどの内閣でも次第に下がっていく傾向にあることも考慮すると、「株価が下がって内閣支持率が下がっていれば、その傾向が続く」という状況が過去にあったとは言えそうです。
内閣支持率を投資シグナルとして使っていたら?
統計的には有効な手法とは判断できないものの、内閣支持率が一定水準を上回った時だけ日本株の買いポジションを採り、特定の水準を下回ったら「待ち」とする投資戦略を用いた場合の試算結果が図4です(2000年1月〜2015年6月、手数料、配当、税金は考慮せず)。内閣支持率の基準は、目安とする見方がある40%に加え、上記分析で一定の関係が認められた30%と、事後的ながらいろいろと水準を変えてもっとも結果が良かった50%の3通りを示しています。
内閣支持率が40%を下回ったら手仕舞いという戦略と、内閣支持率30%を用いる戦略では、2010年頃までは40%の方がやや良かったものの、最近では30%の方が良いという興味深い結果となっています。最も良いパフォーマンスであった内閣支持率50%を用いる戦略は、2007年から安定的に良好なパフォーマンスでした。とはいえ、小泉、安倍(2期)以外の短命政権では就任当初しかポジションを保有しないことで、結果として、2007年以降のサブプライムバブル崩壊に伴う下落を運よく逃れていただけともいえそうです。
この内閣支持率を投資シグナル用いる戦略が今後も有効と考えるのであれば、日経平均プラス5倍レバレッジトラッカーや株価指数ETFなどを用いて、内閣支持率が50%または30%を上回っている時だけ買いポジションを採り、下回ったら手仕舞うということが一案と考えられます。
図4: 内閣支持率をシグナルに運用していたら…
※ロイターデータNHK政治意識月例調査よりeワラント証券が作成
(念のため付言しますと、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。)
eワラント証券 チーフ・オペレーティング・オフィサー 土居雅紹(どい まさつぐ)
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