五輪開催地決定日まで1ヶ月をきる
2013年9月7日は、運命の日となるでしょう。ブエノスアイレス(アルゼンチン)で開催される第125次IOC国際オリンピック総会で、2020年の夏季オリンピックの開催都市が決定されるからです。現在、最終候補として残っているのは、東京(日本)、イスタンブール(トルコ)、マドリード(スペイン)の3都市です。2013年6月25日に公表されたIOC国際オリンピック委員会の最終報告書では、東京のコンパクトな競技場の配置などが高評価された一方、ライバルのマドリードは財政面、イスタンブールは渋滞などの輸送面で厳しい指摘を受けています。
また、初のイスラム圏での開催として最有力と見られていたイスタンブールが、大規模なデモ発生など治安面の不安も浮上してきたことから、東京での開催が期待される状況となってきているようです。
最終的には2013年9月7日に決定するまで、どんな逆転劇があるか判りませんが、経済イベントが少なく、夏休みなどで株式の取引材料が少なくなる中で、2020年東京五輪実現での経済効果とその関連銘柄、また関連銘柄への株式市場の反応を想定してみました。
過去のオリンピックと開催国株価の推移
2000年以降の夏季五輪開催決定国の株価推移を確認しました。招致決定日を100として、開催国の主要株価指数の10年間の株価推移を表したのが、図表1です。
2000年シドニー(オーストラリア)
招致決定日から、開催日まできれいな右肩上がりの推移です。
開催日以降、下落局面もありましたが、反発して大きく上昇。
2004年アテネ(ギリシャ)
招致決定日から2年間で約4倍の急騰、その後ほぼ「往ってこい」の反落もありましたが、開催日に向けて上昇。
開催日以降も堅調でした。
2008年北京(中国)
招致決定日以降、大幅調整で一時半値以下の水準に。その後急反発を見せ、招致決定日から3倍近い水準まで上昇。
しかし、リーマンショックもあり、開催日にかけて急反落しました。
2012年ロンドン(イギリス)
招致決定日から堅調に推移し、3割高の水準までありましたが、リーマンショックで高値の約半分の水準まで急落。
その後、開催日に向けて上昇、開催日以降も堅調な推移となりました。
2016年リオデジャネイロ(ブラジル)
招致決定日以降、上下に振れる展開ながら、約1年後に約2割高の水準に到達。
その後は、多少の戻す局面もありましたが、大きく値を消す展開。招致決定日から約2割強の下落水準です。
2000年以降の5回を総括しますと、開催決定までに急騰していた中国を除き、値幅にばらつきはありますが1年以内に上昇局面があるとは言えそうです。
図表1:2000年以降の夏季五輪決定後の開催国主要株価指数の推移
東京五輪の経済効果と関連銘柄
2020年東京五輪が実現した場合の経済効果は、「東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会」が2012年に発表した試算があります(図表2参照)。生産誘発額だけで経済効果は全国で約3兆円(東京都で約1兆7千億円)、二次的な波及効果として付加価値誘発額や雇用者所得誘発額まで含めると5兆円超える、巨額な数字となります。あくまでも試算であり実際の経済効果はわかりませんが、これだけ巨額の数字が想定されていると言うことは、もし決定すれば日本経済全体に大きなフォローの風となるでしょう。株式市場にも、当然好影響が期待されます。
もっとも直接的な経済効果としては、東京五輪実現のための施設の整備費用があげられます。その中の2大プロジェクトが、新国立競技場と選手村です。総工費約1千億円の新国立競技場は、現在の国立競技場の建て替えることが決定しており、2014年7月から2019年3月までの工事期間が予定されています。まだ事業者は決定していませんが、これほど大きなプロジェクトになると、スーパーゼネコンと呼ばれる鹿島建設(1812)、大林組(1802)、清水建設(1803)、大成建設(1801)、竹中工務店(未上場)などが受注に有利と考えられます。
選手村は晴海地区に事業規模920億円で建設予定です。オリンピック・パラリンピック閉幕後の活用を含めて、ゼネコン、大手不動産が注目しています。現在この地区では三井不動産(8801)、三菱地所(8802)、住友不動産(8830)の大手不動産各社が競って、超高層マンションを建設・計画中です。ここに選手村の開発が決まれば、ウォーターフロントと呼ばれる晴海地区が劇的な変貌を遂げそうです。
これらの経済効果を元に、東京五輪関連銘柄を考えてみますと、
前述した施設の建設関連の企業が想定されます。大手ゼネコンのほかに、海上土木に強みを持つ五洋建設(1893)や、交通インフラの整備で道路関連銘柄、既存インフラの補修関連銘柄などもあげられます。また、セメントの需要増加も期待できますし、金属屋根などニッチな分野にも波及効果が望めそうです。
不動産関連も、選手村などで直接的なメリットもあり、地価上昇などで副次的な効果も期待出来ます。大手不動産がもっともメリットを受けそうです。
スポーツ関連も盛り上がりそうです。2020年東京五輪を睨んでの選手育成が考えられ、企業スポーツの復活や大掛かりなスポーツイベントの増加が期待されます。スポーツ用品の製造、量販店などの関連銘柄が考えられます。
現在、「クールジャパン戦略」で訪日外国人旅行者の増加が国策となっています。政府は2020年には訪日外国人旅行者2,000万人の目標を掲げています。今年度上半期は495万5千人と過去最高を更新しており、今年度1,000万人も達成できそうです。東京五輪が決まれば、実際に世界各国からの旅行者増が想定されます。観光・ホテル・交通関連の銘柄が、関連銘柄として考えられます。
最後に直接的には東京五輪は関係ないですが、含み資産関連の銘柄や、社名などで関連を持つ銘柄についても、短期的には個人投資家の注目を集める可能性があります。
図表2:2020年東京五輪開催に伴う経済波及効果
(単位:億円)
項目 |
東京都 |
その他の地域 |
全国 |
---|---|---|---|
生産誘発額 |
16,753 |
12,858 |
29,609 |
付加価値誘発額 |
8,586 |
5,624 |
14,210 |
雇用者所得誘発額 |
4,687 |
2,816 |
7,533 |
合計 |
30,026 |
21,298 |
51,352 |
- 出所:東京オリンピック・パラリンピック招致委員会発表より
東京五輪関連銘柄の株式市場の反応を考えると
2013年9月7日に、2020年の夏季五輪の開催地として東京が選ばれるか否かは、「神のみぞ知る」で判りません。しかしながら、8月は、主要な経済イベントも少なく、夏休みもあることから、株式市場での取引材料が乏しい月になりそうです。その場合、9月7日の2020年夏季五輪開催決定のスケジュールが、クローズアップされ、東京五輪関連銘柄とされる銘柄が個人投資家などの物色の対象になることが想定されます。特に主力銘柄以外の中・小型の銘柄に注目が集まりそうです。
図表3に、経済効果から想定される東京オリンピックの主な関連銘柄まとめました。
図表3:東京オリンピック関連銘柄
【スポーツ関連】
【観光・交通・ホテル関連】
銘柄コード |
銘柄名 |
業種 |
ポイント |
---|---|---|---|
2450 |
予約サイト |
高級ホテル・旅館・レストランなどの予約サイトを運営。 |
|
4661 |
レジャー |
ディズニーリゾートを運営。 |
|
9001 |
電鉄 |
東京スカイツリーを運営、世界遺産 日光東照宮への外国人旅行者増を期待。 |
|
9009 |
電鉄 |
関東の電鉄。京成スカイライナーを運行。 |
|
9020 |
電鉄 |
国内最大手の電鉄。成田Expressを運行。 |
|
9201 |
航空 |
国内2位、国際1位の航空大手、海外からの旅行者増はメリット。 |
|
9202 |
航空 |
国内1位、国際2位の航空大手、海外からの旅行者増はメリット。 |
|
9603 |
旅行 |
格安航空券大手、ハウステンボスを運営。 |
【建設関連】
銘柄コード |
銘柄名 |
業種 |
ポイント |
---|---|---|---|
1414 |
ゼネコン |
構造物補修工事の最大手。「国土強靭化計画」で追い風銘柄。 |
|
1801 |
ゼネコン |
大手ゼネコンの一角。トルコで海底トンネルを建設中。 |
|
1802 |
ゼネコン |
大手ゼネコンの一角。首都圏の都市開発に強みを持つ。 |
|
1812 |
ゼネコン |
大手ゼネコンの一角。超高層ビルの建設に強みを持つ。 |
|
1871 |
橋梁 |
コンクリート橋梁のトップメーカー、三菱マテリアル系。 |
|
1881 |
道路工事 |
道路舗装大手、JXホールディングス系。 |
|
1926 |
特殊土木 |
基礎・地盤改良など特殊土木の最大手。 |
|
1893 |
海上土木 |
海上土木最大手。五輪会場がウォーターフロントなので、関連工事受注に期待。 |
|
1972 |
屋根 |
金属屋根大手。西武ドーム、京セラドーム、大型体育館などの実績。 |
|
5233 |
セメント |
国内セメント首位。 |
|
5911 |
橋梁 |
国内橋梁トップメーカー。 |
【東京都心再開発】
【含み資産関連・その他】
銘柄コード |
銘柄名 |
業種 |
ポイント |
---|---|---|---|
8289 |
スーパー |
社名がそのままポイント。食品スーパー・ホームセンターなどを運営。 |
|
9671 |
レジャー |
オリンピックと直接的な影響はあまりないが、両社ともに、首都圏での土地の含み資産が多く、オリンピック開催によって地価上昇との思惑で買われやすい。 |
|
9672 |
レジャー |
- 出所:各種公表データより、SBI証券投資調査部作成
五輪招致決定日以降に想定されるシナリオ
五輪招致決定日(2013年9月7日)以降は、落選/当選のどちらかの結果が判明し、下記のシナリオが想定されます。
シナリオ1−落選
- 東京オリンピック関連として、他の銘柄・指数と比較して堅調に推移してきた銘柄については、ネガティブ・サプライズとして、反落の可能性が高そうです。
- 株式市場全体としては、東京オリンピック自体が大きな買い材料とはなっていなさそうなので、極端な影響はなさそうです。
- マドリードに決定した場合、特に関連企業はなさそうですが、イスタンブールの場合、インフラ輸出関連といった切り口で注目される日本企業もありそうです。その場合、「トルコ国民150年の夢」とも呼ばれるボスポラス海峡横断鉄道トンネルを建設している大成建設に特に注目が集まる可能性があります。また、優先交渉権を獲得した原子力発電所関連の銘柄(東芝(6502)、日本製鋼所(5631)、木村化工機(6378)など)も注目の対象になりそうです。
シナリオ2−当選
- 前述の東京オリンピック関連銘柄については、基本的には好材料となりますが、事前に期待で買われていた銘柄については、目先の好材料出尽しで売られる可能性もあります。決定したとしても、実際に東京オリンピックが開催されるのは、7年後の2020年です。それまで、東京オリンピック関連というだけで堅調な相場が続くとは思えません。オリンピック関連という一過性の材料での株価の変動と割り切って、短期的な上昇トレンドのみについていき、押し目=短期的な下落トレンドの始まりと考える投資手法が良さそうです。
- 株式市場全般については、東京オリンピック決定はポジティブ・サプライズとなりそうです。特に外国人投資家にとっては、日本の内需拡大につながり、成長をイメージしやすい好材料となる可能性があります。
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。