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2024-04-21 11:29:22

金価格の急速な調整の背景

2023/10/11
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)

高値を維持してきた金価格だが、ここに来て急落している。2022年のロシアのウクライナに対する軍事侵攻、それに対するドル決済禁止の制裁による「ドル回避」の動きが金価格上昇のドライバーとなり金価格をけん引してきたが、9月FOMCではかなり強気な見通しが示され、年内の複数回利上げ、2024年の政策金利見通しも引き上げたことで実質金利が上昇したことが背景だ。

金価格を2020年の市場データを元に、1.実質金利(金基準価格)、2.低格付企業CDSの水準(安全資産需要)、3.その他(外貨準備のリアロケーション、ドル指数要因など)、の3つの要因に分解すると、米国が利上げを始めた2022年3月末時点では、1.が85%(1,648ドル)、2.が10%(187ドル)、3.が5%(102ドル)だったが、原稿執筆時点で1.が概ね45%(835ドル)、2.が22%(487ドル)、3.が33%(595ドル)となっており、その他の要因の影響と安全資産需要が高まる一方で、実質金利の説明力が低下していることが窺える。

その他の要因には公的セクターの買いが挙げられるが、昨年3月末から今年6月末までの政府・中央銀行の保有金数量はWorld Gold Councilの公的部門保有金準備データを元にすると、世界全体で456トンと増加している。購入している国の上位は1位が中国で165トン、次いでシンガポール(72トン)、ポーランド(48トン)、インド(37トン)となっており、米国と対立している国、ロシアのウクライナ軍事侵攻が経済的な影響を受けた国、ドル価値の変化に備えるための外貨準備のリアロケーションを行う国など、動機は様々だが、構造的に金の絶対価格の水準を押し上げたと考えられる。

政府・中央銀行保有の金売却は、1.有事が発生して金を売却しなければならない、2.金価格の下落が進み、外貨準備の損失発生を回避しなければならない、といった状態に発生する。直近ではトルコ・リラ安に悩むトルコがリラ買い・金売りのオペレーションを行うなどの動きがみられたが、やや特殊な事情と考えられる。そのため、基本的には公的セクターの金積増しは価格を支えることになる。

しかし、直近の動きだけを取り上げると、実質金利の上昇が金価格を押し下げると同時に、その他の要因も価格を押し下げていることがわかる。その他の要因は、恐らく株価の下落や債券の下落など、ファンド筋の「主戦場」の市場の損失をカバーするための益出し売りの影響と考えられる。統計の発表を待たなければならないが、公的セクターの売りではないのではないか。この事実と逆説的であるが、金融引締めの影響を受けた低格付企業の破綻リスクに備える安全資産需要は高まっている状況だ。

出所:CME

弊社は市場コンセンサスをベースに、年内のFRBの利上げが見送られ、来年の5・6月頃から利下げが行われて実質金利が低下することが金の基準価格を押し上げるが、金融緩和による安全資産需要の低下がリスク・プレミアムを押し下げ、その低下圧力の方が大きいことから、来年夏頃から金価格が下落するというシナリオを想定していた。しかし、それよりも遙かに早いタイミングでの下落となっている。これまで観てきたように、金価格に対する説明力が高い、FRBの金融政策がタカ派に転じたからだ。今後は、各国政府・中央銀行の買いが絶対価格水準を下支えするため金価格は高値を維持するものの、米金融政策が想定以上にタカ派の状態であることから、政策金利上げ打ち止めの雰囲気が醸成されるような統計の発表(インフレ率低下や雇用環境の悪化など)があるまでは、金価格は高値ながらも下振れリスクを意識せざるを得ない展開が続くと予想される。

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)

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