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年末までの原油価格のメインシナリオは
2023/6/28
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
2023年の原油価格は年初から上昇し、リサーチハウスによっては年末に100ドルを超える水準まで上昇するという見通しのところも多かったが、実際の原油価格は下落しBrent価格ベースで80ドルを下回っている。原油価格上昇見通しの背景は世界2位の消費国である中国の景気が回復するからというのがその背景にあったが、想定よりも中国の景気が回復していないことによる。
この20年で中国の石油市場におけるポジションは大きく変化し、今や米国に比肩する石油の一大消費国となった。一方で米国はシェール革命以降、自国内生産が増加したことでネット輸出国(輸出量の方が輸入量よりも大きな状態)に近い状態になっており、原油の国際市場における中国のプレゼンスは米国よりも高い。しかしこれまで中国の統計が発表された前後で原油価格が動いたことはなく、引き続き米国の指標発表後に価格が動いていることが多い。このことはまだ原油価格動向を決定する上で米国の重要性が高いことを示唆している。しかし各リサーチハウスが中国の回復を過剰に期待し、それが年初から春先の相場動向を左右していた以上、今後、中国の動向によってはそのリサーチを元にポジションを取る市場参加者が多いと考えられ、工業金属のみならず原油価格動向についても中国の経済動向を把握することが重要になってくると考えられる。
出所:BP
では、その中国の景気見通しはどうか。OECDが算出している景気に6ヵ月程度先行するとされる先行指標を見ると直近5月の数字は好不況の閾値である100に近接しており、恐らく今年の11月〜12月頃に中国景気は回復に転じる可能性が高い。そのため、原油価格は早ければ年末に上昇に転じると予想される。一方、欧米はインフレ抑制のための金融引締めを継続しているため、むしろ年後半に掛けて減速する可能性が高い。これを総合して考えると恐らく年内の原油需要の回復は限定的であり、恐らく世界景気が底入れすると期待される2024年1月〜3月の間に底入れして上昇に転じることになるのではないか。このとき、既にOPECプラスが2024年の減産を表明しているため、景気回復と減産の2つの価格上昇カードが揃うことから、原油価格の上昇は顕著なものになる可能性がある。
出所:OECD
しかし、この見通しにも当然リスクが伴う。まず上昇リスクは中国政府が大規模な景気刺激を行った場合だ。ただ、中国は2010年頃に人口動態がピークアウトしており、不動産セクターの調整も終了していないため経済対策の規模は限られてしまう。また、かつての日本と同様に中国が流動性の罠に陥っている可能性も否定できなくなってきた。そのため財政出動による価格上昇の影響は限定されるだろう。その他の材料としては、米国が金融緩和に舵を切る、といったファイナンシャル要因が考えられるが、FRBパウエル議長はむしろ金融引締めを示唆しているためこの可能性も低い。この他の要因だと、大規模な減産をOPECプラスが決定することが考えられるがこの前のOPECプラスの紛糾振りを見るとそれも簡単ではないだろう。あとはロシアのウクライナ軍事侵攻に類似したイベントリスクの発生だが、これはさすがに現時点ではなんとも言えない。あるとすると農業国であり産油国でもあるナイジェリアが、エルニーニョ現象による不作で暴動が発生し、原油供給に支障が出る場合が考えられるが、エルニーニョ現象が発生した時はむしろ豊作になっていることも多いため蓋然性の高いリスクシナリオではない。
では、下落リスクはどうか。一番分りやすいのが、FRBが追加で金融引締めを行う場合だ。これはその可能性について既にパウエル議長が言及しているため、発生する可能性は比較的高い。同様に景気が減速して需要が下振れするリスクとすれば、原油市場でのプレゼンスが上がった中国の不動産バブルが崩壊する場合だろう。あとは供給面の材料で、OPECプラスの結束が揺らぎ増産合戦が発生する場合が考えられる。
基本、リスクシナリオが発生しないよう、各国の為政者が努力している最中ではあるが、景気減速局面では政治的に間違った選択をしてしまうことが多いため、上昇/下落両サイドのリスクの発生を想定しておく必要性があるだろう。
株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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