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米金融引締め加速も金価格は高値維持か?
2022/6/29
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
6月15日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)では、27年7か月ぶりに0.75%の政策金利の大幅利上げが行われた。3月に0.25%、5月に0.5%の政策金利の引き上げが行われ、金融緩和の縮小を始めてからもインフレの加速が止まらず、前回5月の会合で事前に示唆した利上げペースを上回る強硬策がとられた。
会合後の金価格動向を振り返ると、会合前の6月10日に公表された5月の米消費者物価指数が予想(前年比+8.3%)に対して前年同月比+8.6%と約40年ぶりの水準まで上昇していたことを受け、急遽市場は0.75%の利上げがあるのではないか?と0.75%の大幅利上げを織りこんでいたため米長期金利も同様に既に上昇しており、利上げ発表後はイベント通過で米長期金利はむしろ低下し、金価格は上昇した。
金価格と米実質長期金利の間には高い相関性があるのは、当コラムでも触れてきた。市場のインフレの指標である期待インフレ率は10年の物価連動債を元に算出されるが、金はその物価連動債が上場される前からインフレヘッジに用いられてきた商品であり、両者に強い相関性がみられるのは自然だ。米実質金利が上昇する局面では、金利の付かない金は売られやすく逆の動きとなる。今回のFOMCは利上げ決定にもかかわらず、金価格は上昇した。今後の金相場はどのような展開が想定されるか。
今回6月の会合で発表されたFOMCメンバーによる2022年末時点での政策金利(米FFレート)の見通しは3.4%。23年末の見通しは3.8%まで上昇し、24年末の見通しは3.4%と利下げを織り込む予想となっている。期待インフレ率を目標まで抑制するため、2022年は強力な利上げを行い、23年度も様子を見ながらの利上げが続くものの、24年には物価上昇が落ち着き、25bpsの利下げを2回程度見込んでいることになる。そして市場は、米長期金利については3.5〜4.0%程度までの上昇余地を見込んでおり、依然として米長期金利の先高観は強い。つまり、市場が織り込んだシナリオ通りに米長期金利が上昇した場合、金価格は下落することが予想される。しかし、直近の10年金利は低下を始めている。これは米国の金融引締めの影響で、景気が悪化する、との懸念が強まっていることによる。即ち、この場合は金融引締め加速観測が後退し、金価格を下支えすることになる。
出所:FED
実際には期待インフレも考慮した実質金利で見通しを想定するべきだが、簡単のため今回の分析では10年金利(10年債券利回り)と金価格の関係性に着目すると、直近1年の米10年金利に対する金の感応度は±1bpあたり±2.5ドルであるため、50bpsの米長期金利上昇によって、金価格は▲150ドル下落することになる。現在の金価格が1,835ドル程度であるため(原稿執筆時点)金の価格は1,685ドルとなり、2020年のコロナ感染拡大を受けて利下げが実施される前の金価格1,700ドルを下回る水準まで下落することになる。しかし、物価上昇を制御できないまま景気後退(スタグフレーション)が起こることも有り得、この場合は期待インフレ率が高止まりして10年名目金利が上昇しても、実質金利が充分上昇しない可能性があり、この場合は価格下落は抑制されることになる。
一方、金価格の構成要素のうち、金利以外の要因であるリスク・プレミアムの動向も、金価格を下支えすると考えられる。現在市場が織り込んでいるシナリオでは、中立金利を上回る強力な利上げの後にはその副作用として景気減速が予想されている。米国が仮に制御が可能だったとしても、米利上げによって資金が米国に還流、自国の通貨が下落した場合財政が脆弱な新興国をはじめ信用リスクが高まる可能性がある。アジア危機が起きた2000年頃の状況に似ているが、東南アジア諸国は20年前から財政状況や経済規模が拡大しており、相応の耐久力があることを考えると、恐らく今回は中東、北アフリカ、東欧、中南米などの新興国が対象となるだろう。この場合、リスク・プレミアムは上昇し、金価格が下支え、場合によるとさらに上昇することも想定される。米長期金利が上昇する局面においても、近い将来の景気減速、信用リスクの悪化が懸念されている状況を勘案すると、金価格の下落余地は限られ、高止まりする可能性が高いとみている。

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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