英EU離脱、「合意なき離脱回避」の一山を越えるか?
迫った英EU離脱期限の10/31を前に、先週末10/19に離脱協定修正案の採決の行方に注目が集まっていました。しかし、ジョンソン首相の求めていた、あるいは市場が期待していた離脱協定修正案の採決は行われませんでした。保守党を離れたLetwin議員が議会に提出した動議案も、立法手続きなどの時間を要する作業によって10月末の離脱期限を過ぎてしまう可能性が高いため、自動的に「合意なき離脱」になることを懸念し、立法手続きが終わるまでは離脱協定案の承認を行わない内容のいわゆる「Letwin案」と呼ばれた案が賛成322票、反対306票で可決され、離脱協定修正案の採決が先送りとなりました。
先週は、10/17にEU離脱協定修正案が英国とEUとの間で合意したと報じられたこと、また英議会でも協定修正案が可決されることによる10月末の英EU離脱期限を前に「秩序ある離脱」に向かうとの期待を背景に、ポンドは対ドルで1.2989ドルへ上昇したほか、対円でも141円50銭まで上昇し、いずれも今年5月以来の高値を回復しました。
しかし、先週末の採決先送りを受けて週明けのシドニー市場でポンドは対ドルで1.2874ドル、対円で139円47銭へ下落しました。しかし、「Letwin案」に基づく合意に向けて英政府は立法手続きを今晩もしくは明日にも可能になるよう努めるとの意向が明らかになったこと、さらに、「Letwin案」に賛成票を投じた議員の中にも離脱協定修正案に賛成票を投じた議員もいることが確認されたことから、立法手続きが進めば、離脱協定修正案の採決、さらに可決への期待もあることが週明けのポンド小幅な反落に留まっている要因となっています。
また、10/19に期限を迎え、EUに対する10月末の離脱期限の延長を要請するための書簡送付について、ジョンソン首相は署名なしの延長申請、また、署名付きの離脱延長は好ましいものではないとする書簡などを送付しました。これに対するEU側の態度が詳しく報じられていないことが現状(10/21午前9時00時点)です。
先週10/19に、ジョンソン首相はEUと合意した離脱協定修正の採決に向けて演説する中でEU離脱は2016年の国民投票で決定したこと、EUからの離脱を巡る国内世論の対立がこれ以上長期化することが経済的な損失につながること、EU離脱以降、様々な事項に関しても英議会が議論し、英議会の意向で決めることができること、それにより英国経済や英国民の発展につながると強調、今後は英国のことはEUに縛られることなく決定できることを前向きに捉えるべきであると主張しました。また、アイルランド国境問題の解決に至るまでEU同盟に残る安全策を設けない、北アイルランド議会はEUルール適用の継続について4年毎に判断し、アイルランドとの国境に物理的税関を設けないなど、アイルランド国境問題でEU側に譲歩しました。
しかし、北アイルランドはEU単一市場に部分的に留まること、さらに農産物・工業品の基準や付加価値税などもEUルールを適用することは、英国と北アイルランドとの経済圏の分裂、一国二制度になるとして、北アイルランドを地盤とする民主統一党(DUP)は離脱協定修正案に反対の意向を示したことから、離脱協定修正案の採決が行われた場合でも可決されるか微妙な情勢と言われていました。さらに、最大野党労働党のコービン党首はジョンソン首相の離脱協定修正案の説明に対し、労働者の権利が保障されているといい難く、EU向け輸出が限りなく制限されることになれば、自動車産業をはじめ英国からの輸出産業が計り知れず大量の失業者を生むリスクがあるとして離脱協定修正案に反対し、離脱後に英国がEUとどのような経済関係を結ぶのかが明確にされていない点も反対の理由の一つとなっています。
EUとカナダなどで締結されているFTA(自由貿易協定)のようなFTAを英国がEUとの間で締結することをEU側が簡単に受け入れるか、仮にEU離脱が秩序ある離脱で落ち着いたとしても、先行きの課題が残されることになり、ポンドの堅調地合いが継続するか疑問視する見方があるのも事実です。さらに、英国のEU離脱以降も、EU離脱に反対するスコットランドなどで英国からの独立を目指す動きが再燃する可能性もあり、北海油田を抱えるスコットランドが経済的地位で英国への不満が高まるとの懸念も聞かれています。
いずれにしても、今週も引き続きEU離脱協定修正案を巡る英議会の動向が注目されます。
仮に英EU離脱協定改正案が議会で否決された場合、あらためてEUと合意した離脱協定案を掲げて国民投票を実施するか、あるいは内閣不信任案の提出等を経て内閣を解散させ、野党を中心とする暫定政権を樹立し、そこから解散・総選挙という展開も予想されます。
しかし、先週10/19の「Letwin案」に賛成した議員の内、数名は離脱協定案に賛成票を投じる意向を明らかにしているほか、野党労働党の中にも離脱協定案に賛成票を投じるとする議員がみられただけに、合意の立法手続きの進捗とともに採決の行方も今週の注目材料となると思われます。
「合意なき離脱」の回避、「秩序ある離脱」が確実になった場合、どの程度期待が継続するのか、また英国の先行きの課題をどのように見据えるか、一山を越えることができるか注目されます。