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【そうだったのか!ETF徹底解剖】第9回 ETFの連動対象の指数とスマートベータ
2018/03/07
昨今ETFの世界ではスマートベータと呼ばれる運用手法を用いた商品が注目を集めています。しかし、スマートベータとはどのようなものなのでしょうか?
スマートベータを理解するためには、そもそもベータとは何か?を理解しておく必要があります。ベータとは簡単に言えば市場全体のリターンのことだと考えればいいでしょう。具体的には、ある資産クラスについての時価総額加重ベンチマークのリターンのことをベータといいます。(学術的な世界ではより厳格な定義が存在しますが、一般的な実務の世界ではこの理解で十分です。)それに対して、ベンチマークを上回るリターンをアルファといいます。(こちらもより厳格な定義が存在しますが、ここでは簡略化します。)アクティブ運用は基本的にはこのアルファを目指す運用、すなわちベンチマークのリターンであるベータを上回る運用を目指すものです。
たとえば、S&P500やTOPIXのような時価総額加重のインデックスに連動するような運用(パッシブ運用)を行うファンドのリターンはベータ、アクティブ運用のファンドのリターンのうち、ベータ部分を上回ったものをアルファだと考えればいいでしょう。
ベータに対する疑問
時価総額加重での運用は、基礎的な投資理論の教科書に沿うと最も効率的な運用であるとされています。ただ、これについては市場が効率的であるという前提が必要です。市場が効率的であるとは、簡単に言えば市場において株価は常に正しいということです。
しかしながら、この前提はかなり厳しいものであると考えられます。歴史を振り返っても米国、また日本においても株価はオーバーシュート(買われすぎ・売られすぎ)を繰り返してきているように見えます。市場が効率ではないと仮定した場合、時価総額加重で運用するということは、株価が割高な銘柄を多く持ち、株価が割安な銘柄を少なく持つということになります。これは一般的な投資家の感覚とは逆の手法であるように思えます。
そういった中で、「株価×株数」である時価総額で銘柄の保有比率(ウェイト)を決定するのではなく別の指標(配当・利益・簿価など)を用いて銘柄のウェイト付けをした運用をしたほうがより効率的ではないか?という考え方が生まれてきました。
アルファに対する疑問
一方で、アクティブ運用者が目指しているアルファについても懐疑的な見方が広がってきています。米国においては大型株のアクティブマネジャーのうち、実に90%以上が過去五年間においてベンチマークをアンダーパフォームしています(※1)。また、仮にベンチマークをアウトパフォームしていたとしても、そのリターンの大部分は、ルールに基づいて運用することで複製可能ではないか?ということも言われ始めました。そして、アクティブ運用者のアルファをルールベースの運用手法によって再現できるのであれば、高い運用報酬を払ってアクティブのファンドマネジャーを雇うよりもコストを抑えることが出来るのではないかというアイデアが考えられました
※1 出所:“SPIVA U.S. Scorecard Mid-Year 2016” S&P Dow Jones Indices
スマートベータの登場
そういった中で注目を集めているのがスマートベータという手法です。スマートベータの細かい定義は人によって差異があるものの、広義では時価総額加重ではないインデックス及びそれに連動する運用戦略を指します。
具体的には、例えばウィズダムツリーでは、時価総額ではなく、配当額で加重した配当加重インデックスや利益額で加重した収益加重インデックス及びそれに連動するETFを提供しています。スマートベータは透明性の高いルールに基づいた投資戦略によって、時価総額加重よりも優れた(リスク調整後)リターンを目指すものです。これによって、時価総額加重の問題点を解決すると同時に、アクティブマネジャーに高い報酬を払う必要性もなくすことが可能になります。
スマートベータをどのように選ぶのか?
スマートベータの有用性が市場に浸透するにつれて、多くのスマートベータETFが登場しています。そのためスマートベータの選択肢が増え、投資家がベストなスマートベータ戦略および商品を選択するのが難しくなってきています。ウィズダムツリーでは以下の5つのポイントをスマートベータを選択するための注目点としています。
1. ある資産クラスの広範かつ代表的なエクスポージャーを提供する、ルールに則った繰り返し可能な手法
2. 十分な投資キャパシティを可能とする代替的な加重手法
3. 確立したベンチマークとの高い相関性
4. トータルリターンとリスク調整後ベースでの確かな実績
5. 定期的なリバランスによって、相対的価値が保たれていること
特にポートフォリオのコアとしてスマートベータを利用する場合には上記の5カ条は必ず意識しておくべきことであるといえます。
ベータの代替としても、アルファの代替としても活用可能
スマートベータおよびスマートベータETFはより効率的なポートフォリオを作成するための新たな武器となると考えられます。
例えば、時価総額加重のベンチマークよりも効率的な運用手法だと思われるスマートベータETFをポートフォリオのコアに据えることも可能でしょう。また、現在保有している投資信託がアクティブ運用をしていたとしても、それとほぼ同じコンセプトのスマートベータETFは、より運用報酬が安くなっているかもしれません。(それに加えてパフォーマンスがよいという場合も多いのですが。。。)
このように、スマートベータETFを使うことで、コアのポートフォリオをより効率的にしたり、アルファを狙うにしてもそのポートフォリオ全体のコストを下げたりすることが可能となります。「パッシブか、アクティブか」の二元論で語られがちですが、「パッシブか、スマートベータか、アクティブか」で考えることで、よりポートフォリオを効率化できる可能性が広がります。
著者
渡邊 雅史(わたなべ まさふみ)
ウィズダムツリー・ジャパン株式会社 ETFストラテジスト
アクセンチュア株式会社にて金融機関向けコンサルティング業務に携わった後、バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現ブラックロック・ジャパン)にて、ポートフォリオマネジャー、ストラテジスト、及びETF部門専任のストラテジストを歴任。金融ベンチャー企業に参画した後、2016年よりWisdomTree JapanのETFストラテジスト。ETF市場の分析、ETFを用いた運用戦略の立案・提案業務などに携わる。
慶應義塾大学総合政策学部卒、早稲田大学大学院ファイナンス修士(MBA)。
著書に『計量アクティブ運用のすべて』(金融財政事情研究会)(共著)