米中通商協議の再開をきっかけに長期金利が底入れして、低迷していた銀行株のパフォーマンスが改善しつつあります。「グロース/ディフェンシブ」から「バリュー/シクリカル」へ物色のシフトがみられる中、銀行株はバリュー株物色の本命となる可能性もありそうです。今後も好パフォーマンスが続く可能性について検討してみましょう。個別銘柄では、JPモルガンチェースが本命とみられ、シティグループもおもしろそうです。
図表1:米国の大手銀行
銘柄 | 株価(10/29) | 52週高値 | 52週安値 | JPモルガン チェース(JPM) | 126.43ドル | 127.41ドル | 91.11ドル | シティグループ(C) | 73.09ドル | 74.27ドル | 48.43ドル | バンク オブ アメリカ(BAC) | 32.07ドル | 32.22ドル | 22.67ドル | US バンコープ(USB) | 57.34ドル | 57.78ドル | 43.14ドル | ウェルズ ファーゴ(WFC) | 52.17ドル | 55.03ドル | 43.03ドル |
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- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
長期金利の反発とともに銀行株のパフォーマンスが改善
米中が通商交渉の再開に合意した9/5(木)から10年国債利回りが大幅反発し、これを契機に貿易摩擦への懸念から避けられていた銘柄や景気感応度の高い銘柄が物色され、その一角として銀行株のパフォーマンスも改善しています(図表2)。
10年国債利回りは9/4(水)の1.466%から9/13(金)には一時1.9%台まで一気に上昇、その後10月上旬まで反落となりましたが、その間も銀行株のパフォーマンス悪化は限定的で、市場の物色意欲が継続している気配がありました。
果たして、10年国債利回りが米中閣僚級協議の開催を機に10/10(木)から再び上昇に転じると、銀行株も再び力強い上昇となっています。10/28(月)にはトランプ大統領が米中通商協議の交渉は順調だと発言して1.8%台まで戻し、テクニカル的にも節目を抜けてきました。
そこで今回は銀行株の投資環境と業績動向を確認して、銀行株が市場平均を大きく上回って上昇する可能性を検討してみました。
長期金利は上昇傾向が予想されている
まず、銀行株のパフォーマンスに影響が大きい金利の見通しについてみてみます。
世界景気の減速と米中貿易摩擦による影響で、米10年国債利回りは18年10月の3.2%超から19年9月の1.5%割れまで1.7%幅で下落してきました。
しかし、今後については図表3の通り、21年にかけて上昇傾向が見込まれています。足もとで景気への懸念は依然として強いものの、債券市場は先んじて織り込んだということでしょうか。
図表2でみたように銀行株のパフォーマンスは米10年国債利回りと連動する傾向が強いため、銀行株パフォーマンスの改善が続く可能性が高いと考えられます。
また、政策金利は20年の4Q(10-12月期)まで低下傾向が予想されていることから、長期金利と短期金利の利ざやは拡大が見込まれます。
銀行は短期の資金を調達して、長期に貸し出すことで利益をあげます。短期の調達金利に影響のある政策金利が低下して、貸出金利に影響が大きい10年国債利回りが上昇するとすれば、銀行の経営環境は改善が見込まれます。
銀行株に投資する投資環境は悪くないと言えそうです。次節で、銀行株の業績動向とバリュエーションについて確認してみましょう。
図表2:相対パフォーマンスが改善する銀行株
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表3:長期金利は上昇傾向が想定されている
- 注:10/28(月)時点の予想値です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
大手銀行の業績は概ね好調
大手銀行の7-9月期決算は概ね好調でした。
図表4の通りウェルズファーゴが減益となったのを除いて4社が増益を確保して、市場予想との比較でもEPSはウェルズファーゴを除いて上回っています。特にJPモルガンチェースとバンクオブアメリカは、それぞれ市場予想比9%、10%と大きく上回って好調が目立ちました。
業績の内容については、銀行の収益は大きく純金利収入と非金利収入に分けられますので、それぞれの状況をみてみます。まず、純金利収入は、前年同期比8%の減少となったウェルズファーゴを除いて、横ばいから若干プラスが確保されています。
長期金利が大幅に低下している割に貸出利ざやの縮小は小さい一方、金利低下を受けて住宅ローンや自動車ローンやクレジットカードの利用が伸びて貸出の数量増で一部カバーしたことが要因です。例外となったウェルズファーゴは、貸出額の伸びが限定的で利ざやの低下が純金利収入の減少につながりました。
非金利収入については、消費者向けのビジネスが活況で、機関投資家や事業会社向けホールセール事業が不振の場合でも、これをカバーして増益となった銀行が多くなっています。米国の消費は堅調な雇用を背景に強い状況が続いており、銀行はこの恩恵を受けています。
一方、非金利費用については、長期金利が大幅に低下したことで一般的に事業環境は厳しく、コストの抑制が効いている銀行が多く、利益増の源泉となっているケースが多くなっています。
さらに、自社株買いで発行済株式数が減少し、純利益の伸びに対してEPSの伸びが大きくなっています。発行済株式数の前年同期比減少率は、シティが10%、ウェルズファーゴが9%、バンクオブアメリカが8%、JPモルガンチェースが6%、USバンコープが3%です。
銀行株のバリュエーションには上昇余地がありそう
主要なバリュエーション指標を銀行株指数とS&P500指数で比べると、予想PER(株価収益率、今期予想ベース)では18.5倍と11.6倍、実績PBR(株価純資産倍率)では3.51倍と1.30倍、予想配当利回りでは1.93%と2.77%といずれも市場平均に比べて低水準となっています(10/28(月)時点)。
銀行業界の成長性が市場平均に比べて低いため、通常は市場平均に比べて大幅なディスカウントとなることが多くなっています。
ただ、最も重要なバリュエーション尺度と考えられるPERを過去推移と比較すると、比較的低水準と言えそうです。図表5は、銀行株指数の予想PERの推移ですが、景況感によって水準は大きく変化してきたことがわかります。
16年初に中国経済の失速懸念があったとき、また、昨年末から今年初めに米中貿易摩擦から景気に対する懸念が高まったときには10倍を割り込む局面がありました。一方、米10年国債利回りが3%を超えた18年には15倍に達する局面もありました。
平均的には11倍から13倍程度が平常的なバリュエーションとみられます。現在の11.6倍は割安なほうといえそうです。このため、長期金利の底入れが確認されて上昇傾向となるなど、投資環境が改善する場合には、株価に上昇余地があると言えるのではないでしょうか。
図表4:大手5行の7-9月期決算は概ね好調
7-9月期 実績 | 7-9月期の 前年同期比 | 予想乖離 | ||
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JPモルガン チェース(JPM) | 収益(億ドル) | 301 | 8% | 6% |
EPS(ドル) | 2.68 | 14% | 9% | |
バンク オブ アメリカ(BAC) | 収益(億ドル) | 230 | 0% | 1% |
EPS(ドル) | 0.75 | 13% | 10% | |
ウェルズ ファーゴ(WFC) | 収益(億ドル) | 220 | 3% | 4% |
EPS(ドル) | 1.03 | -10% | -9% | |
シティグループ(C) | 収益(億ドル) | 183 | 0% | -1% |
EPS(ドル) | 1.97 | 14% | 1% | |
US バンコープ(USB) | 収益(億ドル) | 59 | 4% | 2% |
EPS(ドル) | 1.15 | 8% | 4% |
- 注:S&P500銀行株指数の時価総額上位5行です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表5:銀行株のPERは比較的低水準
- 注:S&P500銀行株指数の予想PERです。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
S&P500指数には米国の「銀行」として19行が採用されていますが、ここでは時価総額上位5行をリストアップしてご紹介いたします(ゴールドマンサックスとモルガンスタンレーは「投資銀行業務」が主力のため、ここには含めていません。)
図表6でEPSの推移をみると、JPモルガンチェース、シティグループ、バンクオブアメリカが18年から20年に向けて増加モメンタムが強く、注目できるでしょう。
利益の成長と質の両方を備えて最も安心感があるのはJPモルガンチェースでしょうか。利益の変化率の高さとバリュエーションの低さからシティグループもおもしろそうです。また、収益の安定感が増しているバンクオブアメリカも引き続き注目できるでしょう。一方、ウェルズファーゴは、不正口座開設の発覚以来、相対的にさえない業績が続いています。
- 米国の資産額1位、貸出額1位の大手銀行です。米国23州で銀行業務に従事するほか、世界約60ヵ国において金融事業を展開しています。「チェース・バンクUSA」はクレジットカード発行を手掛け、投資銀行の「JPモルガン・セキュリティーズ」は債券引受額でグローバルトップを誇ります。また、同行はフィンテックなどテクノロジーへの投資額が大きいことでも注目されています。
- EPSの増加モメンタムではシティグループに劣りますが、利益のクオリティの高さを求めるなら同行が良いでしょう。7-9月期のEPSは16%増で、市場予想も9%上回って好調でした。純金利収入は利ざやの縮小を貸出額の増加で相殺して前年同期比2%増を確保、非金利収入は投資銀行や債券関連業務の手数料が牽引して同14%増と伸ばしています。
- 個人と法人向けに世界160ヵ国以上で金融サービスを展開する米国の大手銀行持株会社です。クレジットカード「Citi」を含む一般消費者向け小売銀行業務、企業向け銀行業務、投資銀行、証券仲介、機関投資家向けのプライベートバンキングなどの業務、また資産運用・管理のほか、米国内外での住宅ローンや個人融資などの消費者金融も扱います。
- 7-9月期は、グローバル・コンシューマー・バンキング部門の純利益が前年同期比2%増でしたが、前年同期にあった事業売却益を除くと実質同13%増と、見かけよりも好調な決算であることに注目できます。北米事業が同9%増、海外事業が同20%増と揃って良くなっています。同社は数年にわたって収益性の低い海外事業を整理してきましたが、その成果が出てきていると言えそうです。
- 米国で預金額3位、資産額2位の大手銀行です。全米と世界35以上の国々で消費者向け金融サービス、商業銀行、投資銀行、資産運用まで幅広い事業を展開しています。
- 7-9月期は引き続き消費者向けの部門が好調で、ホールセール部門の利益減をカバーして二桁の増益としました。純金利収入は、ローンとリースの合計が前年同期比6%増えて、利ざやの縮小をカバーして増加を確保しています。同社はここ数年業績の相対的な好調が目立ってきましたが、その分相対的な株価評価も改善して、従来あった割安感は低下している面があります。
- ミネソタ州に本社を置く地方銀行大手で、主力の商業銀行「US Bank」は資産額で米国5位です。中西部、西部を中心に25州で銀行業を展開、3,000以上の支店と5,000近いATMをネットワークしています。食品雑貨店の一角などに設置されるインストアブランチのネットワークでも知られています。
- 同行のROE(株主資本利益率)は、JPモルガンチェースを上回る15.1%を誇ります。これがPER、PBRなど株価評価の高さに繋がっています。銀行経営の水準が高い上に、同行収入の27%を占める「ペイメントサービス」(クレジット・デビットカードの加盟店管理業務をグローバルに展開する「Elavon」)のへの期待が高いことも要因になっていると見られます。ただ、このところEPSの推移は他行比でやや見劣りしており、市場の期待に沿えていない部分もありそうです。
- 3つの地方銀行が経営統合してきた銀行で、展開している地域での市場シェアが高く、良質の預金を確保していることが強みとされます。住宅ローンの組成に強いことが特徴で、同分野ではシェアトップです。ウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャーハサウェイの主要投資先の一つであることでも有名です。
- 16年9月に不正口座開設が発覚して以来、営業慣行および経営体質の是正に努めていますが、規制当局を満足させるには至らず、引き続き総資産を2兆ドルに制限する罰則の下で営業しています。7-9月期決算では、純金利収入が利ざやの縮小を受けて前年同期比8%減となったことを主因に減益となりました。他行に比べて業績の伸びが低い状況が続き、株価もさえない展開となっています。
図表6:各行EPS(1株当り利益)の実績・予想推移
- 注:10/28(月)時点の予想です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表7:大手5行の投資指標
株価(10/28) (ドル) | 予想PER (倍) | PBR (倍) | 配当利回り (%) | 実績 ROE(%) | |
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JPモルガン チェース(JPM) | 126.51 | 12.3 | 1.80 | 2.69 | 14.2 |
バンク オブ アメリカ(BAC) | 31.84 | 11.5 | 1.27 | 2.07 | 10.8 |
ウェルズ ファーゴ(WFC) | 51.65 | 11.5 | 1.37 | 3.72 | 12.2 |
シティグループ(C) | 73.59 | 9.6 | 0.98 | 2.60 | 9.8 |
US バンコープ(USB) | 57.02 | 13.2 | 2.04 | 2.77 | 15.1 |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。