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雇用統計前後のトレンドパターンの検証と投資法

2016/09/12

毎月上旬に発表される米国の雇用統計は多くの投資家が注目する相場イベントの一つです。雇用統計の発表直後は米ドル相場を中心に大きく変動する傾向がありますので、短時間で値幅を狙った取引をする方もいらっしゃるようです。近年、雇用統計が特に注目されるようになったのは、米国の金融政策は雇用の安定を目的としているので、雇用統計の内容によって金融政策が変わる可能性が市場に意識されるようになったためと考えられます。

その一方で、金融政策の変更ならともかく、雇用統計という一指標の発表による相場変動は一時的なノイズでしかなく、雇用統計の発表が相場のトレンドに変化を与えるきっかけにはならないのではないか、という仮説も考えられます。

そこで本稿では、過去の雇用統計発表日のデータを元に雇用統計の前後で米ドル対円相場のトレンドに変化が起きていたのかを検証しました。検証の結果、雇用統計発表前に上昇トレンドが発生している場合においては、雇用統計発表後に下落する事象が上昇が継続する事象よりも多く発生していたことが分かりました。

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雇用統計は相場の転換点になっていたのか?

図1は2016年4月1日から2016年9月6日の米ドル対円相場の推移(日足、日時は日本時間)です。図中の丸で囲んでいる所が雇用統計発表日です。矢印で示しているのは相場の方向を示すトレンドです。雇用統計発表日が短期のトレンドの転換点を示唆していることもあれば、特にトレンドの転換点にはなっていないこともあります。

図1:米ドル対円相場の推移(2016年4月1日〜2016年9月6日)

※ロイターよりeワラント証券投資情報室作成

トレンドパターンごとの発生回数

過去において雇用統計がトレンドの転換点を示唆していたかを計量的に検証するため、雇用統計の前後のトレンドパターンを図2にある9パターンに分類しました。

図2:トレンドパターンの分類

次に、雇用統計発表日の10営業日前と1営業日前、雇用統計発表日の1営業日後と10営業日後をそれぞれ比較点として、米ドル対円相場が1%以上の上昇であれば上昇トレンド、−1%以下の下落であれば下落トレンド、それ以外なら横ばいと定義しました。例えば、1ドル=100円なら1%で1円なので、大まかに1円を超える変動がなければ横ばいとした前提での検証です。
過去の雇用統計発表日はBureau of Labor Statistics(労働省労働統計局)のホームページから取得し、1994年2月4日の雇用統計発表日から各トレンドパターンが何パターン現れるか計測しました。計測の結果は表1の通りです。

表1:トレンドパターンごとの発生数

トレンドパターン 発生数 発生割合
上昇→上昇 23 8.5%
上昇→横ばい 29 10.7%
上昇→下落 35 12.9%
横ばい→上昇 35 12.9%
横ばい→横ばい 52 19.2%
横ばい→下落 26 9.6%
下落→上昇 21 7.7%
下落→横ばい 28 10.3%
下落→下落 22 8.1%
合計 271

表1からわかることは次の通りです。
・雇用統計発表前にトレンドが発生していたパターン(上昇→◯、下落→◯)の発生回数は158回。
・トレンドが発生しているときにトレンドが継続したパターン(上昇→上昇、下落→下落)の発生割合は約28%(=(23+22)÷158)。
・トレンドが発生しているときにトレンドが転換したパターン(上昇→下落、下落→上昇)の発生割合は約35%(=(35+21)÷158)。ただし、雇用統計前に上昇トレンドにある場合、下落トレンドに入る傾向が多い。
・雇用統計前にトレンドが横ばいである場合、トレンド発生(横ばい→上昇、横ばい→下落)と横ばいが続く傾向は同程度。ただし、雇用統計前にトレンドが横ばいにある場合、下落トレンドよりも上昇トレンドが発生する傾向が多い。

「横ばい→横ばい」の発生回数が一番多かったは、1%の変動でトレンドの有無を定義していることが影響していると思われますが、雇用統計の発表が相場のトレンドに変化を与えうるきっかけにはならないのではないか、という仮説をある程度裏付けるものとも言えそうです。これは、雇用統計発表当日の相場急変をリスクと見る市場参加者が雇用統計の発表前に取引を控えるなどして横ばい傾向となり、発表された雇用統計の内容が市場予想に近いものであれば、その後のトレンドも横ばいとなる傾向はよくある事象といえそうです。

その一方で「横ばい→上昇」、「上昇→下落」が多いのは興味深いところです。「横ばい→上昇」は発表された雇用統計の内容から、米国経済の成長が確認できたとか、緊縮的な金融政策が予想されるなどとして米ドルが買われる上昇トレンドに入ったことを、また、「上昇→下落」は発表された雇用統計の内容から、米国経済の成長鈍化の懸念が生じたとか、緩和的な金融政策が予想されるなどとして米ドルが売られる下落トレンドに入ったものと解釈できるでしょう。

投資に活かすなら

今後も、上記の傾向が続くことを想定するなら、次の戦略が比較的有効かもしれません。

・雇用統計前の1〜2週間前に米ドルにトレンドが発生していないなら、「横ばい→上昇」に期待して、雇用統計発表直前に米ドルのコール(米ドル高型)または、ピン価格が相場水準より高めの米ドルのニアピンを買って仕込み、雇用統計発表後に売却する。

・雇用統計前の1〜2週間前に米ドルの上昇トレンドが発生しているなら、「上昇→下落」に期待して、雇用統計発表直前に米ドルのプット(米ドル安型)または、ピン価格が相場水準より低めの米ドルのニアピンを買って仕込み、雇用統計発表後に売却する。

ちなみに、雇用統計発表日の1日の米ドル対円相場の変動率(絶対値)の平均は1.2%、最高3.5%、最低0.4%でした。統計的には約7割の確率で変動率(絶対値)は0.6%から1.7%に収まっていました。この幅を超える事象は約3割の確率で発生していました。雇用統計発表時には大きな値幅を期待してFXなど証拠金取引でリスクを取るのは危険と言えるでしょう。瞬時に相場が上下に乱高下することで結果的に相場観が間違っていなくても強制的にポジションを清算されたり、最悪の場合は追証発生のリスクがあるからです。この点、証拠金取引でないeワラントであれば追証や強制的なポジション清算はありません。相場の急変動には荒れ相場に強いeワラントをご活用ください。

(念のため付言しますと、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。)

eワラント証券 チーフ・オペレーティング・オフィサー 土居雅紹(どい まさつぐ)

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