「日米欧の株式相場が10月末のハロウィンの頃から翌年4月末までは堅調となりやすい」というアノマリーは“半年効果”または“ハロウィン効果”といわれ、広く知られるようになりました。このアノマリーの原因は欧米の機関投資家の行動パターンや米国での税金の還付などと考えられていますが、今でもはっきりとしたことは分かっていません。
一方で、この半年効果がぴったり当てはまる年もあれば、2016年年初からの値動きのように、イマイチな結果に終わる年もあります。そこで、「半年効果が上手く機能しない時は相場が荒れていることが多い」という経験則をもとに、荒れ相場に強い新半年アノマリー戦略を考えてみたところ、極めて効果的な投資戦略になる可能性があることが分かりました。
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荒れ相場は下げ相場:悪い年をどうやって知る?
図1は1996年から2016年2月までのTOPIXとVIX(S&P500 ボラティリティインデックス)の推移をみたものです。VIXとは、シカゴ・オプション取引所で取引されるS&P500オプションの価格に反映される予想変動率から算出される指数です。暴落局面で急騰することが多いので、「恐怖指数」と呼ばれることもあります。これを見ると、TOPIXの急落局面ではVIXが急騰していることが分かります。また、1999年〜2003年や2007年から2011年のように、VIXの水準が高い時期が続いているときも投資が難しい時期と重なっているように見えます。
なお、日本株を対象としているのに日経平均オプションの価格から算出された「日経ボラティリティインデックス」(日経VI)を使わない理由は、2010年11月から算出が開始された“日が浅い”指数なので、アジア通貨危機(1997年)やリーマンショック(2008年)といった大暴落を経ていないからです。さらに、現在の日本株は7割を海外投資家の売買フローが占め、詰まるところ米国株が上がれば買われ、下がればより多く売られる傾向が顕著になっています。その意味でも、米国株の荒れ具合を見るVIXを使う意味がありそうです。
図1:TOPIXとS&P500 VIXの推移
※ロイターデータよりeワラント証券が作成
VIXとTOPIXのリターンの関係を分かりやすくするために、VIXが20を超えた日数とその年のTOPIXの平均騰落率をみたのが図2です。1997年のアジア通貨危機、1998年のロシア危機・日本の金融危機、2000年ITバブル崩壊、2001年9.11テロ、2007年パリバショック、2008年リーマンショック、2010年ギリシャ危機といった大事件が続いた年にはVIXが20を超えた日が多くなっています。1年の営業日が250日程度なので、1999年、2001年、2009年にはほぼ一年中VIXが20を超えていたことになります。これらの年には、TOPIXの平均騰落率は著しく低くなっています。
となると、「VIXが高い日が多い年は投資しなければ良い」ように思われます。しかし、VIXが高い日が多い年(荒れ相場)だったのかどうかは、事後的にしか分かりません。
図2:TOPIX平均日次騰落率とVIXが25を上回った日数
※ロイターデータよりeワラント証券が作成
荒れ相場では半年アノマリーが通用しない?
半年アノマリーが海外投資家の行動パターンに起因するのであれば、荒れ相場では「いつもなら投資していた状況でもリスクを採らなかったり、逆にキャッシュポジションを増やしたりする」行動の結果、半年アノマリーが弱くなることは整合性があります。このとき、仮に「VIXが高い日が続く荒れ相場ではTOPIXの平均リターンが低い」といえるとしても、時期に偏りがあって、半年アノマリー投資戦略で投資を休む5月から10月(米国株では5月から9月)に集中しているなら問題とはなりません。しかし、2008年〜2009年や2016年のように11月から4月も荒れる暴落局面では半年投資は上手く機能しませんでした。
図3は、VIXが高い日が多い年(図中赤斜線棒グラフ:1997年〜2003年、2007年〜2011年、2016年)、それ以外の年(図中緑斜線棒グラフ)と全期間(図中茶色棒グラフ)のTOPIXの平均リターンを月毎に見たものです。これによれば、全期間では2月〜4月、6月、11月〜12月のパフォーマンスが良く、1月と6月を除けば概ね従来どおりの半年アノマリーが確認できました。
しかしVIXが高い日が多かった年では、従来の半年アノマリーなら悪くない前提の1月のパフォーマンスは一段と悪化し、2月のリターンもマイナスで、11月と12月もぱっとしないパフォーマンスとなっていました。やはり、「荒れ相場では半年アノマリーは通用しない」可能性がありそうです。とはいえ、半年アノマリーの高パフォーマンスの源泉とも言える「5月〜10月を避ける」という点においては、荒れ相場の年の7月から10月のパフォーマンスの酷さを見ると、有効な側面も垣間見ることができます。
一方、VIXが低い日が続く普通の年では、9月から翌年4月までと6月のパフォーマンスが良好で、半年アノマリーを用いた投資戦略が極めて有効でした。
図3:TOPIXの平均リターン(日次、1996.1-2016.2)
※ロイターデータよりeワラント証券が作成
これで荒れ相場もバッチリ!?:VIXと新半年アノマリー
これまでの分析から、下記3点が投資パフォーマンス向上のポイントとなりそうだと分かりました。
◎VIXが高いときはTOPIXの投資パフォーマンスが悪い
◎VIXが低いときは半年アノマリーは有効
◎1月の投資パフォーマンスは暴落時に特に悪くなり、6月はいつでも好調
まず最初に考えられるのは、基本的には「10月末に投資して翌年4月末まで買いポジションを採る半年投資戦略」は維持しつつ、VIXの値動きを毎日観察して一定値以上になったら手仕舞うという方法です。実践に際しては、将来のVIXを予想することはできないので、前日のVIXを見て当日の引け値でポジションを動かすことになります。毎日VIXを観察することは、「ほとんど手間がかからない」という半年投資戦略のメリットを減じてしまいます。それでも、1日1回チェックするだけで、それも11月から翌年4月の半年間だけなので、相対的にメンテナンスが楽な投資戦略とは言えそうです。
この手法のツボはVIXの値がいくらを超えたら行動(手仕舞い)するか、という点です。1996年から2016年2月までの期間で、VIXの値を10から30まで変化させて試算してみたところ、もっともパフォーマンスが良かったのが「半年投資+VIXが26を超えたら手仕舞い」という投資戦略で、約20年間でなんと6.07倍にもなっていました(売買手数料、配当、税金は考慮せず)。ちなみに、VIX20をシグナルにした場合だと20年間で4.41倍でした。
図4は、これらの試算結果を従来の(1)TOPIXのリターン(図中赤線)、(2)11月から4月に投資する従来の半年投資(図中オレンジ線)と比較したものです。最もパフォーマンスが良かったのが、(4)VIX26+半年投資(図中緑線)で、前述のように20年間で6.07倍にもなっていました。この戦略では「10月末日に買いポジションを採り、前日のVIXが26を越えたら当日終値で手仕舞い。11月〜4月の期間中であれば、前日のVIXが再び26を下回ったら当日終値で再び買いポジションを採る。4月末になったらVIXの値に関係なく手仕舞いし、10月末まで休む」ので、従来の半年投資戦略のメリットを享受しながら、荒れ相場から最悪の場合でも1日遅れで迅速に逃げることが可能です。
VIXのしきい値を20に下げた(3)VIX20+半年投資(図中青線)では、相場から離れる回数が増えますが、それでも従来の半年投資(20年で2.64倍)と比べると著しく投資パフォーマンスが向上していました(20年で4.41倍)。
別のアプローチとしては、毎日VIXを観察する手間をかけずに、パフォーマンスが低下しやすい1月を避け、代わりにこのところ好結果となっている6月を“リスクオン”の投資期間にする方法も考えられます。この「(5)2月〜4月と6月と11月から2月の新半年投資戦略」(図中紫点線)のパフォーマンスは「VIX26+半年投資」ほどではないのですが、従来の半年投資戦略よりかなり良い結果が得られました(20年で4.19倍)。
図4:半年投資とVIXを組み合わせたら20年で6倍?
※ロイターデータよりeワラント証券が作成
投資に活かすなら
「VIXと組み合わせる方法」と「半年投資の1月と6月を入れ替える方法」は、2001年の拙著「勝ち抜け!サバイバル投資術」(実業之日本社)、2015年に出した「最強の『先読み』投資メソッド」(ビジネス社)で紹介している従来の半年投資戦略のパフォーマンスを劇的に改善する可能性がありそうです。
例えばVIX26やVIX20を半年投資戦略と組み合わせて投資シグナルに使っていれば、今年初めからの世界的な株安局面でも暴落の影響を減らすことができていました。また、1月に投資しない“新半年投資戦略”であれば、1月の暴落とは無関係でした。
なお、VIXを組み合わせた投資戦略は従来の手法よりも売買回数が増えることになるので、オンライン証券を利用して売買コストを抑えたり、リスク換算の取引コストが低い日経平均5倍プラストラッカーや株価指数先物といったレバレッジ投資手段を用いたりすることが効果的と考えられます。