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現代の「ホルムズ海峡」は台湾だ
現代の「ホルムズ海峡」は台湾だ
2024/9/25
1970年代終盤にアラビア湾の出口であるホルムズ海峡が封鎖されるとサウジアラビア、イラン、イラクなどの原油の出荷に大きな悪影響が出て世界経済を大混乱に陥れるということがしばしば話題にされました。
現代の「ホルムズ海峡」はさしずめ台湾だと思います。なぜなら台湾は半導体の先端ノードの90%を生産しているからです。
半導体の先端ノードとは、半導体製造プロセスにおける最小加工寸法(フィーチャサイズ)を表す用語です。この数値が小さいほど、より多くのトランジスタを同じ面積のチップ上に搭載できるため、高性能化、低消費電力化、小型化を実現できます。7nm、5nm、3nm など、ナノメートル単位で表されます。数字が小さいほど、より先進的なプロセスとなります。
現在では、7ナノメートル以下のプロセスは最先端の技術であり、一般的に「先端ノード」と呼ばれています。5ナノメートル、3ナノメートルといったプロセスは、特に高度な技術を要し、限られた企業のみが量産できる状況です。
1ナノメートルは日本人男性の髪の毛の幅の約10万分の1です。
2023年末時点のデータをもとに、7ナノメートル以下の先端ノードの生産能力シェアは以下のようになっています。
・台湾: 約90%
・韓国: 約10%
・米国: ほぼ0%
台湾は台湾セミコンダクタ(ティッカーシンボル:TSM)の存在が圧倒的に大きく、世界中の先端半導体の生産をほぼ独占している状況です。韓国はサムスンが健闘していますが、台湾セミコンダクタとの差は依然として大きいと言えます。米国はインテル(ティッカーシンボル:INTC)などが巻き返しを図っていますが、現時点ではシェアはごくわずかです。
米国ではチップス法(CHIPS and Science Act)を成立させ先端半導体工場建設を助成するため520億ドルの予算を計上しています。
先端ノードの工場建設費用は、プロセスノードの微細化が進むにつれて増加傾向にあり、現在では100億ドル(約1兆5000億円)を超えるのが一般的です。例えば台湾セミコンダクタがアリゾナ州に建設中の5ナノメートル工場は、総投資額が約400億ドルと報じられています。インテルがオハイオ州に建設予定の工場も、総投資額は200億ドルを超えると見込まれています。
仮にいま米国で建設している先端ノードの工場がすべて完成し良好な歩留まりを示したとするとマーケットシェアは以下のようになるでしょう。
・台湾: 約82%
・韓国: 約9%
・米国: 約9%
いま世界で起きている紛争ではドローン、AI、超音速ミサイル、人工衛星などの技術が駆使されていますがそれらは先端ノードを必要としています。それは言い直せば先端ノードを生産できる企業、それを可能にする技術はプレミアムで取引される可能性があることを示唆しているわけです。
先端ノードの工場を建てるにあたってはASML(ティッカーシンボル:ASML)が提供するEUV(極端紫外線)露光装置が不可欠です。回路パターンの微細化にはEUV露光装置が必須であり、ASMLはこの分野で事実上独占的な地位を築いています。
アプライド・マテリアルズ(ティッカーシンボル:AMAT)は、薄膜形成、エッチング、イオン注入など、半導体製造における様々な工程で使用される装置を提供しています。
東京エレクトロンは、コーター・デベロッパーや洗浄装置などの分野で高いシェアを誇っています。また、ラムリサーチ(ティッカーシンボル:LRCX)やKLA(ティッカーシンボル:KLAC)なども、エッチング装置や検査装置などの分野で重要な役割を果たしています。
先端ノードの工場建設は、多くの企業の協力によって初めて実現するものです。ASMLやアプライド・マテリアルズが特に重要な役割を果たしていることは間違いありませんが、他の企業の貢献も忘れてはなりません。
著者
広瀬 隆雄(ひろせたかお)
コンテクスチュアル・インベストメンツLLC マネージング・ディレクター
グローバル投資に精通している米国の投資顧問会社コンテクスチュアル・インベストメンツLLCでマネージング・ディレクターとして活躍中。
1982年 慶応大学法学部政治学科卒業。 三洋証券、SGウォーバーグ証券(現UBS証券)を経て、2003年からハンブレクト&クィスト証券(現JPモルガン証券)に在籍。
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