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プラス要因とマイナス要因の綱引きが続く金市場
提供元:森田アソシエイツ
今年に入り、米金利および米ドル上昇の逆風を受けながら、金価格はパンデミック発生前よりもはるかに高いレベルである1オンスあたり1900ドル台で推移している。2013年の前回FRBテーパリング開始時に、金価格は3ヶ月で$350ほど急落したが、今回は少し異なる展開となっている。マイナス要因を打ち消す、金価格に好影響を与える要因が同時に多数存在しているからである。
現在、金価格に影響を与えるマイナス要因として、金利および米ドル為替レートの上昇、プラス要因として、インフレ懸念、地政学リスクの上昇、株価に対する警戒および堅調な需要を挙げることができる。
キャッシュフローを生まない金は、金利が上昇すると投資優位性が相対的に低下するため、米FRBテーパリングの開始にともない、金利が正常化に向かうことを受け、マイナス要因として価格に織り込まれていくことは当然である。また、米金利が上昇すると、他国との金利差が広がるため、米ドルの実効レートは理論的に高くなり、さらに、ロシアのウクライナ侵攻による有事の際の米ドルへの逃避も加わり、逆相関の関係にある金価格は低下圧力に晒されている。しかし、興味深い分析がある。過去にFRBが実行した4回の金融引締めサイクルの経過を見ると、利上げに向かう過程の中で金価格は下落傾向を辿ったが、実際に政策金利が引き上げられたのちは、むしろ上昇傾向を示した(図表1参照)。FRBの利上げと金価格の関係についての研究調査は他にも多数あるが、ほとんどが無相関または低相関の結論に至っている。これらが示唆するのは、利上げの影響は実行時までに金価格に織り込まれるが、その後は市場を牽引するプラス要因とのバランスによって、金価格が変動することである。
一方、現在の金価格にとっての最大の追い風は、インフレ懸念の増大である。ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、エネルギー価格を主因に、各国で物価指数が急上昇し、インフレの中長期化に対する懸念も加速している。金は、長い年月を経て、インフレヘッジとなりうる実績を積み上げてきた。ある調査によると、過去に3%を超えるようなインフレ時の金のリターンは年率14%近くあり、その有効性が実証されている(図表2参照)。また、景気停滞とインフレ上昇が併存するスタグフレーションの発生に対する警戒も再燃している。スタグフレーションが実際に発生するかどうかは、経済学者の間でも意見が分かれるが、重要なのは、そうなるリスクが存在するということである。スタグフレーション発生時に、他の資産よりも極めて優れたパフォーマンス(30%を越える平均年間リターン)をあげられる金は、資産防衛の観点から、投資家にとって貴重な存在になる(図表3参照)。
地政学リスクの上昇も、金にとってプラス材料である。有事における質への逃避の受け皿としての需要は、多くの場合、短命になりがちである。状況が少し落ち着き、解決への道筋が見えれば、こうした資金は再び流失する傾向にあるため、金価格の持続的な底上げ要因になりにくい。地政学リスクの上昇がもたらすグローバル政治・経済環境への中長期的な影響が、金の価格形成または価格の底上げ要因として、むしろ重要である。1990年に発生したイラクのクウェート侵攻例を見ると、米国S&P500株価指数が紛争前のレベルに戻るまでに200日弱を要した。今回のロシアのウクライナ侵攻も、ある程度の期間にわたり、金融市場だけでなく、グローバル経済活動やサプライチェーン、企業の経営や消費者マインドまで、広範囲な影響を与えると思われる。さらに、新型コロナウイルスの発生によってもたらされた様々なリスクに加え、米中貿易摩擦、中東情勢、北朝鮮のミサイル発射、インド太平洋における安全保障、グローバルベースの政府債務膨張など、解決に時間を要する問題は多く、世界がかつてないほど流動的な局面に突入している。こうした複合リスクがどのような波及ルートで国・産業・企業・個人に影響を及ぼすのか、まだ十分にわかっていない。確かなのは、マクロ環境はしばらく高い不確実性に晒される可能性があり、多くの投資リスクをヘッジできる金に対する期待が高まることである。
インフレおよび地政学リスクの上昇によって、株式市場も不安定さを増している。経済状況・企業業績・個人消費の回復が必ずしも安定軌道に乗っていない現状では、バリュエーションがまだ高い水準にある株式市場の本格調整を警戒する投資家は少なくなく、株価との相関はほぼなく(図表4参照)、セーフヘブンを提供できる金に対する需要を喚起する要因となっている。
堅調な需要も金価格を下支えする要因の一つである。新型コロナウイルスの発生という深刻なグローバル・イベントの発生により、経済・社会・投資環境は急速に変化したが、データで見る限り、三大需要家グループである、消費者、中央銀行および機関投資家の金に対する評価はむしろ高まっており、需要構造が強靭さを増していると思われる。地金・コイン需要は、消費者のリスクヘッジ意識の高まりとともに、2021年に2013年以来の最高を記録し、宝飾需要もパンデミック前のレベルに戻っている。中央銀行は、新型コロナウイルスを経験して、金を保有する意義を再認識し、新規購入国が増加する傾向にある。機関投資家の保有が多い金ETFの残高も、過去最高レベルで推移している。
以上のように、金市場にはプラス要因とマイナス要因が共存しており、そのバランスによって価格傾向が影響される状況がしばらく続くと思われる。しかし、マイナス要因の影響がやがて価格に織り込まれたのち、金は再び構造的に上昇する地力を持っている。
森田アソシエイツ 森田 隆大(もりた たかひろ)
ニューヨーク大学経営大学院にてMBA取得。1990年にムーディーズ・インベスターズ・サービス本社(ニューヨーク)にシニア・アナリストとして入社。2000年に格付委員会議長を兼務。2002年に日本及び韓国の事業会社格付部門の統括責任者に就任。2010年にワールド・ゴールド・カウンシルに入社、翌年、日本代表に就任。金ファンダメンタルズおよび投資における金の役割に関する調査・研究の提供、および投資家との直接対話を通して、金投資の普及活動に取り組む。
2016年に森田アソシエイツを設立、ワールド・ゴールド・カウンシル顧問を兼務。現在、埼玉学園大学大学院客員教授、特定非営利活動法人NPOフェアレーティング代表理事、MSクレジットリサーチ取締役兼評価委員会議長も兼任。立命館大学金融・法・税務研究センターシニアフェロー、法政大学大学院兼任講師を歴任。
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