調整後の金価格動向~基準価格の低下とリスク・プレミアムの剥落~
更新:2026/7/6
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA)
◆高値圏からの反落が示すもの
史上最高値圏で推移していた金価格は、足元調整色を強めている。金価格は一時5,500ドル台まで上昇したが、その後、水準を切り下げ、直近ではおおむね4,000~4,200ドル近辺と約8ヵ月ぶりの安値圏で推移している。四半期ベースの下落率は10%を超え、これは数十年ぶりの大きさである。しかし、金が一本調子で下落し続けると確実視するのは時期尚早であろう。
弊社は、金価格を「米10年実質金利で説明できる基準価格」と「実質金利では説明しきれない上乗せ分=リスク・プレミアム(α)」の二段構造として捉えてきた(いずれも弊社独自の定義である)。この式を基準として価格の動きがこの式で説明し難くなった際には、「なぜ説明できなくなったのか」を考えることが、相場を読み解くうえで欠かせない手順となる。今回の下落は、この二つの要素がいずれも金にとって逆風となる方向へ振れた結果として整理できる。
(出所:CME)
◆金利がインフレ見通しを上回る局面
まず、基準価格側(実質金利で説明可能な部分)である。金は、金利よりも物価の上がり方が大きい局面で選好されやすい。仮にインフレ率が4%、金利が2%であれば、2%で借りた資金を金で運用すると、金は原則インフレに連動するため実質2%の運用利回りが得られる計算になる。逆に、金利がインフレ見通しを上回れば、利息のつかない金を保有する機会損失が拡大し、資金は国債などの利息のつく資産へ向かいやすくなる。
足元では、10年金利が4.4%程度であるのに対し、市場が織り込む10年先の期待インフレ率は2.2%程度と、金利が期待インフレ率を2%以上も上回っている。この水準では、調達した資金で金に投資しても利益を出しにくい。中東情勢を契機とした原油高がインフレ懸念を呼び、中央銀行が利上げに前向きとの見方が強まったことで、物価の上がり方を上回るペースで金利が上昇した。配当のつかない金よりも、利息の支払いが生じる国債などへ資金がシフトしたことが、基準価格を押し下げたと考えられる。なお、ここで用いた金利・期待インフレ率の水準は執筆時点の想定であり、実勢とは差が生じ得るため、実質金利は米10年名目金利から10年期待インフレ率を差し引いた値で確認されたい。
(出所:CME)
◆剥落するリスク・プレミアム
同時に、リスク・プレミアム側でも剥落が起きている。米国とイランの協議再開など中東情勢の一部沈静化により、逃避的に積み上がっていた買いの一部が巻き戻された。株式市場の堅調さも、資金を金から他のリスク資産へ振り向けやすくした面がある。弊社は、リスク・プレミアムの変動要因を、自国通貨価値の目減り回避(大規模緩和に起因)、米国債の価値下落回避(金融引き締めに起因)、決済通貨としてのドル回避(制裁に起因)、地政学リスク、信用リスクの五つに分類して点検しているが、今回はこのうち地政学の一部が剥落し、それに基準価格の低下が重なったという二重の下押しと整理できる。
ただし、地政学リスクの後退が金の下落を一本調子にするとみるのはまだ早計だろう。中東情勢がこのまま沈静化しない可能性や、膠着状態となっている宇露情勢の悪化、金利上昇下でAIを初めとするハイテク関連株が急落して、連動性が高まっている金が売られる可能性もあるためだ。
◆崩れていない構造要因〜中央銀行の金購入
調整局面ではあるが、金をここまで押し上げてきた構造要因そのものは崩れていない。起点は2022年のウクライナ侵攻である。米国がロシアの外貨準備を凍結し、ドル決済を制限したことで、「ドルは有事には使えなくなり得る」という認識が各国に広がった。ドルは国際貿易の決済や外貨準備の保有手段として各国が保有してきたが、それが使えなくなるリスクが意識された以上、どこの国にも属さない「通貨」である金が選好されるようになった。とりわけ米国と対立する中国は、米国債を売って金を購入する動きを強め、その仕組みを理解した投資家も追随した。金は銅や原油のような「商品」というより、古来「通貨」としての色彩が強い資産である。
この中核にあるのが中央銀行の金購入である。ワールド・ゴールド・カウンシルの2026年調査によれば、回答した中央銀行の89%が「今後1年で世界全体の公的金準備は増加する」と予想し、45%が「自国の金準備を増やす」と回答した。この45%は過去最高である(前年は43%)。さらに84%が「5年後には総準備に占める金のシェアが高まる」と予想し、74%が「ドルのシェアは低下する」とみている。貿易取引が拡大するなかで外貨準備の一部を金に振り向ける動きは今後も続くとみられ、この需要が価格の下値を支える最大の要因である。
◆インフレに連動する緩やかな上昇に転じるか
今後のメインシナリオは、中央銀行需要という下支えのもと、株式市場と同様にインフレに沿って緩やかに水準を切り上げていく展開が想定される。金価格の上昇は、株式市場からの資金流入にも支えられてきた。裏を返せば金を売買する市場参加者の裾野が広がったということであり、株価が堅調な局面では資産の一部を金に置いておこうとする動きは継続すると考える。もっともこれまでのように「市場の構造が変わったので積極的に金を買わなければ」という段階へ再び進み価格が急騰に至るには、追加材料が必要と考えられる。しかし、中長期的に強気見通しは維持するものの確信を持って急騰すると断言できる材料は余りない。もちろん、再び戦争が起きる、あるいはどこかの国が財政破綻に至るといった事態が発生したり、株がAIを中心に急騰したり、インフレになって実質金利が大幅に低下して基準価格が上昇するようなことがあれば話は別である。その場合、金が物色される可能性は常に残る。逆に価格を下押しするトリガーとしては、中東・ウクライナ情勢の一段の沈静化、関税・通商問題の解決による不確実性の後退、実質金利の一段の上昇、ドル高の進行、株式市場の調整によって金でも換金売りが嵩む場合などが考えられる。
株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
当コラムに関してご留意いただきたい事項
- 当コラムは投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、投資勧誘を目的としたものではありません。投資の最終決定はお客さまご自身の判断でなさるようお願いいたします。
- 当資料に示す意見等は、特に断りのない限り当資料作成日現在の (株) マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA) の見解です。当資料に示されたコメント等は、当資料作成日現在の見解であり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
- 本資料は当社が信頼できると判断したデータにより作成しましたが、その正確性、完全性等について保証・約束するものではありません。
ご注意事項
- 買付時の手数料は、売買代金の1.65% (税込)、売却時の手数料は無料です。
- 本取引は金・銀・プラチナの価格変動により、投資元本を割り込むことがあります。
-
本取引は、政治・経済情勢の変化および各国政府の貴金属地金取引への規制等による影響を受けるリスクがあります。
また、かかるリスクが顕在化した場合、当社の提供するサービスの全部、または一部が変更、停止されるリスクがあります。 - 本取引は為替相場の変動により損失を被ることがあります。
- 本取引は、システム機器、通信機器等の故障等、不測の事態による取引の制限が生じるリスクがあります。
- 本取引は売値 (Bid:お客さまが売ることのできる値段) と買値 (Ask:お客さまの買うことのできる値段) の差 (スプレッド) があります。
- スプレッドは固定されるものではなく、需給バランスや、政治・経済情勢の変化にともない、当社の任意で変更いたします。
商品先物取引に関するご注意事項
商品先物取引のリスクについて
商品先物の価格は、対象商品の価格の変動等により上下しますので、これにより損失が発生することがあります。また、商品先物取引は、少額の証拠金で当該証拠金の額を上回る取引を行うことができることから、時として多額の損失が発生する可能性を有しています。したがって、商品先物取引の開始にあたっては、下記の内容を十分に把握する必要があります。
- 市場価格が予想とは反対の方向に変化したときには、短期間のうちに証拠金の大部分又はそのすべてを失うこともあります。また、その損失は証拠金の額だけに限定されません。
- 損失を被った状態で建玉の一部又は全部が決済される場合もあります。更にこの場合、その決済で生じた損失についても責任を負うことになります。
- 商品取引所は、取引に異常が生じた場合又はそのおそれがある場合や、JSCCの決済リスク管理の観点から必要と認められる場合には、証拠金額の引上げ等の規制措置を講じることがあります。
- 市場の状況によっては、意図したとおりの取引ができないこともあります。例えば、市場価格が制限値幅に達したような場合、 転売又は買戻しによる決済を希望しても、それができない場合があります。
- 市場の状況によっては、商品取引所が制限値幅を拡大することがあります。その場合、1日の損失が予想を上回ることもあります。
商品先物取引の手数料について
商品先物取引のインターネットでの取引にあたっては、下記のとおり所定の手数料がかかります。
金 (限日現金決済先物取引):片道1枚につき16.5円 (税込)
銀 (限日現金決済先物取引):片道1枚につき82.5円 (税込)
白金 (限日現金決済先物取引):片道1枚につき16.5円 (税込)
堂島コメ平均 (米穀指数先物取引):片道1枚につき330円 (税込)
金融商品取引法等に関する表示
商号等 株式会社SBI証券 金融商品取引業者、商品先物取引業者
登録番号 関東財務局長 (金商) 第44号
加入協会 日本証券業協会、一般社団法人金融先物取引業協会、一般社団法人第二種金融商品取引業協会、一般社団法人資産運用業協会、一般社団法人日本STO協会、日本商品先物取引協会、一般社団法人日本暗号資産等取引業協会
-
SBI証券お客さま相談窓口:
カスタマーサービスセンター 平日(年末年始を除く)8:00〜17:00
固定電話の方 0120-104-214(携帯電話の方0570-550-104) -
特定非営利活動法人 証券・金融商品あっせん相談センター(FINMAC):0120-64-5005
- 日本商品先物取引協会 相談センター:03-3664-6243
SBI証券の企業情報は、SBI証券WEBサイトおよび日本商品先物取引協会WEBサイト等で開示されております。
詳しくは、SBI証券WEBサイトの当該商品等のページ、金融商品取引法等に係る表示又は契約締結前交付書面等をご確認ください。