中東情勢の今後と原油価格見通し~想定よりも価格は高止まりか
更新:2026/5/26
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA)
Brent原油先物価格は、一連の混乱が若干落ち着いたものの100ドル超の水準で推移している。EIA(米エネルギー情報局)の5月月報によると、2026年第2四半期の世界石油在庫は、日量平均▲8.5百万バレルという大幅な取崩しが見込まれている。市場の想定以上に封鎖が長期化しており、時間経過とともに原油価格の水準が切り上がっていく構図だ。
◆供給減の深刻さと、代替生産の限界
最大の価格押し上げ要因は、依然として供給面にある。イランによるホルムズ海峡封鎖に加え、米国がイラン船籍への経済封鎖を実施したことで状況は複雑化。クウェートやサウジアラビアなど湾岸産油国の生産停止規模は、5月には日量1,075万バレルにまで拡大した。原油の保管スペースが限界に達し、生産そのものを停止せざるを得ない格好だ。EIAは、6月以降に段階的な回復を辿るとみるが、操業停止の大半が解消されるのは2027年1月頃と試算している。
では、この中東の不足分を他地域で賄えるかといえば、現実的には不可能だ。米州などの増産(3月実績で計+164万バレル/日)を合わせても、湾岸地域の激しい供給減を埋めるには全く足りず、世界的な在庫の取崩しは避けられない。
(出所:Bloomberg、ICE)
◆停戦しても早期回復は困難な見込み
仮に戦闘が終了してホルムズ海峡の通航が可能になったとしても、原油価格は消費国が期待するペースでは下がらないとみるべきだ。理由は3点ある。
・出航準備と保険のタイムラグ
海峡が再開しても、停泊船舶の出航準備や、戦闘期間中に解除された「戦争保険」の再契約などに数週間から数ヵ月の時間を要する。
・エネルギーインフラの深刻な物理的被害
破壊された輸出ターミナルや製油所の修復には相応の時間が必要だ。カタールの Ras Laffan LNG 施設が修復に最大5年要すると発表している通り、設備の復旧は一朝一夕にはいかない。
・油田再稼働における技術的制約
在来型油田は油層内の圧力管理が不可欠で、急な再稼働は油田そのものを毀損するリスクがある。過去のイラン制裁解除時には安定稼働まで1年半を要しており、物理的被害を伴う今回は回復に2-3年以上を要する可能性がある。
もちろん、これらの想定よりも早く増産が再開される可能性は否定しないが、過去の例を振り返るに時間が掛かると考えるのが妥当だろう。
◆今後の3つの着地シナリオ
今後の展開としては、以下の3つのシナリオが想定される。
・「選択的通航制」の継続
ロシア・ウクライナ衝突のように低烈度の衝突が継続し、何らかの許可を得た船舶のみが通過する形。事実上の供給制限が続くため、原油価格は高値を維持せざるを得ない。
選択的通航制が採択されることでなし崩し的に輸送量が増していく、というのが最もありそうなシナリオだ。
・ホルムズ海峡の共同管理(共同関与シナリオ)
海峡を湾岸諸国の共同管理とし、米国も関与して通行料を徴収する着地。米・イラン双方が国内向けに「勝利」を宣言できる結果となり得る一方、歴史的・宗教的対立を考えると実現可能性は決して高くはない。
・戦闘のさらなる激化
米国がイランのエネルギー設備へ本格攻撃に踏み切り、イランが湾岸全域のインフラに報復するケース。大規模な採油停止が現実化し、Brent原油は150ドル超、状況次第では200ドルを目指す激甚なシナリオだ。
仮に中東全域に戦闘が拡大すれば原油供給自体に問題が生じるため、市場での取引というよりは新しいメカニズム(国と国の相対取引など)が構築されるようになると予想される。しかし、この戦闘激化シナリオの可能性は、希望的観測も含めて極めて低いと見ている。
株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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