金銀相場の現状認識と上値余地
更新:2026/5/12
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA)
◆株との連動性を高める金
足元の金価格は4,500~4,900ドルと、比較的ワイドなレンジで高い水準での推移を続けており、銀は80ドルを伺う展開となっている。弊社は金価格動向を占う上で、米10年実質金利で説明可能な基準価格+リスク・プレミアムに分解して整理しているが、現在の金価格はインフレ要因では説明できないリスク・プレミアム部分が大半であり、そのドライバーとなっているのが、1.基軸通貨ドルへの信認低下、2.各国政府中央銀行の金ヘの傾斜、3.地政学リスク、4.1~3を踏まえた投機筋の売買動向あたりである。
金市場の構造転換点は、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を契機に発生している。ロシアのSWIFT排除を契機に、米国と対立関係にある中国を中心とする公的セクターが、米国債から金へのシフトを開始。コロナ禍時の大規模量的緩和で生じた過剰流動性、トランプ政権下の関税問題、中東情勢の不安定化が複合的にリスク・プレミアムを押し上げ、投機資金の買いを呼び込んでいる。概ね、投機の買いはETFなどを通じて行われているが、現物を裏付けとする投機であるため投機の買いが増えるほど利用可能な金が減少して価格が上昇するという構造になっている。結果的に、アルゴリズム売買などを通じて株価との連動性が高まっており、市場規模的に株価が金価格動向を主導している状況。即ち、金が下落するには、株の下落が必要条件であり、金の上昇は株の上昇が必要条件ということになる。
ただし、上記の1.~4.の金価格のドライバーのうち1.~3.が絶対価格の水準を押し上げているため、仮に株が下落したとしても、下落余地は限定されるというのが基本的な見方だ。
ウクライナ危機以降の金価格の動きを見ると、1971年ニクソン・ショック後の長期上昇局面と同じようなタイミングで上昇・下落しており、この時の「韻を踏む」のであれば、金は5,000ドル台後半を試す動きが想定される。もちろん過去の値動きと同じになるわけではないし、状況は同じではない。ただ、米ドルの信認が低下し、中東で戦争が発生した1971年以降の状況と現状は似ている。また、中東情勢不安が継続する中で、各国中銀が利上げを余儀なくされ、その結果としてこれまでも指摘されてきたプライベート・クレジットや商業用不動産のリスクが顕在化したり、AIバブルが崩壊したりといった株が急落するリスク要因も少なくない。仮にこうしたリスクが顕在化した場合、同様に韻を踏むのであれば4,000ドル割れ程度が1つの目安となるのではないか。
(出所:CME)
◆銀価格も高値維持の公算
この状況において銀も上昇している。銀価格の上昇は、金が高騰する中で「割安な疑似通貨」として物色されていると解釈され、過去も金価格が上昇する局面では、後追いで銀が物色されることが多く、かつ、上昇ペースは金を大きく上回るケースが多かった。銀は、2025年10月に中国政府が公表した2026年1月からの銀輸出規制導入を受けて中国からの現物流出が減少し、むしろネット輸入超に転じるとの見方(現在は既に輸入超の状態)が現物需給を一段とタイト化させ、価格の急騰をもたらした。銀価格を占う上では金銀レシオが参考になるが、既に現在の金銀レシオは60倍前後と、写真フィルム需要が大幅に減少した2003年以降の長期平均(約70倍)を大きく下回っている。Silver Instituteの分析でも、米国の関税引き上げ観測や、ETF普及による取引所での「動かせない在庫」の増加が、統計上の数字以上にタイト感を生んでいる可能性が指摘されている。
(出所:CME)
2026年の銀需給は、▲5,370万オンスの供給不足見込みだが、弊社の整理ではコイン・延べ棒も実質投機需要と見なしてETFを差し引いて再計算すると、+2,339万オンスの供給過剰が見込まれる。工業需要は価格上昇によるレーショニングで前年比▲2,160万オンス減少が見込まれ、結局は投機需要の増減が価格を決める構図に変わりはない。仮に金が6,000ドル手前まで上昇し、金銀レシオ60倍が維持されるならば、銀には100ドル接近までの上昇余地があるとの試算となる。これはあくまでリスクシナリオの位置づけである。
下落のトリガーは、1.世界景気減速による工業需要の一段の縮小、2.財政逼迫を起点とする中銀・ソブリンファンドの金売却(に連れた銀売り)、3.株価下落局面での投機需要の剥落、4.イラン情勢長期化による原油高が金利を高止まりさせる場合のドル高、の4点に整理できる。既に株下落は米国のイラン攻撃の時の株急落で顕在化しており、この時の安値である61ドルが当面の下値となるのではないか。
株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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