紛争終了後も原油価格は高止まりか
更新:2026/4/21
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA)
2月28日に開始された米国・イスラエルによる対イラン軍事作戦と、それに伴うホルムズ海峡の封鎖を巡る情勢は、本稿執筆時点(4月19日)でも緊迫した状態が続いている。4月17日、イランのアラグチ外相は、停戦期間中の海峡開放を宣言、米トランプ大統領もこれを歓迎した。しかし、米国がイラン港湾への海上封鎖を継続したため、翌18日にはイラン国会議長ガリバフ氏が「封鎖継続下で海峡は開放されたままにならない」と反論、革命防衛隊海軍は海峡の再閉鎖を発表、通航を試みた商業船舶への銃撃事案も発生した。イラン政権内での発言の不一致に加え、米・イラン間の交渉も合意に至らず、物理的な航路の安全が確保されたと言える状況には至っていない。米・イランの交渉は水面下で行われているため、表に出てくる報道の真偽ははっきりしない。結局、交渉の当事者から直接情報を取れるステータスに無い限り、ホルムズ海峡の通航動向に関わるニュースを確認するぐらいしか現状を把握する方法がない。原油価格の方向性を考える上で「いつ停戦・終戦となるのか、どのような条件でそれが成立するか」「3つの国(ないしは湾岸諸国)の武器・弾薬がどの程度継続するのか」「イラン国内の食料や市民生活はどのようになっており、イランの政権維持にどれほど脅威となるのか」といった分析が必要にはなるが、これらは国際政治や軍事などの範疇であり、弊社の分析対象外であるためここでは議論しない。
(出所:ICE、各種報道資料より)
一旦、停戦関連の議論を棚上げし、現在の原油市場の需給動向を米エネルギー省の直近データ(2026年4月)を基に確認すると、2026年4月に紛争が終結するという前提で、この月が需給タイト化のピークで、▲715万バレル/日の供給不足を見込んでいるが、2026年通年では▲28万/日の供給不足になると予想している。そして生産は、2026年12月にはほぼ開戦前の水準を回復するというシナリオで、2027年は+330万バレル/日の大幅な供給過剰を見込んでいる。これは2025年の+232万バレル/日を超える供給過剰であるため、需給バランスのみを前提とすれば2027年の原油価格は2025年平均(直近限月の単純平均68.2ドル)よりも低くならなければファンダメンタルズ的には説明がつかない。しかし、DOEの見通しは76ドルとなっている。これは封鎖解除後もタンカー滞留・貿易フロー混乱解消の遅れや、将来の追加的な混乱発生の可能性がリスクとして残り、そのリスクを織り込んだ水準になるためとしている。なお、構造的には現物を確保できない生産者や現物自体を原則保有しない投機筋が長期にわたるショート・ポジションを保有することを回避するために、こうした価格の上振れが発生すると考えられる。また、DOEの生産回復見通しはやや楽観的で、各調査機関の見通しでも、仮に今、停戦に至ったとしても年末の生産回復は、IEAや民間各種調査機関の見解を考慮すると8割~9割程度に留まるというのが妥当なラインではないだろうか。結局、今の状態が続けば原油価格は高止まり、停戦・終戦後も価格が元の水準に戻るには時間が掛かる可能性が高いと整理できる。
どのような形で紛争が終結するかが分らなければ、価格を予想するのは困難である。しかし、ホルムズ海峡の通過動向、戦闘状況を場合分けしてある程度の「想定されるコアレンジの目安」を推定すると、恐らく年末頃までのコアレンジは以下の通りとなる。
1.停戦・ホルムズ海峡開通 70-90ドル
2.停戦・ホルムズ海峡選択的通航可 80-100ドル
3.停戦・ホルムズ海峡完全封鎖 90-110ドル
4.戦闘・ホルムズ海峡選択的通航可 100-120ドル
5.戦闘・ホルムズ海峡完全封鎖 120-140ドル
6.戦闘が中東全域に拡大 130ドル以上(恐らく原油価格決定の市場メカニズムが大きく変わることに)
※上記想定レンジは、状況は市場環境を考慮して随時見直ししているため、一定ではない点はご容赦ください。
恐らく現在は2.3.の中間だが、直近の報道だと米トランプ大統領は攻撃を示唆する発言もしており、4.に移行する恐れもある。希望的観測も含めれば今回の圧力と外交交渉で1.2.に移行してくれることを祈るばかりだが、こればかりはなんとも言えない。なお、6.になった場合は恐らく十分な原油を世界的に確保できなくなるため、特にアジア地域での価格決定の市場メカニズムが大きく変わる可能性がある(配給制や政府間の相対取引価格導入など)。6.のシナリオがかなり悲観的なシナリオであるため、仮に現在の2.の状態が続き、開戦前の6割程度しか原油が確保できない状況が続いたとした場合、市民生活のみならず産業的にもエネルギー依存度の高い企業から低い企業ヘの転換が進む可能性がある。
この状況で企業ができることはかなり限られるが、3月初のレポートでも説明した通り、1.価格上昇を抑制するため先物や金融商品を活用して値決めを行っておく(事態が沈静化すれば下落するが、戦闘がいつ終了するか分らない)、2.在庫の備蓄を増やす、3.使用量を減らす、といった方法ぐらいしか選択肢がない。まず自身の消費量とそれに伴う価格リスクの把握が重要になる。これも既に行っている企業が多いが、多少高かったとしても確保可能な現物調達ルートの確保や、代替品の活用などの選択肢の検討は速やかに行うべきだろう。
株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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