中東情勢による貴金属・アルミニウム価格への影響~アルミの供給減少は企業業績にも影響へ
更新:2026/4/6
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA)
現地4月1日、トランプ米大統領は「今後2-3週間でイランを石器時代に戻す」という過激な言葉で演説を行った。これに先立ち、イランのアラグチ外相は「米国と交渉の土台などない」と明言しており、両国間に積極的な停戦交渉が存在しないことが改めて意識されることとなった。引いた目で見れば、イスラエルに促される形で米国が参戦した経緯は否めない。本音では双方とも消耗戦に疲弊しており、停戦を望んでいるのかもしれないが、条件が全く折り合わないまま膠着しているのが実情ではないか。その結果、イランは戦略的要衝であるホルムズ海峡の通過制限を維持する構えを崩していない。
日本が原油調達のほとんどをこの地域に依存していることは各種報道の通りだが、問題は価格だけではない。化石燃料の取得が困難になることで輸送自体が滞り、「現物が手元に届かない」という供給途絶のリスクが現実になりつつある。
◆株高に貴金属は連れ高
足元のマーケットでは、株価の上昇に連動して金やプラチナが買われる構図が鮮明になっている。2000年前後から投資銀行を中心に、株価との相関性が低い金が「ポートフォリオの投資効率を改善する資産」として機関投資家に推薦されてきた。実際、2000年以前のデータでは株と金が逆方向に動くケースが多く、この特性こそが分散投資の根拠となっていた。そしてその投資を促進する「仕掛け」として、金の現物ETFが新商品として投入された。
ところが2000年以降、株と金の相関性はむしろ正となるケースが多く、両者は今や同じ「リスク資産」と言っても過言ではない。背景にあるのは、ポートフォリオ内で株と金の投資比率を機械的に維持するファンドの運用姿勢だろう。株価が動けばそれに連動して金への投資も変動する、言葉を換えれば、金価格は実需というよりは別のファクターで変動しているケースが少なくないということだ。市場規模の観点でも、株式市場が世界全体で150兆ドル規模であるのに対し、金は30兆ドル程度に過ぎず、価格をリードするのは金ではなく株、というのが実態といえる。
(出所:CME)
では、なぜプラチナも買われるのか。同じ貴金属セクターとして括られるため、金が割高と判断された際に代替的な物色対象になりやすいためと考えられる。これは、これまでこのコラムで指摘してきたとおりである。かつては、自動車排ガス規制強化やフォルクスワーゲンの排ガス偽装問題によるパラジウム需要の変化、あるいは南アフリカの電力危機を背景とするPGM供給不安といった固有の材料が価格を押し上げたことがあったが、しかしそうした大きなイベントが顕在化しない限り、プラチナは金をフォローする動きとなりやすい。
以上を整理すると、金は株価動向に左右されやすく、株価はトランプ政権の発言や方針を受けたエネルギー価格の動向に左右される、という構図になっている。戦況激化の観測が流れれば貴金属は売られ、沈静化の兆しが見えれば買われる、その繰り返しが当面続くとみておくべきだろう。
◆アルミ価格・供給にも影響
トランプ氏が「2-3週間」と期限を切っても、戦地がその思惑通りに動く保証はない。停戦は相手がある話だからだ。仮に戦闘が夏場まで長期化すれば、その影響は広範に及ぶことは想像に難くない。
エネルギー問題はすでに各方面で論じられているが、今回の攻撃ではUAEとバーレーンの重要なアルミ製錬所が攻撃され、甚大な被害が出たと報告されている。両国合計で年間約320万トン(世界供給の約3%)を担う重要な生産者であり、中東全体のアルミ生産に波及すれば、その影響は無視できない規模となる。
日本はエネルギーコストの高さから国内アルミ製錬を終了しており、100%を海外輸入に依存している。直近2月の輸入実績では、UAE・カタール・バーレーン・サウジアラビア・オマーン・クウェートなどペルシャ湾岸諸国の合計が22.4%に達する。原油ほどではないが、決して軽視できないシェアだ。
どの産業への影響が大きいかは分析の切り口によって異なるが、「全ての評価を内包している」として株価を参考としてアルミ価格との相関分析を行った。前回レポートでも類似の分析を行っているが、今回は参照期間を変更している。今回参照した期間は、ロシアのウクライナ軍事侵攻直後(2022年2月~3月)の1ヵ月間である。この間、アルミ価格と正の相関を示したのはエネルギー・資源・鉄鋼非鉄金属セクターだった。一方、負の相関(株価下落)となったのが自動車・輸送機器、素材・化学、電機・精密、建設・資材といった製造業全般である。
(出所:JPX、LME)
次に分析期間をウクライナ侵攻から1年に延ばすと、これらの製造業の株価とアルミ価格の相関性は逆に高くなる。これは需要の落ち込みによってアルミ需要も減少し価格が下落した結果、株価と同方向の動きとなったためと考えられる。価格上昇局面での「コスト転嫁の壁」と、需要蒸発局面での「価格下落による連鎖」、製造業はその両面のリスクに晒されていると考えられる。
(出所:JPX、LME)
◆「価格」と「現物」を切り分けて考える必要性
こうした混沌とした局面では「価格リスク」と「現物確保」は別のリスクとして切り離して考えることが重要になる。実質的に両者は異なるリスクであり、異なる処方箋が必要になるからだ。価格については先物やスワップを活用した早期の値決めで対応し、現物については代替調達先の確保や在庫の積み増しを「物流の戦い」として並行して進める、この両輪を回すためには、まず自社が「どの程度の価格上昇・供給停止に耐えられるか?」というリスクを定量的に把握していることが前提となる。それなしに動けば、ヘッジのつもりが投機になりかねない。
こうした対応ができている企業とそうでない企業とでは、業績に明確な差が出る可能性が高い。というのも恐らく停戦後も世界経済のブロック経済化は進み、現物の確保困難と価格の乱高下が「新常態」として定着するだろう。その観点では、リスク管理の手法そのものを見直す時期に来ていると言えるのではないか。
株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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