2026-05-20 01:53:01

中東有事とアルミ市場~供給途絶とコストプッシュの影響

更新:2026/3/19

提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA)

中東情勢の緊迫化が、アルミニウム市場の供給に大きな影響を及ぼしている。米・イスラエルによるイラン攻撃とそれに対するイランの報復の応酬は、単なる地政学リスクの台頭という抽象的な概念を超え、具体的にエネルギー供給と実物資産の物流を直撃する事態となった。

◆供給の急所であるホルムズ海峡
アルミニウムは精錬時に大量の電気を消費するため「電気の缶詰」と称される通り、安価で安定したエネルギー供給が生命線となる。国内需要の増加で石炭火力を用いてアルミ精錬を行っている中国が最大の生産国であるが、中東・湾岸諸国は豊富な化石燃料を背景とする安価な電力を元にアルミ生産を増加させ、現時点では世界の精錬アルミ供給の8.3%(直近1年の生産シェア)を占める重要拠点となった。しかし、その地理的特性が今回はリスクを増幅させる結果となった。中東ではUAE、バーレーン、サウジアラビア、カタール、オマーンとほぼ全ての主要国がアルミを生産しており、そしてホルムズ海峡の通航リスクに晒されている。
個別企業のダメージも深刻だ。カタールのQatalum(年産64.8万トン)は、天然ガス供給途絶に伴う電力不足から操業停止に追い込まれた(足元では稼働率60%まで回復)。また、バーレーンのAlbaは、物流停滞による原材料のアルミナの調達遅延から、年間生産量の約2割に相当する30.8万トンの減産を余儀なくされている。現物市場では深刻なタイト感から現物価格が期先の価格よりも高いバックワーデーションが鮮明となっており、実需家によるパニック的な買いが価格を押し上げる展開が続いている。

◆エネルギー置換に伴うコストプッシュの影響
今回の軍事衝突の結果、カタールのRas Laffan LNGプラントが損傷して稼働が停止、LNGの供給が逼迫している。同プラントは世界のLNG供給の2割を占める重要プラントである。そのため、アジア諸国において、供給が不安定化した天然ガスの代替熱源として石炭を求める動きが加速した。特に中国は自国のアルミ精錬の主要電源を石炭火力に依存しているため、石炭価格の上昇が電力コストの上昇を招き、LME価格の下値を押し上げている。つまり、現在の中東有事は「現物の供給途絶」と「エネルギー価格を通じた生産コストの上昇」の両面からアルミ価格を押し上げる構造になっている。

アルミは日本でも幅広い業種に用いられている重要金属の1つであるが、電気代の高さからその全てを海外からの輸入に頼っている。現在の状況を勘案すると、アルミ価格の上昇はもちろんだがエネルギー調達が困難になっていることに伴い、貿易収支が悪化して円安圧力を強めているため、消費者にとっては「ドル建て価格上昇×円安」のダブルパンチだ。この5年間、今回の中東危機を含めると3回の危機が発生している。この間のアルミ価格とTOPIX17業種の株価動向とアルミの価格の相関を取ると以下の通りであった。ウクライナ危機の時は影響の表れ方が二段階であり、ロシアからのアルミ供給減少が意識されてアルミ価格上昇・株価下落(逆相関)、その後、中国の上海ロックダウンによって中国の需要が減少してアルミ価格は下落、ロックダウン解除を受けて株価は上昇(逆相関)となった。今回もエネルギー供給とアルミ供給が危機となっているため、アルミ価格動向とそれを受けたセクターの反応はウクライナ危機時と類似しており、まずアルミ価格の上昇と株価の下落が発生している。アルミ価格の高騰の影響は業種によって異なるが、広く製造業全体に影響を及ぼすものと考えられる。

(出所:JPX、LME)

(出所:JPX、LME)

◆一時的調整後の押し目をどう見るか
今後の焦点は、供給懸念が後退した際の市場の「消化」プロセスにある。事態が速やかに収束してホルムズ海峡が早期に再開されれば、アルミの現物供給不安の解消によるショートカバーの巻き戻し(結局売り圧力に)でアルミ価格は一旦調整局面に入るだろう。しかし、有事というノイズが消えた後、市場の関心は再び構造的な需要増加に焦点が移り、上昇に転じると予想される。脱炭素シフトによるEV向け需要の加速や東西対立を背景としたサプライチェーン見直しやインドの近代化に伴う建材需要といった構造的な需要増加見通しが根強いからだ。中東戦争が長期化してエネルギーの確保が出来ず、経済活動が鈍化すれば2022年と同様の需要蒸発が発生してアルミ価格が下落するという展開も想定される。ただし、これは希望的観測も込めてリスクシナリオの位置づけだろう。

新村 直弘

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA) 新村 直弘

1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)

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