米・イスラエルのイラン攻撃の衝撃〜深刻なエネルギー危機に直面する世界
更新:2026/3/5
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA)
2月28日、イスラエルはイランを攻撃、米国もこれに相乗りする形でイランを攻撃。この攻撃でイランの最高指導者であるハメネイ師が死亡、その他の重要なメンバーもほぼ殺害された。今回のイスラエルと米国の攻撃で特筆すべきは、水面下で進んでいた停戦仲介がほとんど役に立たなかった点である。オマーンのアルブサイディ外相がアルジャジーラの取材で明かしたところによれば、「イランは濃縮ウランの引き渡しと貯蔵の放棄、既存素材の燃料変換、IAEAの査察受け入れ」に合意していたという。これが事実であれば、米国・イスラエルが強硬に主張していた「完全な核放棄」をイラン側は応諾していたことになる。
しかし、その合意を覆す形で攻撃は強行された。攻撃開始後、トランプ大統領は事実上の体制転覆を公言(その後、体制変更は望まないと急速にトーンダウン)。ネタニヤフ首相も一世代に一度の機会として体制転換を呼びかけている。イスラエル・米国の両トップは支持率が低迷しており秋に選挙を控えていることからそれを意識した面は否めない。不意打ちを受けたイランが悪くないかと言えば、これまでヒズボラやフーシ派、ハマスを使ってイスラエルへの攻撃を継続してきたこと、更に核兵器の開発も継続、周辺諸国のイランに対する脅威は高まっていたことを考えると、一方的に米・イスラエルのみが悪いと断じることはできない。しかしアラブ諸国を巻き込み開戦に至った事実は重い。
国力差を鑑みれば、イランが敗北する形で戦闘が終結すると予想されるが、以下の3段階のパスを経て終戦に向かうと考えられる。この時「2」のフェーズが長引けば、戦後も原油・ガス、アルミニウムなどの原燃材料供給に致命的な傷跡を残すことになるだろう。
1.(戦闘継続)米・イスラエルの斬首作戦継続
2.(戦闘過熱)アラブ諸国との対立加熱ホルムズ海峡の封鎖・周辺重要施設に被害が及ぶ
3.(戦闘終了も再統治後のリスク上昇)イランの目先無力化完了
しかし、既にイランはサウジアラビアのRas Tanura製油所(処理量 55万バレル/日)に加え、カタールのRas Laffan LNGプラント(7,700万トン/年、世界シェア約20%)を攻撃、いずれも稼働が停止している。被害の程度が分からないが、これらのプラントの修復に手間取らず、ホルムズ海峡が航行可能になれば速やかに供給が回復する可能性もあるがまだ不透明だ。
仮に世界のLNG供給の約20%を占めるRas Laffanの停止が長期にわたった場合、世界経済への巨大な打撃となる。ロシアのウクライナ侵攻時に失われたガスの市場シェアが約20%であり、それを数年かけて米国などが代替してきた。それに対して今回は即時に世界の20%供給が消失したのである。この欠落を即座に埋める能力は米国にもない。2026年中に稼働する米国の新規施設でも、カタールの欠落分の3割程度しか補完できない見通しだ。トランプ大統領は戦闘は4週間で終了するとしているが、混迷が深まれば被害は深刻極まる。イラン・米国の戦闘継続能力を比較すると、AIなどを用いたシミュレーションでは、今のペースでの戦闘が続き補給が無ければ米軍側は3月中旬に、イランは3月下旬でミサイルが底を突く計算となり、この数字を信頼するならば長くて1ヵ月、弾薬を節約すれば1〜2ヵ月ということになろうか。なお、クウェート、バーレーン、カタール、UAEの迎撃ミサイルは枯渇したと報じられており、既にアラブ諸国は胸突き八丁の正念場になっているといえる。
仮に戦闘が継続すれば原油価格はBrent原油で80ドル/バレルが定着、LNGやガスのスポット価格は20ドル/MMBtuまで上昇しており、更に今回供給に影響がない石炭も「代替発電燃料」として物色され日本が購入している豪州炭は140ドル/トンまで上昇している。ホルムズ海峡が実質的に封鎖されているため、この状態が長期化すると原油・ガスの供給が途絶することになる。原油は備蓄が相対的に容易であるため各国、半年程度は持つと予想されるがガスの場合は持って1〜2ヵ月程度と予想される。価格が上昇するだけならまだ良いのだが、現物が確保できなくなった場合工場の稼働が止まる他、化学製品などの供給にも波及すれば産業全体が止まることになる。備蓄の存在、開戦間もないことから危機感は薄いが、実は世界経済はかなり重大な岐路に立っているといえる状況だ。
出所:ICE
現時点では戦況の推移を見守るしかないが、目先できることは1.価格上昇を抑制するため先物や金融商品を活用して値決めを行っておく(事態が沈静化すれば下落するが、戦闘がいつ終了するか分らない)、2.在庫の備蓄を増やす、3.使用量を減らす、といった方法ぐらいしか選択肢がない。まず、現在自身が保有している価格リスクを把握(1ドル変動するとどれだけの損失が発生するか)し、多少高かったとしても確保可能な現物調達ルートを確保しておくなど、代替手段の検討は速やかに開始しておくべきだろう。この対応ができている企業とそうでない企業では、業績に大きな差が出ると予想される。
株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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