中東情勢緊迫 原油価格への影響
更新:2026/2/20
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA)
2026年の需給見通しが大幅な緩和を予想していた原油市場だが、予想を裏切り大幅な上昇となっている。弊社は過度な供給超過が見込まれる状況で、想定通りOPECプラスが増産しない可能性があること、米国も価格下落の中では増産を見送ることも有り得ると見ていたが、今のところこれが顕在化している。これに加えて、昨年11月の「2026年の原油価格の想定レンジはかなりワイドか」で指摘したようなロシアの減産ではなく、中東情勢不安に伴う供給途絶のリスクが意識されていることが価格を強く押し上げているとみられる。米国はイランが核開発を放棄しない限り体制変更を真剣に考えているようだ。この米国の姿勢に対して「何かがあればホルムズ海峡を封鎖するぞ」とイランはホルムズ海峡近辺で軍事演習を行っている。実際、ホルムズ海峡を封鎖する場合は、イランが故国存亡の危機に直面し玉砕覚悟で原油供給を人質に取る形で封鎖を行うケースぐらいしか想定できないが、仮に米国が体制崩壊を目指しているならその最終カードが切られる可能性は排除できない。
過去、ホルムズ海峡封鎖が意識されたのはアフマディネジャド大統領がホルムズ海峡でミサイル発射訓練を行った2011年〜2012年頃である。この頃、ホルムズ海峡からオマーン湾、インド洋北部にかけての広大な海域でミサイル発射や海峡封鎖を想定した演習を実施していた。アフマディネジャド大統領は、「欧米が原油輸出に制裁を課すなら、ホルムズ海峡を封鎖して一滴の原油も通過させない」とかなり明確に海峡封鎖について言及している。今回の原油価格上昇は、この頃のイランの行動を想起させるものであり、心理的にもショートポジションの形成を阻むため、原油価格の押し上げ要因となっている。アフマディネジャド大統領が欧米を挑発していた時、欧米はイランの資金源と決済手段を断つ制裁を行っている。イラン中央銀行と取引がある外国金融機関を決済システムから遮断、これによってイランが石油を購入するための決済が出来なくなった。更にSWIFTからも遮断。同時に日米欧は協調して原油の輸入を停止した。
原油価格は少し長いスパンで見ると、穀物価格の上昇などを材料にチュニジアでジャスミン革命が発生、23年にわたって独裁を続けてきたベン・アリ大統領がサウジアラビアに亡命するなどの混乱が生じた。その後、その動きはエジプト(ムバラク大統領辞任)、リビア(カダフィ大佐殺害)、といった形で体制崩壊が波及するアラブの春が発生、特にリビア危機が原油価格を大きく押し上げる中で、イランの問題が勃発している。その後、ユーロ危機などで原油価格は100ドルを割り込んで急落するが、それが一巡すると再び上昇、2013年に穏健派のロウハニ大統領が選挙で選出されるまで緊張が続いた。
(出所:出所:ICE、米供給管理協会、MRA)
今回、同じような選挙があるわけでもないため、米国が納得する形でイランが核開発を諦めない限り、戦闘行為が起きる可能性は想定しておく必要がある(実際に昨年、イスラエルと米国はイランを攻撃している実績あり)。仮に戦闘が発生すればBrentは80ドル程度まで上昇、仮に戦闘が長期化してアラビア半島近辺の航行に支障が出る、イランが公言しているように米国が基地を持つ国に対して攻撃が行われ、原油関連設備に被害が及べば高い水準を維持、瞬間的に100ドルを超える上昇になってもおかしくはない。ただこれらは戦況によるためなんとも言えないところだ。仮に戦闘が早期に終結、ないしは核交渉で合意に至れば価格は急速に下落しBrentベースで60ドル程度まで下落すると予想される。非常に神経質な推移が続くことになろう。
株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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