銅に連れ高となるアルミ価格
更新:2026/1/27
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA)
2022年から始まった金価格の上昇は、その勢いが銀やPGM(プラチナ・パラジウム)へ、さらに工業金属としての色彩が強い銅へと波及し、アルミ価格にも波及する形となった。2020年のコロナショック以降に始まった主要各国の金利引き下げに加え、過度な流動性が市場に供給されたことで、インフレ資産価格が押し上げられる流れになっている。これはインフレに連動する各金融商品とも同様であり、軒並み名目価格の水準は上昇し、今や多くの国が資源インフレに直面している状況。
2020年のコロナショックは過剰流動性を市場にもたらし、資源価格を押し上げたが、そこから現在に至る5年の間に、特に鉱物資源を巡る環境が変わったことが、足元の金属価格上昇をもたらしていると考えられる。具体的には、コロナを契機に中国と先進諸国が対立(COVID-19に関する情報を中国が十分に開示しなかったことへの反発など)が激化し、東西(主に米中)分裂の中でサプライチェーンや製造拠点の見直しを行う必要が出たことや、たまたま時を同じくして脱炭素の動きが加速したこと、足元はAIブームの爆発などが挙げられる。いずれも「これまでのインフラとは、別のインフラを構築する動きに繋がっている」ことを意味している。
サプライチェーンや製造拠点も、多くの製造業の場合「なにもせずに拠点だけを変更すること」はできず、そこには鉱物資源が必要となる。また、脱炭素やパリ協定も少し引いた視点で見れば、国際ルールの下で「強制的にエネルギーインフラを変更し、かつ完了の日時も設定する」ことに他ならない。言葉を換えるとこの取組みをしなければならない企業は「強制的に鉱物資源のショート・ポジションを取らされている」といえる。そしてその目標達成の期限を切るということは、先物市場で取引最終日が決まっているのと同じであり、対応が遅れている国や企業はインフラ整備のために資源を急いで購入しなければならなくなる。その結果、これが恒常的に価格を押し上げることになる。最後のAI向け需要も、電力需要が増加するため、供給網構築に鉱物資源を必要とすることを意味し、単純な需要増加要因となる。
(出所:LME)
この文脈の中で、アルミは建築資材のほかEVやリサイクル資源としての需要増加が見込まれてきたが、足元の価格上昇は「銅価格の上昇に伴う代替需要」の観測が影響している。従来からアルミは銅の代替品として電線に用いられてきたため、銅価格が史上最高値を更新する中では、相対的に割安なアルミが投機の物色対象になるのは不思議ではない。なお、導電率の観点でアルミは銅に劣るため、高圧線向けなどには用いられているが100%銅を代替することはできない。しかし、銅との比較感では依然として割安であるため、銅価格次第ではしばらく上昇余地を探る動きとなりやすい。こうした「仕組みと背景」を理解した投機筋が、積極的にアルミを含む非鉄金属を物色しているのは事実だ。現物裏付けのあるETF等の普及により、株式市場の資金が非鉄価格を変動させるケースも増えた。株価が堅調な中では非鉄価格も連動しやすく、トランプ劇場で乱高下はあっても、AIブーム継続の観測から上昇余地はまだありそうだ。
(出所:LME)
しかし、価格が上がって困る人が少ない金などとは異なり、アルミや銅は工業向け金属であるため、上昇ペースが急な場合は注意を要する。価格上昇分を最終価格に転嫁できず消費が落ちる場合は、買い手控えや樹脂などへのシフトが進むレーショニングが予想されるからだ。昨年、輸入関税強化が決定された米国では、諸々のコストを加味したアルミの調達コストが5,000ドルを超えている。アルミ需要の主軸である自動車産業やパッケージメーカーにとって、原材料コストが占めるシェアは15%〜25%と考えられることから、この5,000ドルという仕入価格の上昇はもはや看過できないリスクといえる。こうした高止まりが続けば、需要が減退して価格が下落する展開は十分想定される。リスクを制御できている企業とそうでない企業で、業績の優劣はかなり鮮明に出るのではないか。
株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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