2026-05-11 05:26:41

米国天然ガス動向~基礎的な所から

更新:2025/12/23

提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA)

日本でも脱炭素の流れでガスに関する関心が高まっている。長い間日本は東南アジアや豪州、中東からLNGの形でガスを輸入してきたが、一大エネルギー生産国である米国もLNGの輸出キャパシティを整備し、日本の企業も北米で権益を取得するなどの動きが見られLNGのフローにも変化が見られ始めている。最近では米天然ガス価格に連動する上昇投資信託も登場しており、一般投資家も直接ではないが間接的に天然ガス市場に参入が可能になった。そこで今回は今後も需要増加が見込まれるガス市場の概観を基礎的なところから整理してみたい。

まず、ガスは気体であるため通常はパイプラインで輸送し「地産地消」が中心となる。かつて米国ではメキシコ湾が最大のガス生産地区だったが、シェールオイルの生産が進む中で原油生産に伴って副産物として生産されるガスが増加、テキサス州やペンシルベニア州の陸上からのガス生産が増加し、今は98%近くがオンショア(陸上)からの供給となった。これにより、メキシコ湾にハリケーンが襲来した時のガス供給途絶リスクは小さくなっている。これまで米国は国内で生産されたガスを国内でのみ消費してきたが、シェールオイルからの生産が増える中、国内で消費するのが難しくなり供給過剰が発生、米天然ガス価格(ヘンリー・ハブ価格)は下落した。なおヘンリー・ハブ価格はルイジアナ州にある重要なパイプラインの接続地点(ハブ)で取引される天然ガス価格のことを意味する。

(出所:NYMEX、米エネルギー省)

この流れが大きく変わった出来事が、脱炭素とロシアのウクライナへの軍事侵攻である。2021年11月のCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締結国会議)でグラスゴー合意が成立、石炭などの段階的な削減が確認されたがガスは対象外となり「脱炭素を進める上でのブリッジ熱源」との認識が強まったことがガスの将来需要の増加観測を強め、さらに2022年にロシアがウクライナに軍事侵攻したことで脱ロシア産ガスの動きが強まり、米国のガス供給への期待が高まったのである。
ウクライナ危機によるエネルギー価格の上昇は一旦落ち着いたが、北米でLNGプラントが稼働を始める中で米国からの輸出が増加、米国内のガス需給がタイト化したため、再び米国のガス価格は上昇に転じている。また、この数年AIやデータセンターなどの投資機運が高まっていることも、電力向けのガス需要の増加を通じて価格を押し上げている状況。今のところ世界的なAI・データセンターブームが直ちに終了する兆しはなく、米国の電力供給の約40%がガス火力であることを考えると、AI・データセンター向けの電力需要の増加はガス需要の増加に繋がると考えられる。また米国はLNGの輸出キャパシティを拡大する計画であり、北米のガス価格は水準を切り上げる展開が予想される。今後、日本は近隣であるロシアからというよりも、同盟国である米国からのLNG調達を増やすことになろう。

日本が購入しているLNGは大きく2つの契約形態があり、1つはBrent原油やドバイ原油を基準に決定される原油価格を基準にした長期契約、もう1つは都度、必要な時に時価で購入する契約であり、多くの場合JKMという指標が用いられている(注:長期契約は必ずしも原油価格連動ではなく、スポット価格も契約条件によっては原油価格ベースのものも存在する)。今後、日本が米国からLNGを購入する場合、価格の基準になるのは北米のガス価格のベンチマークであるヘンリー・ハブ価格になると見られる。

現在、JKMは9.5ドル程度だが、ヘンリー・ハブ価格は4ドルと5ドル程度の開きがある。これはヘンリー・ハブ価格にガスをLNGに変換する時の液化コスト(施設によって差があるが3ドル程度)とLNG船の傭船料(時価で変動するが3ドル程度)、その他のコストが加算されるためである。今後、北米からの調達比率が上がる中では、日本が輸入するLNGの価格もこれまで連動性が高かった中東産原油価格との連動性が薄れ、米国のガス価格との連動性が高まると予想される。この場合、米国の産業動向や気温の変化によるヘンリー・ハブ価格の変動は日本が輸入するLNG価格動向を占う上では重要になるため、北米の情報も把握することが重要になるだろう(このあたりはまた機会をみて解説します)。

  

新村 直弘

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA) 新村 直弘

1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)

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