2026-05-11 02:06:29

銅は史上最高値を目指す動き

更新:2025/10/6

提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA)

LME銅価格は堅調に上昇を続け、過去最高値を視野に入れる展開となっている。背景には、南米チリのEl Teniente鉱山の稼働停止や、もうかなり前にはなるがパナマのCobre Panamaの閉山、さらにはインドネシア・フリーポートのGrasberg鉱山での地滑り事故などによる生産減少が影響している。これに加えて、米国の新政権が打ち出した関税政策によって銅の貿易フローが混乱し、一時的に需給が引き締まったことも価格を押し上げる要因となった。

一方で、最大消費国である中国の需要が引き続き堅調とみられることも主因の1つと考えられる。中国の工業生産はここに来て前年比の伸び率が鈍化するなど、減速感が出ているものの、中国政府の景気刺激策やインフラ投資が需要を下支えしており、銅の消費は少なくとも統計数字上では強いまま維持されている。特に、送電網や電線向けの公共投資、自動車販売の好調(そのうち従来車よりも銅の使用率が高い新エネルギー車が半数近くを占める)、家電の買い替え需要を促す政府プログラムによる消費支援、といった要素が銅需要を強く押し上げている。

供給面は冒頭のコメント通り、鉱石が不足しておりTC(溶錬費。これにRC(製錬比)を加えたものが精錬業者の精錬マージンとなる)がマイナスの状態になっており、主要鉱山の再稼働がなければ大幅な供給不足が発生するリスクも無視できなくなっている。仮にTCがマイナスの状態が続けば、来年の鉱石購入契約にも支障が発生して、精錬銅生産が下振れるリスクが高まることになる。中国国内の製錬所は最新設備が多く稼働は順調だが、顕在需要(生産+輸入−輸出±在庫増減)は生産量を大きく上回っており、銅不足を埋めるために米国や日本、タイなどを経由してスクラップ輸入も増加している状況。しかし、銅の実際の需給を反映している現物プレミアムはそこまで上昇しておらず、銅先物の期間構造を見ても需給が極端に逼迫していることを示唆していない。場合によると、銅製品や精錬品として流通している銅の一部は実際に消費されているのではなく、企業在庫や政府の戦略備蓄に回っている可能性も排除出来ない。

とはいえ、統計上の需給はタイトであることから、米国の金融緩和姿勢とFRBの利下げ観測がドル安を誘発する中では銅価格は上昇しやすい。また、株を主戦場とする投機筋も銅市場で買いを入れており、このことも価格を押し上げやすい。特に投資比率を維持する観点で株が上がる局面で投資対象となっている商品価格は上がりやすくなる。特に、中国政府は公共投資の加速や電動化シフトを鮮明にしており、これが中期的に銅需要を一層高めると予想されるうえ、電気自動車やデータセンター、再生可能エネルギー関連の設備投資も相まって、銅の需要は増加を継続する、というのが現在のコンセンサスだ。IEAの長期需給見通しでも2035年頃から供給不足が見込まれており、投機的な視点でも長期に買いを入れるストーリーを作りやすい。足元、供給面の制限から需給タイト化が進捗し、これに金融要因が重なれば、銅が今後も高値圏を維持し、短期的な調整を挟みながらも上昇基調を続ける可能性は高い。テクニカルに過去最高値を更新する局面は出てくるだろう。

(出所:IEA)

しかし、銅価格や原油価格は一定以上に高騰すると消費に影響が出る。具体的には買い控えが発生したり、安価な別の製品にシフトする、といったことが起きる。銅の主用途はケーブルであるが、高圧線などの一部はアルミに置き換えることが可能であり、銅管などもプラスチックや樹脂に素材を変更することも起きるだろう。なお、最大消費国である中国の上海銅価格は過去最高値を伺う動きとなっているが、徐々に消費量の前年比増加率は鈍化傾向にあるため、そろそろ上昇余地は限られると予想される。

(出所:SHFE、マーケット・リスク・アドバイザリー)

新村 直弘

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA) 新村 直弘

1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)

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