トランプ関税の製造業ヘの影響
更新:2025/8/14
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA)
8月からはじまった米国の相互関税や個別商品にたいして課される関税、例えば銅製品の50%関税(銅の原料である銅鉱石や精鉱、銅スクラップは対象ではない)や、アルミや鉄鋼製品がこれに該当するが、この関税の企業業績への影響を試算してみると、当たり前ではあるが影響度合いは業種によるという結論になる。ほとんど影響の出ないところもあれば、深刻な影響がでるところも出てくる、という感じだ。業種・企業によって売上高に占める銅やアルミ、鉄鋼製品の比率がどの程度かは異なるが、これらの製品の調達に占める依存度が高い業種(例えば自動車や半導体、アルミなら包装、住宅など)で5~10%程度、低い業態で1%~5%程度と推察される。関税の50%分、LME価格から米国内の取引価格が上昇したと仮定すると、依存度が高い業種で売上高に対するコストの増加分は、2.5%~5%、低い業種で0.5%~2.5%になる。これを営業利益ベースに置き換えると、米製造業の営業利益率は5%~15%程度であるため、影響が大きい業種の営業利益率は0%~7.5%に低下、小さい業種で2.5%~9.5%に低下することが予想される。
このとき、関税によるコスト上昇を先物取引などで先取りしてヘッジをしようとしても、既に価格が上昇しているためヘッジにならない(社内で価格リスクマネジメントの体制が整っている企業は、どれだけのリスク量になるかが把握できているため既に対応を実施済みと考えられる)。そのため、コストアップ部分は最終的に消費者に転嫁されるか、営業利益率の低下を許容するかのいずれかにならざるを得ない。
複数の素材を用いる業種の代表業種の1つが自動車メーカーだが、恐らく銅を最も使用すると考えられるEV車メーカーの場合、1台あたりの銅使用量は60~80キロ、アルミが150~250キロ、鉄鋼が900~1,200キロ、程度と考えられる。仮に特段の対策を行わずに関税分50%価格が上昇した場合の調達コストの上昇は合計で最大17万円/台程度になる。販売価格対比で見れば2%~3%程度だろう。この価格を最終価格に転嫁しても良いが、米国国内で資材調達をするか、価格転嫁を行う必要があるかを判断することになる。これを上回る賃金上昇率が確保できていれば消費ヘの影響は限定されるが、直近の米実質賃金は前年比+1.6%上昇であり、恐らく多くのメーカーがそのうちの何パーセントか(コストアップ分の半分など)を最終価格に転嫁するという選択をせざるを得なくなると考えられるが、非常に微妙なラインだ。一方、需要増が見込まれているデータセンター向けの需要は取引慣行でLME金属(CME金属)価格の上昇分は100%最終消費者に転嫁されるため、コストアップ要因となる。しかし、データセンター建設の主体がGAFAMなどのハイテクIT関連企業であることを考えると、GAFAMの利益水準・規模からすれば吸収できる価格上昇であり、この分野への影響は限定されると予想される。
各国に対する関税強化は米国の海外からの調達コストを押し上げる。細かく見れば切りが無いが全米で概ね2~3割は海外調達と考えられ、今回の関税で恐らく平均関税率は20%程度上昇するため、調達コストは4%~6%上昇、米企業の営業利益を圧迫することになると予想される。なお、個別国と細かく交渉をしている結果、例えば日本をスルーして関税裁定が機能する可能性はあるが、そういった「ルールの穴」は米国側が埋めてくると思われるため積極的にそういった動きは出てこないものと見ている。
銅・アルミは関税以外、ベースになるLME価格の変動が見込まれている。弊社は2025年のアルミ価格は平均で2,560ドルを想定しているが市場予想は2,400ドル~2,900ドルと予想レンジは比較的狭い。2026年は2,640ドルを想定しているが、市場予想は2,000ドル~3,120ドルと極めてワイドだ。トランプ関税や来年の中間選挙の影響を市場も読み切れていない(コンセンサスが得られていない)といえる。銅は平均価格を9,530ドル程度とみているがアナリスト予想は9,000ドル~10,000ドル、2026年が8,000ドル~11,000ドルとやはりワイドである。今年の景気は関税の影響で減速が見込まれるが、先行きへの楽観から「株は上がるが商品価格は安い」という展開がメインシナリオであるが、来年以降は今年以上に乱高下が予想される。消費国である日本は価格の低下が見込まれる年後半までに次年度以降の対応を検討すべきであろう。
(出所:LME、CME)
株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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