2026-05-20 00:53:42

エネルギー価格変動の企業業績への影響

更新:2025/7/18

提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA)


◆原油価格は年後半以降に上昇局面入りか

世界景気は今年の春頃に底入れして回復すると期待されていたが、トランプ政権の過度な関税政策の影響で営業計画が立てられない企業が相次ぎ、景気は横這いとなっている。ただし、余りに過度な政策は企業の経済活動に悪影響をおよぼすため、米政権も様々な政策の度合いを緩和させており、同時に過度な景気悪化への懸念も後退している。しかし、どのような交渉が行われたとしても、各国に対して関税が引き上げられることは間違いないため、景気の下押し要因となるだろう。通常、景気は4年~5年程度の周期で山谷を繰り返すが、今回は米政権の対応でやや景気のピークが後ろ倒しになったのではないかと考えている。従来2026年後半が景気のピークとみていたが、恐らく2027年頃になるのではないか。

原油価格は景況感(需要)と供給、それを受けた投機の動きが加わって価格が決まっている。直近の米エネルギー省の見通しによると、今年~来年に掛けては需給バランスの緩和が見込まれている。ただし、供給の伸びは原油価格の低迷で鈍化する一方、需要はその他OECD(主にインド)を中心に循環的な回復基調に入るとみられている。需要の方が先に回復すること、供給開始まで時間差があることから、2026年の原油価格が想定以上に上振れするリスクは小さくないとみている。また、米政権が既に来年の中間選挙を意識して緩和的な政策を強要するとみられることが、投機面でも価格を押し上げると予想される。

(出所:EIA)


この状況においても中東有事ヘの懸念はまだ残る。今回の米国によるイラン攻撃で、ホルムズ海峡封鎖ヘの懸念が高まって原油価格が高騰したが、ホルムズ海峡の封鎖はイランがほぼ世界中を敵に回し、イランを物理的に攻撃する材料を与えることになることから、イランの指導部はこれを選択しなかった。現在、イランと米国は核交渉での妥結を模索しているが、交渉が穏当に妥結するとは限らない。妥結の内容によっては再びイスラエルがイランを攻撃して中東情勢が不安定化し、仮にイランが国家存亡の機となれば、海峡封鎖オプションを選択することは有り得る。この場合、原油価格が高騰するには火を見るより明らかだ。

また、中東の話題が中心だったが、ロシアが米トランプ大統領の仲介を無視して停戦を受け入れていないことから、米政権は50日以内に停戦しなかった場合に、ロシア産原油を輸入する国に対して100%の関税を課すとした。このこと自体はロシア産原油以外の原油を求める動きを強めるため、原油価格の上昇要因となる。しかし、仮に発動された場合、今年~来年に掛けての原油需要の牽引役であるインドを含む新興国の需要の伸びが、関税の影響で鈍化するため着地の仕方によっては、上昇要因にも下落要因にもなり得る。

もちろん、米政権の政策の影響で金利が高止まりし、株を含むリスク資産価格が急落する、というショックが発生するシナリオの可能性も否定できない。米政権の政策が原油を含む商品価格を乱高下させる状況はまだあと3年以上続くことになるだろう。


◆不安定な原油相場の中で

原油価格の変動が企業業績や家計に与える影響も大きい。総務省の2020年時点の統計によれば、売上原価に占めるエネルギーコストはサービス業を含む全産業平均で8.7%、売上高比では5%前後と推定される。2025年現在、2020年から原油価格やガス価格も上昇しており、エネルギーコストは売上高比で8%前後にまで上昇していると考えられる。仮に景気刺激策などで年後半から経済が回復軌道に乗れば、原油価格は上昇に転じる可能性が高い。その場合、10%の価格上昇があれば、エネルギーコストは売上高比で+0.8%程度増加し、企業業績に下押し圧力となる。逆に価格が下落すれば▲0.8%のコスト減となり、利益押し上げ効果が期待される。こうした振れ幅の大きな環境下では、企業としては何らかの備えが必要となる。

特に価格変動リスクのヘッジが必要な業種としては、航空会社や船会社が代表的であるが、この業種は従来から、燃料油価格の変動を原油を指標とするスワップ取引などで回避している。こうしたデリバティブ取引は、リーマンショック後に悪い物としてリスクマネジメントの選択肢から外した企業も多い。しかし、日本もデフレから脱却したのなら、物価が右肩上がりに上昇して期初よりも期末の価格が高くなる確率は高まったと考えられる。原油価格が不安定であり、かつ、高騰のリスクもはらむ以上、こうしたデリバティブを用いて一定期間購入価格を実質的に固定価格にしたり、デリバティブを用いないまでもサプライヤーとの交渉で一定期間価格を固定価格にしたりすることはそれなりに意味がでてくる。今後はエネルギー価格変動を制御できる企業とそうでない企業で業績に差がでてくるのではないか。 

(出所:総務省)

新村 直弘

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA) 新村 直弘

1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)

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