銅価格上昇にトランプ関税
更新:2025/7/7
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA)
銅価格の急騰の背景には、2025年2月末にトランプ大統領が発表した銅および銅関連製品に対する関税検討の方針がある。通商拡大法232条に基づくこの調査の最終判断期限は11月22日だが、大統領自身が「数週間以内の決定もあり得る」と発言したことにより、市場が動揺し、関税導入前に米国へ駆け込みで輸出しようとする動きが加速した。
米国の銅供給構造は、鉱山からの一次生産に加え、スクラップ由来の二次精錬品、さらには海外からの精錬品輸入によって成り立っているが、特に精錬銅に関しては全体の45%程度を海外供給に依存している。関税が導入されると輸入コストが上昇するため、前倒しでの輸入増加が促進され、それが需給を歪める要因となった。この結果、米国のCME指定倉庫における銅在庫は短期間で急増し、世界の取引所在庫全体の5割を占めるまでに達している。一方で、LMEや上海取引所(SHFE)における在庫は急速に減少しており、現物銅が米国に偏在している状況が生まれている。
さらに、取引所外在庫も米国内で積み上がっている可能性が高く、表面上の需給ひっ迫をより深刻に見せている。現物需給のひっ迫はLMEの期間構造にも表れており、2025年6月にはキャッシュ・3Mスプレッドが345ドルのバックワーデーションとなり、現物調達が困難な環境にあることを示唆している。昨年も銅価格は上昇したが、今回との違いは昨年はバックワーデーションにならず、今回はバックワーデーションになっている点だ。即ち、昨年の上昇は実需というよりは投機主体の上昇であり、今回は関税が引き金ながら、現物主導の上昇である点である。
(出所:LME)
今後は、関税が実際に導入される、ないしは関税引き上げが見送られた後、米国内で積み上がった在庫が放出されるフェーズに入り、需給のひずみが是正される公算が大きい。米国への輸出が一巡すれば、CMEとLMEの価格差や地域間プレミアムの格差も縮小し、LME価格には調整圧力がかかることが想定される。ただし、こうした調整局面に入ったとしても、下落幅は限定的になると見られる。国際銅研究会(ICSG)の最新見通しでは、2025年の銅鉱山生産は前年比+0.5%と小幅な伸びにとどまっており、構造的な供給制約は依然として解消されていない。さらに、中国やインドでのインフラ投資拡大、AI関連設備への電線需要の増加、欧米の利下げ観測によるファンド資金の流入など、中長期での価格押し上げ要因も存在する。
一方で、中国不動産セクターの低迷が長期化する可能性や、トランプ関税の影響による世界景気の冷え込みが2025年後半~2026年前半にかけて顕在化すれば、銅価格は下押しされるリスクも想定される。さらに、ファンドポジションの偏りや需給バランスの調整局面では、一時的な投げ売りも想定される。ただし、需給構造の硬直性と新興国を中心とした中長期需要の底堅さを踏まえると、仮に銅価格が下落したとしても、その幅は限定的であり、価格は再び上昇基調へ戻る可能性が高いと見込まれる。
以上を踏まえると、銅価格は短期的に調整を挟む可能性があるものの、中長期的には構造的な強気要因が引き続き存在し、相場は高値圏での推移を維持する可能性が高いと考えられる。仮に銅価格の下落があっても、それは持続的な下落トレンドの始まりではなく、上昇トレンドにおける一時的な押し目となる可能性が高いとみている。
株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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