バイオディーゼル需要増で潮目が変わる米国大豆新穀需給~実現可能性は不透明
更新:2025/6/23
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA)
先週6月13日に米環境保護局(EPA)から来年度と再来年度の再生可能燃料添加義務量(RVO)に関する提案が発表された。RVOは2005年エネルギー政策法に基づき作成された再生可能燃料基準(RFS)によりEPAが米農務省、エネルギー省と協議のうえ実施されているプログラムである。RFSにより規定されている再生可能燃料は以下の4種類である(カッコ内は主な原料)。
@ セルロース系エタノール(リグニン等)
A バイオマスディーゼル(大豆油、菜種油等)
B 先進型バイオ燃料(食品廃棄物、木質等)
C 従来のバイオエタノール(トウモロコシ等)
これらのうち、@-Bは総称して先進バイオ燃料と呼ばれている。RFSではそれぞれの燃料について毎年のRVOを定めており、今回は2026年-27年度分について提案があったものである。このうちバイオディーゼル(A)について大幅な義務量増により、原料となる大豆油市場に大きなインパクトを与えている。発表当日及び翌営業日である6月16日のCBOT先物市場で大豆油先物価格が2日連続ストップ高で引ける等、バイオディーゼルの原料となる大豆油がまず直接的な反応を見せた。当然ながら大豆油の原料たる大豆市場も強気の反応を見せ、6月13日は大幅高、以降も小幅続伸している。
なお、バイオエタノールについては2025年と同水準で提案されており、市場へのインパクトは特になかった。
(出所:EPA)
【注釈】表の数量単位は10億RIN。RINとはRenewable Identification Numberの略で、RFSにおいて使用される再生可能燃料の追跡、取引のために付される識別コード。1 RIN=エタノール1ガロンで燃料の種類毎に係数が定められている。なお、上記表の内、バイオマスディーゼルについてのみ3行目にガロンベースでの併記があり、単位は10億ガロン。
上記通りバイオディーゼルのRVOであるが基本的に毎年引き上げられてきており、今年は33.5億ガロンとなっている。提案ではこれを来年度56.1億ガロン、2027年度は58.6億ガロンに引き上げるとしている。更に米国産原料の優位性を付けるために、バイオ燃料生産時に付与されるRINについて、輸入原料由来の燃料については半量の付与とする新たな基準を提案している。簡単に言えば同じ1ガロンのバイオ燃料を混合しても、輸入原料由来の燃料であれば半量のみが混合実績としてカウントされる計算となる。
RVOについては先月来、来年度以降の新たな義務量について種々推測が出回り、都度市場が振り回される展開になっていたが、今回の提案数字は業界団体が要望していたレベルをも上回る数字であり、大きな反響を呼んでいる。中国との関税問題で中国向け大豆輸出のシェアをブラジルに大きく奪われ、大豆市場価格も横ばいが続く中で、政権の農家へのアピールの側面も特に強いと考えられる。因みにトランプ政権下での現EPA長官、Lee Zeldin氏はニューヨーク州選出の上院議員ながら、AFBF (American Farm Bureau Federation =農業ロビー団体)、NCGA(National Corn Growers Association、生産団体=バイオエタノール推進団体)などの支援を受けている。なお、本提案は今後公聴会等のプロセスを経て正式決定、施行される予定である。
では、今後の大豆市場への影響はどうか。非常に単純化した計算である点は予め注記しておく。
バイオマスディーゼルの義務量増加分を国産大豆油で賄う前提、かつ、大豆油1に対しバイオディーゼル1(得率は変換効率やプロセスによるが大豆油1単位に対して、バイオディーゼルは0.95-1.00単位が製造可能とされる)が製造されるとの前提での計算は次の通り。来年度増加義務量22.6億ガロン=約173億ポンド、1ブッシェルの大豆から11ポンドの大豆油が採れる前提で、今回の義務量増加分を賄うのに追加的に必要な大豆は173億÷11=約15.7億ブッシェルとなる。
最新のUSDAによる需給見通しによれば、年間約25億ブッシェルを搾油し、290億ポンドの大豆油を製造しており、大まかに半量が食用、半量がバイオディーゼル用に供されている。ここで、@大豆期末在庫は2.95億ブッシェルであり、新規に必要となる15.7億ブッシェルのバイオディーゼル向け需要を賄えるのか? A仮に輸出用の大豆から転用してバイオディーゼルに充当するとした場合、輸出量が18.2億ブッシェルであるためこのほとんどを大豆油に充てる必要があるが、それがそもそも可能なのか? B大豆油を増産した場合、副産物の大豆ミールが3,600万トン以上追加で出てくるが、大豆ミールの国内需要が約4,000万トンの中で、処分可能なのか? Cそもそも15億ブッシェルの大豆を物理的に追加搾油できる処理能力が米国にあるのか? といった多数の問題が発生する。
出所:USDA)
上記の試算通り、義務量の増加分を全て米国国内搾油で補うのは現実的に難しそうである。次善策として既に利用されている廃食用油が考えられるが、まず米国内の食用需要がほぼ横ばいとなっている中で国内からの廃油の調達増は難しそうである。輸入についてはインドネシア、中国産等で既に年間44億ポンド程度の利用実績がある。ここからどの程度の上積みが可能であるか、関税が上乗せされるのでコスト的には従前より上昇していることもある。また、コストを度外視しても必要数量を確保できるかという問題もある。
今回のバイオマスディーゼル添加義務量の提案に対し農業団体や業界団体は歓迎しているものの、以上の簡単な手元分析でも実現には種々高いハードルがあり、簡単に達成できるとは考えにくい。以上を考えると、義務量はおそらく下方修正され、輸入原料のRINも緩和される(従来通りの水準に戻す)というのが現実的な選択肢となろう。米国の現政権の政策は一連の関税政策を含め、経済合理的に矛盾を抱えたものが多い。しかし、これらを直ちに変更することは困難であるため、大豆油のバイオマスディーゼル用需要は当面、増えることが確実であり、原料の大豆需給もタイトな状況が長期化するリスクを含んでいる。そして恐らく、大豆価格の上昇は大豆の生産量増加に繋がり、同じ地区で生産されるトウモロコシの生産量が減少、トウモロコシ価格も上昇という展開が想定される。このとき、日本が購入している大豆・トウモロコシなどの油糧種子、飼料作物の価格が上昇し、牛、豚、鶏などの畜産・養鶏農家の業績に大きな影響を及ぼすことが懸念されるうえ、大豆油の需要が燃料向けに増加するため、食用油市場の需給もタイト化が懸念される。今回の決定も、日本にとっては対岸の火事ではない。今後のUSDAの需給見通しも参照していきたい。
(6月19日記)
株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA) 檜垣 元一郎
1982年国際基督教大学教養学部卒。住友商事株式会社入社。1985年より穀物・油糧種子現物・先物取引に従事。2001年からはコモディティビジネス部で幅広い商品の価格リスク制御の提案業務を担当。
その後、香港投資子会社、ベルギーの現地法人の社長を歴任した後、2024年マーケット・リスク・アドバイザリーフェローに就任。
専門分野は農産物全般市場分析、排出権市場分析、商品デリバティブ取引全般。
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