米鉄鋼製品・アルミ関税引き上げの影響
更新:2025/6/6
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA)
トランプ政権は鉄鋼・アルミに対する関税を2025年6月4日から50%に引き上げることとした。タイミングとしては、日鉄のUSスチール買収(の形に落着くのかは現時点では不透明)をサポートする目的のように見える。しかし、日鉄・USスチール案件とアルミは直接関係無く、この関税は中国を意識したものといえる。中国の鉄鋼製品輸出総額は2023年で886億5,600万ドルと、世界の総輸出額の15.9%を占める。しかし、米国の鉄鋼製品輸入に占める中国のシェアは2%程度と低い。恐らくこの関税は、中国がその他の国(ベトナムなど)を経由して輸出している製品に網を掛けることが目的と考えられる。一方、アルミ・アルミ製品は348億9,700万ドルで世界貿易量に占める金額ベースのシェアは15.8%だが、最大の輸出相手国は米国で、中国の輸出総額に占める米国向けのシェアは10.8%とされている。今回の一連の対策は、最終的にはサプライチェーン覇権を握っている中国に対する対抗措置であると考えるのが妥当だろう。
しかし、今回の関税引き上げは米国の製造業や消費者に対して大きなマイナスの影響を及ぼすと予想される。鉄鋼・アルミ関税引き上げの影響を簡単に計算すると、米国の鉄鋼製品の供給に占める輸入品のシェアはおよそ30%、アルミは40%と低くなく、単純に加重平均すると米国での鉄鋼製品の平均コストは15%、アルミは20%上昇することになる。仮に製造業の代表として自動車産業を例に挙げると、鉄鋼製品の売上高に占める比率は(車種にもよるが)20-25%、アルミが5-10%であるため、売上高営業利益率が▲4-▲6%程度減る計算となる。営業利益率は10%程度であることを考えると価格転嫁は必須だろう。ただし、米政府は激変緩和・移行期間中の措置として、米国の完成車メーカーへの補助も時限的だが行う計画であり単純にこうはならないだろう。
米国の熱間圧延コイル先物価格は4月2日の「解放の日」以降上昇を続けており、今回も同様の反応が見られる。関税上げを織り込んでいると言えるだろう。一方、アルミに関しては米先物取引所がそれほど上手く機能していないため、先物価格は影響を受けていないが先物価格と実際の現物取引価格の差として認識される米アルミ現物プレミアム先物価格も急上昇している。やはり、高関税が米国でのビジネスを困難にする可能性は高いといえる。一方で、鉄鋼製品に対して関税を設定していない日本には、安価な中国製の鉄鋼製品が流入しやすくなる。日本国内で消費されるのであれば、日本国内の消費者はそのメリットを得ることができる。しかし、同時に競合製品を生産している国内企業にとっては、マイナス要因となり得る。生産コストの観点でもかなり厳しい状況になろう。なお、中国から輸入した製品を加工した製品の場合、米国で関税が課される可能性は高いと見るべきである。

(出所:CME)

(出所:CME)

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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