原油価格は低迷の見込み~ガソリン価格も下落へ
更新:2025/5/9
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA)
一時、高値を伺っていた原油価格は下落し、足元指標となるBrent価格は60ドル割れを伺う展開になっている。トランプ政権の一連の政策が世界景気を後退局面入りさせるまでに至らなかったとしても、想定していた年末に向けての緩やかな景気回復シナリオの全体が崩れたことに加え、OPECプラスが減産を守らない国に減産を維持することを促す目的もあり、より価格が下落する増産を決定したからだ。報道では6月から41万バレルの追加増産が行われる見込みである。ただ、原油価格を議論する際に生産国の動向がまず注目されるがやはり価格の方向性を決めるのは景気そのものであり、原油価格が景気の指標として注目されるのはそのためだ。そしてやはり原油価格に影響を与えるのは最大消費国である米国の経済動向である。4月に発表されたIMFの経済見通しは、米中の相互関税が決定される前の調査によるものだが、世界GDPは2025年が+2.8%(前回調査比▲0.5%)、2026年が+3.0%(同▲0.3%)が見込まれており、米GDP成長見通しは2025年が+1.8%(同▲0.9%)、2026年が+1.7%(▲0.4%)と大幅に下方修正されている。2.0%とされる米潜在成長率を下回る成長が見込まれるため、今年と来年の米国の需要の増加ペースは、自然体の需要増加ペースを下回る見込みであり、トランプ関税の影響が緩和して経済成長見通しが修正されなければ、価格には下押し圧力が掛かりやすい展開が予想される。
こうしたGDP見通しをもとにWTI価格の予想レンジを算出すると以下のグラフの通りとなる。2025年のWTI平均価格予想中央値は53.6ドル、最も弱気な景気見通しを元にした場合は47.4ドル、最も強気な予想の場合は73.8ドルが見込まれる。2025年度の最低値と最高値は四半期平均価格ベースで31.6ドル~76.8ドルとなる。かなりワイドなレンジに感じるが、第一次トランプ政権の2017年~2021年のうち、コロナ・ショックが発生した2020年を除けば、原油価格のレンジは43ドル~76ドルだったことを考えるとない水準ではない。

(出所:各種報道資料よりMRA推定)
下値に関しては、さすがに40ドル割れになるまでOPECが価格下落を容認するとは考え難いこと、最も増産が期待されている米国も激しい逆ざやの状態になるため増産に踏み切るとは思えないこと、需給がそこまで緩和することは「関税ショック」で貿易が完全に止まる、米国不信の高まりで金融市場が崩壊して総リスクオフになる、といったイベントリスクが必要であると考えられることから恐らくこの水準までの下落は難しかろう。現在OPECプラスはカザフスタンなどの増産を追認する形で生産枠の引き上げ(減産の解除)を行っているが、増産を許容することで価格が下落、産油国の財政状況が悪化する中では減産に動かざるを得なくなると予想される。コロナ・ショックが発生した時に減産を渋っていたロシアに業を煮やしたサウジアラビアが逆に増産、需要がない中での増産になったため価格が及落し、WTIは一時マイナス圏まで下落した。さすがに音を上げたロシアが協調減産に応じて価格が回復したということが起きている。今回も同様のことが起きる可能性があるため「一時下落後に水準を切り上げる」という展開が想定される。
では原油価格動向の我々の生活への影響はどうか。ガス価格や電気料金にももちろん影響が出るが、直接的に比較的速やかに影響が出るのはやはりガソリン価格だろう。通常、3週間前の原油価格が石油製品価格に反映されるからだ。首都圏は公共交通機関が整備されているためあまり車に乗らなくても問題が無いが、自動車が生活の足となっている地方都市ではガソリン価格の動向は非常に重要である。グラフの通りガソリン価格と原油価格の間には高い相関性がある。これはガソリンの原料である原油価格に精製マージンを上乗せし、足元の石油製品の需給バランスを考慮して価格が決められているため当たり前と言えば当たり前だ。過去データをもとにした簡単な感応度分析を行うと、5月のガソリン価格は4月対比で▲7円/リットル程度低下することになる。ただし、価格の下落が見込まれる場合、消費者がガソリンを入れるタイミングを遅らせるため、「値段が下がる前に仕入れたガソリン在庫の処分」に時間がかかることから、原油価格の下落が価格に反映されるまでは数週間の時間差があることが多い。逆に価格が上がる可能性があれば給油を急ぐため、在庫の消化が進むことから値上げは比較的速やかに行われることになる。これに10円の補助金が出るため、夏休みに掛けては比較的大きくガソリン価格が下落することが予想される。

(出所:CME、資源エネルギー庁)
しかし、あくまで原油価格がどうなるか、為替レートがどうなるかに依拠するためこれから夏場に掛けて必ずガソリン価格が下がる保証はない。仮に上記のシナリオ通りであれば、補助金考慮前で最も下落するケースで4月対比で▲35円/リットル程度の下落が有り得るが、上昇する場合は4月価格対比で+6円/リットル上昇する可能性があることは意識しておきたい所だ。

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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