揺れる非鉄金属価格〜長期的には強気だが...
更新:2025/4/22
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA)
4月2日のトランプ・ショックは多くのリスク資産価格を大きく下落させたが、工業向けに用いられる非鉄金属も例外ではなかった。価格下落の背景は年初から価格を支えてきた複数の価格の上昇要因が、トランプ政権の関税政策強化によって逆回転を始めたことにある。年初からの非鉄金属価格の上昇は、主に以下の8つの要因が寄与していたと考えられる。
1.米国を中心とする景気の循環的回復期待
2.中国政府による経済対策実施への期待
3.欧州、特にドイツが米政権の欧州軽視姿勢に反応してインフラ投資に舵を切ったこと
4.ウクライナや中東など地政学的リスクに伴う軍需向け需要の拡大
5.米株価の上昇
6.ドル安の進行
7.鉱山供給の制約と関税引き上げ前の駆け込み輸出
8.これらの要因を受けたファンド勢の投機的な買い
である。だが、そのうち1.の景気循環の回復が最も重要かつ根本的な価格上昇の背景にあったが現在、トランプ政権の政策によって自ら毀損される可能性が出てきている。基本的に政府が景気を意図的に悪化させることは、定期的に訪れる選挙に備える必要があることを考えると、回避するのが普通である。しかしトランプ政権は余程特殊な手法(例えば3選を禁じる憲法を改正するといった正面突破の他、次期大統領選挙にバンスがトランプを副大統領として大統領選に出馬し、バンスが途中で辞任してトランプ副大統領昇格、といった手法。ただし普通に考えればバンスが当選すれば2期8年大統領をやりたいと考えるのが普通であり、まず起こらないシナリオ)を用いない限り、あと4年弱で大統領職が終わるため、目的の達成(主に貿易赤字の削減と、サプライチェーン覇権を中国から取り戻す、の2点に集約される)のためになりふり構っていないというのが現状だろう。
そのため、1.のシナリオが崩れるのは、通常、金融当局が利下げのタイミングを見誤り、いわゆるビハインド・ザ・カーブ(対応の遅れ)によって景気後退リスクが顕在化する場合と考えていた。しかし、今回は上記の目標を達成するために、政権自らが供給網と消費を直撃する形になった結果、世界的な景気減速が現実味を帯びている状況である。この政策は現時点では上手くいくように見えないため、米政権も少しずつ政策を微調整しているが、まだ予断を許さない状況が続く。
2.~4.については、むしろ逆説的に米国との対立を強めた結果、各国が自律的に財政出動を行う機運が強まり、短期的には一定の需要下支え要因となっている。特にEUではReadines2030として、総額8,000億ユーロ規模の防衛投資強化が始動しており、ドイツもインフラ投資を加速させるために債務ブレーキを緩和している。これらのインフラ・防衛向けの金属需要の増加が価格に一定の下支え効果をもたらすと予想される。
5.の株高は、景気回復シナリオへの期待を反映していたが、トランプ関税の表明後に株価が急落、非鉄金属に投資をしていた投資家もポジション解消に動かざるを得なくなった。6.のドル安については、米国の政策の不透明感や、マールアラーゴ合意(あくまで案)では、外国保有の国債を強制的に50年、100年債に交換し、かつ、海外保有者に課税するというものであり、米国クレジットからの逃避の動きが加速した。あくまで「案」であるため実行されてはいないがドルを保有するリスクが意識されてのドル安であり「ドル安=ドル建て資産価格上昇」の効果を相殺してしまった。
7.に関しては、鉱山開発の遅延・中止リスクはむしろ今後、顕在化する可能性が低くない。関税ショックが長引けば、企業の業績悪化により設備投資余力が損なわれ、既にタイト化している供給状況がさらに深刻化する懸念がある。実際、ペルー、チリ、コンゴ(DRC)など主要鉱山国では政情不安と税制変更が鉱山稼働率に影響しており鉱石不足はニッケルなどを除けば継続している状況。
これらを踏まえて、8.の投機資金はポジションを落とす動きを加速させており、それが非鉄金属価格の下げに拍車を掛けた。投機筋は年初からの買い越し幅を大幅に縮小させており、概ねフラットな状態まで買い越しポジションは解消された。

(出所:LME)
目下の下値の目処としては非鉄金属価格を指数にしたLME指数をベースにすると、2022年9月27日米FRBの利上げ・QTとロシア制裁の緩和で金属価格が一段安となった際の3,452.8ポイントが意識される。もしトランプ関税の影響で世界の貿易活動が急停止し、コロナ・ショック級の経済活動停止が起きた場合は、2020年3月23日の2,231.9ポイントも視野に入ることになる。
ただし、今回はパンデミックではなく政治的要因による「人災」であり、仮に米政権が翻意(支持率低下や、共和党内からの造反発生で、議案が通らなくなる場合など)すればリスク資産価格が上昇して、非鉄金属価格にも上昇圧力が掛かる展開が想定される。米政権は関税引き上げを90日間停止し、各国と交渉に入った。報道とトランプ政権の発言通りであれば、最悪のシナリオが現実化する公算は相対的に低下しており、非鉄金属価格も一定のところで底打ちする可能性が高いと見ている。結論として、短期的には関税ショックによる価格調整局面が続く可能性があるが、中長期では供給制約と戦略金属としての需要の強さが再び注目され、今のところは反発局面に入る展開を想定している。

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー (MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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