2025-06-22 17:41:00

PGM価格は低迷も、米政策次第では上振れの可能性

2025/4/4
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)

金価格は連日上昇している。従来は米10年実質金利が金価格の主要な説明要因であったが、足元ではそれ以外のリスク・プレミアムが価格押し上げの主因となっている。構成要素としては、米国の財政および外交不安に伴うクレジット回避、関税政策による欧州・中国経済への波及懸念、ウクライナ・ロシア停戦交渉の停滞、中東情勢の悪化、さらには米政策の影響による他国通貨からの資金逃避などが挙げられる。加えて、FRBがQT(量的引き締め)のペースを緩めたことも、金相場を下支えしている。前回コラム(「金価格を押し上げる米政策の不透明感」参照)で触れた通り、株式とのバランスを保つためのポートフォリオ調整も金価格を支える要因となっていたが、トランプ政権下の関税政策により株価が調整局面に入り、足元では株との連動性が薄れ、安全資産としての金への需要が際立っている。

かなり乱暴であるが、トランプ大統領が就任する前の2025年1月17日以降のリスク・プレミアムの上昇分が「トランプリスク」と整理すれば316ドル(原稿執筆時点)となる。言葉を換えると、株価を基準に算定した金価格の水準より、およそ320ドル程度は価格が上振れているということだ。過去3年のS&P500と金価格を元にした回帰分析の結果に、トランプリスクを加味した金価格の推定レンジは、±1標準偏差で2,700ドル~3,060ドルとなる。足元の金価格はやや買われ過ぎの可能性はある。なお、市場の2025年末S&P500予想平均価格を元にすれば、年末時点で3,025ドル~3,400ドルが想定レンジとなる。

金は利息を生まない資産であるため、最終的には売却されやすいが、現時点では売り込む理由が乏しい。強いて挙げれば、株価が更に下落し、含み益となっている金の利益確定売りが進むケースであるが、今はむしろ株安が金高を助長している状況だ。当面、金価格は高止まりする可能性が高く、こうした局面では「貧者の金」と称される銀も連動して上昇しやすい。

一方、同じ貴金属セクターに属するPGM(白金族金属)はどうか。年初来の価格動向を見る限り、金や銀に比べてプラチナ・パラジウムともに低迷している印象は否めない。WPICの見通しによれば、プラチナは2023年以降、パラジウムからの代替需要が増加し、供給不足に転じている。2025年は▲84万8,000トロイオンスの供給不足が見込まれており、これはAnglo American Platinumの半加工品在庫が払底したことにより、精錬品供給が前年比▲29万1,000トロイオンス減の700万2,000トロイオンスに減少する一方、投資需要の増加が鉱業向け需要の減少を相殺し、総需要が785万トロイオンスにとどまるためである。2027年には▲85万1,000トロイオンスの供給不足が予想されている。

パラジウムはリサイクル供給が2025年に120万トロイオンス増加すること、プラチナへの代替が進行することから、同年から供給過剰に転じ、2027年には89万7,000トロイオンスの過剰供給が見込まれている。理論的には、プラチナ価格がパラジウム価格に対して相対的に上昇する展開が想定されるが、現状ではその動きは明確には表れておらず、共に価格が低迷している状況だ。

PGMの需要面では、自動車販売の前年比増加率が鈍化していること、中国におけるEV・PHEV比率の上昇で排ガス触媒需要が限定されていること、さらにはトランプ政権の自動車関税政策による米国の販売リスクが意識されており、これらがPGM価格の上昇を抑制していると考えられる。

(出所:LMC Automotive、CME)

足元のプラチナ・パラジウム価格はいずれも1,000ドル弱で推移しており、Anglo AmericanのPGMオールイン・コスト(2024年実績986ドル/トロイオンス)と同水準である。言い換えれば、現在の価格はほぼコストベースに近く、投機的な上昇期待が反映されていない状態にあるといえる。ここから価格がさらに下落するには、例えばトランプ政権の政策による世界経済の急減速など、需給バランスが大きく崩れて現物保有者の投げ売りが発生するような大きな経済ショックが必要になる。そのため、ここからの大幅な下落はリスクシナリオの位置づけだ。

(出所:CME)

逆に、米関税の影響が和らぎ、景気後退懸念が後退する場合は、コスト近辺まで下落した価格水準、限定的な投機筋のポジションを考慮すると、金価格が高値を維持しているという条件が必要にはなるが、プラチナ・パラジウムも循環物色の対象となる可能性がある。従って、引き続きアップサイドのリスクにも目を向ける必要があると考えられる。いずれにしても景気の循環に伴う経済活動がPGM価格を決定する、というよりも政治的なパフォーマンス(もちろんトランプ政権には製造業を米国に回帰させるという目的があるが)に左右されるため、需給バランス動向以上に国際政治情勢を注視しておく必要がある。
新村 直弘

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)

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